作家は二度、炎上する

箕田 はる

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 語部が黎城の作品を読んだことがないと知った安時は、少し驚いた様子で語り出す。
「『息子の標』は主人公の息子が父親にありとあらゆる助言をしていく話なんです。最初、父親は息子の話なんて耳も傾けず、指図するなと暴力まで振るいます。でも、その父親は息子の言われたことを無視する度に、何度も災難に見舞われてしまいます。黎城先生らしいシリアスな展開でも、最後は人を信じる大切さや、希望のある未来が描かれています」
 安時はそう言って、「明るいラストを書く所は語部先生と同じですね」と付け足した。
「少し非現実的な要素があるのも、黎城先生の特徴です。この本も息子が夢で見た内容で父親に助言をしているんです。他にも正真正銘の霊感持ちの占い師が、一人のホームレスに助言をして金持ちにまで押し上げる『路上の王』も面白いですよ」
「詳しいんだな」
 饒舌に語る安時に、語部は関心していた。担当でもないのに、ここまで知っているということは、黎城のファンなのだろう。
 しかし安時の答えは「僕は語部先生の担当ですからね」と全く違うものだった。
「俺の担当だからって、あいつとは関係ないだろう」
 憮然とした表情で言うも、「あります」ときっぱりとした口調で返してきた。
「彼は先生のファンなんです。作家が作家のファンであるということは、先生に影響されて作家になったかもしれないじゃないですか」
 安時の言葉に、語部は口を噤む。まさか自分に影響されて作家になっただなんて、考えること自体おこがましいことだった。
 語部は里垣に影響されてこの道に入った身だが、里垣は文学界を牽引するに値する小説家だ。だからこそ、自分以外にも多くの人間が毎年この賞に応募する。しかし、自分はそんなに大それた文学を書いているわけじゃない。稚作とまでは言わないものの、自分以上に才能がある人間はいくらでもいる。
 この世界に長く居ればいるほど、それを痛いぐらいに感じていた。
 現に今も、小説を書くことができずに苦悩しているのだ。天賦の才があるものは、スランプには陥らないだろうし、部数も落ち込まないはずだ。黎城も若くして作家になっているが、語部とは違って部数も注目度も上だ。彼はその天賦の才を持っている側の人間なのだろう。
 語部は視線をテレビに向ける。画面には、スケッチブックをカメラに向けて捲っている黎城の姿が映し出されていた。
「黎城先生。すっかりこのスタイルが定着してますね。いい声なのにもったいない」
 黎城の持つスケッチブックには「自分が目標としていた賞を得ることができ、大変光栄です」と流暢な字で書かれていた。
「喋るのか、あいつは」
 語部は目を見開く。安時に視線を向けると、「そりゃあ、喋りますよ」と言って、逆に驚いた顔をした。
「ただ、凄く声が小さいんです。青陽出版主催の新人賞の受賞の時、あまりの声の小ささに、司会の人が通訳みたいなことをやっていましたからね。黎城先生の口元に耳を近づけて、うんうん、嬉しかったんですね、って。司会の人が言ってる様子がまるで、ゆるキャラの通訳みたいで思わず笑っちゃいそうになりましたよ」
 その時のことを思い出したのか、安時の口角が緩く上がる。
 きっと安時を除いた他の編集者は肝を冷やしたことだろう。端とはいえ新聞の一部記事や、青陽出版が刊行している雑誌にも載るのだ。今までにない異例の事態だっただろうと、語部は同情した。
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