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第六章
しおりを挟む冥界の門~イヲス・αゲート~
人を寄せ付けまいとする切り立った岩が立ち並ぶ山にそれはあった。
「まだ使えるようですね」
クレイルは地面にある石造りの大きな門の前にいた。
「久しい匂いだ」
「まだ居たんですか?」
「相も変わらず連れないやつ」
「変わらないですね、ガイナス」
門の一部分である石の獣が動きを見せる。
「当たり前であろう門番なのだからな」
「まぁ、門そのものですからね」
「そりゃそうだな」
石の獣、ガイナスは豪快に笑う。
「それでなんの用だ」
「セレディナスに少しね」
「冥王に?そりゃ無理だな」
「どうしてです?」
「冥王は行方知れず、その影響で冥界は酷い有様だ」
「セレディナスがいない?バルディはどうしたんです?」
「居るには居るが、ありゃもう操り人形だな」
「ガイナス、門を開けてもらえますか?」
「構わんが今行けばベウケットの餌になるぞ」
「私を嘗めないでいただきたいですね」
「そうゆうところも相も変わらずか…気をつけて行けよ」
「ありがとう、ガイナス」
地面が目を開けるように裂け、クレイルは裂け目に飛び降りた。
「着いたようですが…これは昔の麗容さは見る陰もないですね」
木々は枯れ、池は沼に荒れ果てた大地が広がっている。
「…早くデア城へ向かいましょう」
クレイルは気持ちを切り替えて駆け出すと
ベウケットが地面から出て来た。
ベウケットは体は芋虫のようで目は無く、人を丸呑みするほどの大きな口を持っている。
「早速のお出ましですか…」
クレイルは手をベウケットに翳し、詠唱した。
「シャール」
ベウケットの周囲に冷気が漂い、一瞬で凍り付いた。
「さすがに冥界は魔力が満ちている分威力が違いますねぇ」
ベウケットが地面を突き破り、次々と出て来た。
「次から次へと…こうなればまとめて倒しますか」
ベウケットは口から霧状のものを吐き出す。
「これは…毒…」
近くにあった朽ちた木が更に変質していく。
『…ベウケットにこんな能力はなかった筈ですが…』
クレイルは咳き込みながら地面に片膝をつく。
「エシュール」
突風が吹き荒れる。ベウケット達は無数の風の刃に切り裂かれ、身を散らして倒れる。
「大丈夫?」
クレイルは声を掛けられたがまだ咳き込んでいる。
「フルール」
クレイルのいる地面に緑色の魔法陣が現れ、クレイルは緑の光に包まれた。するとクレイルの咳きは治まった。
「すい…ません 助かりました」
クレイルはお礼をいいながら立ち上がった。そこには冥界の民、リベットである法衣に身を包む、頭の左右に渦巻いた角を持つ女性がいた。
「人間がこんな所で何をしてる?」
「ちょっと知り合いに用がありまして」
「人間が冥界に知り合い?」
「セレディナスに」
『人間が王妃様と?』
冥界の民、渦巻いた角を持つ女性は疑問に思う。
「…しかし、今、王妃様は…」
「えぇ、門番に聞きましたよ」
「そうですか…」
「見たところ神官の様ですが、お願いがあります」
「えぇ確かにそうですが、お願いとは?」
「バルディに御目通りを願えないでしょうか?」
「王子にですか?」
「はい」
渦巻いた角を持つ女神官はクレイルを見定めるように全身を眺める。
『門番であるガイナスが通したということは危険な人物ではないだろうけど…』
女神官は危険性はないと判断して答える。
「分かりました、ですがあまり期待しないでください」
「構いません」
「分かりました、私の名はリベル宜しくでは王子のいるデア城に向かいましょう」
二人はデア城に向かった。
デア城~ケルベルの間~
一人の衛兵が冥王宮騎士団長である人物の執務室の扉を叩く。
「ラズゥール騎士団長、失礼します」
扉を開けて衛兵が入ってきた。
「なんだ」
額に一本の鋭い角を持つ鎧の男が入ってきた衛兵に鋭い視線を送る。
「バ、バルディ様に謁見したい人物いるとリベル様がおっしゃっています」
衛兵はその鋭い視線に一瞬、怯むが用件を伝える。
「リベルが」
「いかがなさいますか?」
「ケルベルの間に通せ、私が会おう」
「承知致しました」
そして、クレイルはリベルと一緒に何の飾り気もない殺風景な部屋、ケルベルの間に通された。
「リベル、バルディに会いたいと言う奴はそいつか…」
ラズゥールはクレイルに視線を移す。
「んっ!人間!リベル!どうして人間なんか連れて来た」
「この方はセレディナス様の知人の方の様で」
「馬鹿な人間の知り合いなど」
「本当です、と言っても信じられないでしょうから証拠を見せましょう」
クレイルは上に着ている服を全て脱ぎ、上半身裸になり二人に背中を見せた。
「これって…」
「なんで制約印が!?」
「申し遅れましたが私の名はクレイル・シュヴァルツ」
「シュヴァルツ…確か大昔の記述に地上を破滅に導く魔王を封印した人間がいたと」
「それがお前というわけか」
クレイルは服を着る。
「えぇ」
「そうか」
ラズゥールは納得する。
「それでバルディに会いたいのだったな」
「はい」
「残念だが逢っても話せるかどうかわからんぞ」
「どうしてですか?」
「バルディはもうあいつのいいなりだ…」
「あいつとは?」
「ジグ・レーデル卿よ」
「何者なんですか?」
「人間界進攻派の長だ」
「レーデル卿は人間を殲滅しようと画策しています」
「どうして人間を!?」
「何をぬけぬけとお前ら人間が冥界に攻め込み、その際にセレディナス殿下が行方知れずなられたのだ!」
ラズゥールは拳を強く握り締め、声を荒らげる。
「普通の人間が冥界に入ることなんて」
「事実です」
「いつのことなんですか?」
「つい先日のことです」
「一体誰が…容姿はどんな感じでしたか?」
「全員、黒いローブを着ていて顔は全く見えず、黒い獣を連れていました」
「黒い獣…どうやらヴァルキリアの手の者ようですね」
「ヴァルキリア?あの闇の帝王がなぜ王妃様を………!!」
ラズゥールは何かに気付いた。
「リベル、この人間をバルディに逢わせてやれ、私は急いでやらなければいけないことができた」
ラズゥールはケルベルの間から足早に出ていった。
「では、こちらに」
リベルはラズゥールが出ていった扉とは反対側にある扉を開けた。
中はこじんまりとしていて、ケルベルの間と同じように何もない部屋だった。
「ルペネート」
リベルがそう言うと白い球体が部屋の中心に現れ、リベルはそれに触れた。
「貴方もこれに触れて下さい」
クレイルは言われる通りに白い球体に触れた。
「我らを彼の地にルシファール」
二人の姿が一瞬にして消えた。
そして、二人とは先程の殺風景な部屋から打って変わって絢爛豪華な装飾の施された部屋に着いた。
「ここは?」
「冥王宮ルシファールです」
「ここにバルディが?」
「はい、王子は此処におられます」
「ここで何をしているんだい?」
二人が部屋から出ると何者かに話し掛けられた。
「レルク様!?」
そこには狐目に眼鏡を掛けた長髪の男がいた。
「ど、どうして王宮に?」
リベルの背筋がピンっと伸び、緊張した面持ちで訊ねた。
「ちょっとね、それで」
「あっ、今、この方を王子の元へ案内してる所でして」
「またラズゥールに命令されたんですか?全くあの男は…あとは私が王子の元へ連れて行きますからリベル君は下がっていいですよ」
「でも、レルク様が」
「良いんですよ、ラズゥールには私から言っておきます。それにリベル君」
「はい」
「君は上級神官試験が近いんですから」
「ですが、今は試験どころでは…」
「確かにそうですが、備えは必要ですよ」
「分かりました」
リベルはレルクの言葉を素直に受け止めて立ち去った。
「さてと、行きましょうか」
レルクは長髪をふわりと翻し、向きを変える。長髪が靡いた時に首筋に模様が刻まれているのが見えた。
クレイルはレルクの着いていく。
「ラズゥールは失礼なことを言いませんでしたか」
「えぇ」
「あいつはあれでとても良い奴なんですがね、お聞きになったと思いますが先の件がありますからピリピリしているんですよ」
「そのことは見てて分かります」
「それに私達、二人は幼少の頃から冥王を母親ように慕っていましたから」
「そうなのですか」
「とっ着きました、この部屋です」
レルクは部屋の扉を叩く。
「王子、レルクです」
「入れ」
レルクは先に部屋へ入った。
部屋の中には大きな寝具に入ったまま上半身だけ起こしている銀髪の両頬に模様の入った青年がおり、首には異彩を放つ蛇のような首輪があった。
「何の様?レルク」
「王子にお会いしたいという方がお越しです」
「通して」
クレイルが部屋の中に入ってきた。
「……クレイル!?」
冥王の子息であれバルディは見知った顔に前のめりになる。
「バルディ、久しぶりですね」
「どうしてここへ?」
「それは…」
麓町ゼルゼの教会で遭ったことを話した。
「そんな僕も母上もそんなこと許可していない!」
「分かっています。だから来たのです」
「そうか、それは手間を取らせて悪かったね」
「バルディ、少し王宮の中を回っていいですか?」
「そんなこと聞かなくても君なら好きに回っていいさ、レイク、クレイルを案内してやって」
「はい、かしこまりました」
二人は部屋を出た。
「あれは何ですか?」
クレイルはレルクが部屋の扉を閉じるなり訊いた。
「気付かれましたか、あれは幻惑の法具ミスティク」
「ミスティク…確か着けられた者を操る法具」
「あれを着けているため時折レーデル卿に操られているのです」
「外すことは出来ないんですか?」
「着けた者にしか外せません」
「これはツヴァイ」
「レーデル卿…」
そこには額に三本の小さな角を持つ小太りの男がいた。
「んっ……!何故、人間が王宮内にいる、汚らわしい」
精緻な布を口許に当て、目を細めて厭わしい表情をする。
「どうゆうことだ、レルク・ツヴァイ」
「この方はセレディナス様に会いに来られたのです」
「セレディナスに?奴め人間なんかとつるんでいたのか、消えてくれて清々したわ」
レーデルは高々と嘲笑った。
「くっ!」
レルクは奥歯を食い縛り、狐目を開くと鋭い目付きでレーデルを睨む。
「おぉこわい、その人間を牢に容れろ!」
「貴方の言うことなど」
「王子の言うことでもそんなことを言えるかな?」
レーデルはレルクとクレイルの背後に視線を送る。
「レーデルの言うことを聞け、これは命令だ」
「レーデル!おまえぇ…!」
「落ち着いて下さい」
クレイルはレルクを宥めると二人の背後にガシャンと鎧がぶつかり合うような音が聞こえた。
「銃機兵、二人を牢に容れろ」
レーデルは命令する。二人の背後には重厚な鎧を纏う人型の機械がいた。
「精霊粒子兵器?完成してたのか…」
「まだ試作品だがね、さぁ連れて行け!」
「イエス、メイレイヲジュダクシマシタ」
「素直に言うこと聞いた方が良さそうですね」
「えぇ」
銃機兵は二人の身体を掴み、牢へと連行する。
レーデルは二人を牢へと連行する後ろ姿を見てほくそ笑む。
デア城~地下古書室~
ラズゥールは沢山積み上げられた古書の中にいた。
「これでもない!どこに…」
何かを探して、本を開いては閉じ、開いては閉じるの繰り返しを幾度も続けてようやく目的の物を見つける。
「在ったこれだ」
そこには革張りの分厚い本があり、冥界の王族の刻印が刻まれている。
「…やっと見つけた…」
突然、地下古書室の扉が開き、息を切らしたリベルが入って来た。
「ラズゥールさん…」
「どうした落ち着けリベル」
「レルク様が…」
「レルクがどうした?」
「クレイルさんと一緒にピエモンテ牢獄に」
「あの人間と一緒に!?誰の命令だ?」
「バルディ様の命令です」
『バルディ…ということはレーデルか』
ラズゥールはすぐに誰の意図かに気付く。
「ちっ行くぞ、リベル」
「はい」
二人はピエモンテ牢獄に向かった。
ピエモンテ牢獄~南棟~
クレイルとレルクの二人は薄暗い明かりの灯った牢の中にいた。
「困ったことになりましたね…」
「何とかしてでないと」
「魔法は?」
「無理です、この建物に使われているのはアンチマテリアルという物質で魔法を無力化します」
『この閉塞感はそれでですか』
「今は時が来るのを待つしかないです」
冥王宮ルシファール~???~
大理石の長机の上にある幾つかの燭台だけが灯る部屋の中、レーデルと不穏な輩が卓を囲む。
「キース、計画は順調か」
「えぇ、もちろんよ」
大鎌を肩に立て掛けて椅子に座る修道女が然も当然のごとく余裕な声色で答える。
「どうしてあの二人を生かしておいたんですか?」
姿勢正しく椅子に座る顔の上半分を銀の仮面で覆った男がレーデルに訊いた。
「あの二人にはまだ使い道がある、王子と同じようにな」
「あの人間をやるときが来たら俺に任せてくれ」
大理石の長机に足を組んで乗せて、椅子に座る目に傷のある男が牙のような鋭い歯を見せて言う。
「ガウゼスにしては珍しくやる気ですね」
「あの人間には借りがある」
「そうね、私がせっかく神鎌の分身である偽鎌エルセニスを貸してあげたのにアッサリ負けて逃げてきたんですものね」
「けっ!そうゆうお前も人のこと言えねぇだろうが」
「なんですって!私はセリウスに止められたからよ」
「どうだかな」
「まぁまぁ、二人とも」
顔の上半分を銀の仮面で覆った男が止めに入った。
「相も変わらず仲が悪いことで」
黒のローブを着た黒髪の男と黒い鹿のような生き物が現れた。
「なんで此処にいるのよ、貴方がこちら側に着ちゃまずいでしょ?」
「キースの言う通りだビーゼルス。勝手な行動は慎め」
レーデルはビーゼルスに釘を刺す。
「はいはい。行くよ、シュラフ」
ビーゼルスとシュラフは暗闇に消える。
「なにあの態度!」
「全く不愉快な奴だ」
「そうですか?僕はあぁゆうのは嫌いじゃないですよ」
「セリウス、お前は変わってんだよ」
「それはどうも」
ガウゼスの言葉に顔の上半分を銀の仮面で覆った男は微笑む。
『そういうとこがだよ』
ガウゼスは心の中で呟く。
~???~
ほの暗い空間が広がり、その中に白い石で造られた檻がある。
その中にいる誰かにビーゼルスが語りかける。
「いつ見ても美しい」
檻の中には模様の入った両頬に銀色の長髪、華奢な女性がいた。
「外道に褒められても何も感じぬ」
「さすがは冥王セレディナス様はどんな状況でも強気でらっしゃる」
セレディナスは何かをしようと構えた。
「無駄ですよ、そのアンチマテリアルの檻の中では魔法が使えませんから」
「いつまで私を此処へ閉じ込めておくつもりか?」
「私はただ命令を受けているだけですからお答えしかねますね」
「では何の目的で私を連れ去った?」
「それはご自分がよく分かってるんでは?」
「なにを言っている………まさか」
セレディナスは何かに思い当たる。
「はい、それではまた」
ビーゼルスは恭しく頭を垂れる。そして、元の体勢に戻ると踵を返す。
「行きますよ、シュラフ」
ビーゼルスとシュラフは暗闇に消えた。
ピエモンテ牢獄~正門~
ラズゥールとリベルは堅牢な門の前にいた。
ラズゥールは拳を力強く大きな扉を叩く。
「誰かいないか!?」
「全く返事がないですね」
「妙だな」
リベルが正門の大きな扉に触れると重々しい音をたてながら開く。
リベルは突然、開いた扉に驚き、手を引っ込める。
「中に入るぞ」
「あっ!はい」
二人は開いた扉から中に入ると目の前に庭園があり、奥には左右に別れた建物がある。
そして、その間には監視塔がそびえ立っている。
二人は庭園を駆け抜けようと踏み出すがすぐに動きを止める。
「気を付けろ、リベル」
「もう一仕事か」
黒のローブを身に纏い、身の丈ほどの大刀を背中に携えた布で目を隠した金色の髪の男が二人の前にいた。
「何者だ!」
『いや、あの容姿、あの人間が言っていた闇の帝王の配下か』
「これから死ぬ者に答えるだけ無駄だな」
「そんなもので目を塞いでいて勝てるとでも」
「今に分かるさ」
「リベル、先に行け」
「でも…」
「お前がいても足手纏いになるだけだ、行け!」
リベルは建物に向かって走って行こうとしたすぐにラズゥールが止める。
「待て!これを持って行け」
リベルに向かって本を投げる、リベルは蹌踉けながらも確りと受け取った。
「これは?」
「持って行けば分かる」
布で目を隠した金色の髪の男は距離を取りながら横を駆け抜けていくリベルを横目で見送る。
「追わないんだな」
「その必要はない、すぐ片付くからな」
「まあ、追おうとしても俺が止めたがな」
ラズゥールは腰の左右に携えた剣の柄に手を掛けていた。
「口が減らない奴だな」
ラズゥールは二振りの剣を引き抜いて構える。
「剣は抜かないのか?」
「貴方はそれに価する力じゃない」
「気に障る奴だな」
ラズゥールはグッと地面を踏み締めるように一歩を踏み出すとそこから加速して布で目を隠した金色の髪の男に片方の剣で切り掛かる。
「欠伸が出るほどに遅い」
男は僅かな所作で軽々とラズゥールの剣を躱した。
「身軽だな、これではどうだ」
ラズゥールはもう片方の剣を既に突きの体勢で構えていた。
「次は何が出るか」
ラズゥールは三段回に分けて突きを繰り出した。
一度目の突きは布で目を隠した金色の髪の男の脇を掠め、二度目は男の肩スジを掠めた。そして、三度目は男の頭の横を掠めた。
『こいつ本当に見えないのか?』
ラズゥールは全て躱されたことに内心驚きつつ後方へと跳び退き、布で目を隠した金色の髪の男から距離を取る。
「少しは出来るようですね」
目を覆っていた布がハラリと落ちた。
「少しだけなら遊べるかもな」
布で目を隠した金色の髪の男は背中に携えた大刀を抜いた。
『起きろデスヴァルク』
しかし、大刀は何の反応も示さない。
『まだ目覚めるには時間が掛かりそうだな』
『妙な刀だな、微かだが胎動を感じる』
「私の名を教えてあげますよ」
「突然、どうした?」
「貴方を少しは認めてあげるということ、私の名はワグ」
ワグはデスヴァルクを構え、ラズゥールも二振りの剣を構えた。
僅かな静寂の後に互いに相手の方向へと走り出した。
ワグは大刀を下方から相手の脇腹目掛けて振り上げる。だがラズゥールにそれを一方の剣で受け流される。
受け流されたことで体勢を崩したワグにラズゥールは再び、三段突きを繰り出すがそこにはもうワグはいなかった。
「なんて速い奴だ」
「貴方が遅いだけのこと」
ワグの頭の中に声が聞こえた。
『アニキ、いつまで遊んでるの?目的、忘れてないよね』
『もちろんだ』
『ならいいけど遊びが過ぎるのはアニキの悪い癖だよ』
『分かってるよ、で目的の物は確認してるんだろ』
『当たり前でしょ』
「では、そろそろ終わりにしようか」
大刀から禍々しい気が放たれ始めた。
『やっと起きたか』
「なんだこの肌がピリピリ来る感じは」
ラズゥールは気構えた。
「これは本気で掛からないと危険だな」
大刀に変化が起こり、大刀を握るワグの右腕と一体に成っていく。
「さぁ、行くよ」
ワグは大刀、デスヴァルクを振うと空気が振動し地面に裂傷が走る。
「今のは何だ!」
砂埃が立ち上がる。ラズゥールは砂埃を防ぐように口許を片腕で覆う。
「やはり遅いな」
ラズゥールの背後からワグの声が聞こえ、ラズゥールは言葉なく倒れた。
「この程度なら本気を出すまでもなかったな」
ワグの右腕は元の姿に戻っており、大刀を背中の鞘へ仕舞うと建物が建ち並ぶ方へと向かった。
ピエモンテ牢獄~監視塔~
「はぁ…はぁ……ここは何処だろう」
リベルは息を切らしながら宛も無く歩いていく。
「あれは」
リベルは監理室という文字と矢印が書かれた札を壁に見つけ、そこへと向かって歩いて行くが誰とも出会わない。
「ここに居た者達は何処に行ったんだろう」
そして、監理室へ着いた。
「ここに二人の居場所が分かる物があるといいけど」
室内を捜索し始めた。
「これは…囚人名簿?」
リベルは机の上に置いてある囚人が投獄されている場所が書かれた名簿を見つけた。
「えぇっとツヴァイ…ツヴァイ…ツヴァイ・レルクーイ……」
名前を呟きながら名前を探す。
「あった!二人とも一緒の部屋のようね、南棟のA087号特別監房」
リベルは監理室を出て、南棟に向かった。
南棟のA087号~特別監房~
「ここはやけに静かですね」
クレイルは静寂を壊さぬように穏やかな声で言う。
「地下のようですから…このような所にいるとデア城に来る前のことを思い出しますよ」
レルクは過去を語り始め。クレイルはレルクの言葉に耳を傾ける。
「私はこのような冷たい床の部屋に鎖で繋がれ、涙を流していた…ある日のことです。優しく穏やかな声が聞こえてきた…」
レルクの遠い記憶~回想~
「坊や泣かないで」
「だぁ~れ?」
綺麗な女性がうっすらと姿を現した。
「ここよ、坊やはどうしてここに?」
「僕は悪い子だから父さんと母さんを…」
「坊やは悪くないわ、これを見なさい」
床に映像が映し出され、二人の男女が映っている。
「あんな子をいつまで繋いでおくつもりあんな子早く殺してしまえばいいわ」
「そうしたいがボルツとシンシアの奴らが早くあの場所を吐かないから、やっちまったんだからしょうがないだろう」
「でも、あの子も呪われた子なのよ…」
「分かっている」
「そんな叔父さんと叔母さんが僕の父さんと母さんを…」
「そう、だから」
レルクに繋がれていた鎖が外れた。
「行きなさい」
「でも…呪われた僕の行く所なんて何処にも…」
「では、私の所へ来なさい」
「行ってもいいの?」
「もちろんよ」
綺麗な女性は微笑んだ。
「それがセレディナス様でした」
「そんな出会いがあったんですね」
「えぇ…もう昔の話です」
レルクは切ない目をした。
『セレディナス様どうかご無事でいてください』
「二人共、大丈夫か?」
扉越しから声が聞こえた。
「誰です?」
「俺だ」
扉の格子窓の向こうに顔を出た。
「ラズゥール、やはり来てくれましたか」
「いま、開けてやる」
カチャと音がして扉の施錠が外れた。
「早く出るぞ、ここは何か変だ」
「はい、行きましょう」
レルクとクレイルは特別監房から出た。
三人は外に出るため歩いていると通路の角で誰かとぶつかった。
「きゃっ」
ぶつかった人物は尻餅をついた。
「いててて………あっ!レルク様」
「リベル!?どうして此処に?」
「こいつからお前達のことを聞いて俺と一緒に来たんだ」
「お二人共…あっ!ラズゥールさん無事だったんですね、よかった」
「まぁな、お前もよくここまでよく着いたな」
ラズゥールはリベルの頭を軽く撫でた。
レルクは懐疑的な表情をする。
「早くここから出るぞ」
「えぇ…」
四人は南棟から外へ出た。
「リベル、渡していたものは?」
「ここに在ります」
リベルはラズゥールから渡された物を取り出した。
「王家の刻印!?まさかそれは…」
リベルはラズゥールに渡そうとしたが本を掴む。
「それが目的だったとは」
「いきなりどうした、レルク」
「もう止めたらどうですか、演技は」
「何を言っている?」
レルクは何か呟くとラズゥールの立っている地面に魔法陣が現れ、透明な壁がラズゥールを囲む。そして、魔法陣が強く輝くと爆発した。
爆煙が晴れるとラズゥールは無傷のまま立っていた。
「全く危ないなぁ~」
ラズゥールの口調と声色が変わった。
「どうしてわかったの?」
「ラズゥールとは永い付き合いですから。彼はシャイなんでさっきの様に素直に人を褒めることはしませんよ」
「ひどい言われようだなレルク…俺だって…褒めることはある…」
壁にもたれ掛かりながら本物のラズゥールが現れた。
「本物のご登場ね」
「ラズゥール!」
「ラズゥールさん!」
レルクとリベルはラズゥールに駆け寄った。
「大丈夫かラズゥール」
「まぁな、酷くやられたがな」
「リベル、ラズゥールに治療を、私はこちらを」
レルクは偽者のラズゥールの方を向いた。
「貴方は何者ですか?」
「そこのお兄さんの知り合いよ」
偽者のラズゥールはクレイルの方を見た。
「どうゆうことですか?」
レルクは偽者のラズゥールに視線を向けたまま訊いた。
「私は貴方なんかと知り合いでは…」
「森の神殿で会った僕のこと忘れたの?」
「……まさか!?」
「思い出したみたいね」
偽物のラズゥールは何処からともなく黒のローブを取り出して翻すと黒のローブを纏った金色の髪の女に変わった。
「やはりヴァルキリアの…」
「残念だけどもうお別れの時間」
空間が裂けて暗闇が口を開けた。
「あとこれ貰ってくね」
冥界の王族の刻印が刻まれた本を手に笑みを見せる。
「いつの間に!」
アインは裂け目の暗闇へと消える。
「待ちなさい!」
クレイルはアインを追おうと裂け目に駆け出そうとしたが突然、目の前を何かが横切り、砂埃が舞う。その最中に裂け目が閉じる。
「逃げられましたか…」
「あれは何者なんです?」
「造られし黒き血の者」
「あれがヴァルキリアの……」
レルクはぼそっと呟いた。
「ラズゥールさん!?」
リベルの声に反応してレルクはリベルと所に駆け寄り、ラズゥールの容態を伺う。
「大丈夫、気を失っただけですから」
「誰か来ます」
「ここで誰かに見つかるのは得策ではありません」
レルクが虚空に手を翳すと杖が現れた。
「行きます…」
クレイルが言葉を言い終える前に四人の姿が消えた。
~マテリアル研究所~
色取り取りの鉱石や大きな硝子管、濫立するように積み上げられた書物、書き殴られた文字列と図形が書かれた黒板がある部屋で白衣の老人は足先を地面で打ちならしながら何かを待っていた。
「やっと戻ってきよったか」
白衣の老人の元に瞼を閉じた金色の髪の男と金色の髪の女が現れた。
「遅くなりました、キルティング博士」
「待ちくたびれたぞ、で例の物は?」
「アイン」
アインは手に持つ冥界の王族の刻印が刻まれた本を博士に渡した。
「おぉ、これが名も無き書物…素晴らしい」
キルティング博士は書物を机の上に置き開くと恍惚の表情から一転、眉を顰める。
「どうゆうことだ、ワグ」
「何がですか?」
「中を見てみろ」
ワグは開いた書物の中を覗くと縦に三つ、横に三つ並ぶ八つの箱が入っていた。
「これがどうしたんですか?」
「一つ足りないんだよ、核とも言える重要な部分が…」
縦横三つずつ並ぶ箱の中心が四角く空いている。
「直ちに探して来たまえ!」
博士は期待から失望への変化の反動から声を荒らげて言う。
「はい、アイン行くぞ」
「え~また行くのぉ~」
空間が裂けて暗闇が口を開くと文句を漏らすアインの手を引いて、ワグは足早に暗闇へと消える。
「ふぅ…仕方が無い…」
博士は溜め息をつき、残りの八つの箱に視線を向ける。
「残りの一つが届くまでに準備を進めるとするか…んっ?」
物音が聞こえ、博士はその方向へと視線を移す。
「なんだ君か」
そこにはビーゼルスがいた。
「それで彼女の様子はどうだね」
「変わりはないですよ」
「そうか、ではもう一人も同じ場所に移してくれ」
ビーゼルスは少し間を置いてから答える。
「…少々難しいですが、分かりました」
「頼んだぞ」
ビーゼルスは暗闇に姿を消す。
~ピエモンテ牢獄~
「やっぱりもうここにはいないわね」
「またここへ来るなんて」
「本当、アニキは冥界が嫌いね」
「ここにはいい想い出がないからな」
ワグはそう言い、何処かへ歩き始めた。
「アニキ?お~い、全く一人で何処に行くのよ、あれ?」
「やあ」
謎の男、フェイクが現れた。
「なんであんたがここにいるのよ」
「何処にでも現れるさ」
「それで僕になんの用?」
「あれを手に入れたようだね」
「何でも御見通しってわけね」
「テキステルコアが抜けていたこともね」
「それで場所も知っているのよね?」
「もちろん、城に行ってみるといい…」
フェイクはそう言い残し、霞のようになって消えた。
「ほんと何者なんだか…」
そう呟くとワグが此方を振り返る。
「アイン、いつまでそんな所にいるんだ?」
「アニキ、城に行ってみない?城には書庫もあるし、それにあいつらがいるなら城だろうから」
「…確かにそうだな」
「でしょ?」
「なら姿を変えるぞ、アイン」
アインは力を使い、自分とワグの姿を変えてデア城へ向かった。
デア城~地下古書室~
古書室の壁が浮き上がり、ゆっくりと開く。
「よいしょっと」
壁の隠し扉を開けてリベルが出てきた。
「こんな所に繋がってたんだ」
目の前には古書が山積みにされ、通路を塞いでいる。
「これどうやって出よう…」
リベルは回りを見渡して通れそうな所がないか探した。
「ここを登るしかないかな」
リベルは近くの本棚に足を掛け登り、反対側に降りた。
「んっ?」
扉の方から声が聞こえ、リベルは扉の脇で聞き耳をたてると廊下には二人の衛兵がいた。
「聞いたか?」
「なにを」
「ツヴァイ様が牢獄から脱獄したらしい」
「それならとっくに知っているぞ」
「そうなのか?、あぁでもその話には続きがあってな、さっき牢獄から戻ってきた憲兵団から聞いたんだが捕らえられていた囚人や看守達が忽然と消えていたんだと」
「マジかよって、おい!」
隣にいる兵士を肘で突く。
「やばい、ゲルベール隊長とトリメス副隊長だ」
そこへ甲冑を着けた大柄の男と眼鏡を掛けた華奢な女が現れた。
衛兵二人は現れた男女に敬礼をする。
「貴様等!」
軽甲冑の華奢な女、トリメスは衛兵に怒号を飛ばす。
「はい!」
「ここで何をやっている、早く持ち場に戻れ!」
「はっはぅい!」
二人は血相を変えて駆け足で走っていった。
「これで邪魔者は消えたな、それでここにあるんだな」
「元々はここにあったみたいよ」
『入ってくる!?』
リベルは急いで本棚の陰に隠れると二人が入ってきた。
「そろそろいいか…」
「そうね」
リベルは本棚の陰からそっと二人の様子を伺うとそこにはワグとアインがいた。
『あいつ、さっきの…』
「こんなに蔵書があるの!?さすがは城の構文古書室ね」
「手間がかかるな、あいつを使う」
「あいつを使うの?」
アインは嫌な顔をした。
「……」
ワグは呪文を唱えた。
「御呼びですか、主」
本をたくさん身体に結び付けた男が現れた。
「名も無き書物の核を探せ!」
「はい」
身体に結び付けていた本が男を囲む様に広がり、ページがめくられていき止まった。
「主」
「見つけたか」
「はい、あちらの方向にあります」
男は隠し部屋の扉のある場所を指した。
「あそこに隠し部屋があります」
「そうか、下がれ」
男は消えた。
「あれ無表情だから嫌いなのよね」
「仕方ない、ドールに表情は不要だろ」
二人は男の指していた方へ向かった。
『このままじゃ皆が危ない』
リベルは考えをめぐられせた。
「………」
足音がどんどん遠ざかり、隠し部屋への扉に近付いていく。
「そうだ」
リベルは床に指で何かを描くと部屋の中心に小さな穴が口を開ける。
「フォールグランデ」
リベルはそう呟くと穴が大きくなっていき、本や棚が音を立てながら穴へと落ちていく。
二人は音に気付き、穴の方を向いた。
「どうする?アニキ」
「心配ない、ただまやかしだ」
ワグがそういうと穴は消え、何事もなかったかのように元の室内に戻る。
~隠し部屋~
牢獄から転移した四人は薄暗い部屋に着いた。
「ライティング」
部屋の各所に乳白色な石に明かりが灯り、部屋の中を照らし出す。
そこには異様な光景がある殴り書きされた紙が壁中に貼ってあり、色んな法具が置いてある。
「ラズゥールをそこのベットへ」
レルクの示す場所には小綺麗なベッドがあり、リベルとクレイルはラズゥールをベットの上に寝かせる。
リベルは不意に衣服のポケットに何か入ってるのに気が付き、その物を取り出してみた。すると、中から文字の刻まれた四角い箱がでてきた。
「リベル、それを何処で?」
レルクはリベルがポケットから出したものを見るなり訊ねる。
「わかりません、いつの間にかポケットに」
「見せてもらっても宜しいですか?」
リベルはクレイルに文字の刻まれた四角い箱を渡した。
クレイルは箱の全体を隈無く見たが書かれている文字は全く見たことのない文字だった。
「全く何が書かれているかわかりませんね…」
「そういえば此処って何処なんですか?」
「デア城の私の私室です、そこの扉を出ると古書室に繋がる通路がありますよ」
「私、ちょっと城内の様子を見て来ます」
「そうですね、敵が城にもいるかも知れませんしね」
「大丈夫ですか?」
クレイルはリベルの身を案じる。
「私なら大丈夫です、大体の魔法なら使えますから」
リベルは隠し部屋を出た。
「クレイルさん、私にもその箱を見せてもらえませんか?」
クレイルは箱を渡した。
「…………………」
レルクは箱を見回しながら何かを呟いている。
「どうしたんですか?」
クレイルは声を掛けるとレルクは呟き終える。すると箱が輝き出し、部屋中が光に満ち溢れる。
そんな光の中に空中に人影が現れる。
そして、光は次第に収まりと空中に浮かぶ、それが表徴する。
その姿は子狐のような容姿をした少女だった。
「…ルナ……」
眠るように目を閉じ、膝を抱えながら宙に浮かんでいる少女を見つめるレルクの口から言葉が零れ落ちる。
「何をしたんです?」
「あぁ…私はただ箱の文字を読んだだけで」
レルクの問い掛けに一瞬、生返事をするが直ぐにクレイルに意識を向けて答える。
「あの文字を読めたんですか?」
「えぇ…」
疑問気な顔をした。
『でもどうして…私はあの文字と少女の名前を…』
宙に浮かんでいた少女が床へと下りてきたのでクレイルは少女の身体を受け止めた。
『この子は一体…』
そんな時、ラズゥールが目を覚ました。
「何処だここは?」
「良かった目を覚まして。ここは城の地下にある部屋です」
そこへリベルが駆け込んできた。
「大変です、牢獄に居た奴がすぐそこまで来ています」
「何だって!?」
「クレイルさん、障壁魔法は使えますか?」
「えぇ、使えます」
「ではこの部屋の出入口にお願いします」
「分かりました」
「私は入口を別の空間と繋ぐので。リベル!」
「はい」
「君はラズゥールの傍にあとその子を」
クレイルはリベルに少女を渡した。
「この子は?」
クレイルとレルクは答えることなく呪文を唱え始め、先にクレイルの障壁の方は完成し、そこへワグとアインが近付いてくる。
「早く手に入れて帰 イテッ!」
アインは何かにぶつかった。
「なんで…こんな所に壁が!」
ワグはそっと壁に手を触れた。
「ふっ下手な小細工を」
ワグは背中に携えた大刀、デスヴァルクを抜いた。
「アニキ、ちょっと待っ」
「問題ない」
ワグは轟音と共にデスヴァルクで壁を貫き、辺りに砂埃が立ち込める。
「…全くだから待ってって言ったのに全身 埃だらけじゃない」
「それより中だ」
「それよりってちょっとアニキ!」
ワグは先に進み、アインはその後を追う。
~マテリアル研究所~
キルティング博士は準備の為に忙しなく動いていると名も無き書物の隙間から光が漏れているのに気付く。
「これは何が起きてる。まさか」
突然、書物が開き中から八つの光が飛び出て何処かへ消えた。
「やはり…」
博士は書物の中を見ると八つ箱が消えていた。
「コアの封印が解けたか…私の…私の研究が………」
博士は力無く机に両手をつき、空になった書物を見つめる。
「いや…まだ終わりではないな」
博士は目を見開くと顔を上げて研究室から出て行った。
~???~
「動きだしたようだね」
フェイクを囲むように八つの光が浮いている。
「さぁ、お行き、居るべき場所へ」
八つの光はそれぞれ別の方へ消えた。
「行こうか」
フェイクはその場から霞のようになって消えた。
~???~
何処からか一つの光がセレディナスの前に現れた。
「目覚めたようね、これで私を此処に連れてきた連中の思惑通りにはいかないでしょう。行きなさい彼女の元へ」
そして、光は何処かへ消えた。
~亜空間ソレイド~
アインとワグは先程までいた場所とは異なる空間に足を踏み入れていた。
「ここはどこ?」
「厄介な所に引き込まれたな」
そこは蒼い空と何処まで行っても砂礫の大地が続く空間。
「でっどこなのよ、アニキ」
「神に造られしソレイドか…」
「どうするの?」
「…」
ワグはいつものように空間を開こうとしたができなかった。
「駄目か、扉は出ないな」
「じゃあ、僕達出れないの!?…あっ」
誰かが此方に歩いてくるのにアインは気付いた。
「こんな所に人がいるの?」
ワグはデスヴァルクを構えた。
「こんな所に誰か来るなんて珍しいわね……」
大鎌を携えた修道女が言う。
「その格好、グリムレイド?」
「何故知っている?」
「教えて上げてもいいけど貴方の力量どれだけの物か試させてもらうわよ」
修道女は笑みを浮かべながら大鎌を軽々と振り回して玩ぶ。
「アイン下がれ」
修道女の玩んでいた大鎌の動きが止まり、ワグの前に瞬く間に現れた。
『速いな…でもこれくらい大丈夫だ』
ワグはデスヴァルクで大鎌を受け止めた。
「全く飽きもしないで 誰にでも勝負をしたがりますね」
「止めなくていいのか?」
「もう少し見てから止めますよ」
顔の上半分を銀の仮面で覆った男と目に傷のある男が離れた所から戦いの様子を眺めている。
「よく止めたわね、でも…」
デスヴァルクで受け止めていた大鎌が重くなる。徐々に大鎌の刃がワグに迫る。
「何処まで耐えれるかしら?」
修道女は愉しそうな笑みを見せながら言う。
ワグは力を逃がすようにデスヴァルクを傾けると大鎌の刃がデスヴァルクの刃に沿うように火花を散らしながら流れ落ち、大鎌の鋒が地面に刺さる。
そして、ワグは後ろへ跳び退くとデスヴァルクと右腕を一体化させた。
「いきなり来て好き勝手に」
デスヴァルクを数回振るうと刃が空を切り、修道女へと飛んでいく。修道女は大鎌を振るい突風を起こし、全ての刃を消し去った。
「そろそろとっておきを見せてあげる」
キースが大鎌の石突きで地面を突くと石突きを中心に魔法陣が広がり、三枚の刃を持つ大鎌の形へと変化した。
そして、修道女は変化した大鎌を振るうと大鎌の刃からは無数の衝撃波が放たれた。
「くっ!こんなもの」
ワグはデスヴァルクを縦に振り下ろした。
「はい、そこまでです」
顔の上半分を銀の仮面で覆った男の言葉と同時に無数の衝撃波を掻き消え、手でデスヴァルクを受け止めていた。
「ちっ」
「さすがはセリウスだな」
「すまないな、仲間が非礼を」
「そうよ、アニキ大丈夫か?」
「あぁ…」
「私達は冥界の住人です」
「冥界か…」
「この場所は神の庭ソレイド、亜空間に存在しどの世界にも属しませんが、ただし、冥界とは繋がりやすいようで」
「それで冥界の住人が何の用よ」
「キルティング博士が御呼びです」
「どうして博士を知ってるのよ」
「我等が父ですから」
そう言うとセリウスは手で空を十字に切った。すると地中から扉が現れ開いた。
「さぁ、どうぞ」
ワグとアインは言われるままに扉へと入った。
~隠し部屋~
「上手くソレイドに誘導できたか」
レルクは安堵の表情を浮かべていると少女の元へ一つの光が現れた。
四人は突然、現れた光に驚き、状況の赴くままを見つめる。
現れた光は少女の胸へと入っていき、少女は覚醒する。
「ここは…?」
「冥界、デア城の私の私室です」
「そう…」
「レルク様、この子は何者なんですか?」
「全く検討が…ない…くっ頭が」
レルクは頭を押さえた。
「レルク様!?大丈夫で……」
レルクの周囲の音が遠退いていく。
『お前は私を知っている…』
レルクの頭の中に声が響いた。
『頭の中に何か…』
膨大な力が流れ込んで来た。
「うわぁぁぁぁぁぁ…」
レルクは叫び声を上げ、膨大な魔力が放出されて視界全てが光に消える。
~王宮ルシファール~???~
王宮の外れ、久しく使われてないが堅牢な大きい建物。
「皆さん、揃ったようですね」
黒いローブを着た黒髪の男がワグ、アイン、キース、セリウス、ガウゼスを大きな扉の前で待ち構えていた。
「ビーゼルス、お前がどうして此処に?」
「目的の為にね」
「目的?」
「博士がお待ちです」
ビーゼルスはワグの問いには答えず、両開きの大きな扉の片側にある小さな扉を開けて五人を中へと案内する。
中は長椅子が幾つも並び、吹き抜きのように高い天井、そこは歴史的にも美術的にも価値があると思われる絵が描かれている。
「大聖堂…」
キースは外観から見てとれない中の荘厳な光景に辟易する。
「お待ちしてましたよ」
「何の用です?」
ワグはキルティング博士に無愛想に訊いた。
「此処をご存じかな?」
「始まりの場所」
「御名答、さすがは…」
キルティング博士は言葉尻に含みを持たせるとワグは無言で睨む。
「アニキ?」
アインは様子の違うワグの雰囲気を読み、聞こえるか聞こえないかというくらいの声で言うが案の定、ワグは何の反応も見せず、キルティング博士が口を開く。
「コアが目覚めた」
「気になってたんだけどコアって一体何なの?」
ワグでなく。キルティング博士が言を発したことにアインは一瞬、不快な表情を浮かべるがすぐに消して、聞くべきことを博士に訊ねる。
「話してなかったかね、あれは初代の冥王の思念じゃ。初代冥王は自分の力が余りにも強大な為、自らを封印したんじゃ」
『コア、初代冥王…博士は何の目的でそんなものを』
アインはそう思っていると博士はこれからについて語る。
「コアが目覚めたからには今後の動きに修正をくわえねばいくまい…まずはコアの目覚めに生じて覚醒する冥界の精霊キマイオスの捕獲をセリウス、キース、ガウゼスこれはお前達の役目だ」
「分かりました」
三人を代表してセリウスが答える。
「君達、二人は引き続きコアの確保」
「わかった…」
ワグはそう言うと空間を開く。
「アイン」
名を呼ぶと開いた暗闇に消える。
「アニキ」
ワグに次いでアインも暗闇に消え、空間が閉じる。
二人が消えるとそこに突然、地響きが鳴り響いた。
「動き始めたか…こちらもそろそろだな…」
セリウス、キース、ガウゼスの三人の身体が輝き始めた。
「これは!?」
「お前達の身体はキマイオスとほぼ同等の性質を持っているからな、共鳴しておるのだよ」
三人の背中に片翼の翼が生えた。
「では行くとするか」
ビーゼルスは空間を裂き、道を造ると五人はそこへ進んだ。
~デア城~崩壊跡~
辺りは瓦礫が山積し、城は見る陰もない。
「んっ…」
クレイルは子狐のような容姿をした少女、ルナの尻尾の上で目を覚ます。
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「んっ?何者だ」
キマイオスはクレイルに向かって言った。
「キマイオス、心配ない私の客人だ」
『どうやらレルクの時の記憶はないようですね』
突如、空間が裂け博士達が現れた。
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周囲を見渡しながら言った。
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博士はルナに話し掛けた。
「一緒に来てもらおうか?」
「嫌だと言ったらどうするつもり?」
博士は何か合図をするとセリウス、キース、ガウゼスの三人が前に出た。
「解せんな似た匂いがするな」
「気付きましたか、さすがはと言った所かな」
「この私を試すか、キマイオス」
「承知」
セリウスは三本の管の繋がる手甲、神拳ヴォルツ、キースは三枚の刃を持つ大鎌、神鎌エルセニス、ガウゼスは血の如く紅き三ツ又の槍、神槍ウルニヌスを三人は構えた。
「こんな奴一捻りよ」
先にキースが神鎌エルセニスを後方に構え、キマイオスに向かって行く。
「もらったぁ!」
キースは神鎌エルセニスの鋒を低い位置から振り上げる。だが、キマイオスは神鎌の刃の部分を指で挟み、軽々と止めた。
その瞬間、キースはキマイオスと目が合った。
『何?この感じ…』
キースは早く離れないといけないと思い、神鎌を引いたがびくともしない。
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「消えた!?」
だが、キマイオスはその場から消え、セリウスの背後に現れた。
「はやい!」
セリウスはそのまま地面を殴り、地面は深く陥没した。
「これなら避けられまい」
一瞬でキマイオスの目の前に現れ神槍ウルニヌスで突いたがキマイオスはそれに対し、指一本で穂先を止める。
「けっなんて力だ」
ガウゼスは神槍を押して後ろへ跳び退き、地面に着地した。
「これが神から賜りし法具とは嘆かわしい…」
「なにを!」
「私が神具の真の力見せてくれよう」
キマイオスの両手に神爪牙リベロンが顕現する。
神爪牙リベロンは緩やかなS字を描いたような鋭い刃がそれぞれ一つずつ付いている。
「滅び逝くその身に神の旋律を刻むがいい」
キマイオスは三人の後ろに一瞬にして移動した。
「エターナルリベリオン」
「なにも起きないじゃない」
「ぐはっ…」
ガウゼスの身体に無数の傷が現れ、仰向きに倒れた。
「どうなって…」
セリウスとキースにも傷が現れ、崩れる様に倒れた。
「やはり羽の化石から抽出したコピーでは力不足か」
「どうしますか?」
「例の計画を進める、あと神具のオリジナルの回収を」
「コピーはよろしいのですか?」
「コピーはコピーに過ぎんまた造ればよかろう」
ビーゼルスは何処かへ歩いていく。
「アニキ、どうするつもり?」
「今はまだ……」
ワグとアインは状況を傍観しているとビーゼルスがこちらにやって来るのが見えた。
「そろそろ君達にも働いてもらおう」
「断る」
「相変わらず私の言うことに逆らうね、君は」
「……」
「従わないと言うなら…」
ビーゼルスは黒い炎を手に出した。
「なら?俺を殺す気か?」
「そんなことはしないさ、君には使い道があるからね、だから…」
ビーゼルスはアインの背後に素早く廻り、黒い炎を身体に打ち込んだ。
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アインは気を失い、倒れる身体をビーゼルスが支える。
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「おっと近づかない方がいい、例え実の妹ではないとは言え殺されたくはないだろう?」
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「なら、キマイオスを始末しろ」
ワグは独りでキマイオスの方へと歩いていく。
「なんだか仲間割れしていたように見えましたが」
「仲間割れだな、あの青年は戦うことは本意ではないということだ」
クレイルとルナは遠くで行われた遣り取りを見ていた。
「何とか出来ないですか?」
「できない、それに…」
「ここまでのようですね」
「キマイオス」
三人は崩壊したデア城に冥界の軍が向かってくるのに気付いた。
ビーゼルスもそれに気付きアインを抱えたまま素早く神具を回収し博士の元へ行き、空間を開いた。
「待て!アインを何処へ連れてく気だ!」
「君の妹は預かって行くよ、だから…」
ビーゼルスはそう告げると博士と共に開いた空間の暗闇へと消えた。ワグは開かれた空間へ急いだがあと少しの所で空間は閉じる。
「アイン…」
ワグはその場で膝から崩れ落ちた。
「君もここから早く離れた方がいい」
クレイルはワグに話し掛けたがただただ地を見つめ呆ける。
「仕方ありませんね」
クレイルはワグを担ぐとキマイオスは三人を抱え、その場から飛び去りるとそこへ軍がやってきた。
「生存者が居ないか確認しろ!」
兵士達は崩壊した城に散らばった。
「隊長!」
兵士の一人が指揮を取る人物に駆け寄る。
「見つかったか?」
「いえ、これを見て下さい」
そこには辺りに散乱した羽とセリウス、キース、ガウゼスの三人が倒れていた。
「何だこれは…」
「一人まだ息があります!」
「急いで運べ!」
「はい」
数人の兵士が集まり、担架に乗せて運んでいった。
隊長は後の二人を調べていると突然、近くの瓦礫が盛り上がった。
「ぶわぁは!」
ラズゥールが瓦礫を跳ね退けて現れた。
「大丈夫か?リベル」
ラズゥールは共に瓦礫に埋もれていたリベルに声を掛けた。
「はい…」
リベルはゆっくりと立ち上がる。
「貴方は騎士団長殿ではありませんか、ご無事でなによりです」
「あぁ」
「何があったかは分かりますか?」
「わからん…」
「隊長、王宮の方から連絡がありましてこの事態の首謀者が判明したとのことです」
「リベル、王宮に向かうぞ」
ラズゥールとリベルは冥王宮ルシファールへ向かった。
~???~
「今回の件どうされますか?博士」
「全ての責任はレーデルにとらせればよかろう、奴は始めからその為の駒に過ぎんがわしらのこと喋られては困るな」
「そのことでしたらお任せをもう手配してあります」
「そうか、手が早いな。それで例の女は?」
「こちらに」
ビーゼルスは白い石で造られた檻の前に案内する。
「お久しぶりですね、冥王セレディナス」
「キルティング、何故?まさか今回の件はお前が」
博士は笑顔で返した。そして、新しく連れてきた女のいる隣の檻へと歩いて行く。
「これが」
「ずっと眠ったままですが」
「お前達の目的はなんだ?テキステル・コアを手に入れることには失敗したようだがな」
「どうしてそのことを?」
ビーゼルスはセレディナスの言葉に驚きの声を上げる。
「さずがはアンチマテリアルの中に封じられても感覚は鋭いようでそれで…目的でしたね」
「そうだ」
「創成の書を知っていますかな?」
博士は淡々と語り始める。
「かつて天空で栄華を誇っていた聖都ドラグスネイドという都市があった。だが一晩にして滅びた。その要因は…創成の書に記載されている創成の光。創成の光は虚無へと誘う大いなる力、世界を消しさるエネルギーを持っているだがそれに必要なのは三種。三神女・三宝玉・生命の息吹。私はそれらを手に入れ、古しえの大樹を復活させる」
「古しえ大樹……まさか生命の樹を!」
博士は口元だけで笑った。
~廃墟~
ヴァルキリアの前には黒い騎士が並んでおり、ヴァルキリアはその並びより二歩ほど前に出た黒い騎士と話していた。
「やはり奴か」
「宜しいのですか?このままあのような者を野放しにしておいて」
「奴はあれの真実には近付けん…それに手は打ってある」
「さすがはヴァルキリア様」
「すぐにお前達にも出番があるだろう」
「我等、フルヴァリーナイツ、ヴァルキリア様の為ならいつでも」
黒い騎士達は頭を垂れて敬服する。
~???~
「それでその娘に何をしたのかね」
博士はビーゼルスが抱えるアインを示す。
「博士もデュカスの件はご存知でしょう?」
「霊媒融合の事か?」
「えぇ、あれは帝王の闇の力を石に凝縮したものを用いて…失敗した。まぁ失敗した要因はデュカスの自我が強く出てしまっことでしょうが。だが私は霊獣側の自我を強めに引き出すよう改良を加えた。私とて帝王に生み出されし者ですから帝王と同等か…いや、それ以上の闇の力を持っていますからその程度のことは他易い」
ビーゼルスは途中から自分の言動に陶酔していく。
「それでこれからどうなるのかね?」
博士はアインを地面に寝かせているビーゼルスに言う。
「観れば分かりますよ、今に始まりますから」
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「悪くないわ」
ベルデは手足を動かして感触を確かめる。
~王宮ルシファール地下留置場~
「ここから出せ!私を誰だと思っている!」
牢に容れられたレーデルが声を張り上げ叫んでいる。
「ここではこの指輪の力も期待出来んな…」
そこにレーデルの牢に近付いてくる足音が聞こえてきた。
「やっと誰か来たか 話を聞いてく…」
足音はレーデルの牢の前で止まった。
「誰だお前は!王宮の者ではないな!なにを…やっやめろ!うわぁぁぁ…」
~冥王宮ルシファール~
ラズゥールとリベルはバルディの元を訪れていた。
「無事でなによりだ、レルクとクレイルはどうしたんだ?」
「分からん…」
「そうか…」
「それで城崩壊の首謀者が判明したと聞いたが」
「あぁ、首謀者はレーデルだ」
「レーデル卿が」
「でも、どうして城を」
「それはこれから判るだろう」
バルディに着けられていたミスティクが静かに消えた。そこへ衛兵が慌てて入って来た。
「どうした?」
「留置場に拘留中のレーデル卿が殺害されました」
「なんだって!?」
「これで真相は闇の中か…」
ラズゥールは衛兵の報告を聞き呟いた。
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