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第二話 俺は……
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俺は麻衣を、大切な家族として考えている。
小さい頃から俺になついてくれていた妹も、もう高校一年生。16歳だ。
週末は映画を見に行ったりするくらい仲がいいし、親にも知られてない兄妹だけの秘密もある。
麻衣の好きな食べ物はオムライス。
好きな服装はTシャツにスカート。
好きな映画は「おおかみこどもの雨と雪」。
全部全部、大切な麻衣との思い出だ。
このまま、二人で楽しくいつまでも、仲のいい兄妹として過ごせればいい。
たまに休日一緒に過ごすような、そんなゆったりとした関係になって。
きっと大人になったら……可愛くて気が利く麻衣は素敵な人と巡り会って、幸せになるだろう。
それを遠くから祝福してやるのが、兄である俺の使命だと思っていた。
思っていたんだ。
俺を呼びながら、自慰行為をする妹を見てしまうまでは。
翌朝起きてきた麻衣の顔は泣きはらしたのか腫れていて、見ているこっちが辛くなるほどだった。
何て言葉をかけてやればいいのかわからなくて、でも辛そうな妹を放っておけなくて「今日はお前の大好きなオムライスにしたからな、麻衣」と声をかける。
こちらに目線を合わせず、ただうなずく麻衣を見て、胸が締め付けられそうなのをこらえて料理を作る。
俺がドアを開けてしまったから。
せめてノックしていれば……
後悔は、いつも先に立たない。
頭から離れない昨日の光景が、作業している間も俺を苦しめた。
完全に女子としての成熟を終えた体。甘い香り。聞きなれたそれとは少し違う、可愛い声。
世界で一番大事に思っている妹に、俺は欲情しているのだろうか。
だとしたら最低だ。今すぐこの家から出て行って、誰にも会えない遠い所で暮らすべきだ。
何より、兄にそんな事を思われていたら、麻衣はどんなに傷つくだろう。最悪だ。
心の中のもやを払えないまま、俺は机に料理を置いた。
少しでも、妹の気持ちが軽くなってくれればと願って。
ふと顔を上げると、麻衣の頬を涙が伝っていた。
「あ、麻衣、泣いてるのか……?」
静かに、しかし確実に麻衣は、苦しそうに泣きじゃくっていた。
お前にそんな顔させてしまうなんて、俺は……本当にすまない。
「麻衣、これで涙拭いて」
「……うん」
「大丈夫か、ごめんな」
「ううん、お兄ちゃんは悪くない、から」
少しでも負担を軽くしてやりたくて、麻衣の背中をさする。
「冬木、お兄ちゃん……」
俺の名前を、麻衣が呼ぶ。
何か、すごく嫌な予感がした。今まで築いた関係性が、崩れていくような。
「今から、変な事言っていい?」
「いいけど、どうした」
「いいから、お兄ちゃんに聞いてほしいの」
両手をぎゅっと握りしめた麻衣が、うるんだ瞳でこちらを見つめる。
その姿はとても健気で、場違いにも綺麗だと思ってしまった。
「私は、お兄ちゃんに恋してます。お兄ちゃんの事が好きなの」
「……なん、だって?」
麻衣が、俺に、恋……?
俺たちの十六年間の思い出が、音を立てて崩れていくのを感じた。
--------------------------------------------------------------------------------
震えが止まらない。
もしお兄ちゃんに、気持ち悪いと思われてしまったら。
嫌われてしまったら、私はもう、生きていけない。
いや、もう嫌われているのかも知れない。あんな姿を見られた時点で。
どちらにせよ、今告白してしまった時点でもう元の兄妹には戻れない。
一緒に映画を見ることも。
一緒に服を選んで買い物することも。
一緒に笑いあう事も、もうないのだろうか。
そう思ったら、涙があふれて止まらない。
「おい、麻衣!大丈夫か!?」
「大丈夫、大丈夫だから。返事、聞かせて……お兄ちゃん」
嫌いって言ってくれてもいいから。
あなたの為なら、私が身を引くくらい何でもないから。
「麻衣」
お兄ちゃんは、泣きじゃくる私をぎゅっと抱きしめてくれた。
兄の人肌のぬくもりが、私の心を溶かしてくれる気がする。
「俺は、兄としてはお前の事を愛してる。けど、お前の気持ちには応えてやれない」
ごめんな、と兄は絞り出すように言った。
わかってた、わかってたけど、辛いよ。お兄ちゃん。
「お兄ちゃん、私、気持ち悪いよね?実の兄に恋するなんて」
お兄ちゃんの体に手を回して、強く抱きしめる。
肯定してくれていい。そしたら私、ぜんぶ諦めるから。
「俺は、お前の事を気持ち悪いとは思わないよ、麻衣。
今だって、お前の事を変わらず大切に思ってる」
「嘘、でしょ。私、自分の事気持ち悪いと思うもん」
こんな、普通の恋愛もできない気持ち悪い女に思われて、お兄ちゃんも嫌だよね。
そう思った。
もう疲れた、とも思った。
「そんな事はない!俺は、俺は……お前の事が大好きだ」
「本当?」
「当たり前だ」
お兄ちゃんの表情は凛々しくて、でも真っすぐなその思いが私の心を締め付けた。
かっこ良くて私の事を大事にしてくれるお兄ちゃんと一緒に、幸せになりたい。
欲望が、私の中で膨れがっていく。
止められないくらいに。
「お兄ちゃん、お願いがあるの」
「どうした?」
「3回だけ……デートしてくれないかな。
それでもし、お兄ちゃんの気持ちが変わらなかったら諦める」
お兄ちゃんはしばらく無言で私の顔を見て、その後「お前がそれでいいなら」と頷いた。
小さい頃から俺になついてくれていた妹も、もう高校一年生。16歳だ。
週末は映画を見に行ったりするくらい仲がいいし、親にも知られてない兄妹だけの秘密もある。
麻衣の好きな食べ物はオムライス。
好きな服装はTシャツにスカート。
好きな映画は「おおかみこどもの雨と雪」。
全部全部、大切な麻衣との思い出だ。
このまま、二人で楽しくいつまでも、仲のいい兄妹として過ごせればいい。
たまに休日一緒に過ごすような、そんなゆったりとした関係になって。
きっと大人になったら……可愛くて気が利く麻衣は素敵な人と巡り会って、幸せになるだろう。
それを遠くから祝福してやるのが、兄である俺の使命だと思っていた。
思っていたんだ。
俺を呼びながら、自慰行為をする妹を見てしまうまでは。
翌朝起きてきた麻衣の顔は泣きはらしたのか腫れていて、見ているこっちが辛くなるほどだった。
何て言葉をかけてやればいいのかわからなくて、でも辛そうな妹を放っておけなくて「今日はお前の大好きなオムライスにしたからな、麻衣」と声をかける。
こちらに目線を合わせず、ただうなずく麻衣を見て、胸が締め付けられそうなのをこらえて料理を作る。
俺がドアを開けてしまったから。
せめてノックしていれば……
後悔は、いつも先に立たない。
頭から離れない昨日の光景が、作業している間も俺を苦しめた。
完全に女子としての成熟を終えた体。甘い香り。聞きなれたそれとは少し違う、可愛い声。
世界で一番大事に思っている妹に、俺は欲情しているのだろうか。
だとしたら最低だ。今すぐこの家から出て行って、誰にも会えない遠い所で暮らすべきだ。
何より、兄にそんな事を思われていたら、麻衣はどんなに傷つくだろう。最悪だ。
心の中のもやを払えないまま、俺は机に料理を置いた。
少しでも、妹の気持ちが軽くなってくれればと願って。
ふと顔を上げると、麻衣の頬を涙が伝っていた。
「あ、麻衣、泣いてるのか……?」
静かに、しかし確実に麻衣は、苦しそうに泣きじゃくっていた。
お前にそんな顔させてしまうなんて、俺は……本当にすまない。
「麻衣、これで涙拭いて」
「……うん」
「大丈夫か、ごめんな」
「ううん、お兄ちゃんは悪くない、から」
少しでも負担を軽くしてやりたくて、麻衣の背中をさする。
「冬木、お兄ちゃん……」
俺の名前を、麻衣が呼ぶ。
何か、すごく嫌な予感がした。今まで築いた関係性が、崩れていくような。
「今から、変な事言っていい?」
「いいけど、どうした」
「いいから、お兄ちゃんに聞いてほしいの」
両手をぎゅっと握りしめた麻衣が、うるんだ瞳でこちらを見つめる。
その姿はとても健気で、場違いにも綺麗だと思ってしまった。
「私は、お兄ちゃんに恋してます。お兄ちゃんの事が好きなの」
「……なん、だって?」
麻衣が、俺に、恋……?
俺たちの十六年間の思い出が、音を立てて崩れていくのを感じた。
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震えが止まらない。
もしお兄ちゃんに、気持ち悪いと思われてしまったら。
嫌われてしまったら、私はもう、生きていけない。
いや、もう嫌われているのかも知れない。あんな姿を見られた時点で。
どちらにせよ、今告白してしまった時点でもう元の兄妹には戻れない。
一緒に映画を見ることも。
一緒に服を選んで買い物することも。
一緒に笑いあう事も、もうないのだろうか。
そう思ったら、涙があふれて止まらない。
「おい、麻衣!大丈夫か!?」
「大丈夫、大丈夫だから。返事、聞かせて……お兄ちゃん」
嫌いって言ってくれてもいいから。
あなたの為なら、私が身を引くくらい何でもないから。
「麻衣」
お兄ちゃんは、泣きじゃくる私をぎゅっと抱きしめてくれた。
兄の人肌のぬくもりが、私の心を溶かしてくれる気がする。
「俺は、兄としてはお前の事を愛してる。けど、お前の気持ちには応えてやれない」
ごめんな、と兄は絞り出すように言った。
わかってた、わかってたけど、辛いよ。お兄ちゃん。
「お兄ちゃん、私、気持ち悪いよね?実の兄に恋するなんて」
お兄ちゃんの体に手を回して、強く抱きしめる。
肯定してくれていい。そしたら私、ぜんぶ諦めるから。
「俺は、お前の事を気持ち悪いとは思わないよ、麻衣。
今だって、お前の事を変わらず大切に思ってる」
「嘘、でしょ。私、自分の事気持ち悪いと思うもん」
こんな、普通の恋愛もできない気持ち悪い女に思われて、お兄ちゃんも嫌だよね。
そう思った。
もう疲れた、とも思った。
「そんな事はない!俺は、俺は……お前の事が大好きだ」
「本当?」
「当たり前だ」
お兄ちゃんの表情は凛々しくて、でも真っすぐなその思いが私の心を締め付けた。
かっこ良くて私の事を大事にしてくれるお兄ちゃんと一緒に、幸せになりたい。
欲望が、私の中で膨れがっていく。
止められないくらいに。
「お兄ちゃん、お願いがあるの」
「どうした?」
「3回だけ……デートしてくれないかな。
それでもし、お兄ちゃんの気持ちが変わらなかったら諦める」
お兄ちゃんはしばらく無言で私の顔を見て、その後「お前がそれでいいなら」と頷いた。
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