作家は二度、炎上する

箕田 はる

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 隣で安時がコーヒーに口をつけると「あれ、今日は何だか普通ですね」と口を離す。さすがに疲れから、語部はコーヒーを挽く気にはなれず、市販のドリップコーヒーで代用していた。それに気付いた安時に驚きながらも、それを説明すると「先生のコーヒーがいかに凄いかが分かりましたよ」と感心した声を出す。
「まぁ、僕の舌もなかなかのものですね」
 自画自賛を漏らし、安時はカップの中を覗き込んでいる。
 相変わらず元気だなと語部は、羨ましいような憎らしいような目で安時がカップに口をつけるのを眺めた。
 満足したところでやっと、安時がカップをテーブルに置く。「拝見します」と言いつつ、渡した提案書に目を通し始める。途端にさっきまでとは違った、緊張感の滲んだ顔に変わった。編集の顔になった安時に伝播したように、語部も尻の座りが悪くなる。
 外からは冷たい雨が窓を叩く音がした。部屋の中は暖房が効いていて温かいが、外に出れば身に沁みる寒さが襲うはずだ。現に、さっきまで安時の体からは冷気のようなひんやりとした空気がまとわりついていた。
 語部は立ち上がり、窓に近づく。カーテンを開くと濁った灰色の空気が外を覆い、さらさらと静かに雨粒が地へと降り注いでいた。最近、あまり外出していないこともあって、外の空気が恋しくもなっているようだった。
 じっと眺めていると、「なるほど」と背後から声がした。
「どれも良いとは思いますが……今からプロットを作るとなると、自分の知識だけで何とか出来る流れのものになりそうですね」
「……そうだな」
 もっともな言い分に、素直に同意する。後二週間ほどで提出日となるのだから、あまり専門的な要素は入れないに越したことはない。連載が始まってから調べるのもありだろうが、新しく知った知識と前に書いた内容に齟齬があり、流れに支障が出る可能性もないとは言えない。それを避ける為にも、ある程度の知識を得ているものの方が安心だった。
「そうなると、動画配信を見る側、というのはどうでしょうか。動画配信者となると、今度は動画を作る技術の知識が必要になると思うので。短編だったら何とかあやふやにできても、長編だとそれ込みで書かないと、臨場感が出ないですし……」
「そうだな。そうなると筋書きも改めないと」
 安時から言われたことを手近にあった用紙にメモしていく。
「今からだと間に合わないと思うので、もうこの話でプロットを組んじゃいましょう」
 それしかない、と語部は重たい息を吐く。もっと詰めて考えたいところが歯がゆかった。
「じゃあ、また来週に。今度はプロットをお待ちしてます」
 ぺこりと頭を下げて、安時が帰っていく。入り込んできた湿った冷たい空気から逃れるように、語部は部屋へと戻った。
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