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当時の清次は、父からの締め付けが厳しく、読む本も全て管理されていた程であった。全て経営に役立つ小難しいものばかりで、春信ですら挫折する程のものだ。
一方で春信は、子ども向けの探偵小説や冒険ものも好んで読んでいた。
一度、春信が貸した本が見つかってしまい、清次は酷い折檻を受けたことがあった。
慣れているという清次に、春信は一緒にいる時に読もうと提案したのだ。それ以来、時間を見つけては共に、校舎裏の木陰で並んで読書に励んでいた。
明臣はその光景を見つけて、やたらと嫉妬しているようだった。それでも活動的な彼も彼で、学友と野球に勤しんでいたこともあり、手打ちとなった。
「だから今度はボクが君の手を引き、あの頃みたいに新しい景色を一緒に見たいと思っている。その為にボクは、貿易商という道を選んだのだからね」
労苦厭わず春信を思い、突き進んできた彼の姿勢に春信は心動かされるものがあった。その一方で、清次がそこまでする程の価値が自分にはないように思えた。
「正直言って、君がそこまでしてくれる理由が、僕には分からないんだ。僕は君ほどに、秀でた人間じゃない。もっと、君に相応しい人はいるはずだ」
「春信君、それは違うよ」
きっぱりとした物言いで、清次が訴える。
「ボクは君だから、一生をかけてこれたんだ。他の誰でもない、君だからだよ」
「父にも認められず最後まで、厨房には立たせてもらえなかったような男でも?」
春信は思いの丈をぶつける。未練がましいとは分かっていても、どうしても蟠りが心の底に残ったままになっていた。
「ならば、これから認めて貰えば良いだけの話だろう。それを支えるのもボクの役目だ」
「これからって……もう家を出てしまっているのに」
「そんなことは大した問題じゃない。君が父を越えればいいだけのことだ」
春信は絶句する。昭蔵を越えるなどと、そんなことを今まで考えたこともない。認められることを目指して生きてきた春信からしたら、信じられないことだった。
「君は才知に長けているから、そんなことが口に出来るんだ」
顔を歪ませ、春信は吐き捨てる。全てを手に入れている男と対照的な自分が不甲斐なかった。
「ならば、そのボクが言う。君ならば成し遂げられる」
力強い口調で清次は断言する。さすがに春信も言葉を詰まらせる。
「それに君にはボクがついているんだ。君が言う天才がね」
最後は冗談ぽい口調で締め、清次が口元を緩ませる。
自分をどこまでも気遣い励ます清次を前に、春信は違う心臓のざわめきを感じていた。
それを誤魔化すように「天才とまでは言ってない」と、素気なく返す。
清次は何もかも分かっているかのように、ただ楽しそうに笑んでいた。
一方で春信は、子ども向けの探偵小説や冒険ものも好んで読んでいた。
一度、春信が貸した本が見つかってしまい、清次は酷い折檻を受けたことがあった。
慣れているという清次に、春信は一緒にいる時に読もうと提案したのだ。それ以来、時間を見つけては共に、校舎裏の木陰で並んで読書に励んでいた。
明臣はその光景を見つけて、やたらと嫉妬しているようだった。それでも活動的な彼も彼で、学友と野球に勤しんでいたこともあり、手打ちとなった。
「だから今度はボクが君の手を引き、あの頃みたいに新しい景色を一緒に見たいと思っている。その為にボクは、貿易商という道を選んだのだからね」
労苦厭わず春信を思い、突き進んできた彼の姿勢に春信は心動かされるものがあった。その一方で、清次がそこまでする程の価値が自分にはないように思えた。
「正直言って、君がそこまでしてくれる理由が、僕には分からないんだ。僕は君ほどに、秀でた人間じゃない。もっと、君に相応しい人はいるはずだ」
「春信君、それは違うよ」
きっぱりとした物言いで、清次が訴える。
「ボクは君だから、一生をかけてこれたんだ。他の誰でもない、君だからだよ」
「父にも認められず最後まで、厨房には立たせてもらえなかったような男でも?」
春信は思いの丈をぶつける。未練がましいとは分かっていても、どうしても蟠りが心の底に残ったままになっていた。
「ならば、これから認めて貰えば良いだけの話だろう。それを支えるのもボクの役目だ」
「これからって……もう家を出てしまっているのに」
「そんなことは大した問題じゃない。君が父を越えればいいだけのことだ」
春信は絶句する。昭蔵を越えるなどと、そんなことを今まで考えたこともない。認められることを目指して生きてきた春信からしたら、信じられないことだった。
「君は才知に長けているから、そんなことが口に出来るんだ」
顔を歪ませ、春信は吐き捨てる。全てを手に入れている男と対照的な自分が不甲斐なかった。
「ならば、そのボクが言う。君ならば成し遂げられる」
力強い口調で清次は断言する。さすがに春信も言葉を詰まらせる。
「それに君にはボクがついているんだ。君が言う天才がね」
最後は冗談ぽい口調で締め、清次が口元を緩ませる。
自分をどこまでも気遣い励ます清次を前に、春信は違う心臓のざわめきを感じていた。
それを誤魔化すように「天才とまでは言ってない」と、素気なく返す。
清次は何もかも分かっているかのように、ただ楽しそうに笑んでいた。
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