1 / 1
エンドロール
しおりを挟む
「ねぇ、新しいの出来たから聴いて」
彼女は新曲が出来上がる度に、一番初めに僕に聴かせてくれる。
今日もいつもみたいに、「どうだった?」と聞かれて、「とても良かったよ」と答える。
そして彼女はまた一人の世界に戻って、少し時間が経ってから、「ちょっと変えてみたからもう一回聞いて」と言われて、「うん、さっきより良いね」と答える。
そうやって今日が終わると思っていた。
でも、彼女が聞かせてくれた歌の、
『あなたと一緒にいて幸せな夜もあれば
大好きだからこそ一緒にいるのが辛い夜もあった
でも今はあなたの事を考えても
何も想わなくなってしまった』
という歌詞を聞いて、それはきっと僕の事なんだなと思った。
あぁ、僕たちの事なんだな、と。
彼女の歌には、『嫌い』や『別れたい』という言葉は一切出てこなかった。
それが余計に辛かった。
「どうだった?」
「次のライブでやるの?」
「そのつもり」
「一ヶ月後だっけ?」
「そう。いつもの下北のライブハウス」
「そのライブ行ってもいい?」
「もちろん」
それからの一ヶ月は、驚くほどいつも通りだった。
仕事が休みの日は一緒に映画を観に行って、ショッピングをして、彼女の家で彼女が好きなバンドの曲を聞きながら一緒に夕飯を作って、テレビのバラエティを見ながら一緒に夕飯を食べる。
変わった事なんて何一つ起きなかった。
起こさなかった。
まるで昨日をコピペして今日に貼り付けたみたいな、そんな日々を繰り返した。
ライブ当日、下北にはライブの始まる一時間前には着いていた。
ライブハウスの近くにある喫茶店に入りアイスコーヒーを頼むと、カバンから小説を取り出した。
栞が挟んであるページを開き文字を読もうとしたが、言葉が入ってこなかった。
文字はちゃんと読めるのに、どうしても言葉が頭に入ってこない。
紙に書かれた活字をじっと見つめていたけれど、一時間が経っても一行も読み進めることが出来なかった。
ライブハウスへ行くと、ちょうど彼女のバンドが演奏を始めるところだった。
バンドに与えられた時間はたったの三十分だったが、彼女はその三十分を一秒も無駄にしなかった。
ライブハウスから少しだけ歩いた場所にある公園のベンチに座っていると、僕を見つけた彼女が小走りでやってきた。
「ごめんね、お待たせ」
「お疲れさま」
「どうだった?」
「よかったよ」
「この後どうする?夜ご飯まだだよね?」
「ねぇ」
「なに?」
「別れようか」
すると彼女は最初から分かっていたかのように、
「うん、そうしよ」
と言った。
「今日はライブ見に来てくれてありがとうね。それじゃあ、バイバイ」
「うん、バイバイ」
「ねぇ、ちょっと待って」
「どうしたの?」
「君のおかげで、大好きな歌をいっぱい作ることができたの。自分が作った歌を好きになることが出来たのは、君のおかげだと思う。それだけは絶対に間違いじゃなかったって思ってる。だから、ありがとう」
そう言うと彼女は僕の前から姿を消した。
今日も、いつもと変わらない一日だった。
少しだけ違った点があるとすれば、たった一年しか付き合っていない彼女と別れた。
ただ、それだけ。
たった、それだけ。
いつもと変わらない、いつも通りの一日。
彼女は新曲が出来上がる度に、一番初めに僕に聴かせてくれる。
今日もいつもみたいに、「どうだった?」と聞かれて、「とても良かったよ」と答える。
そして彼女はまた一人の世界に戻って、少し時間が経ってから、「ちょっと変えてみたからもう一回聞いて」と言われて、「うん、さっきより良いね」と答える。
そうやって今日が終わると思っていた。
でも、彼女が聞かせてくれた歌の、
『あなたと一緒にいて幸せな夜もあれば
大好きだからこそ一緒にいるのが辛い夜もあった
でも今はあなたの事を考えても
何も想わなくなってしまった』
という歌詞を聞いて、それはきっと僕の事なんだなと思った。
あぁ、僕たちの事なんだな、と。
彼女の歌には、『嫌い』や『別れたい』という言葉は一切出てこなかった。
それが余計に辛かった。
「どうだった?」
「次のライブでやるの?」
「そのつもり」
「一ヶ月後だっけ?」
「そう。いつもの下北のライブハウス」
「そのライブ行ってもいい?」
「もちろん」
それからの一ヶ月は、驚くほどいつも通りだった。
仕事が休みの日は一緒に映画を観に行って、ショッピングをして、彼女の家で彼女が好きなバンドの曲を聞きながら一緒に夕飯を作って、テレビのバラエティを見ながら一緒に夕飯を食べる。
変わった事なんて何一つ起きなかった。
起こさなかった。
まるで昨日をコピペして今日に貼り付けたみたいな、そんな日々を繰り返した。
ライブ当日、下北にはライブの始まる一時間前には着いていた。
ライブハウスの近くにある喫茶店に入りアイスコーヒーを頼むと、カバンから小説を取り出した。
栞が挟んであるページを開き文字を読もうとしたが、言葉が入ってこなかった。
文字はちゃんと読めるのに、どうしても言葉が頭に入ってこない。
紙に書かれた活字をじっと見つめていたけれど、一時間が経っても一行も読み進めることが出来なかった。
ライブハウスへ行くと、ちょうど彼女のバンドが演奏を始めるところだった。
バンドに与えられた時間はたったの三十分だったが、彼女はその三十分を一秒も無駄にしなかった。
ライブハウスから少しだけ歩いた場所にある公園のベンチに座っていると、僕を見つけた彼女が小走りでやってきた。
「ごめんね、お待たせ」
「お疲れさま」
「どうだった?」
「よかったよ」
「この後どうする?夜ご飯まだだよね?」
「ねぇ」
「なに?」
「別れようか」
すると彼女は最初から分かっていたかのように、
「うん、そうしよ」
と言った。
「今日はライブ見に来てくれてありがとうね。それじゃあ、バイバイ」
「うん、バイバイ」
「ねぇ、ちょっと待って」
「どうしたの?」
「君のおかげで、大好きな歌をいっぱい作ることができたの。自分が作った歌を好きになることが出来たのは、君のおかげだと思う。それだけは絶対に間違いじゃなかったって思ってる。だから、ありがとう」
そう言うと彼女は僕の前から姿を消した。
今日も、いつもと変わらない一日だった。
少しだけ違った点があるとすれば、たった一年しか付き合っていない彼女と別れた。
ただ、それだけ。
たった、それだけ。
いつもと変わらない、いつも通りの一日。
0
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。
ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。
真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。
引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。
偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。
ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。
優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。
大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。
冤罪で辺境に幽閉された第4王子
satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。
「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。
辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。
本物の夫は愛人に夢中なので、影武者とだけ愛し合います
こじまき
恋愛
幼い頃から許嫁だった王太子ヴァレリアンと結婚した公爵令嬢ディアーヌ。しかしヴァレリアンは身分の低い男爵令嬢に夢中で、初夜をすっぽかしてしまう。代わりに寝室にいたのは、彼そっくりの影武者…生まれたときに存在を消された双子の弟ルイだった。
※「小説家になろう」にも投稿しています
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる