作家は二度、炎上する

箕田 はる

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 朝の七時には目を覚まし、安時が来るのに備えて部屋の掃除をしていく。寒さに身を竦めながら、カーテンも窓も開け放つ。外からは冬晴れの光が差し込み、新鮮ながらも冷たい風が吹き込んでいた。スリッパを履いているのに、足下は突き刺すように冷たい。動いていても、さすがに冬の寒さには勝てなかった。
 掃除を終わらせると軽い朝食をとり、十時に開く洋菓子屋へと向かう為に部屋を出る。
 エレベーターでエントランスに下りたところで、入り口付近に人影が見えたような気がした。一瞬、黎城にも思えたが、外に出て確認しても黎城の姿はなく、郵便配達員ぐらいしか見当たらない。見間違いかと苦笑し、語部は洋菓子店のある商店街を目指す。
 道中で犬の散歩をしている老人とすれ違う。向こうが会釈してきたことで、語部もぎこちないながらにも返した。元気に尻尾を振っている犬を微笑ましく思いながら、ふと自分の心に余裕が生まれていることに気付く。
 以前までは、平日の日中に外に出ることに対して、後ろめたい気持ちがあった。それは自分の社会的立ち位置に対しての世間の目が気になっていたからだ。だけど実際は、周囲の人間はそれほど他人を気にしていないのかもしれない。現に今の自分は前と違って、周囲の目線を気にしていないからだ。それはきっと、新しい作品を世に出すことが出来るからなのだろう。要は全て自分のプライドの問題なのだ。
 洋菓子店でフルーツケーキを二種類選び、ついでにシュークリームも手に取った。普段は甘いものを食べないが、今日ぐらいは口に入れても良いという気持ちになっていた。
 家に戻ると冷蔵庫にしまい、書斎から昨日印刷した原稿をリビングのテーブルに置く。後は安時を待つだけだ。待つ間、妙に浮き足立っていた。自分の手を離れた後は、編集者やデザイナーの人達の仕事となる。発売は来年になるだろうが、今から楽しみではあった。
 時計を見ると、まだ十一時半を過ぎたばかりだった。昼過ぎ頃に来ると言っていたから、まだ来ることはないだろう。
 語部はソファに腰を下ろし、テレビをつける。そこではちょうど、芥川賞、直木賞候補作について特集されていた。朝の五時に候補作が発表され、それに伴って過去の候補作も紹介されているようだった。
 もしかしたら自分の過去の醜態も放送されるかもしれない。心臓が嫌な音を立て、握っていたリモコンにも力が入る。チャンネルを変えるか迷った末に、語部はぐっと堪えた。もう二度と立つことが出来ないであろう晴れ舞台。あの日以来、視界に入れないように避けてきていた。だけど自分の戒めとして、目を逸らすのはもうやめるべきなのだ。同じ文学界を生きる人達は仲間でもありライバルでもあるのだから、彼らの活躍を応援するのも純文学作家として大切なことのはずだった。
 過去の候補作が順番に紹介されていく。自分の作品も画面に映るも、すぐに次の年の作品に移る。詰めていた息が吐き出される。
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