去りし記憶と翡翠の涙

箕田 はる

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第四章

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 天野はヒスイと共に部屋を出ると、広間に顔を出した。開け放たれた障子の向こう側には闇が帳を下ろし、夏の夜風を吹き込んでいる。
 縁側で闇を見つめていた小さな二つの背中が、気配を感じ取ったのか振り返った。天野とヒスイの姿を見つけると慌てた様子で駆け寄ってくる。

「お兄ちゃん!」
「もう大丈夫なの?」

 悲しげに眉を下げているミヨとミコに天野は、優しく頭を撫でつつ「うん。ごめんね」と言葉を漏らす。

「食事は俺が作るから、こいつらの傍にいて。お前が居なくなった時……かなり動揺してたからさ」

 そう言ってヒスイは広間から出ていってしまった。ヒスイの気遣いを有り難く受け取り、天野は二人をもう一度縁側へ行くように促す。
 三人で腰を下ろすと闇に包まれている庭に目を向け、天野は静かに口を開いた。

「迷惑をかけてごめんね。このまま此処にいても、迷惑をかけるだけだと思っていた。結果的に……僕は記憶を取り戻せたのだけど」
「お兄ちゃん、記憶戻ったんだ」
「良かったね」

 ミヨとミコが嬉しそうに互いの顔を見合わせる。天野は素直に喜べず「でもね」と付け足す。

「僕の記憶はあまり良いものじゃなかったみたいだ。だからヒスイさんが僕の辛い記憶と引き換えに、幸朗さんの記憶を――」

 ヒスイが記憶を失ったと言ったら、この二人は怒るだろうか。天野は顔色をうかがうように二人に視線を向ける。天野を見つめる二人は、不思議そうな表情で見返すだけで口を開かない。

「ヒスイさんから……幸朗さんの記憶を奪ってしまったんだ。僕は……」

 庭先の闇に視線を戻すと、不思議と視界が揺らいでしまう。

 遠くから聞こえてくる不気味な鳴き声が、森の中を反響して耳に届いた。昼とは違った顔に、もしあんな場所で一夜を明かすことになったらと思うと、今更ながら恐怖が湧き上がってしまう。
 自分はいつも突発的に何かをしようとし、感情に左右され自ら沼に入ってしまう。三人の気持ちを考えもせず、ちゃんと向き合いもしないまま家を飛び出した。
 苦しく辛い過去の引き金も、もしかしたら自分の起こした行動によって自ら引き起こした結果なのかもしれない。
 手の甲の冷たい感触に、天野は視線を落とす。ミヨとミコの手が、乗せられていた。驚いて視線を向けると二人が切れ長の目元を赤く染め、天野を見上げていた。

「お兄ちゃんが無事だったんだから」
「これで良かったんだよ」

 二人の目尻が下がり、まるで励ますかのように添えられていた手が強く天野の手を握る。


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