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第四章
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しおりを挟む「ヒスイさんは……僕とは一緒にいたくないのですか?」
天野は沈痛な面持ちで問いかけると視線を落とす。
ヒスイは天野を好いていると言った。それなのにも関わらず、人間だという理由だけで突き放そうとしてくる。その事は天野からしてみれば解せない事だった。
「お前は人間だから……」
「そんな事どうしようも出来ないじゃないですか。ヒスイさんが妖怪だってことを変えられないように、僕も人間であることは変えようがない。そんな事……幸せになるのに関係あるのですか? 僕は前にも言いましたよね。ヒスイさんが妖怪だろうと人間だろうと好いていますと……それに記憶を取り戻したって、変わらずに貴方を好いていますよ」
縁側で記憶を取り戻した時に、大切に思う人がいるかもしれないとヒスイは言っていた。確かに大切に思っている人はいる。泰子や恭治が幸せに暮らしているのか、確かに気がかりではあった。
忘れてしまった辛い過去をそのままにしておくのも、良いものなのか分からない。だからと言って、ヒスイを見捨てて此処を離れる事は出来そうになかった。
「僕の心残りは何より幸朗さんの事です。こんな形で貴方の気持ちを僕に向けてしまったことが忍びないのです。だからこそ貴方が……僕に傍に居て欲しくないと望むなら、せめて幸朗さんの事を思い出してからにしてください」
お願いします、と天野は頭を下げる。恭治には簡単に頭を下げるなと怒られたが、自分に出来ることは頭を下げて懇願する事しか出来ない。それだけ自分には何の力もプライドも無いことが、嫌というほど実感させられてしまう。
「……その男が俺にとって、どんな存在だったのか今となっては分からないし、お前がなんでそこまで必死になるのか俺には理解できない。そんなに大事な記憶だったら、なんで俺は手放したりなんかするんだ? 俺はお前を選んだからとしか考えられないだろ」
「それならば、僕を傍に置いてください。僕は貴方に恩返しがしたいのです。幸せな記憶を渡せなかったのですから……僕が死ぬ時に今度こそ、貴方と過ごした幸せな記憶を貴方に預けたいのです」
ヒスイが驚いたように目を見開き、天野をジッと見つめる。
「記憶を預ける……か。何処かで耳にした言葉だけど……」
思い出そうと目を閉じるヒスイに、天野は興奮気味にヒスイに縋り付く。幸朗の手紙を濡らして台無しにしてしまった事が悔やまれた。
「幸朗さんが亡くなる時に、貴方に記憶を預けたと手紙に書かれていました。何か思い出しませんか?」
「預けるもなんも、俺は記憶を奪ったからって覚えていることは出来ない。その男が何故そう思ったのか知らないけど、俺にそんな力はないから」
ヒスイは要領を得ないとばかりに鼻白む。
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