オルゴールと傷

jasmine

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オルゴールと傷

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あなたはいつも急ぐ人だった
いつもこっちを見てくれない人だった

確かに覚えている
あなたに恋をしたのは
高校一年生の7月だった
黒板の前でいつもバタバタと急ぎながら
回答の解説をするあなただった
自分にとって初めての感覚
それはそうーー
チョコの中からブランデーが溶けだしてくるような
甘さよりも強い、ほろ苦さを知った夏だった

週の最初の2時間授業は嬉しかった
週末にあったことを早口で話していくあなたと
頭の中で必死にメモをとる私
あなたのメモリが増えていく
幸せだった

いつも質問をしにあなたの元へ行った
説明もいつだって早口だった
でも私は説明なんて聞いてなかった
好きなおもちゃの話をするように一生懸命な、あなたの顔を見ていたから
覚えておきたかったから

自習ノートの提出の度に小さくメッセージを書くようになった
私にとってこれは、あなたへの小さなラブレター
返ってくるのはいつも同じようなテンプレート文
それでもたまに、飴玉一個分くらいの
優しいメッセージがついていたから辞めなかった

授業中の無駄話
笑うあなたのくしゃっとした笑顔は私の頬を綻ばせると同時に
毎日心臓を引き裂かれているようだった
それでも、そんなスパイスさえも私の心を惹き付けた

バレンタイン、あげるつもりは無かった
なかったのに、神様の悪戯か放課後に会ってしまった
朝の授業の時には出なかった勇気をだして
手抜きしてしまった中でも一番綺麗な一つを渡す
このお菓子好きだから嬉しい、そう言われた
私以外の、誰も知らないあなたの好物
私にとって一生で一番の思い出になるバレンタイン
少し心が痛かった
泣き叫んでしまいたかった
あなたが好きだ、と

あなたの誕生日
他の先生に用があるふりをして
ついでのふりをして、おめでとうと伝えた
生徒では一番目と言われた
心が少し踊った
一緒に祝えないことにまた心を痛めた

久しぶりにあなたに会った
その瞬間に心は大雨
寂しくて仕方なかった
抱きついてしまいたかった
苦しくて仕方なかった
すごくすごく、好きだった

あなたが結婚すると知った
頭を鈍器で殴られたような、そんな感覚
何も手につかなかった
結婚式の話はしないで、と私の心は叫んでた
辛くて顔が上がらなかった
息が詰まって消えそうだった

あなたの顔を見るだけで
あなたの声を聞くだけで
あなたの姿が見えるだけで
私の体温はいつも急上昇した

伝えてしまおうかと思った
あなたと、あなたの奥さんというメロディを唄う真新しいオルゴールに大きな傷をつくろうか、と
でもできなかった
一人で海の底で藻掻くだけだった

あなたのふわふわとしたその黒髪が好きだった
子犬のようなその瞳が好きだった
落ち着いた深いその声が好きだった
全てを包んでくれるような穏やかなその包容力が好きだった

『あなたが好きだったんだ』
と痛感した高校二年生の十月
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