青空サークル

箕田 悠

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「受験勉強はどんな感じだ?」
「……普通だよ」
 父にピーラーとニンジンを返し、僕はタマネギに取り掛かる。泣いた後の目に、タマネギはなかなか厳しい。目が痛くて僕は、何度も目を瞬いた。
「学校はどうだ?」
「……別に普通だけど」
 切ったタマネギをザルにどかし、やや細くなったニンジンをイチョウ切りにしていく。
 その間に鍋に火をつけて、油を引いた中にタマネギを入れる。父にヘラを渡すと、父が鍋の中のタマネギをぎこちない動きで炒め始める。
「鍋は抑えながらの方がやりやすいよ」
 僕は濡れ布巾を父に渡してから、鶏肉を一口サイズにする作業に移った。
トップと喧嘩したのか?」
「えっ?」
 僕は手を止める。横を見ると、父は鍋に視線を落としていた。
「母さんが心配してたんだ。やっと仲良くなったのにってな」
「そうなの?」
「ああ、本当は自分で聞きたかったみたいだけど、スターが答えづらいだろうからって。父さんが頼まれたんだ」
 母は僕達の関係なんて、気にしていないと思っていた。そんな素振りを感じられなかったし、いつも忙しそうだったからだ。それに僕に対して、関心がないと思っていた。
「負い目を感じている部分もあるしな」
 父が片手を差し出して、「次は?」と言う。僕は止まっていた手を動かして、残りの鶏肉を切っては鍋に入れいく。
 ジューッと油が弾ける強い音が鳴りだす。
「母さんとしては、何か将来役に立てればと思って子役をやらせていたつもりだった。だけどそれが裏目に出て、星を追い詰める結果になった」
 僕は黙っていた。鶏肉が炒まったところで、ジャガイモとニンジンを鍋に入れる。
「ごめんな。気付いてやれなくて」
 僕は奥歯を噛みしめる。そうじゃないとまた、涙が溢れ出しそうだった。
「最近になってようやく星も楽しそうにしてたから、正直父さんも母さんもホッとしてたんだ」
 僕は鍋に水を入れる。後はしばらく煮込むだけだ。
「後はどうすればいい?」と聞いてくる父に、「煮込んでルーを入れれば完成」と返す。
「久しぶりに料理したけど、なかなか大変だな」
 父がそう言って、冷蔵庫からお茶のボトルを取り出す。二つのコップに注いで、僕に一つ渡してくれる。
「やってみないと分からないことや、忘れてしまうこともあるからな」
 僕はお茶を飲んで、口を湿らせる。
トップとは喧嘩してないから。逆に助けられてるし」
「そうか」
 言葉数の少ない父なだけに、僕はこんなにも会話したのは初めてかもしれない。それだけに何だか落ち着かなかった。
 二階に上がろうか悩んだけれど、結局はあく取りをしてカレールーまで入れてしまい、僕も食べることにした。
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