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しおりを挟む相手の女性から何度もビンタされたし、罵倒もされた。無関係ではあっても、鳴河の教育係としての責任感から放っては、おけなかったというのもある。
「俺は今でもあのときのことを感謝してます。辞めずに済んだのも、理玖さんのおかげですから」
「別にあれは、鳴河が悪いわけじゃなかったから」
いたたまれなくなり、水瀬はジョッキに視線を落とす。半分ほど減った中身に、ペースが早いことに気づく。
「俺のこと信じてくれて、引き止めてくれたのは理玖さんだけですから」
そう言って、鳴河は苦笑した。
鳴河が働き始めて半年もすると、鳴河と付き合っているから出せと言ってくるたちの悪い人が出始めたのだ。見に覚えもない言い掛かりをつけられ、その度に混乱が起き、さすがに業務にも支障が出始めていた。
『いい子なんだけどね。あまりに騒ぎが大きくなると、さすがになぁ』
店長が苦言を呈し始め、水瀬は悩んだ。本人に非があるならまだしも、鳴河は見に覚えがないと常に言っていた。
店長にもその旨は伝えたが、『信じたいけど……こればかりは分からないからね』と返されてしまう。確かに鳴河は愛嬌があり、女性客に対しても無碍に扱ったりしない。そのせいで勘違いされてしまうことも多かった。それでも楽しそうに働き、トラブルの度に謝る鳴河の姿に、水瀬は何とかしたいと思っていた。
鳴河の方から辞めようと考えていると告げられた時、水瀬はそれを引き止めた。
「あの時……理玖さんが、なんとかするから考え直してほしいって言ってくれて、凄く嬉しかったんです」
そう口にする鳴河に、水瀬は顔をしかめる。
「でも……結果的にホールからキッチンに移ることになったから……それで良かったのか、正直分からない。僕の偽善だったんじゃないのかって」
水瀬は考えた末、苦肉の策として鳴河をキッチンに回すことを提案した。
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