作家は二度、炎上する

箕田 はる

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「さっき黎城先生の姿を見かけたんですよ」
 ふうと言いながら、安時がソファに腰掛ける。
「そうか。もしかしたら、近くに住んでいるのかもしれないな」
「先生まさか、黎城先生に会ってないですよね?」
 キッチンに向かおうとしていた語部は動きを止める。
「どうしてだ?」
 まさか見られたかと、心臓が一瞬跳ねた。それでも、表情には出すまいと無表情で安時の方を振り返る。
「だって、ずるいじゃないですか。二人だけで会うなんて。前にも言いましたよね。二人で会うときは僕も呼んでくださいって」
「別に二人で会う必要がないだろ。諦めろ」
 ため息交じりに言ってから、語部は今度こそキッチンに向かう。背後から「えー」と嘆く声が追いかけてくる。
 お湯を沸かし、茶菓子を出そうと棚を開く。そこでめぼしい物がないことに気づき、思わず舌打ちが漏れる。仕方なく一旦、火を止めた。
「ちょっと出てくる」と言いつつ、語部はスマホと財布を尻ポケットに突っ込む。
「え、どちらへ?」
「すぐ戻る」
 家のすぐ近くに小さな洋菓子屋がある。そこなら徒歩五分ほどで着く。種類は少ないが、甘い物なら何でも良いはずだ。動揺している安時を残し、語部は外に出た。
 ショートケーキを買い、家に戻った時には安時はソファで原稿に目を落としていた。ここに来る前に寄った作家の物だろう。
「お帰りなさい。どこに行ってたんですか?」
 安時が原稿から顔を上げ、責めるような目で見た後、手元の箱に気づく。途端に目が見開かれる。
 キッチンで手を洗い、今度こそコーヒーを入れる準備に取りかかる。ショートケーキを皿に乗せていると、「先生はどうして」と安時の声がした。
「僕にそこまでしてくれるんですか?」
 以前にも同じようなことを聞かれたような気がしたが、語部は「別にいいだろ」と流した。
 ケーキとコーヒーを安時の元に運ぶと、今度こそ本題である原稿をプリントしようと書斎に向かう。最初から二部コピーしとけば良かったと、効率の悪さに臍を噛んだ。
 デスクトップにある原稿というフォルダーを開く。最新のデータはそこに保存していた。だが、フォルダーの中にはデータが一切なく、〝このフォルダーは空です〟とグレーの文字で表記されていた。
 さぁーという音を立てて、急速に体の温度が引いていく。黎城に渡した時は確かにあったはずだ。他のフォルダーも開いていくが、執筆したばかりの原稿が見つからない。間違えて消してしまったかと、デスクトップ上のゴミ箱をクリックしてみたが、そこも空だった。抑えきれない焦燥感に語部は、ダンと拳で机を打つ。
「どうされたんです?」
 ドアが開き、驚いた顔で安時が顔を出す。
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