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「マジ美味しそうじゃん。それ」
なーこが僕の持っていたパンを指さす。
「それはなんだ?」
眼鏡くんがなーこの横から、僕の手元を覗き込む。
「……食べます?」
そんなにじっと見られていては、一人で食べるのは気まずかった。メロンパンを紙袋から取り出すと二人に差し出す。
「ははは。ホッシーマジで優しいじゃん。だけど、ごめん。あたしたち、この体じゃあ、食べられないからさぁ」
しまったと、僕は失態に気付いて固まった。
「あっ、いいのいいの。気にしないでよ。ホッシーはちゃんと食べなきゃ」
ほら、食べて食べてとなーこが促してくる。
「初めて見る。それはなんだ?」
眼鏡くんが興味深そうな顔をする。
「ええー、メロンパンを知らないの? 眼鏡くんともあろう人がぁ?」
なーこが目を丸くする。僕も驚いて、眼鏡くんの方を見た。
「ああ、俺の生きていた時代はそんなハイカラなものは、あまり流通していなかったからな」
眼鏡くんが真顔で述べる。
「眼鏡さんが生きてた時代って……」
僕の問いに眼鏡くんは、「大正八年だ」とあっさり言った。
僕は唖然とした。話し方や見た目の雰囲気からして、相当昔の人とは思っていた。だけどまさか、そんな前の人間がこの場所にいることが衝撃だった。
「大正てゆーのが、どれぐらい前だか知らないけどさぁ」
なーこは髪を人差し指に巻き付ける。
僕は一瞬、信じられない気持ちでなーこを見つめるも、今の西暦や年号を知らなければ仕方がないことだった。
それなのに予想に反して眼鏡くんは、「君はやはり勉強した方がいい」と眉間に深い皺を寄せた。
「夜の学校をうろついてる時に、掲示物で日付や年号は目にしているはずだ。さすがに今の西暦ぐらいは把握しているだろ」と苦言を呈する。
「えー。でも何個前かなんて、考えたこともないしー」
「君は学びの精神が欠けているな。せっかくこうして学びの場にいるのだから、普通だったら勉学に励もうという気が起きるはずなんだが」
「あたし、生きてた時から勉強嫌いだったもん」
「じゃあ、君は何しに学校に入学したんだ」
眼鏡くんが説教じみた口調で問い質す。なんだか今日の空みたいに、雲行きが怪しくなってきていた。
「だって、高校ぐらい行っとかないとさぁ」
「せっかく両親がお金を出して通わせてくださっているというのに、君は――」
険悪な空気を切り裂くように、そこで予鈴のチャイムが鳴った。
結局は昨日と同じ、僕は二人の喧嘩を見させられた挙げ句、昼食も食べ損ねてしまっていた。
「あっ」と二人が同時に声を上げる。僕の方を見て、「またやっちゃった」となーこが項垂れる。
「ごめんねぇ、ホッシー」
謝ってくるなーこに、僕は首を横に振って立ち上がる。さすがに濡れた袋に戻す気になれず、ビニールとパンを別々に持った。
「放課後こそはさぁ、ホッシーの話を色々聞かせて。ね?」
なーこがお願いと手を合わせてくる。僕は「……来れたら来ます」と濁して、屋上の扉に向かう。
後ろでから、「どうすんのよぉ。これでホッシーが来なかったら眼鏡くんのせーだよ」と聞こえ、「人に罪をなすりつけるのはやめたまえ」と眼鏡くんが反論する。
再び始まった二人の喧嘩に、これって僕のせいじゃないかと思う。喧嘩の発端がいつも僕だったからだ。
階段を降りる足が、何だか重たく感じられていた。
なーこが僕の持っていたパンを指さす。
「それはなんだ?」
眼鏡くんがなーこの横から、僕の手元を覗き込む。
「……食べます?」
そんなにじっと見られていては、一人で食べるのは気まずかった。メロンパンを紙袋から取り出すと二人に差し出す。
「ははは。ホッシーマジで優しいじゃん。だけど、ごめん。あたしたち、この体じゃあ、食べられないからさぁ」
しまったと、僕は失態に気付いて固まった。
「あっ、いいのいいの。気にしないでよ。ホッシーはちゃんと食べなきゃ」
ほら、食べて食べてとなーこが促してくる。
「初めて見る。それはなんだ?」
眼鏡くんが興味深そうな顔をする。
「ええー、メロンパンを知らないの? 眼鏡くんともあろう人がぁ?」
なーこが目を丸くする。僕も驚いて、眼鏡くんの方を見た。
「ああ、俺の生きていた時代はそんなハイカラなものは、あまり流通していなかったからな」
眼鏡くんが真顔で述べる。
「眼鏡さんが生きてた時代って……」
僕の問いに眼鏡くんは、「大正八年だ」とあっさり言った。
僕は唖然とした。話し方や見た目の雰囲気からして、相当昔の人とは思っていた。だけどまさか、そんな前の人間がこの場所にいることが衝撃だった。
「大正てゆーのが、どれぐらい前だか知らないけどさぁ」
なーこは髪を人差し指に巻き付ける。
僕は一瞬、信じられない気持ちでなーこを見つめるも、今の西暦や年号を知らなければ仕方がないことだった。
それなのに予想に反して眼鏡くんは、「君はやはり勉強した方がいい」と眉間に深い皺を寄せた。
「夜の学校をうろついてる時に、掲示物で日付や年号は目にしているはずだ。さすがに今の西暦ぐらいは把握しているだろ」と苦言を呈する。
「えー。でも何個前かなんて、考えたこともないしー」
「君は学びの精神が欠けているな。せっかくこうして学びの場にいるのだから、普通だったら勉学に励もうという気が起きるはずなんだが」
「あたし、生きてた時から勉強嫌いだったもん」
「じゃあ、君は何しに学校に入学したんだ」
眼鏡くんが説教じみた口調で問い質す。なんだか今日の空みたいに、雲行きが怪しくなってきていた。
「だって、高校ぐらい行っとかないとさぁ」
「せっかく両親がお金を出して通わせてくださっているというのに、君は――」
険悪な空気を切り裂くように、そこで予鈴のチャイムが鳴った。
結局は昨日と同じ、僕は二人の喧嘩を見させられた挙げ句、昼食も食べ損ねてしまっていた。
「あっ」と二人が同時に声を上げる。僕の方を見て、「またやっちゃった」となーこが項垂れる。
「ごめんねぇ、ホッシー」
謝ってくるなーこに、僕は首を横に振って立ち上がる。さすがに濡れた袋に戻す気になれず、ビニールとパンを別々に持った。
「放課後こそはさぁ、ホッシーの話を色々聞かせて。ね?」
なーこがお願いと手を合わせてくる。僕は「……来れたら来ます」と濁して、屋上の扉に向かう。
後ろでから、「どうすんのよぉ。これでホッシーが来なかったら眼鏡くんのせーだよ」と聞こえ、「人に罪をなすりつけるのはやめたまえ」と眼鏡くんが反論する。
再び始まった二人の喧嘩に、これって僕のせいじゃないかと思う。喧嘩の発端がいつも僕だったからだ。
階段を降りる足が、何だか重たく感じられていた。
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