24 / 53
第2章 邂逅
〇第23話 浮遊大陸へ:木の主人
しおりを挟む
サーイは木をさらに登り続けた。花の形をした魔物は、その数が増え、さらに大きさも大きくなってくる。
奴らをすべて焼き尽くすことも、サーイの魔力をもってすれば可能……だが、今は、自分の行く手にいるものだけを狙っていた。仮にフィレクトを当てたとしても、相手がひるんだすきをみて通過、後ろから十分な量のウィリュムをかけて、火種が残らないようにした。
……あの男のような失敗はしない、と心に決めて。
やがて、上のほうから吠えるような声がしてきた。登るにつれて、見たこともないような太さの蔓が、枝の周りに巻きついている。
見えてきたのは、今までのものとは比べ物にならないほどの、巨大な花だった。しかも二体も。
そのうちの一体が、大きな声をあげたと思うと、花びらの中心にある口のようなものを広げ、あたりの空気を吸い込み始めた。
「わあっ!」
サーイは思わず声を上げた。背後からものすごい風が吹き、そのまま口の中へ吸い込まれるほどに強くなった。これは、もう倒すしかない、と、フィレクトを構えた瞬間、
「コーピー、いたずらはそのへんにしなさいな」
と声をかけるものがあった。すると、その魔物は吸い込むのをやめた。
そこには、老婆が一人立っていた。
「……あなたは?」サーイは尋ねた。
「ワタシかい? ワタシは……この木のヌシ、パラウェリだよ」
「パラウェリ……あなたの名前だったんですね。なぜ、こんなところに?」
「ワタシはね、ここに住んでいるんだよ」
見ると、木の枝に挟まれて家のようなものが建っている。家の隣には、火を焚く場所のようなものもあり、大きな鍋もあった。
「この木にはな、いろんなものが生えているからな。これらを使えば食べ物にも困らないし、意外と快適だよ。……こんなところで立ち話はなんだから、家、入るかい?」
「はい……」
サーイは家の中に通された。
「アンタは、とても優しい子のようだね」
「え……どういうことですか?」
「さっきから下で見てたよ。アンタときたら、ワタシの子たちが噛み付こうとしてるのに、焼き払うんじゃなく、ちょっとおどかすだけで、ちゃんと後ろから水もあげて。あいつらを枯らすまいと、すごくがんばってるからさ」
「子たち?」
「あいつらはワタシが育てたんだよ。でも、育ちが悪くてね……あんなふうに牙が生えちゃって人を襲うようになっちまった。おかげでこの木にはほとんど人が寄り付かなくなっちゃった」
「あの大きな花も?」
さっきサーイを吸い込もうとした花を指した。
「ああ、コーピー、キーピーもわしが育てた。こいつらは番犬みたいなもんさ。へんな奴がきたら吸い込んじまうんだ。だが、アンタはそうじゃなさそうだしな」
「そうだ、パラウェリさん、一つ聞いていいですか?」
「なんだ?」
「ちょっと前に、青いドラゴンが通りませんでしたか……おじいさんを連れて」
「ああ! いた! いた。でも、すごい速さだったから、じいさんがいたかはしらんな、でも、とにかく上のほうへ行ったのは間違いないよ」
「やっぱり……ありがとうございます!」
「あら、もう出るのかい?」
「私、急がないと……あ、それと、もう一つお願いが」
「なんだ?」
「……さっき、もっと下のほうであなたの大事な子たちを、無慈悲に焼き払っている男がいました。そいつもドラゴンに乗ってもうすぐ来ると思うから、うんと懲らしめてあげてください」
「おや、今日はお客さんが多いんだねぇ。ああ、わかった、お灸をすえとくよ」
サーイはさらに上を目指した。
奴らをすべて焼き尽くすことも、サーイの魔力をもってすれば可能……だが、今は、自分の行く手にいるものだけを狙っていた。仮にフィレクトを当てたとしても、相手がひるんだすきをみて通過、後ろから十分な量のウィリュムをかけて、火種が残らないようにした。
……あの男のような失敗はしない、と心に決めて。
やがて、上のほうから吠えるような声がしてきた。登るにつれて、見たこともないような太さの蔓が、枝の周りに巻きついている。
見えてきたのは、今までのものとは比べ物にならないほどの、巨大な花だった。しかも二体も。
そのうちの一体が、大きな声をあげたと思うと、花びらの中心にある口のようなものを広げ、あたりの空気を吸い込み始めた。
「わあっ!」
サーイは思わず声を上げた。背後からものすごい風が吹き、そのまま口の中へ吸い込まれるほどに強くなった。これは、もう倒すしかない、と、フィレクトを構えた瞬間、
「コーピー、いたずらはそのへんにしなさいな」
と声をかけるものがあった。すると、その魔物は吸い込むのをやめた。
そこには、老婆が一人立っていた。
「……あなたは?」サーイは尋ねた。
「ワタシかい? ワタシは……この木のヌシ、パラウェリだよ」
「パラウェリ……あなたの名前だったんですね。なぜ、こんなところに?」
「ワタシはね、ここに住んでいるんだよ」
見ると、木の枝に挟まれて家のようなものが建っている。家の隣には、火を焚く場所のようなものもあり、大きな鍋もあった。
「この木にはな、いろんなものが生えているからな。これらを使えば食べ物にも困らないし、意外と快適だよ。……こんなところで立ち話はなんだから、家、入るかい?」
「はい……」
サーイは家の中に通された。
「アンタは、とても優しい子のようだね」
「え……どういうことですか?」
「さっきから下で見てたよ。アンタときたら、ワタシの子たちが噛み付こうとしてるのに、焼き払うんじゃなく、ちょっとおどかすだけで、ちゃんと後ろから水もあげて。あいつらを枯らすまいと、すごくがんばってるからさ」
「子たち?」
「あいつらはワタシが育てたんだよ。でも、育ちが悪くてね……あんなふうに牙が生えちゃって人を襲うようになっちまった。おかげでこの木にはほとんど人が寄り付かなくなっちゃった」
「あの大きな花も?」
さっきサーイを吸い込もうとした花を指した。
「ああ、コーピー、キーピーもわしが育てた。こいつらは番犬みたいなもんさ。へんな奴がきたら吸い込んじまうんだ。だが、アンタはそうじゃなさそうだしな」
「そうだ、パラウェリさん、一つ聞いていいですか?」
「なんだ?」
「ちょっと前に、青いドラゴンが通りませんでしたか……おじいさんを連れて」
「ああ! いた! いた。でも、すごい速さだったから、じいさんがいたかはしらんな、でも、とにかく上のほうへ行ったのは間違いないよ」
「やっぱり……ありがとうございます!」
「あら、もう出るのかい?」
「私、急がないと……あ、それと、もう一つお願いが」
「なんだ?」
「……さっき、もっと下のほうであなたの大事な子たちを、無慈悲に焼き払っている男がいました。そいつもドラゴンに乗ってもうすぐ来ると思うから、うんと懲らしめてあげてください」
「おや、今日はお客さんが多いんだねぇ。ああ、わかった、お灸をすえとくよ」
サーイはさらに上を目指した。
0
あなたにおすすめの小説
存在感のない聖女が姿を消した後 [完]
風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは
永く仕えた国を捨てた。
何故って?
それは新たに現れた聖女が
ヒロインだったから。
ディアターナは
いつの日からか新聖女と比べられ
人々の心が離れていった事を悟った。
もう私の役目は終わったわ…
神託を受けたディアターナは
手紙を残して消えた。
残された国は天災に見舞われ
てしまった。
しかし聖女は戻る事はなかった。
ディアターナは西帝国にて
初代聖女のコリーアンナに出会い
運命を切り開いて
自分自身の幸せをみつけるのだった。
祝・定年退職!? 10歳からの異世界生活
空の雲
ファンタジー
中田 祐一郎(なかたゆういちろう)60歳。長年勤めた会社を退職。
最後の勤めを終え、通い慣れた電車で帰宅途中、突然の衝撃をうける。
――気付けば、幼い子供の姿で見覚えのない森の中に……
どうすればいいのか困惑する中、冒険者バルトジャンと出会う。
顔はいかついが気のいいバルトジャンは、行き場のない子供――中田祐一郎(ユーチ)の保護を申し出る。
魔法や魔物の存在する、この世界の知識がないユーチは、迷いながらもその言葉に甘えることにした。
こうして始まったユーチの異世界生活は、愛用の腕時計から、なぜか地球の道具が取り出せたり、彼の使う魔法が他人とちょっと違っていたりと、出会った人たちを驚かせつつ、ゆっくり動き出す――
※2月25日、書籍部分がレンタルになりました。
嘘をありがとう
七辻ゆゆ
恋愛
「まあ、なんて図々しいのでしょう」
おっとりとしていたはずの妻は、辛辣に言った。
「要するにあなた、貴族でいるために政略結婚はする。けれど女とは別れられない、ということですのね?」
妻は言う。女と別れなくてもいい、仕事と嘘をついて会いに行ってもいい。けれど。
「必ず私のところに帰ってきて、子どもをつくり、よい夫、よい父として振る舞いなさい。神に嘘をついたのだから、覚悟を決めて、その嘘を突き通しなさいませ」
【本編完結済み/後日譚連載中】巻き込まれた事なかれ主義のパシリくんは争いを避けて生きていく ~生産系加護で今度こそ楽しく生きるのさ~
みやま たつむ
ファンタジー
【本編完結しました(812話)/後日譚を書くために連載中にしています。ご承知おきください】
事故死したところを別の世界に連れてかれた陽キャグループと、巻き込まれて事故死した事なかれ主義の静人。
神様から強力な加護をもらって魔物をちぎっては投げ~、ちぎっては投げ~―――なんて事をせずに、勢いで作ってしまったホムンクルスにお店を開かせて面倒な事を押し付けて自由に生きる事にした。
作った魔道具はどんな使われ方をしているのか知らないまま「のんびり気ままに好きなように生きるんだ」と魔物なんてほっといて好き勝手生きていきたい静人の物語。
「まあ、そんな平穏な生活は転移した時点で無理じゃけどな」と最高神は思うのだが―――。
※「小説家になろう」と「カクヨム」で同時掲載しております。
【完結】あなたに知られたくなかった
ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。
5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。
そんなセレナに起きた奇跡とは?
『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?
釈 余白(しやく)
ファンタジー
毒親の父が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い、残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。
その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。
最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。
連載時、HOT 1位ありがとうございました!
その他、多数投稿しています。
こちらもよろしくお願いします!
https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394
99歳で亡くなり異世界に転生した老人は7歳の子供に生まれ変わり、召喚魔法でドラゴンや前世の世界の物を召喚して世界を変える
ハーフのクロエ
ファンタジー
夫が病気で長期入院したので夫が途中まで書いていた小説を私なりに書き直して完結まで投稿しますので応援よろしくお願いいたします。
主人公は建築会社を55歳で取り締まり役常務をしていたが惜しげもなく早期退職し田舎で大好きな農業をしていた。99歳で亡くなった老人は前世の記憶を持ったまま7歳の少年マリュウスとして異世界の僻地の男爵家に生まれ変わる。10歳の鑑定の儀で、火、水、風、土、木の5大魔法ではなく、この世界で初めての召喚魔法を授かる。最初に召喚出来たのは弱いスライム、モグラ魔獣でマリウスはガッカリしたが優しい家族に見守られ次第に色んな魔獣や地球の、物などを召喚出来るようになり、僻地の男爵家を発展させ気が付けば大陸一豊かで最強の小さい王国を起こしていた。
彼女にも愛する人がいた
まるまる⭐️
恋愛
既に冷たくなった王妃を見つけたのは、彼女に食事を運んで来た侍女だった。
「宮廷医の見立てでは、王妃様の死因は餓死。然も彼が言うには、王妃様は亡くなってから既に2、3日は経過しているだろうとの事でした」
そう宰相から報告を受けた俺は、自分の耳を疑った。
餓死だと? この王宮で?
彼女は俺の従兄妹で隣国ジルハイムの王女だ。
俺の背中を嫌な汗が流れた。
では、亡くなってから今日まで、彼女がいない事に誰も気付きもしなかったと言うのか…?
そんな馬鹿な…。信じられなかった。
だがそんな俺を他所に宰相は更に告げる。
「亡くなった王妃様は陛下の子を懐妊されておりました」と…。
彼女がこの国へ嫁いで来て2年。漸く子が出来た事をこんな形で知るなんて…。
俺はその報告に愕然とした。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる