滅ぼされた国の最後の姫は、最強の治癒力を惜しみなく発揮する

cc.

文字の大きさ
37 / 58
火と月

37

しおりを挟む
セスの妹は隠されて育てられていた。


ハルシオンは知らなかった。
セスに妹がいたなんて…

初めてセスと挨拶を交わしてから、もう2年が経とうとしていた。
セスは、もうハルシオンにとって友人ではなかった。
心から信頼を寄せる"親友"だった。

ハルシオンも、この2年の間何度も土の国へ足を運んでいた。
しかし、彼に妹がいたなんて‥
聞いたことも無ければ、見たこともなかったのだから。


セスは、「ハルシオンにだけは自分の口から伝えておきたかった」と説明した。

彼の妹は、ここ数年で土の国に誕生した王族女児の中でも、特に秀でた治癒力を持って生まれた子なのだと。
そして、これから彼女の身に起こるであろう問題に危惧したセスの両親は、産まれた娘を誰の目にも止まらぬよう育ててきたのだと。


それだけ聞かされればハルシオンも、セスとセスの両親、そして土の国全体が産まれたばかりの"姫"を守ろうとするのは当然だと思った。

その頃の、土の国での女性の誘拐率は、他国に比べ群を抜いていたからだ。
それも、攫われたり行方が分からない女性達は皆、大なり小なり治癒力が使える者ばかりだったからだ。
しかも、連れ去られた先は間違いなくだろう。
悲しいことに、この件だけは友好国である月の国でも同罪なのだ。
どれだけ取り締まっても、闇市場での治癒力持ちの女性の売買は収まらなかった。

月の国の亡貴族の家で、大きな檻にいれられ鎖で繋がれた女児を見つけたときは、怒りに我を忘れそうになった。
大切な親友の国の民が、自国の民によって飼い殺しにあっている姿に…
「何故?どうして?奴らはこんな酷いことができるのか?」と、何度も何度も悩んだ。
そして、自分の国で誰かが見つかるたび、ハルシオンはセスに頭を下げた。

『我が民が…すまない』と。

けれど、その度にセスはハルシオンに言った。

『こちらこそ、我が土の民を助けてくれてありがとう』と。

彼は、どんな状態で見つかったとしても、絶対に他国を責め立てることはしなかった。
あろう事か『見つけてくれてありがとう!』と、ひたすら感謝を述べてくれた。

彼らが、一番知っているのだ。
攫われた子達が、どんな扱いを受けるのか。
そして、言葉が分からない幼い女児達ほど攫いやすく、躾やすいという事も…



だからこそ、彼らは秘密裏に育てたのだろう。
せめて、自分の意思をはっきりと持った年齢になるまで…




セスは、「やっと妹をハルに紹介できるよ!」と嬉しそうに語っていた。
そして、ひっそりと育てていたつもりが、白昼堂々と城の外壁によじ登り散歩していたこと…
こっそりと騎士にまじって、剣を振っていたこと…
そして、怒られてはセスの部屋に籠もって大泣きして出てこないこと…
料理がしたいといい、厨房を爆発させて半壊させたこと…

妹は、見事にお淑やかとはかけ離れた姫に育ったよ!と、セスは言う。

徐々に内容が酷くなっていくものの、妹の話をするセスは本当に楽しそうでその笑顔は眩しかった。
妹が、可愛くて可愛くて仕方が無いと全身で語っていた。


そして、国内外に第一王女の報告があがる前に、ハルシオンは友の愛する"妹姫"に会えた。

土の国:クロノス第一王女
セリーナ・ココ・クロノス(当時10歳)

セスよりも、かなり色素の薄い茶金の髪に金色の目。
その目は、好奇心でいっぱいだと語っているようだった。

「お初にお目にかかります。
クロノス第一王女、セリーナ・ココ・クロノスと申します」

見た目からは、考えられないほど大人びた丁寧な挨拶に、セスとの血筋をヒシヒシと感じていると、彼女は早速本領を発揮してきた。


「では、参りましょう!
セス兄様!!」


ハルシオンとは、初めて挨拶を交わしたばかりだというのに、幼い土の姫はハルシオンとセスの間に陣取ると両者の腕に手を回し楽しそうに言った。


「お兄様が『ハル』って呼んでらっしゃいますもん!一緒では面白くないでしょう?
だから、"セリニ兄様"って呼ぶのは特権なんですわ!!」


そう言った、彼女の笑顔は光り輝く太陽のように美しかった。

しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

【完結】平凡な魔法使いですが、国一番の騎士に溺愛されています

空月
ファンタジー
この世界には『善い魔法使い』と『悪い魔法使い』がいる。 『悪い魔法使い』の根絶を掲げるシュターメイア王国の魔法使いフィオラ・クローチェは、ある日魔法の暴発で幼少時の姿になってしまう。こんな姿では仕事もできない――というわけで有給休暇を得たフィオラだったが、一番の友人を自称するルカ=セト騎士団長に、何故かなにくれとなく世話をされることに。 「……おまえがこんなに子ども好きだとは思わなかった」 「いや、俺は子どもが好きなんじゃないよ。君が好きだから、子どもの君もかわいく思うし好きなだけだ」 そんなことを大真面目に言う国一番の騎士に溺愛される、平々凡々な魔法使いのフィオラが、元の姿に戻るまでと、それから。 ◆三部完結しました。お付き合いありがとうございました。(2024/4/4)

「がっかりです」——その一言で終わる夫婦が、王宮にはある

柴田はつみ
恋愛
妃の席を踏みにじったのは令嬢——けれど妃の心を折ったのは、夫のたった一言だった 王太子妃リディアの唯一の安らぎは、王太子アーヴィンと交わす午後の茶会。だが新しく王宮に出入りする伯爵令嬢ミレーユは、妃の席に先に座り、殿下を私的に呼び、距離感のない振る舞いを重ねる。 リディアは王宮の礼節としてその場で正す——正しいはずだった。けれど夫は「リディア、そこまで言わなくても……」と、妃を止めた。 「わかりました。あなたには、がっかりです」 微笑んで去ったその日から、夫婦の茶会は終わる。沈黙の王宮で、言葉を失った王太子は、初めて“追う”ことを選ぶが——遅すぎた。

『白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?』

夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」 教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。 ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。 王命による“形式結婚”。 夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。 だから、はい、離婚。勝手に。 白い結婚だったので、勝手に離婚しました。 何か問題あります?

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

「お前みたいな卑しい闇属性の魔女など側室でもごめんだ」と言われましたが、私も殿下に嫁ぐ気はありません!

野生のイエネコ
恋愛
闇の精霊の加護を受けている私は、闇属性を差別する国で迫害されていた。いつか私を受け入れてくれる人を探そうと夢に見ていたデビュタントの舞踏会で、闇属性を差別する王太子に罵倒されて心が折れてしまう。  私が国を出奔すると、闇精霊の森という場所に住まう、不思議な男性と出会った。なぜかその男性が私の事情を聞くと、国に与えられた闇精霊の加護が消滅して、国は大混乱に。  そんな中、闇精霊の森での生活は穏やかに進んでいく。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

望まぬ結婚をさせられた私のもとに、死んだはずの護衛騎士が帰ってきました~不遇令嬢が世界一幸せな花嫁になるまで

越智屋ノマ
恋愛
「君を愛することはない」で始まった不遇な結婚――。 国王の命令でクラーヴァル公爵家へと嫁いだ伯爵令嬢ヴィオラ。しかし夫のルシウスに愛されることはなく、毎日つらい仕打ちを受けていた。 孤独に耐えるヴィオラにとって唯一の救いは、護衛騎士エデン・アーヴィスと過ごした日々の思い出だった。エデンは強くて誠実で、いつもヴィオラを守ってくれた……でも、彼はもういない。この国を襲った『災禍の竜』と相打ちになって、3年前に戦死してしまったのだから。 ある日、参加した夜会の席でヴィオラは窮地に立たされる。その夜会は夫の愛人が主催するもので、夫と結託してヴィオラを陥れようとしていたのだ。誰に救いを求めることもできず、絶体絶命の彼女を救ったのは――? (……私の体が、勝手に動いている!?) 「地獄で悔いろ、下郎が。このエデン・アーヴィスの目の黒いうちは、ヴィオラ様に指一本触れさせはしない!」 死んだはずのエデンの魂が、ヴィオラの体に乗り移っていた!?  ――これは、望まぬ結婚をさせられた伯爵令嬢ヴィオラと、死んだはずの護衛騎士エデンのふしぎな恋の物語。理不尽な夫になんて、もう絶対に負けません!!

処理中です...