愛に縛られ、愛に溺れる

箕田 はる

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 食欲も湧かず、ベッドから起きるのすら億劫。天井を見つめ、影が動く様だけを呆然と目で追う。
 気づけば室内が薄暗くなっていた。
 さすがに尿意が訪れ、水瀬は緩慢な動きでベッドから降りる。そこで自分が汗を掻いていたことに気づく。トイレに行くついでにシャワーも済ませ、ベッドに戻ろうとした時――インターホンが鳴った。
 居留守を使おうか迷った末、水瀬は玄関の覗き穴から外を見る。
 外に立っていた鳴河の姿に、水瀬は思わずドアを開けた。

「どうしたんだ? なんでここに……」
「店長に教えて貰ったんです。お見舞いに行きたいって言ったら、渋々ですけど」

 個人情報ということもあって、店長が渋ったのは想像に難くない。それでも滅多に休まない水瀬が、二日も休んでいるのだから様子見も兼ねて鳴河にお願いしたのだろう。

「店長からの差し入れも持ってきたんです」

 そう言って、鳴河が持っていた袋を掲げた。
 好意を無碍にするわけにはいかず、水瀬はありがたく受け取る。

「……わざわざありがとう」

 力なく笑みを浮べると、鳴河は眉を寄せる。

「大丈夫ですか?」
「うん……ちょっと働き過ぎただけだから」

 ここ数ヶ月、満谷のこともあって、休みはほぼ取っていなかった。そのことを言い訳に持ち出すも、鳴河はどこか納得のいかない顔をした。

「どうしてですか? そんなにお金に困っていたんですか?」
「うん……ちょっとね」

 簡単に口にできる内容ではなく、これ以上詮索されないよう曖昧に返す。
 すると突然、鳴河が鞄から財布を取り出した。何をしているのだろうと見つめる水瀬に、鳴河は札を抜き取り一万円札を数枚差し出してくる。

「今は持ち合わせがこれしかありません。足りなければ取ってきます」
「……えっ」

 唖然とする水瀬に「お金に困っているんですよね」と言って、水瀬の手を取ると無理やり握らせようとする。
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