作家は二度、炎上する

箕田 はる

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 黎城れいじょう せいとは一年ほど前に、出版社の主催する新年会で初めて語部は顔を合わせていた。
 やたら長い前髪が鬱陶しく目元を覆い、眼鏡が下半分しか見えていない。初対面にもかかわらず、語部は「前髪が長すぎだろう」と言ってしまったほどだ。
 黎城の担当である高松は派手な赤の着物姿で「ほら、ちゃんと挨拶して」と言うと、黎城の背を叩いた。
 高松は本当に母親のように作家と接すると有名な女性編集者だった。年齢も五十代半ばで、二十歳の息子がいる。そのせいか、同じ歳の黎城をやたらと可愛がっているようだった。
 黎城以外にも担当作家の家に出向いては、身の回りの世話を説教混じりにしていた。そんな彼女が担当編集である作家陣は「母二号」と揶揄していた。
 ただ誰も担当を変えてくれとは言わない。その要因の一つは高松の料理の腕が、プロ並みで外食よりも美味いからだった。
 高松に促されてもなお黙り込む黎城に、高松は「うちの子がすみません」と作ったような笑みを浮かべ、頭を下げた。
「別に……挨拶してくれだなんて思ってないんで」
「先生も失礼ですよ」
 語部の態度が横柄だと感じたのか、隣にいた安時が慌てて諫めた。
「黎城先生は語部先生の大ファンなんです。紹介して欲しいって言い出したのは、黎城先生なんですよ」
 そのわりには黎城は俯き、唇を真一文に結んだままだった。取り繕うように、高松が赤い唇を動かし続けた。
「昔、語部先生にファンレターを出したことがあるんですって。語部先生はどんな手紙にもお返事を書かれるそうですね。きっと多くのファンの方がいらっしゃるのでしょうし、大変じゃないんですか?」
「大変ですよ」
 高松の質問に、語部は投げやりに返す。里垣の「読者がいなければ、それはただの無。文章とは読まれてこそ、意味をなす」という言葉に感化され、作品を読んでくれた読者達に礼の意味を込めて返していると言うつもりは語部にはなかった。
「それなら書かなければ良いんじゃないんですか? 律儀に返す先生の方が珍しいですよ。そんなことして、時間がもったいないんじゃないんですか?」
 高松が納得がいかないといった表情で首を傾げる。
 理解されないのは別にいい。ただ、人のやることになんで、どうして、と理由をしつこく聞いてこられるのは面倒だった。
 「別になんだって、良いじゃないですか」
 語部は素気なくそう言うと、どうこの場を離れようかと思案する。飲み物を取りに行くと立ち去りかけたとき、「僕は今のままで良いと思いますよ」と安時が横から切り出した。
 その一言に、語部は思わず安時に視線を向けた。
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