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しおりを挟む久賀と同じ物を頼み、出てきたグラスに水瀬は口をつける。普段飲み慣れないウォッカに思わず顔を顰める。こんな強い酒に何度も口をつけていた久賀は、どう考えても何かあったようにしか思えない。
ちらりと隣を見やると、久賀はさっきと同じく荒々しくグラスに口をつけていた。
「――君は」
唐突に切り出した久賀の視線が、スッと水瀬に向けられる。怜悧な目元が今は、酔いで艷やかな印象だった。その目に射すくめられ、水瀬は緊張気味に次の言葉を待つ。
「俺のことをどう思っているんだ」
「――えっ?」
一瞬、どういう意図で聞かれたか分からず、水瀬は呆気に取られる。その隙に久賀は一気にグラスの中身を飲み干し、カウンターに同じ物を頼んだ。
バーの店主が困ったような視線を水瀬に向けてくる。予想通り、相当飲んでいるようだった。
「久賀さん、飲み過ぎなんじゃないんですか」
水瀬がやんわりと諫めると「質問の答えになっていない」と返されてしまう。
「分かりました。ちゃんと答えますので、水にしてください」
水瀬は店主に視線を向け、「水をください」と告げる。ホッとしたような表情で店主が水を差し出した。
質問の意図が恋愛対象としてという確率は低いと、水瀬は職場での久賀を思い浮べる。
「もったいないなぁって思います」
久賀の前に水の入ったグラスを置く。やはりというべきか、久賀が訝しげな顔をする。
水瀬は苦笑しつつも続けた。
「久賀さんは仕事も出来るし、部下思いな優しい上司です。それに僕が学ぶべきことも、たくさんもってます。それなのに僕は……あまり久賀さんと関われずにいます」
水瀬はグラスに口をつける。喉を流れるアルコールの強さにくらりとした。
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