愛に縛られ、愛に溺れる

箕田 悠

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「おはようございます」

 スマホに気を取られていた水瀬は、背後の声に驚いて振り返る。
 スーツではなく、ラフな格好の鳴河の姿があった。
 水瀬の手元に目を落とし、鳴河が何かを察したように口を開く。

「返事ならしときましたよ」
「えっ?」
「昨日、何度もスマホが鳴っていたので、きっとあの男だろうなって思ったんです」

 勝手にスマホを見られたことに、さすがに水瀬も顔を顰める。

「でも、返事しないと、今度は何度も電話してくるんじゃないんですか? 挙げ句の果てには、家まで押しかけてきて、いないって分かったら警察に行くかもしれませんよ?」
「……そこまで過保護じゃない」

 前半は鳴河の意見を否定出来なかったが、警察はさすがにあり得なかった。
 メールボックスを確認すると、確かに昨日の夜十時過ぎに久賀から、メールが入っていた。その返事も確認すると、当たり障りのないメールを返しているようだった。
 余計なことをメールされていたらどうしようという不安は、杞憂に過ぎなかった。

「とりあえず、まだ時間はありますよね。 会うのは十時とか、そのあたりだと思うんですけど」
「一度、家に戻って着替えるから。もう帰るよ」

 時刻はまだ七時だったが、一刻も早くこの場を立ち去りたかった。一人になって、色々と頭の中を整理しないと、久賀の前で平静を保てないように思えた。

「なら、シャワーだけでも使っててください」

 そう言って、鳴河が部屋を出て行ってしまう。確かに、昨日の情交を残したままよりも、洗い流したい気持ちもある。
 水瀬は息を吐くと、浴室へと向かった。
 脱衣所で服を脱ぐ際に、手首い残る赤い痕に気づき、水瀬は息を呑む。
 暴れたせいか、ロープの痕がすれたように残っている。よくよく見ないと気付かないぐらいだったのが、まだ救いだった。
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