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第四章
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しおりを挟む「すみません……無罪を訴えると言っておきながら、この有様で」
家を出た後は確かにその心持ちでいたのは嘘ではない。それでも記憶を取り戻し、絶望感に支配された状態になると、村に行く考えは打ち消されてしまった。
それにヒスイは村と言っているが、村ではなく島だ。それも泰子や恭治がいる島だった。どちら側に出るか分かりもせずに、森から出て島中の騒ぎになれば恭治や泰子にも確実に知られてしまう。問い詰められる事は確実で、言い訳なんて出来るはずもない。もうこの森から出る事は叶わないだろう。
此処を離れる前に伝えておこうと、天野は濡れた手紙を見つめてからゆっくりとヒスイに視線を向ける。
「この手紙は幸朗さんがこっそり書いて隠してあったのです。結核で亡くなったのですよね? 血の跡が残っていました……」
ヒスイは悄然とした表情で俯き、質問には答えない。
「貴方はぶっきら棒だけど、根は優しくて人を襲う真似はしないだろうと書かれていました。だから――」
一瞬言葉に詰まる。嫉妬に駆られ胸が焼かれたように苦しくなった。
「……幸朗さんは貴方に身を委ねるだけでなく、家族との幸せな記憶を渡そうとしたのです。でも貴方の事だから、辛い記憶だけを引き受けたのは想像に難くない。最期の時に、幸朗さんが幸せな気持ちのまま逝けるようにと……この森から出れなくなったのも、辛い記憶と引き換えに貴方の記憶が無くなったからですよね。あの二人は外に行けるのに、貴方は行けない。それに最初に幸朗さんの話をした時に、貴方はこの森の謂れを知っていた。きっと何らかの理由でこの森に入った時に、幸朗さんに出会ったのです」
「……そんなことまで書いてあったのか?」
黙っていたヒスイがやっと呻くように言葉を吐き出した。
「いえ……記憶を預けるとしか書いてなかったので、憶測にしか過ぎません。一年という短い間でしたが、ヒスイさんの事はそれなりに分かっているつもりです。だから……幸朗さんと貴方は相思相愛の仲だった……幸朗さんは貴方を想いつつ、死んでいったのです」
手紙は駄目になってしまったせめてもの償いだ。自分の恋心は打ち砕かれても幸朗の気持ちと真実を告げる。これから先も幸朗さんを想い続け、悼んでくれるようにと――
「僕は……これから帰ります。だから僕の事は気にせず、ヒスイさんも家に戻ってください。こんな形で礼を述べることになって、本当にすみません。お世話になりました」
天野は立ち上がると静かに頭を下げる。もちろん帰る気などない。他に死に場所を求め、また歩き回るだけのことだ。ただ、この場所を汚すような真似だけはしたくなかった。
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