作家は二度、炎上する

箕田 はる

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 安時に案内された店は、こじんまりとした定食屋といった様相の個人店だ。二人が入った時には、遅い昼食を取る人の姿がちらほらある。テーブルと座敷席があったが、二人はテーブル席で向かい合わせに座った。
「久しぶりですよね。こうして先生と外で食事をするのって」
 安時がおしぼりで手を拭き、周囲を見渡す。手書きの短冊形のメニューが、壁に何カ所も張り出されていた。
「オススメは明太子定食です。大ぶりの明太子が二本と焼き魚がセットになっているんですよ」
「じゃあ、それにする」
 語部が即答すると、安時は「じゃあ、僕はから揚げ定食にします」と言い、手を上げて店員を呼んだ。
 安時の愚痴を聞きながら定食が来るのを待つ。最近、色々な事があり食欲がなかった語部だったが、原稿も完成し、安時が元に戻ったことで、自ずと食欲も戻ってきていた。店内を漂う揚げ物の匂いや醤油の香ばしい香りも、食欲をそそる。
 定食が届くと、山盛りのから揚げが安時の前に置かれる。安くて多い量を提供できるのが個人店の人気の秘訣なのだろう。語部の方に置かれたお盆には、大ぶりの明太子が二本と油の乗った大きなホッケが乗っていた。
「美味しそうですね」と感嘆の声をあげる安時に、語部も「そうだな」と同意する。
 それぞれ箸を取り、目の前に並んだご馳走に箸をつける。思わずお互いに「美味い」「美味しいですね」と言い合いながら、箸を動かす。
 ほどよい辛さの明太子が白飯に合い、語部は夢中になって頬張った。
「そういえば、先生。連載の話が来ているんです」
 危うく喉に詰まらせそうになり、語部は慌てて水で押し流す。
「うちの会社の文芸雑誌なんですけど、ちょうど完結する作家さんがいて一枠空くんですよ。そこで語部先生に白羽の矢が立ったわけなんですが」
「本当か?」
 ご飯茶碗を持ったままで、語部は身を乗り出す。ここでするような話ではないと批難したくもあるが、それ以上に初めての連載の打診を前に驚きの方が大きかった。
「ええ。ただ、プロットの提出期限が来月末でして……」
「来月か……」
 さすがに厳しいかもしれないと、乗り出していた身を引き下げる。やりたい気持ちはあれど、間に合う自信は半々だった。
「それに他にも候補の作家さんが出ているんです。だから、必ずしもってわけじゃあ……」
 言葉尻を萎ませながら、安時が箸を唇で挟む。
「そうなのか……でも、出来ることはやっていかないと」
 自分が作家として生き残っていく決意を固めた以上は、諦めてばかりもいられない。語部は箸を盆に置くと、姿勢を正す。元々、姿勢が良いうえに上背がある。迫力のある緊張感に、安時も慌てて箸を置く。
「やってみようと思う」
 自分自身にも言い聞かせるように、真っ直ぐな視線を安時に向ける。
「それでこそ先生です」
 安時が笑顔で頷く。
「ああ、いつも通りサポートを頼む」
 語部が軽く頭を下げる。
「はい。もちろんです。小説家と編集者、どちらかが欠けたら小説は生まれませんから。だから、二人三脚で良い作品を作り上げましょう」
 満面の笑みを浮かべ、「じゃあ、冷めないうちに食べましょう」と安時が茶碗片手に箸を持つ。
「腹が減っては戦が出来ないですよ」
「そうだな」
 口端を上げて、語部も箸を手に取る。唐揚げを頬張る安時を微笑ましく思いながら、語部も大きく切り分けた明太子を口に入れた。
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