【完結】Atlantis World Online-定年から始めるVRMMO-

双葉 鳴

文字の大きさ
77 / 497
2章 お爺ちゃんとクラン

065.お爺ちゃん、今後の展望を語る

しおりを挟む

 一度ログアウトして家族一緒に昼食をいただく。
 今日のおかずはロールキャベツだった。よくこんな手のこんだものを作る時間があったねとカンピョウで縛られたキャベツを箸でつまみ、口の中で味わう。
 娘曰く、料理は全てインスタントでお湯を注ぐだけで出来るからどれを食べたいか選ぶだけでいいのだと教えてくれる。
 なんとも味気なく感じるが、時代が変わったのだと痛感した。

 食後の話題はそれぞれの近況だ。
 孫の美咲から始まり、娘、秋人君、私の順番で語っていく。

 おおよそは朝の時から大して進展しておらず、それぞれの次の準備を聞くことにした。


「私はお昼からユーノと一緒にダンジョン行ってくるの」

「あら何処の?」

「ちょうどセカンドルナに居るから近辺調査とまだ見つかってないイベント発掘がメインかな?」

「あんな手垢のついたダンジョンを探っても今更新しい発見とかあるかしら?」

「お爺ちゃんだって見つけたんだから手がかりは絶対あるもん!」


 娘と孫の会話を微笑ましく見ているところで、秋人君が私に声をかけてくる。


「お義父さん、実は僕から改めてお願いがあるのですが」

「なんだい藪から棒に」

「とある特殊合金の精錬についてです。ウチでもいくつか試みているのですが、難易度が高すぎて難航してまして」

「ふむ、私から頼んだ装備関連のものだね? それで私に頼みとは?」

「はい。お義父さんの幼馴染みであるダグラスさんに精錬……つまりインゴット化が可能かどうかをご教授頂きたく」

「ふむ、そういうことか。勿論いいよ。頼むだけならタダだからね。でもそんなに難しいのかい? インゴット化というのは」

「ミスリルやダマスカスまでならば僕たちでも精錬出来るのですが、それ以上だと中間素材なしに至るにはなかなかハードでして。特に素材が希少です。イベント時にのみ配布された素材でして、他の地域では算出されていないものです。もしかしたらまだ未発見のものなのかもしれませんが、現状入手が不可能。
 参加者から可能な限り集めましたが、減っていく一方で、だったら無駄に消費するならとここは恥を忍んでお願いしようと思ったわけです」

「ふむ。君たちとしても本来なら他人に頼むべきではないと感じているのだね?」

「当たり前です。腕が未熟だからこそ、その素材を征服してみせるのは生産職としての願望。精錬し、加工し、それを人々の役に立てるのが我々生産職の務めだと思っていますから」

「分かったよ。そのことも含めてお願いしてみよう。それと私のお願いした装備のことだけど、くれぐれも内密にお願いするよ? うっかり朝話すのを忘れていたのを今思い出した」

「その事でしたら言われずともしっかり内密に進めてますよ。お義父さんは身内ですが大事な顧客ですし、顧客情報をしっかり管理するのも我々生産クランの務めです」

「それは良かった」

「それに、そんな使い道の限定された装備は売れ残るのが目に見えています。こちらはそのノウハウを生かして違う装備に作り替えるのみですよ」

「確かにそれは理に適ってるね。では今回の依頼は君たちにとっても腕を磨くいい機会なわけだ?」

「はい。お義父さんにはいつもこちらに都合の良いお話をいただいてばかりで返す恩が増えていく一方です。いずれ返すにしても、ちょっと今から気が重いですね」


 はははと乾いた笑いを漏らす秋人君。そんなに競わなくてもいいのに。


「そうだね。じゃあ早速返してもらうアテとしてクラン設立の時の保証人をお願いしてもいいかな?」

「その程度でしたらお声掛けいただければすぐにでも」

「ありがとう。でもまだ人数が揃ってないから当分先の話になるかな」

「お爺ちゃん、クラン作るの?」


 秋人君と私の会話に孫の美咲が割って入ってくる。


「うん。私の実家のご近所さんと何かしたいねって話し合って取り敢えずイベントを起こしてみようということになったんだ。けれどクランを作るのに人数が必要でね。人探しもしながら検討中なんだ」

「じゃあ私そこに入るよ! お手伝いだってするし」

「いいのかい? 私は助かるけどお友達のユーノ君と別れてしまうよ?」

「クランは別でも友達は友達だもん。クランが違うからって仲が悪くなるわけじゃないんだよ?」

「それもそうか。ではお願いしようかな」

「うん。なんだったらユーノも誘ってみるし、鈴木先生もお誘いしたら?」

「スズキさんか。あの人は生態系が違うから来てくれるだろうか? それにリラックスを求めてあのゲームにきてるのに個人的なイベントの開催に来てくれるかな?」

「言うだけならタダだよ!」

「これは一本取られたな」


 言葉を真似る孫に、私は額にピシャリと手を当てて唸った。
 新たに孫、ユーノ君、スズキさんの候補が加わって6人。
 あと4人……何処かにいないだろうか?
 ジキンさんファミリーは全員漆黒の帝入りしてるらしいし、ダグラスさんのところも娘のクランよりも目の上のタンコブになっている。
 もう少し人脈を増やす必要があるか。


「よし。では私の午後の目標は……」

「目標は?」


 ワクワクとした視線を孫から受け止め、発表する。


「当初の予定通り山登りだ。この間諦めた場所の探索をしてないからね」

「えー」


 突然ブー垂れる孫。現状がどん詰まりだからこそ、違う場所の散策をしてみるべきだと私をダンジョンに誘おうと試みるつもりだったらしい。だから本来なら行かなくてもいいようなセカンドルナ近辺を選んだというわけか。


「領主様との取り決めでお咎めなしになったばかりですもんね。しかしこの間諦めた場所とは?」

「近隣にある森の中、隠し通路の先にある山岳だね」

「お爺ちゃんすごいスピードで登っていくから私達足手纏いになっちゃうの。でも一人で大丈夫?」

「あの時紹介してもらったナガレ君ているだろう?」

「うん。あのビシッとした人だね」

「彼から聞いたんだ。モンスターをある一定の高さまで置き去りにすれば戦闘フィールドから脱出できるって」

「つまり?」

「木に登れば敵はやがて諦める」

「そんな事が!」


 孫にとっては驚きの事実だったようだ。


「戦闘の回避手段があったんですね。僕は逐一由香里に守って貰ってばかりでしたよ」

「最初に取得したスキルによって向き不向きはあるからね。私は偶然そういうのが得意だっただけさ」

「確かに。僕はものづくりに特化してます。お義父さんの場合は探索に重きを置いてます。その差ですか」

「そういう事だよ。また新しい発見があればブログに載せるから楽しみにしていてくれ」

「分かった」

「はい」

「行ってらっしゃい」

「では行ってくる」


 家族全員に見送られ、私は次の探索場所を頭に入れてログインした。
しおりを挟む
感想 1,316

あなたにおすすめの小説

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

もふもふで始めるのんびり寄り道生活 便利なチートフル活用でVRMMOの世界を冒険します!

ゆるり
ファンタジー
【書籍化!】第17回ファンタジー小説大賞『癒し系ほっこり賞』受賞作です。 (書籍化にあわせて、タイトルが変更になりました。旧題は『もふもふで始めるVRMMO生活 ~寄り道しながらマイペースに楽しみます~』です) ようやくこの日がやってきた。自由度が最高と噂されてたフルダイブ型VRMMOのサービス開始日だよ。 最初の種族選択でガチャをしたらびっくり。希少種のもふもふが当たったみたい。 この幸運に全力で乗っかって、マイペースにゲームを楽しもう! ……もぐもぐ。この世界、ご飯美味しすぎでは? *** ゲーム生活をのんびり楽しむ話。 バトルもありますが、基本はスローライフ。 主人公は羽のあるうさぎになって、愛嬌を振りまきながら、あっちへこっちへフラフラと、異世界のようなゲーム世界を満喫します。 カクヨム様でも公開しております。

幼女はリペア(修復魔法)で無双……しない

しろこねこ
ファンタジー
田舎の小さな村・セデル村に生まれた貧乏貴族のリナ5歳はある日魔法にめざめる。それは貧乏村にとって最強の魔法、リペア、修復の魔法だった。ちょっと説明がつかないでたらめチートな魔法でリナは覇王を目指……さない。だって平凡が1番だもん。騙され上手な父ヘンリーと脳筋な兄カイル、スーパー執事のゴフじいさんと乙女なおかんマール婆さんとの平和で凹凸な日々の話。

一級魔法使いになれなかったので特級厨師になりました

しおしお
恋愛
魔法学院次席卒業のシャーリー・ドットは、 「一級魔法使いになれなかった」という理由だけで婚約破棄された。 ――だが本当の理由は、ただの“うっかり”。 試験会場を間違え、隣の建物で行われていた 特級厨師試験に合格してしまったのだ。 気づけばシャーリーは、王宮からスカウトされるほどの “超一流料理人”となり、国王の胃袋をがっちり掴む存在に。 一方、学院首席で一級魔法使いとなった ナターシャ・キンスキーは、大活躍しているはずなのに―― 「なんで料理で一番になってるのよ!?  あの女、魔法より料理の方が強くない!?」 すれ違い、逃げ回り、勘違いし続けるナターシャと、 天然すぎて誤解が絶えないシャーリー。 そんな二人が、魔王軍の襲撃、国家危機、王宮騒動を通じて、 少しずつ距離を縮めていく。 魔法で国を守る最強魔術師。 料理で国を救う特級厨師。 ――これは、“敵でもライバルでもない二人”が、 ようやく互いを認め、本当の友情を築いていく物語。 すれ違いコメディ×料理魔法×ダブルヒロイン友情譚! 笑って、癒されて、最後は心が温かくなる王宮ラノベ、開幕です。

1000年生きてる気功の達人異世界に行って神になる

まったりー
ファンタジー
主人公は気功を極め人間の限界を超えた強さを持っていた、更に大気中の気を集め若返ることも出来た、それによって1000年以上の月日を過ごし普通にひっそりと暮らしていた。 そんなある時、教師として新任で向かった学校のクラスが異世界召喚され、別の世界に行ってしまった、そこで主人公が色々します。

もふもふと味わうVRグルメ冒険記 〜遅れて始めたけど、料理だけは最前線でした〜

きっこ
ファンタジー
五感完全再現のフルダイブVRMMO《リアルコード・アース》。 遅れてゲームを始めた童顔ちびっ子キャラの主人公・蓮は、戦うことより“料理”を選んだ。 作るたびに懐いてくるもふもふ、微笑むNPC、ほっこりする食卓―― 今日も炊事場でクッキーを焼けば、なぜか神様にまで目をつけられて!? ただ料理しているだけなのに、気づけば伝説級。 癒しと美味しさが詰まった、もふもふ×グルメなスローゲームライフ、ここに開幕!

異世界ママ、今日も元気に無双中!

チャチャ
ファンタジー
> 地球で5人の子どもを育てていた明るく元気な主婦・春子。 ある日、建設現場の事故で命を落としたと思ったら――なんと剣と魔法の異世界に転生!? 目が覚めたら村の片隅、魔法も戦闘知識もゼロ……でも家事スキルは超一流! 「洗濯魔法? お掃除召喚? いえいえ、ただの生活の知恵です!」 おせっかい上等! お節介で世界を変える異世界ママ、今日も笑顔で大奮闘! 魔法も剣もぶっ飛ばせ♪ ほんわかテンポの“無双系ほんわかファンタジー”開幕!

処理中です...