作家は二度、炎上する

箕田 はる

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 今年の梅雨明けは去年と同様、七月の中旬に幕を下ろした。冷房の部屋にいる限りは、外の暑さをあまり実感しない。だが、一歩外に出ればジメッとした初夏の風を浴びることになることは予測できた。
 語部は白いカーテンから漏れている閃光に、もっと良い遮光カーテンを買おうかと思い悩む。窓から差し込む熱によって、部屋の気温は上がってしまう。その分、冷房を強くしなければいけなくなるはずだ。今はまだ、設定温度が高めでも大丈夫だが、八月に入ればそうはいかなくなるだろう。だったら一回の買い物で、後何ヶ月か続くであろう冷房生活の電気代を浮かせた方が遥かに得に感じた。
 語部はデスクトップ画面に視線を移し、ネットで遮光カーテンと検索をかける。種類も様々で、一概にどれがいいのかざっくり見ただけではわかりそうもなかった。機能性だけでなく、色も決めなければならない。高い買い物ではないが、無駄な買い物はしたくなかった。
 カーソルをスクロールし、画面を流れるカラフルなカーテン群に目を滑らせていく。値段と商品を交互に見比べていると、インターホンが鳴った。時間切れだと、語部は椅子から立ち上がる。
 玄関を開けると、熱風が語部を襲った。堪らず顔を顰める。やっぱり外は灼熱のようで、目の前に立っている安時は額から汗を流し、半袖のワイシャツから伸びた白い腕が少し湿っていた。手にはビジネスバックと青と白のストライプ柄のハンカチを握っている。
「先生。遅くなりました」
 そう言ってやや息を乱しているのは、ここまで急いで来たのだろう。別に何時でも構わなかった。プロットが出来たから、時間のある時に見に来てほしいと連絡をすると、明日の午後に行きますと返ってきたのだ。自分の作品を心待ちにしてくれているのだと、嬉しくないはずがなかった。
 語部は照れを隠すように「暑いから早くあがれ」と言って、安時を中に入るように促す。
 安時がソファに座ったのを見届けると、語部はストックしてあるアイスコーヒーを二つ用意する。
「僕も手伝いますよ」と腰を上げて言った安時を留め、語部はテーブルにグラスを運んだ。
「外、凄く暑かったんです。いただきます」
 そう言いつつ、安時はガムシロを二つとミルクフレッシュを入れていく。それを横目に、語部はやや緊張した面持ちでデスクの引き出しからファイルを取り出す。
 作成したプロットはすべてワープロで打ち込み、それをコピーしてファイルに挟んでいた。ボツの物でも後に使うことになるだろうと、一応は取ってある。
 語部はその中から、今回の作品候補である三枚の用紙を取り出した。
「一応、三種類の話しの流れを考えた。基本的には設定は一緒だが、結の部分は変わっている」
「拝見します」
 氷だけになったグラスをテーブルに置き、慌てた様子で安時は用紙を受け取った。
 今回の話のテーマは「毒親」にしようと語部は決めていた。
 毒親とは『毒になる親』を略した言い方だ。子供を主体に周囲の人間も巻き込んで、悪影響を与える親のことを指す。
 特に過干渉な親の場合、子供可愛さに学校や職場に乗り込んで喚き散らすこともある。年々上昇傾向にあるようで、教職員が頭を抱えている問題でもあった。
 他にも子供に対しての暴言暴力、又は全てにおいて親の都合に振り回されるなど、子供の人格形成に大きな悪影響を及ぼす。
 昨今では『毒親』を取り上げている番組や、書籍などが増えている。大人になってから自分の親が周囲とは異質であることに気づく者が多く、それを様々な媒体で告白したことが大きな要因だろう。
 そういった社会の問題を堅苦しさや、悲壮感を感じさせずに世に訴えかけていく。それが自分の作風の持ち味の一つだと語部は考えていた。
 安時の反応を窺い続けるのも落ち着かないと、語部はテレビの電源をつける。
 テレビ画面には、金屏風の前にマイクの乗ったテーブルと椅子。その横には紙の貼られたボードの前に、本が数冊表紙を前にして並べられていた。画面の手前側には、椅子に腰掛けている報道陣の様子が映し出されている。
 厳かな緊張感の漂う会場は、上半期の芥川賞、直木賞の授賞会場だった。
 語部はかつての失態を思い出し、強く奥歯を噛んだ。
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