作家は二度、炎上する

箕田 はる

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 翌日、語部は書店へと足を向けた。午後には陽射しが強くなる。そのことを見越して、書店が開く午前十時に着くように部屋を出た。
 自宅マンションから徒歩十分の位置に最寄り駅があり、その近くの商店街に行きつけの書店があった。
 マンションの外に出ると、既に陽射しは眩しく、熱く濡れた空気が全身を覆った。
 語部は辟易しつつも、昨日と同様に右折する。向かい側から何台もの車が脇を過ぎ去っていく。その熱風が顔に触れる度に、夕方にしなかったことを後悔した。だが、早く読みたいという誘惑の方が強かった。
 今の時代、ネットで簡単に本が手に入ることは語部も分かっていた。それこそ昨日の夜に注文すれば、今日には届くことも知っている。わざわざ熱い中、歩いて書店に行く必要などない。それでも語部は書店で買うことにこだわっていた。
 昨今では電子書籍の流行と、ネットでの簡易的な書籍の購入によって、書店の数が年々減少していた。確かに目的の本を探すのは書店だと、平積みにされていない限りは目にとまりづらい。それに探している本が見つからないと、店員に言って取り寄せて貰わなくてはいけない手間がある。それならば、ネットで検索をかけて取り寄せる方が圧倒的に楽だ。利便性を考えれば、ネットの方が流行るのは頷ける。
 だが、多くの書店に世話になっている語部からしたら、それは嘆かわしいことだった。置いて貰っていた書店が潰れるという話を聞いて、またかという思いと、書店業界に対する不安が脳裏を過るのだ。
 たった一人の力でどうにかなる問題でもないが、何もしないでただ潰れていく光景を見続けるのは我慢ならない。だからこそ、語部は何か書籍を求める際には必ず、書店で購入していた。
 いつもの公園を通り過ぎる際、語部はそちらに視線を投げる。暑いからというだけではないだろうが、公園にはやはり人気はなかった。
 駅に近づくに連れて、周囲は賑わいをみせ始める。平日のせいか、自転車に乗った年輩の女性やパチンコに向かっているであろう老人の姿が目につく。学生服姿の若い男女やスーツ姿の男性もちらほらいたが、この時間帯だと大多数の人が学校や職場にいるはずだった。時間に縛られない生活をしている語部には、その光景にどこか居心地の悪さがあった。
 商店街の並びにある書店に入ると、冷たい風が襲いかかる。書店内は開いたばかりのせいか、書店員ぐらいしか姿は見られない。
 この書店は二階建ての造りになっていて、二階には専門書や事典、参考書関連が多く置かれている。一階には漫画、雑誌、小説、新書が置かれている。駅前ということもあって、品揃えもそこそこ良い。
 語部は慣れたように、単行本のコーナーに足を向ける。平積みにされている書籍に目を向けていくと、灰色の表紙に男性とおぼしき陰が描かれた『息子の標』を見つける。
 その近くには三年前に出した語部の『部屋籠もり』が置かれていた。薄暗い部屋の中で男が膝を抱え、開いた扉から差し込む光には女性の影が伸びている表紙だ。
 語部は驚きのあまり、その場に立ち尽くした。三年経った今でも平積みされていることは滅多にない。普通だったら棚に差され、頃合いをみて返本されるはずだ。
 本は毎月約六千冊出版されている。いつまでも同じ書籍を置き続けるわけにはいかず、売れない本や話題性の低い本は取らない、もしくはすぐに返本してしまう。だからこそ、目の前にある三年前の自分の著書があることが信じられなかった。
 驚いたのはそれだけではない。書籍の後ろには、店員の字やイラストで描かれたPOPが飾られていた。
 白い長方形の台紙が青色で縁取られ、『部屋籠もり』と黒ペンの太字で書かれていた。その下には水色のペンで『ただの引きこもり小説ではない。ユーモア溢れた母の愛と成長の物語だ』と書かれ、右下部分には店員を模したとおぼしき女性のイラストが描かれていた。そのイラストの吹き出しには、『店員おすすめ』とまで書かれてある。
 何度かこの書店に足を運んでいたが、その時は気づかなかった。もしかすると最近になって、置かれるようになったのかもしれない。
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