【完結】Atlantis World Online-定年から始めるVRMMO-

双葉 鳴

文字の大きさ
155 / 497
3章 お爺ちゃんと古代の導き

133.お爺ちゃん達と[三の試練]⑥

しおりを挟む

 三の試練から帰還した翌日。
 今度は四人であの時諦めた場所を探検しにきていた。
 メンバーは私、ジキンさん、探偵さん、スズキさん。
 女性陣は素材の吟味に夢中である。
 その中でもジキンさんは奥様より直々に今回の素材や新しい素材の入手を厳命されており、探検そっちのけで動き回っていた。

 最初の一本道の周囲に雲はない。
 澄んだ青空の下、雲の道が真っ直ぐに伸びている。
 欲しい素材もなければ、雲を集めても太陽を覆い隠すのも難しいだろう。なので例のT字路までのんびりとスタミナを消費しない程度に歩いた。
 ジキンさんなんかはハイキング気分で、探偵さんだけが検証したそうに私を見る。


「少年、ここで少し検証してもいいかな?」

「急ぐ旅でもないですし、良いですよ」

「よぉし!」


 グッとガッツポーズを取る探偵さん。
 そんなに嬉しい物なのか。
 スズキさんと一緒に微笑ましい視線を送る。
 ジキンさんは物好きですねぇとのんびりと眺めている。
 
 検証は主に太陽の方角だった。
 赤の聖獣の真上に太陽が出ている。その確認と、距離の近さ、影の伸び具合。
 そして風景を撮影しようとシャッターを切る時、だいたいエネミーに遭遇する仕組みも含めて。

 遭遇するエネミーは同じ。
 太陽が隠されてないと『バルーン型/突撃騎兵隊』と『シャドウ型/双剣使い』は固定のようだった。
 いつものように『バルーン』を翻弄すると『シャドウ』は消え去る仕組み。そもそもこんな影の薄い場所でも出張ってくるあたり、根性があるのだろうか?
 エネミーの生態はよくわかってないので、それはそうとして歩く。

 そして相手取ること通算20回目。
 ようやくハイクリティカルが仕事をしてくれた。
 倒すことで情報が現れる仕組みだったか。
 しかしあの時の矢印ではなく、言葉で。


[見えない場所にこそ道はある]


 うん、まあそうだね。
 あの時見えた十字路。
 行きはT字路で帰りが十字路。
 まるで調べてくださいと言わんばかりのものだ。


「お、その何か知ったような顔ぶりは……」

「あの顔は自分だけ情報を得て浮かれてる顔ですね。覚えがあります」

「ですねー。きっと聞かなきゃ教えてもらえないやつです」


 三人がかりで私を睨め付ける。
 はいはい教えますよ。
 教えますから慌てないでくださいよ。
 普段は情報を纏めてから提示しろとうるさい癖に、断片を拾っただけでこれだもの。
 仕方ないかと断片情報を開示。というか口頭で伝達します。


「単純にさっきの戦闘フィールド内の情報が抜けただけです」

「だけっていうあたりがハヤテさんらしいですよね。普通もっと喜びません?」

「まぁ彼の場合は過去の特ダネと比較しますから。だから僕たちの知りたい情報でも路傍の石コロ程度の雑さで扱うんです」

「はっはっは。言われてるよ、少年?」


 ジキンさんを筆頭に顎に手を添えて私を詰ること詰ること。
 はいはい。私が悪うございました。
 でもみんなは私に情報開示してくれたことないよね?
 私がなんでも知ってる物知りだと思ったら大間違いだよ?
 まぁ出したところでジキンさんの言うように過去の出来事と比べてしまうのは身に覚えがありすぎたので深く反省しておく。
 その上で述べた情報を全員で精査した。


「また意味深なワードだね?」

「あの帰りの十字路とかもろ怪しいですよね?」

「あの時は右じゃなく左に行ったんだよね?」

「太陽の位置とか確認してましたのでそこら辺を皮切りに検証していきましょう」

「あ、帰りに素材拾って帰らなきゃ奥さんに怒られるのでそこの配慮もお願いしますね?」

「はいはい。奥の方は調べて無かったのでそっちの確認の際調べますよ。採取はその時でも良いのでは?」

「助かります」


 ジキンさんから真っ直ぐな感謝の言葉が出たのって久しぶりだなぁ。思えば私は彼と罵り合ってた記憶がない。
 まぁそれくらい相手を大事に思っているのだろう。
 そんな感情が瞳の奥から伝わってくるようだった。


 私達はT字路に差し掛かり、何もない青空にダイブした。






 ──落ちる、落ちる、落ちる。






 雲の道を真上に置き去りにし、ようやく全員が理解する。
 『あの意味深なワード、完全にひっかけじゃないか!』と。

 今から風操作で戻るにも、勢いがつきすぎていた。
 ただ落ちているだけではない。
 真上から下に押し流されていると感じた時はもう遅かった。

 大地が少しずつ輪郭を帯びて形になっていく。
 遠く離れていた山々を抜けていき、私達はなんとか岩山に衝突しないようにと街に近しい場所に降りた。

 真上から降り立った私達に奇異の視線が向けられる。
 プレイヤーかNPCかはわからないが、全員がプレイヤーメイドの特注品を身に纏っているように見えた。

 要するにだ。
 ここは私達の知識のない街だということになる。


 あれー? ここどこー?
 知り合いすらいない場所で、私達四人は本格的に迷子になっていた。




 
しおりを挟む
感想 1,316

あなたにおすすめの小説

もふもふで始めるのんびり寄り道生活 便利なチートフル活用でVRMMOの世界を冒険します!

ゆるり
ファンタジー
【書籍化!】第17回ファンタジー小説大賞『癒し系ほっこり賞』受賞作です。 (書籍化にあわせて、タイトルが変更になりました。旧題は『もふもふで始めるVRMMO生活 ~寄り道しながらマイペースに楽しみます~』です) ようやくこの日がやってきた。自由度が最高と噂されてたフルダイブ型VRMMOのサービス開始日だよ。 最初の種族選択でガチャをしたらびっくり。希少種のもふもふが当たったみたい。 この幸運に全力で乗っかって、マイペースにゲームを楽しもう! ……もぐもぐ。この世界、ご飯美味しすぎでは? *** ゲーム生活をのんびり楽しむ話。 バトルもありますが、基本はスローライフ。 主人公は羽のあるうさぎになって、愛嬌を振りまきながら、あっちへこっちへフラフラと、異世界のようなゲーム世界を満喫します。 カクヨム様でも公開しております。

一級魔法使いになれなかったので特級厨師になりました

しおしお
恋愛
魔法学院次席卒業のシャーリー・ドットは、 「一級魔法使いになれなかった」という理由だけで婚約破棄された。 ――だが本当の理由は、ただの“うっかり”。 試験会場を間違え、隣の建物で行われていた 特級厨師試験に合格してしまったのだ。 気づけばシャーリーは、王宮からスカウトされるほどの “超一流料理人”となり、国王の胃袋をがっちり掴む存在に。 一方、学院首席で一級魔法使いとなった ナターシャ・キンスキーは、大活躍しているはずなのに―― 「なんで料理で一番になってるのよ!?  あの女、魔法より料理の方が強くない!?」 すれ違い、逃げ回り、勘違いし続けるナターシャと、 天然すぎて誤解が絶えないシャーリー。 そんな二人が、魔王軍の襲撃、国家危機、王宮騒動を通じて、 少しずつ距離を縮めていく。 魔法で国を守る最強魔術師。 料理で国を救う特級厨師。 ――これは、“敵でもライバルでもない二人”が、 ようやく互いを認め、本当の友情を築いていく物語。 すれ違いコメディ×料理魔法×ダブルヒロイン友情譚! 笑って、癒されて、最後は心が温かくなる王宮ラノベ、開幕です。

1000年生きてる気功の達人異世界に行って神になる

まったりー
ファンタジー
主人公は気功を極め人間の限界を超えた強さを持っていた、更に大気中の気を集め若返ることも出来た、それによって1000年以上の月日を過ごし普通にひっそりと暮らしていた。 そんなある時、教師として新任で向かった学校のクラスが異世界召喚され、別の世界に行ってしまった、そこで主人公が色々します。

もふもふと味わうVRグルメ冒険記 〜遅れて始めたけど、料理だけは最前線でした〜

きっこ
ファンタジー
五感完全再現のフルダイブVRMMO《リアルコード・アース》。 遅れてゲームを始めた童顔ちびっ子キャラの主人公・蓮は、戦うことより“料理”を選んだ。 作るたびに懐いてくるもふもふ、微笑むNPC、ほっこりする食卓―― 今日も炊事場でクッキーを焼けば、なぜか神様にまで目をつけられて!? ただ料理しているだけなのに、気づけば伝説級。 癒しと美味しさが詰まった、もふもふ×グルメなスローゲームライフ、ここに開幕!

異世界ママ、今日も元気に無双中!

チャチャ
ファンタジー
> 地球で5人の子どもを育てていた明るく元気な主婦・春子。 ある日、建設現場の事故で命を落としたと思ったら――なんと剣と魔法の異世界に転生!? 目が覚めたら村の片隅、魔法も戦闘知識もゼロ……でも家事スキルは超一流! 「洗濯魔法? お掃除召喚? いえいえ、ただの生活の知恵です!」 おせっかい上等! お節介で世界を変える異世界ママ、今日も笑顔で大奮闘! 魔法も剣もぶっ飛ばせ♪ ほんわかテンポの“無双系ほんわかファンタジー”開幕!

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

冷遇された聖女の結末

菜花
恋愛
異世界を救う聖女だと冷遇された毛利ラナ。けれど魔力慣らしの旅に出た途端に豹変する同行者達。彼らは同行者の一人のセレスティアを称えラナを貶める。知り合いもいない世界で心がすり減っていくラナ。彼女の迎える結末は――。 本編にプラスしていくつかのifルートがある長編。 カクヨムにも同じ作品を投稿しています。

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

処理中です...