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第二章
15
しおりを挟むコトッという小さな音と、ヒスイが動く気配がした。
部屋に戻ってしまうのかと考え、悄然とした気持ちが湧き上がってくる。
行かないで欲しいと縋りたい。それなのに俯いた顔を上げて、ヒスイを止めることも出来なかった。
「一瞬、幸朗と似てるかと思ったけど……全然そんな事なかった」
間近でヒスイの声がして、天野はすぐさま視線を向ける。すぐ隣に腰を降ろしたヒスイが、顔を顰めて俯いていた。
「さっきまでの威勢は、何だったんだよ」
「っ……」
「日本男児がそんなに女々しくて良いのか?」
何も言い返せず、涙だけが無駄に流れ落ちていく。
「……無駄な涙流すなよ。勿体無い」
励ます為に言っているのか、それとも本気でそう思っているのだろうか。
この涙をヒスイが舐めたとしたら、どうなるのか気になった。それ以前に、こんな悲しみに満ち溢れた涙なんて舐めたいとなんて思わないはずだ。
天野は着物の袖で拭おうと腕をあげると、強い力でヒスイに手首を掴まれる。
「えっ……」
ふわっと甘い香りが鼻先を掠める。ヒスイの顔が近づき、冷たい舌先が天野の頬に触れていく。
「――……っ」
思わず身を竦め、目を瞑る。涙の伝った跡をなぞるように、ヒスイの舌がゆっくりと降りていく。
天野はそこでハッとして、自らヒスイの唇を奪った。唇の隙間からヒスイの舌を捉えるように、自らの舌を絡ませて吸い付く。少し塩辛い味に、焦りばかりが募ってしまう。
「っ……お、いっ……」
ヒスイが慌てたように手首を離すと、胸を軽く押され互いの唇が離れてしまう。
「だ、大丈夫ですか?」
「大丈夫もなんも、お前からしてきた事だろっ」
ヒスイが眉を顰めて、抗議の声を上げた。
「そうじゃなくて……」
そこで言葉に詰まってしまう。手紙に書かれていた通りだとしたら、今の涙は悲しみの感情のはずで、何かしらヒスイに影響が及んでしまう可能性があった。
異常がないのか聞こうにも、ヒスイの口からその話は聞いていない。にも関わらず、聞いてしまうのは不審がられるだけだ。手紙の事を話すのは気が引けるし、かと言って何も言わないのも不審に思われてしまう。
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