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5章 お爺ちゃんと聖魔大戦
348.お爺ちゃんと新世界へ向けての企画
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孫へのプレゼンも終え、私としてはやりたい事を全て終わらせた気持ちだった。
海霧纏も結構の人が触ってくれてるようで、それを纏って単独で赤の禁忌に至る動画なども拝聴した。
なので空へあがるための手助けはもう良い頃合いだろうとアキカゼランドの撤退を取り決める会議を開き、クランメンバーの都合の良い日に集まって貰った。
「そんなわけで、我々桜町町内会AWO部は赤の禁忌より撤退する事にします」
「いや、どんな訳で、です? やめるのは別に構いませんが、理由付けが弱いとプレイヤーは納得しませんよ?」
食ってかかってきたのはジキンさんだ。サブマスターでもあるので責任感が強い。
彼は誹謗中傷がクランメンバーに向かない立ち振る舞いを心掛けている。
大手会社の社長だった経験がそうさせるのだろう。
だがここはゲーム内。
たかがクランが企画したイベント。
たち消えたところで責任追求など出来もしない。
そもそもが赤字経営だったのだ。
資金が尽きたといえば誰もが納得するだろう。
そもそもクランメンバーが30人しか居ない規模で赤の禁忌全体を取り仕切るなんて無理だって結果が出ていた。
でもやった。やれた。
お金や人件費は湯水のように溶けたけど、それ以上に手応えは掴めただろう。
今ではやってよかったと思っているよ。
でもずっとは無理だとも思ってた。
やはり長期間続くとクラメンの拘束時間が増えていくからね。
自由を謳歌する。そんなクランを目指してるのに長期化したらせっかく楽しい企画も苦しいだけの企画になってしまう。
遊びだから楽しいんだ。
それを仕事にしたらきっとやってられない。
だから無理強いはしないしさせたくない。
探偵さんだって運転手以外の遊びをしたいだろうし。
「そんなプレイヤーは放っておきなさい。それよりも現状を鑑みて私は閃いてしまってね?」
「あ、この人。そっちに取り掛かりたいからって理由で撤退するつもりだ」
「流石ジキンさん。我々は人数が限られてるからね。あれもこれもと手を広げていられないんだ。だったらやるならどちらかになる。だろう?」
私は集まってくれたクランメンバーを見回し、何か質問はないかねと聞いて回る。
早速挙手したジキンさんに窺う。
「で、やるって何をするつもりです? ウチとしてもこれ以上の赤字は勘弁願いたいのですが」
もうすでに借金まみれで首が回らないアピールをしてくるジキンさん。
しかしまだ私のポケットマネーで支払いは効く。
彼が心配してるのはそれ以外に被害がいかない事を危惧してるようだ。
このクランの良いところは私の稼ぎで運営できてるところだからね。メンバーに徴収の類はしていない。
本当はした方がいいみたいなんだけど、別に私が好き勝手やってることだしね。
周囲にお金のことで迷惑はかけたくないなぁ。
リアルで迷惑かけた分尚更ね。
「多少の赤字くらいは目を瞑ってほしいな。私が目をつけるのはいつだって誰もが手を出してないものばかりだよ?」
「少年、思わせぶりな態度ばかり取ってると信頼を失うぞ?」
探偵さんが言葉を続け、それを聞いた女性陣。特にランダさんとウチの妻が頷いている。
「探偵さんには言われたくないな。でもこの企画は今までみたいにあまり手の凝らない、お金もあまりかけないプランだと思ってるんだ」
「それで、一体どんな企画なんですか?」
ユーノ君が焦らすように聞いてくる。
マリンはワクワクしながら私の答えを待っていた。
スズキさんも同様に。いや、この人はなぜかコタツを出してくつろいでいた。
みんなが立って話を聞いてくれてるのに一人だけマイペースだ。
周囲からのツッコミも入らない。
呆れて物も言えないのだろう。
それ以外は常に呆れ顔だ。どうせ突拍子もない事を言い出すんだろうと身構えていた。酷いなぁ。
まぁ私だって彼らを巻き込んだ自覚はあるよ。
でも好き好んで私のプランに乗ってきたのは君たちじゃない。
なのに責任逃れは往生際が悪いと思うんだ?
「そうだね。今回は私の仕える神様が先走って世界をこんな風にしてしまっただろう?」
「そうですね。って言うかこれはマスターの責任でしょう?」
「違うって言ってるのにこの人は私の話を曲解して頭にインプットしてるんですかね?」
「少年の場合は日頃の行いじゃない?」
探偵さんに図星を突かれてぐうの音も出なくなる。
全く痛いところを突いてくる。だけど君にだけは言われたくないな。
「それはともかくとして、要は私のようなプレイヤーが今後次々と世界を改変していく事だろうことは目に見えている。その度に世界の歴史が変わっていくだろう? 地形も変わるし、システムなんかも変わっていく」
「はい。種族変更するまでは大変でしたが、この種族になってからはすごく助かってます」
ユーノ君がありのままの感想を述べる。
彼女の物おじしないスタイルは好感が持てるね。
孫は私を尊敬しているのもあってイエスマンだ。
もう少し疑いの目を持ってほしいものだが、その反面嫌われたくもないので今のままでいいかと納得しておく。
「だからそうだね。私達は今後を見越して交通機関サービスでも開こうかなと思った。何気にベルト持ちが多く顔ぶれを揃えるクランってここを置いて他じゃそうそう見ないでしょ? プレイヤーにとっては聖典も魔導書もそう大差ないんだ。ここはお互いに手を取り合って、協力していこうよ。イベントはイベントで勝っても負けても文句なしでいいじゃない。勝ち負けが今後の人生を左右するでもないし。でしょ?」
「全くこの人は。全員が全員貴方ほどお気楽な考えを持ってる訳じゃないんですよ?」
ジキンさんが肩をすくめ、中立に位置する。
「俺は賛成だ。ベルト持ちってだけで辺に畏まられてもやりにくい。それにこの能力をうまく扱えない俺が上位プレイヤーに勝てる訳もないしな。検証するのは趣味でやってるが、争い事には向かない性格なのさ」
どざえもんさんが賛同する。
「僕は反対……と言いたいところだけど、中立になっておくよ。正直、僕は少年ほどこの能力を楽観視できないプレイヤーの一人だよ。他のゲームじゃまず見ない厚待遇。人権アイテムでもある」
そして探偵さんがどちらでもないと反論する。
「私はお爺ちゃんの意見に賛成! いちプレイヤーでしかないけど、移動面でのデメリットはやっぱりおおきいもん! そんな時に移動手段の確保は大事だと思うから!」
「私もマリンちゃんと同じく、です」
孫とユーノ君は賛成してくれた。
「僕はどうしようかな?」
ん、君はこっち側でしょ?
ルリーエと別人だと言いふらした手前、幻影の役割を放棄したな?
いや、分裂してるから今のスズキさんにルリーエの権利はないんだけどさ。
「ハヤテさんは僕にどっちついてほしいですか?」
「私についてくれたらありがたいね」
「じゃあハヤテさんに付きます。アイドルデビューさせてもらった恩もまだ返せてませんし」
「じゃああたしは、スズちゃんについていきます」
「私もだ」
「ここで私だけ中立で、と言ったらメンバーに亀裂が入っちゃうので賛成派にしときます」
竜宮城のアイドルグループ、乙姫君、ジーク・ジョン君私側についてくれた。やはりクトゥルフ陣営だけあって私に友好的だ。
唯一ミレディ君だけが中立側に着こうとしたが、グッと堪えて賛成派についてくれる。
何やら葛藤があるようだ。
「あたしはどうしよっかなー? 中立で」
「私も中立の方が面白くなりそうだし」
現役アイドルグループのみくる・フォーエバー、羊谷あかりの両名は中立を取ることによって受けを狙ったのだろう。
彼女達はやはり配信者をしてるだけあって撮れ高を期待する。
そういう意味では探偵さん側につきたくもなるか。
「私は賛成ね。移動手段が増えるのは良いことだわ。でもこれってクランの企画にして良いものなのかしら?」
妻のアキエが訝しむ。
一応は賛成してくれてるが、クランの企画としては賛成して良いのか迷っているらしい。
「全くこの子は心配性だね。そういうのは男どもがなんとかしてくれるわよ。ね、あんた?」
「勿論だとも。あとは僕達に全て任せなさい!」
ランダさんがジキンさんの背中を強く叩くと、とても良い返事が返ってくる。
あれ? さっきまでこの人中立じゃなかったっけ。
まぁ良いか。やる気を見せてるんだし任せよう。
「俺たちは特にはどっちでも良いですよ」
「ああ、ただでさえクランに世話になってる身だし?」
「企画にどうこうは言えないわなぁ?」
AWO登山部のみんなは山登りが趣味のプレイヤー達だ。
ナガレ君や
ログイン時間も相まって話についていけないと顔を渋らせている。久しぶりにログインしたら大地が消えて半分以上海になってて心底たまげたと言いたげだった。
彼らには悪い事をしたと思ってる。
「ワシも特に異論はないの。駅を作るんなら鍛治師より大工じゃろうし」
ダグラスさんは相も変わらずフリースタイルだ。
「さて僕達はどうしようか?」
「父さんはアキカゼさん寄りでしょ?」
「けどうちの父が中立を貫いている。一人息子としては肩身が狭いのさ」
「変なの」
カネミツ君と時雨シグレ君親娘が肩をすくめる。
別に反対か賛成か聞いてるわけでもないが律儀な事だ。
彼ら情報統括部は何をしようと立場が変わらないからね。
と、多数決を取れば殆どが賛成派。
ランダさんに背中を押されて急遽賛成派になったジキンさんが詳しい話を詰めていく。
「で、要はどんなプランなんです?」
「単純に駅をやろうかと思いまして」
「駅! 弱小クランなのに可能なんですか?」
「勿論、多くの横のつながりは必要だけど無理ではないと思ってますよ。街と街をつなぐ企画ですからね。傘下クランにも協力してもらって、それぞれ企画してもらいましょう。乗り物は……探偵さんばかりに任せるのもあれなんで、アトランティス陣営で募集しましょうか? 運営は私達がして、他のプレイヤーにも手伝ってもらう。なんだったら運営は引き継いでもらっても良いし」
「要はアキカゼランドの失敗を生かす形ですか?」
「どうだろう? 何でもかんでも全部自分たちでやるのって大変だよねと思ったんだよ。どうせMMOなんだし、こういうのはみんなでやってこそでしょ?」
「でもそれってクランでする企画じゃないでしょ?」
「合同企画だと言えば良いんです。確か大型クランはそういうイベントとかしてるって聞きますし」
「どちらにせよ、やる方向で少年は話してるわけだ。まぁ僕の乗り物を出さなくても良いなら、反対はできないかな?」
「その件だけど、一つだけは出してほしいんだよね。ほら、例の掛け時計の置いてる機関車あるでしょ?」
探偵さんの代名詞になりつつある機関車の人と呼ばれる所以の機関車である。
「あぁ、それね。個人的に扱うのも困ってたから別に良いけど。でも近代列車の中に馴染むかなぁ?」
「君がやたらと細かく造形したのが原因でしょ」
「違いない」
ド・マリーニの掛け時計は過去へ遡る秘蔵アイテムだ。
急に姿を眩ませるとやっかむプレイヤーも多いだろう。
主にシェリル辺りが。
だからそれだけは特別な線路を走らせる事にする。
そうやって分別する事で一般プレイヤーとベルト持ちプレイヤーで分けて、あとはその後に備えるだけで良いだろう。
そんな準備をし始めた数日後、シェリルを中心にした聖典陣営が過去の改竄に成功したと知らせるワールドアナウンスが鳴り響いた。
海霧纏も結構の人が触ってくれてるようで、それを纏って単独で赤の禁忌に至る動画なども拝聴した。
なので空へあがるための手助けはもう良い頃合いだろうとアキカゼランドの撤退を取り決める会議を開き、クランメンバーの都合の良い日に集まって貰った。
「そんなわけで、我々桜町町内会AWO部は赤の禁忌より撤退する事にします」
「いや、どんな訳で、です? やめるのは別に構いませんが、理由付けが弱いとプレイヤーは納得しませんよ?」
食ってかかってきたのはジキンさんだ。サブマスターでもあるので責任感が強い。
彼は誹謗中傷がクランメンバーに向かない立ち振る舞いを心掛けている。
大手会社の社長だった経験がそうさせるのだろう。
だがここはゲーム内。
たかがクランが企画したイベント。
たち消えたところで責任追求など出来もしない。
そもそもが赤字経営だったのだ。
資金が尽きたといえば誰もが納得するだろう。
そもそもクランメンバーが30人しか居ない規模で赤の禁忌全体を取り仕切るなんて無理だって結果が出ていた。
でもやった。やれた。
お金や人件費は湯水のように溶けたけど、それ以上に手応えは掴めただろう。
今ではやってよかったと思っているよ。
でもずっとは無理だとも思ってた。
やはり長期間続くとクラメンの拘束時間が増えていくからね。
自由を謳歌する。そんなクランを目指してるのに長期化したらせっかく楽しい企画も苦しいだけの企画になってしまう。
遊びだから楽しいんだ。
それを仕事にしたらきっとやってられない。
だから無理強いはしないしさせたくない。
探偵さんだって運転手以外の遊びをしたいだろうし。
「そんなプレイヤーは放っておきなさい。それよりも現状を鑑みて私は閃いてしまってね?」
「あ、この人。そっちに取り掛かりたいからって理由で撤退するつもりだ」
「流石ジキンさん。我々は人数が限られてるからね。あれもこれもと手を広げていられないんだ。だったらやるならどちらかになる。だろう?」
私は集まってくれたクランメンバーを見回し、何か質問はないかねと聞いて回る。
早速挙手したジキンさんに窺う。
「で、やるって何をするつもりです? ウチとしてもこれ以上の赤字は勘弁願いたいのですが」
もうすでに借金まみれで首が回らないアピールをしてくるジキンさん。
しかしまだ私のポケットマネーで支払いは効く。
彼が心配してるのはそれ以外に被害がいかない事を危惧してるようだ。
このクランの良いところは私の稼ぎで運営できてるところだからね。メンバーに徴収の類はしていない。
本当はした方がいいみたいなんだけど、別に私が好き勝手やってることだしね。
周囲にお金のことで迷惑はかけたくないなぁ。
リアルで迷惑かけた分尚更ね。
「多少の赤字くらいは目を瞑ってほしいな。私が目をつけるのはいつだって誰もが手を出してないものばかりだよ?」
「少年、思わせぶりな態度ばかり取ってると信頼を失うぞ?」
探偵さんが言葉を続け、それを聞いた女性陣。特にランダさんとウチの妻が頷いている。
「探偵さんには言われたくないな。でもこの企画は今までみたいにあまり手の凝らない、お金もあまりかけないプランだと思ってるんだ」
「それで、一体どんな企画なんですか?」
ユーノ君が焦らすように聞いてくる。
マリンはワクワクしながら私の答えを待っていた。
スズキさんも同様に。いや、この人はなぜかコタツを出してくつろいでいた。
みんなが立って話を聞いてくれてるのに一人だけマイペースだ。
周囲からのツッコミも入らない。
呆れて物も言えないのだろう。
それ以外は常に呆れ顔だ。どうせ突拍子もない事を言い出すんだろうと身構えていた。酷いなぁ。
まぁ私だって彼らを巻き込んだ自覚はあるよ。
でも好き好んで私のプランに乗ってきたのは君たちじゃない。
なのに責任逃れは往生際が悪いと思うんだ?
「そうだね。今回は私の仕える神様が先走って世界をこんな風にしてしまっただろう?」
「そうですね。って言うかこれはマスターの責任でしょう?」
「違うって言ってるのにこの人は私の話を曲解して頭にインプットしてるんですかね?」
「少年の場合は日頃の行いじゃない?」
探偵さんに図星を突かれてぐうの音も出なくなる。
全く痛いところを突いてくる。だけど君にだけは言われたくないな。
「それはともかくとして、要は私のようなプレイヤーが今後次々と世界を改変していく事だろうことは目に見えている。その度に世界の歴史が変わっていくだろう? 地形も変わるし、システムなんかも変わっていく」
「はい。種族変更するまでは大変でしたが、この種族になってからはすごく助かってます」
ユーノ君がありのままの感想を述べる。
彼女の物おじしないスタイルは好感が持てるね。
孫は私を尊敬しているのもあってイエスマンだ。
もう少し疑いの目を持ってほしいものだが、その反面嫌われたくもないので今のままでいいかと納得しておく。
「だからそうだね。私達は今後を見越して交通機関サービスでも開こうかなと思った。何気にベルト持ちが多く顔ぶれを揃えるクランってここを置いて他じゃそうそう見ないでしょ? プレイヤーにとっては聖典も魔導書もそう大差ないんだ。ここはお互いに手を取り合って、協力していこうよ。イベントはイベントで勝っても負けても文句なしでいいじゃない。勝ち負けが今後の人生を左右するでもないし。でしょ?」
「全くこの人は。全員が全員貴方ほどお気楽な考えを持ってる訳じゃないんですよ?」
ジキンさんが肩をすくめ、中立に位置する。
「俺は賛成だ。ベルト持ちってだけで辺に畏まられてもやりにくい。それにこの能力をうまく扱えない俺が上位プレイヤーに勝てる訳もないしな。検証するのは趣味でやってるが、争い事には向かない性格なのさ」
どざえもんさんが賛同する。
「僕は反対……と言いたいところだけど、中立になっておくよ。正直、僕は少年ほどこの能力を楽観視できないプレイヤーの一人だよ。他のゲームじゃまず見ない厚待遇。人権アイテムでもある」
そして探偵さんがどちらでもないと反論する。
「私はお爺ちゃんの意見に賛成! いちプレイヤーでしかないけど、移動面でのデメリットはやっぱりおおきいもん! そんな時に移動手段の確保は大事だと思うから!」
「私もマリンちゃんと同じく、です」
孫とユーノ君は賛成してくれた。
「僕はどうしようかな?」
ん、君はこっち側でしょ?
ルリーエと別人だと言いふらした手前、幻影の役割を放棄したな?
いや、分裂してるから今のスズキさんにルリーエの権利はないんだけどさ。
「ハヤテさんは僕にどっちついてほしいですか?」
「私についてくれたらありがたいね」
「じゃあハヤテさんに付きます。アイドルデビューさせてもらった恩もまだ返せてませんし」
「じゃああたしは、スズちゃんについていきます」
「私もだ」
「ここで私だけ中立で、と言ったらメンバーに亀裂が入っちゃうので賛成派にしときます」
竜宮城のアイドルグループ、乙姫君、ジーク・ジョン君私側についてくれた。やはりクトゥルフ陣営だけあって私に友好的だ。
唯一ミレディ君だけが中立側に着こうとしたが、グッと堪えて賛成派についてくれる。
何やら葛藤があるようだ。
「あたしはどうしよっかなー? 中立で」
「私も中立の方が面白くなりそうだし」
現役アイドルグループのみくる・フォーエバー、羊谷あかりの両名は中立を取ることによって受けを狙ったのだろう。
彼女達はやはり配信者をしてるだけあって撮れ高を期待する。
そういう意味では探偵さん側につきたくもなるか。
「私は賛成ね。移動手段が増えるのは良いことだわ。でもこれってクランの企画にして良いものなのかしら?」
妻のアキエが訝しむ。
一応は賛成してくれてるが、クランの企画としては賛成して良いのか迷っているらしい。
「全くこの子は心配性だね。そういうのは男どもがなんとかしてくれるわよ。ね、あんた?」
「勿論だとも。あとは僕達に全て任せなさい!」
ランダさんがジキンさんの背中を強く叩くと、とても良い返事が返ってくる。
あれ? さっきまでこの人中立じゃなかったっけ。
まぁ良いか。やる気を見せてるんだし任せよう。
「俺たちは特にはどっちでも良いですよ」
「ああ、ただでさえクランに世話になってる身だし?」
「企画にどうこうは言えないわなぁ?」
AWO登山部のみんなは山登りが趣味のプレイヤー達だ。
ナガレ君や
ログイン時間も相まって話についていけないと顔を渋らせている。久しぶりにログインしたら大地が消えて半分以上海になってて心底たまげたと言いたげだった。
彼らには悪い事をしたと思ってる。
「ワシも特に異論はないの。駅を作るんなら鍛治師より大工じゃろうし」
ダグラスさんは相も変わらずフリースタイルだ。
「さて僕達はどうしようか?」
「父さんはアキカゼさん寄りでしょ?」
「けどうちの父が中立を貫いている。一人息子としては肩身が狭いのさ」
「変なの」
カネミツ君と時雨シグレ君親娘が肩をすくめる。
別に反対か賛成か聞いてるわけでもないが律儀な事だ。
彼ら情報統括部は何をしようと立場が変わらないからね。
と、多数決を取れば殆どが賛成派。
ランダさんに背中を押されて急遽賛成派になったジキンさんが詳しい話を詰めていく。
「で、要はどんなプランなんです?」
「単純に駅をやろうかと思いまして」
「駅! 弱小クランなのに可能なんですか?」
「勿論、多くの横のつながりは必要だけど無理ではないと思ってますよ。街と街をつなぐ企画ですからね。傘下クランにも協力してもらって、それぞれ企画してもらいましょう。乗り物は……探偵さんばかりに任せるのもあれなんで、アトランティス陣営で募集しましょうか? 運営は私達がして、他のプレイヤーにも手伝ってもらう。なんだったら運営は引き継いでもらっても良いし」
「要はアキカゼランドの失敗を生かす形ですか?」
「どうだろう? 何でもかんでも全部自分たちでやるのって大変だよねと思ったんだよ。どうせMMOなんだし、こういうのはみんなでやってこそでしょ?」
「でもそれってクランでする企画じゃないでしょ?」
「合同企画だと言えば良いんです。確か大型クランはそういうイベントとかしてるって聞きますし」
「どちらにせよ、やる方向で少年は話してるわけだ。まぁ僕の乗り物を出さなくても良いなら、反対はできないかな?」
「その件だけど、一つだけは出してほしいんだよね。ほら、例の掛け時計の置いてる機関車あるでしょ?」
探偵さんの代名詞になりつつある機関車の人と呼ばれる所以の機関車である。
「あぁ、それね。個人的に扱うのも困ってたから別に良いけど。でも近代列車の中に馴染むかなぁ?」
「君がやたらと細かく造形したのが原因でしょ」
「違いない」
ド・マリーニの掛け時計は過去へ遡る秘蔵アイテムだ。
急に姿を眩ませるとやっかむプレイヤーも多いだろう。
主にシェリル辺りが。
だからそれだけは特別な線路を走らせる事にする。
そうやって分別する事で一般プレイヤーとベルト持ちプレイヤーで分けて、あとはその後に備えるだけで良いだろう。
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