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母の葬儀が終わり、一週間ほどしてから春信は明臣の部屋に訪れていた。
昭蔵から正式に、見合いの日取りを告げられたからだ。これが決まれば家を用意するとまで言われ、もう後には引けないのだと春信の気は重くなるばかりだった。
結婚などしたくない。妻となる女性を心の底から愛する自負など持ち合わせてはいなかった。何故なら自分の中には一生、明臣が居続けるのだから。
昭蔵にもその女性を幸せにする自信がないと春信は伝えたが、「愛はなくとも、人生を共にすれば情は生まれる」と素気なく言われるだけだった。
そんなことより、いつまでも家にいられては世間体が悪いというのが一番の理由なのだろう。
「また親父さんと喧嘩したのか? よくもこんな綺麗な顔を殴れるもんだ」
部屋を訪ねた春信を見るなり、明臣が痛ましげに顔を歪めた。それから左頬に優しく触れる。
殴られ慣れているとはいえ、痛いものは痛い。触れられただけで、そこは鋭い痛みを思い出す。それでも、この大きく温かな掌が春信は好きでされるがままになっていた。
「父は僕の顔が嫌いらしい。男の癖になよなよした顔をしているって」
父親似で威厳のある顔をした祥一郎とは違って、春信は母親譲りだった。病床に伏せていたこともあるが、母は儚げな雰囲気のある美人だった。春信も同じく、二重瞼を伏せれば、どこか妖艶でさえあった。
「そこがお前の良い所でもあるのにな」
「きっと、性別を間違えて生まれてきたのかもしれない。母ですら僕を女だったら、もっと違っただろうってよく言っていた」
明臣の匂いで満たされている下宿先の薄暗い一室は、春先とはいえ暗くなるのも早い。狭い室内には、桐の小箪笥と卓袱台、畳まれた布団ぐらいなものだった。
そんな暁色の光が障子に反射する薄暗い室内で、二人は向かい合って腰を据える。
「言わなくちゃいけないことがある」
春信は切り出した。ずっと黙っていても、仕方がない。それは明臣も同じはずだった。
「僕は近々見合いをすることになる。父が選んだ相手だ」
まだ顔も分からない相手だった。それでもきっと、自分の家との結びつきに必要である令嬢であることは間違いないだろう。
「……そうか」
覚悟はしていたのだろう。明臣は別段驚くことはしなかった。
「俺も同じだ。たぶん、今年中には見合いすることになる。だがな」
男らしい太い眉がグッと、眉間に寄せられる。一度は落ちた視線だったが、絶望というより希望を思わせるような目が春信に向けられる。
春信の心臓が大きく打つ。彼のその力強い瞳にはいつも、自分が落ちていくのを引き上げてくれる強さがあった。
昭蔵から正式に、見合いの日取りを告げられたからだ。これが決まれば家を用意するとまで言われ、もう後には引けないのだと春信の気は重くなるばかりだった。
結婚などしたくない。妻となる女性を心の底から愛する自負など持ち合わせてはいなかった。何故なら自分の中には一生、明臣が居続けるのだから。
昭蔵にもその女性を幸せにする自信がないと春信は伝えたが、「愛はなくとも、人生を共にすれば情は生まれる」と素気なく言われるだけだった。
そんなことより、いつまでも家にいられては世間体が悪いというのが一番の理由なのだろう。
「また親父さんと喧嘩したのか? よくもこんな綺麗な顔を殴れるもんだ」
部屋を訪ねた春信を見るなり、明臣が痛ましげに顔を歪めた。それから左頬に優しく触れる。
殴られ慣れているとはいえ、痛いものは痛い。触れられただけで、そこは鋭い痛みを思い出す。それでも、この大きく温かな掌が春信は好きでされるがままになっていた。
「父は僕の顔が嫌いらしい。男の癖になよなよした顔をしているって」
父親似で威厳のある顔をした祥一郎とは違って、春信は母親譲りだった。病床に伏せていたこともあるが、母は儚げな雰囲気のある美人だった。春信も同じく、二重瞼を伏せれば、どこか妖艶でさえあった。
「そこがお前の良い所でもあるのにな」
「きっと、性別を間違えて生まれてきたのかもしれない。母ですら僕を女だったら、もっと違っただろうってよく言っていた」
明臣の匂いで満たされている下宿先の薄暗い一室は、春先とはいえ暗くなるのも早い。狭い室内には、桐の小箪笥と卓袱台、畳まれた布団ぐらいなものだった。
そんな暁色の光が障子に反射する薄暗い室内で、二人は向かい合って腰を据える。
「言わなくちゃいけないことがある」
春信は切り出した。ずっと黙っていても、仕方がない。それは明臣も同じはずだった。
「僕は近々見合いをすることになる。父が選んだ相手だ」
まだ顔も分からない相手だった。それでもきっと、自分の家との結びつきに必要である令嬢であることは間違いないだろう。
「……そうか」
覚悟はしていたのだろう。明臣は別段驚くことはしなかった。
「俺も同じだ。たぶん、今年中には見合いすることになる。だがな」
男らしい太い眉がグッと、眉間に寄せられる。一度は落ちた視線だったが、絶望というより希望を思わせるような目が春信に向けられる。
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