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第八章
しおりを挟む天上界~ソフェル~
光が収まり、全員が瞳を開くとそこには球体を内側から見たような所に街や森、湖があり、宙心には上下左右対象な建造物がある。
「なっ!なんだここは…」
グラハムは奇天烈な場所に驚きの声を上げる。
「あそこに向かえ」
リネルトは宙心の建造物を指差し、舵を握るグラハムに言う。
グラハムはその高圧的な言い方に憤りを感じてすぐに言い返す。
「なんだって!これは私の船だ、行き先は私が決める」
「グラハム船長、あの方の言う通りにして頂けませんか?」
クロノスがじ~っと目を見つめてお願いするので了承して宙心の建造物に向かった。
「何処にも入口がないが?」
「そのまま進めばいい」
グラハムは言われるままに船を進めた。
船首が建造物の外壁に触れると波紋が広がる。
「舵が勝手に!」
誘導されるように船は壁の中へと入って行く。
建造物の内部に入ると通路があり、真っ直ぐ続く通路の途中で上下左右に分かれる通路が現れ、その中心で船は停止した。
「この船に乗船している者は全員、此処で下船してもらう、無論拒否は認められん」
ラファエロは全員に聞こえる声で宣言する。
「なんだって!いきなり来て何の説明もなしこんなとこに連れてこら…」
話の途中でグラハムの姿は消えた。
「エロじじい何を!」
「ラファエロじゃ!心配しなくても危害を加えるつもりはない」
グラハムが消えた後、船内に居た全ての者達も消える。そして、甲板にいるラファエロ達五人も消えた。
天上界アフロネイロ~霊廟殿~
アフロネイロの霊廟殿には、テンペルトとオルカスが待っていた。そこへ、ラファエロ達五人が現れた。
『フェルセルク…』
「…」
オルカスとフェルセルクは互いに目を伏せる。
「この事で召集したの?ファーレスとアビスがまだのようだけど…」
そこへファーレスが入ってきた。
「遅れてすまない」
「これで全員、揃ったようじゃな」
ラファエロはファーレスが席に着くのを見届けた後に言った。
「アビスがまだのようだが?」
ファーレスは顔触れを見回し言う。
「そのことについては今から話す」
「アビスに何か起きたの?」
テンペルトの問いにラファエロは答える。
「アビスは闇へと堕ちた」
「闇に堕ちたとは…まさか、帝王の手に」
「賢者から堕天使が出るとは嘆かわしいことですわね」
「まだそうと決まったわけではありません!」
テンペルトの言葉に堪らずフェイクが発言する。
「貴方は何者?ソフェル人でない者が口出しをしないで貰えるかしら?」
テンペルトは三つ巴の瞳でフェイクを睨み付ける。そんなテンペルトにリネルトは言う。
「彼は歴としたソフェル人ですよ。それに賢者全員との面識ありますよ」
「私はそんな者、知らないわ」
賢者達は口々にそのようなことを言った。
「彼は…闇の賢者ドラクマ」
リネルトが名前を発した瞬間、沈黙が流れファーレスが鼻で笑い言った。
「ふっ何を言っているリネルト、我々が知っている者とは全く違うではないか。それに彼はもう生きてはいないはずだ」
「そうですわ」
「僕にはわかるんですよ、光を司る僕には微量の闇の気配でも感じとることができる。この気配は間違いなくドラクマです」
「どうなんだね?」
ファーレスはフェイクに向かって言った。
「…」
フェイクは何も言わなかった。
「何か言ったらどうだね!」
そこへフェルセルクが割ってはいった。
「…私の処分はどうなるんでしょうか?」
「処分?」
有らぬ所からの声にファーレスは視線をフェルセルクに移す。
「そんなものは端から決まっている…」
「それに附いて提案なんじゃが」
ファーレスが処置を述べようとしていた所にラファエロが意見する。
「師であるオルカスに一任してはどうじゃろうか?」
「それでは厳然たる処罰は行えないわ、彼の犯した罪はこの世界を脅かすほどのことなのよ」
「私とてそんなことは承知している。師である故に公私混同はしない」
「それなら構わないけど」
「僕も構いませんよ」
「いいんじゃないか、それで」
ファーレスは不満気に言う。
「ではこれで解散としようじゃないか」
「ラファエロ、まだドラクマの件が片付いてないのに解散とはどういうことだ」
ファーレスは円卓に力強く拳を叩きつけてラファエロに言う。
「それはまた後日でもよかろう」
「何を悠長なことを言っている!掟では追放者はこの地を踏んではいけない事になっている」
「掟ではそうなっていますが、アビスの事もあります。すぐに追い出すのは得策ではないと考えますが」
「それは彼が本当にドラクマであった場合じゃ、それに不用意にこのアフロネイロから出すことはない」
ファーレスは何も言わず、険しい顔をして退席した。その後、テンペルトも退席した。
「フェルセルク、私の部屋へ来い」
オルカスはそう言い残して退席した。
「レイファ、フェイクを天壁鐘楼へその後は彼等の様子を見てくるといい」
「ありがとうございます」
クロノスはフェイクを連れて立ち去った。
「では、私は師匠の元へ」
フェルセルクも立ち去り、ラファエロとリネルトの二人だけになった。
「気付かれましたか?」
「あぁ、ファーレスの奴様子が変じゃったな」
「ファーレスだけじゃなくテンペルトもです、それぞれの賢証に揺らぎが出始めている」
霊廟殿のそれぞれの席には属性を象ったレリーフが七つ有り、氷水と暗黒の二つが消えており、雷電と樹木の二つが揺らいでいる。
「うむ…わしの方で少し調べさせてみる」
「僕はアビスの弟子達に事の次第を話します、賢者の後任のこともありますから」
「彼等にはまだ早い気がするがな」
「大丈夫ですよ、僕も彼等と同じ頃に賢者の任に就きましたから」
「…確かにそうじゃが(お前とは資質が違いすぎると思うがな)」
「心配いりませんよ、エレメントがきっと導いてくれます」
「そうじゃな…」
アフロネイロ~格子角~
「ここはどこなんだ」
グラハム、ラスティン、船員達は扉や窓が全くない箱のような白い部屋にいた。
「見たところ全く出入り口のようなものはないですね」
「まったくびっくりしたわ、気づくとこんな所にいるんだから」
「ほんとに驚いたぜ」
「そうだる」
「お前等、まだ居たんだな」
グラハムは騒がしい三人組に向けていう。
「失礼ね、あんた達が牢にいれたんでしょうが」
「色々あったんで忘れてたよ」
「名高き私達のことを忘れてたですってぇ~!じゃあ もう一度だけ聞かせてあげるわ いくわよ」
「誰も聞きたいとは言ってないんだが」
グラハムは呆れたように呟く。
三人はポーズを取り、言い始めた。
「この世にまだ見ぬ秘宝が有る限り」
「宝が俺らを呼んでいるぜ」
「……だる」
「三人揃ってロ…」
一番いいところでラスティンの声に遮られた。
「…っそういえばフェイ君達の姿が見えないですが」
グラハムは周囲を見回した。
『どうしてあいつらはいないんだ…』
グラハムは疑問に思い考えを巡らせた。
「くぅのぉぉぉ~」
ロゼは決め台詞を邪魔され、尚且つ存在を蔑ろにされたことに怒り、腰にあるナイフに手を掛けるが透かさず、クックとスリックが止めた。
「落ち着いてロゼ姉」
「そうだる」
「止めるんじゃないよぉ」
「ここで向かっても数的に不利ですぜ、俺に考えがあります」
「かんがえ?」
ロゼはナイフから手を放し、落ち着いてもう一度聞いた。
「考えってなんだい?」
「ちょっこら耳を貸してください」
クックはロゼの耳元で何かを言った。
「なるほどね」
ロゼはクックの話に納得する。
『見てなさいさっきの屈辱、倍にして返してやるわ』
ロゼはそう思いながらグラハムを睨む。
一方、グラハムは…
「まさか、オーブが狙いか?だったら早く此処を出ないと…皆で出れそうな所を探すわよ」
ロリック団以外の皆は格子角内部を調べ始めた。
アフロネイロ~回廊~
クロノスはフェイクを連れ立って回廊を歩く。
「何処も昔と変わらないな…君は僕がドラクマだと信じるかい?」
フェイクは回廊内を見回しながらクロノスに訊ねる。
「わかりません…でも地上に居る天使ケルンに話は聞きました。詳しくは言いませんでしたが」
「そういえば彼女は助かったようでなにより、それに精霊との契約を無事済ませたようだしね」
「カードにも書かれていましたが、今一度伺います。何故彼等に構うのですか?」
「彼等への試練、私…帝王を倒す為の(それに彼は…)」
二人は天壁鐘楼に着き、クロノスが扉を開けるとフェイクを中へ促す。
「天壁鐘楼…(鳴り響く鐘の音が罪を浄化する。今の私にはお似合いの場所だな)」
「では、私はこれで失礼します」
「確かこれから彼等に会いに行くんだよね?では彼にこれを」
フェイクはクロノスに何かを渡した。
「これは?」
「渡せば分かるよ」
クロノスは天壁鐘楼の扉を閉めると扉に魔法陣が現れ、鍵がしまった。
アフロネイロ~癒雨凪~
ベッドだけの殺風景な部屋、その中にはベッドに眠るフェイとその傍でフェイを看るレイナがいた。
「ここは何処?」
「怪我人を治療するための部屋のようだな」
「でもベッドだけで他に何もないけど?」
「それはだね ここ天上界ソフェルでは治癒に特化した能力を持つ者がいるからだよ」
部屋にレイナやフェイと同じくらいの年頃の一人の少年が入ってきた。
「僕はマレ、樹木を操る天力を持っていて、ここの部屋を任されている者だよ」
寝癖のような癖のついた頭を掻きながら言う。
「そして、ファーレス様の弟子だ」
マレと同じ顔立ちの少年が入ってきた。
「レク、どうしてここに?」
「この部屋を任されてるのはマレだけじゃないぜ。この俺様もいることを忘れては困るな」
レクは直毛の髪を耳に掛け、眼鏡の位置を正す。
「さてと…でっその人?怪我人?」
「…はい…」
「大丈夫よ、危害を加えるつもりはないみたい」
ミリアリスはレイナだけに聞こえるように言った。
「これはひでぇな服がぼろぼろだ」
「まず、服を脱がして怪我の具合を見よう」
レクとマレは服を脱がす…その行為にレイナは目を背ける。
フェイの身体には何処にも外傷が見られなかった。
「表層は問題ないな」
レクとマレはフェイの身体に手をかざした。
「内部も…!傷ついた細胞を自己修復している」
「面白いなぁ地上の人間は皆そうなのか?」
「僕に聞かれてもな」
「あの…フェイの容体は?」
レイナは明後日の方を見ながら訊ねる。
「案ずることはないお嬢さん」
レクはマレと話している時とは全く表情を変え、笑顔で答える。
「またレクの悪い癖が…」
マレはため息をついた。
「俺にまかせな、時にお嬢さんお名前は?」
「レイナですけど…」
「レイナちゃんかいいねぇ~」
「あっ!やっと見つけたぁ!」
明るい声が響き、白い長い髪を揺らしながら少女が入ってきた。
「またうるっさいのがきたな…」
レクは鬱陶しそうな表情をする。
「もうまたこんな所で油売って師匠が不在だってゆうのに」
「不在だから此処に来てんだよ…」
レクは聞こえるか聞こえないかというような声で呟く。
「何か言った?」
少女は鋭い視線をレクに向ける。そんな少女にマレは聞く。
「フィーナ、今日はどうしたの?」
「リネルト様があたしとレクを御呼びなのよ。ほら、行くよレク」
フィーナはレクの腕をがっしりと掴んで引っ張る。
「ちょっ何すんだよ!」
レクは抵抗するがフィーナの拘束から抜け出すことが出来ない。
「ほらほら抵抗しない」
レクはフィーナに連れていかれた。
「僕もファーレス様に呼ばれているから行かないとな」
「あの……ありがとうございました」
「礼なんていいよ、何もしてないしね」
マレも部屋から出て行った。
「……ここは?」
フェイが目を覚ました。
「天上界じゃ」
「あれ?服が」
フェイは上半身、裸であることに気付いた。
「治療の為にちょっとね」
レイナは背を向けながら答える。
「レイナが?」
「ううん、天上界の人がね」
フェイはベッドの上に用意されていた清潔な服を着て、ベッドから降りた。
「身体、大丈夫?」
「全然 大丈夫 なんか身体が軽いよ」
フェイはその場で軽く跳びはねた後、エレメンタルブレードを振り回していると部屋の入口から声が聞こえた。
「大丈夫そうね」
部屋の入口を見るとクロノスがいた。
「…どうして僕たちはここに?」
「それはたぶんそのオーブがあるからだと思うわ」
「じゃあ、どうしてサウザンド号の皆まで?」
「それは私もわからないわ」
「皆は何処にいるんですか?」
「ベルグトに行っているって聞いてるけど」
「ベルグト?」
「天上界の人が住む街の一つよ、あっそうだ付いてきて」
クロノス、フェイ、レイナの三人は部屋から出た。
アフロネイロ~光瞬華篭~
フィーナは光の賢者であるリネルトの部屋、光瞬華篭の扉をノックした。
「フィーナ・フィング、レク・アンガード御呼びにより参りました」
「どうぞ」
中から入室を許可するリネルトの声が聞こえ、フィーナは扉を開ける。
フィーナとレクの二人は部屋の中に入った。
「さぁ、二人とも座って」
リネルトは椅子へ座るよう促し、二人が座るのを待つ。
「なんの用で呼んだんだ…」
レクは椅子に座るなり聞くと隣のフィーナから肘打ちが放たれる。
「…ですか?」
「いつもの調子で構わないですよ」
リネルトは笑みを見せる。
「さて、何から話していいのか…」
「何があったんですか?」
「………率直に言う氷水の賢者アビスが闇に落ち、堕天使となった」
「そんなアビス様が………」
「んな、馬鹿な!どうして師匠が」
レクは信じられないという風に席を立ち上がる。
「そして、その事により後任賢者を決めることとなった」
「ちょっと待って下さい、急にそんなことを言われても突然のことで私達、心の整理が…」
「それもそうでしょう。では夕刻にフィーナ、レクの両名は氷水の賢者の部屋、絶対氷壁へ」
「勝手にそんなこと!俺は行かないからな」
そういい放ち、レクは光瞬華篭から飛び出して行った。
「ちょっとレク!すいません、失礼します」
フィーナはリネルトに頭を下げてからレクの後を追うように出て行った。
「もう少し柔らかい言い回しをされた方が良いですよ」
部屋の中に聞こえた声にリネルトは返す。
「マルカナ、いいんだよあれで(これは彼等が決めなければいけないこと、僕も通った道)」
アフロネイロ~樹海深緑~
樹木が生い茂る部屋の中にいる二人の人物、一人は蔓が絡み合う椅子に座り、もう一人の話を聞くファーレス、もう一人はファーレスの前に立ち、報告をするマレ。
「…それで」
「間違いありません」
「そうか」
「それとあれは異質な存在で過去のものと照合した結果、合うものが一件」
マレはファーレスに資料を渡した。
「実に興味深い結果だな」
「はい」
「誰だ!?」
ファーレスは誰かの気配を感じ言った。すると仮面を付けた男が現れた。
「ふっ奴の命令か」
「詳しい話を聞かせていただきますよ」
「ちょうどいい、あれの力を試させてもらおうぞ」
アフロネイロ~業炎凰火~
フェルセルクは開いた扉をノックする。
「フェルセルク…まぁ掛けろ」
部屋の中で佇んでいたオルカスは椅子に座るよう促す。
フェルセルクは言われた通りに椅子へ座った。
「元気そうだな」
「はい…あのこれを」
フェルセルクは赤く輝く宝石、火のエレメントを長机の上に置く。
「もう、いいのか?」
「はい、いかような罰でも謹んで受けます」
「そうか、では…」
そこでアフロネイロ全体に大きな振動が走った。
「なんだ、この振動は!?まさか」
火のエレメントが強い光を放つ。
アフロネイロ~歓楽の泉~
「師匠が堕ちるなんて…」
レクは噴水の淵に座り俯いていて、フィーナはその様子を見て、柱の陰で話し掛けられずにいる。
『レク…』
「どうした?レク、そんな暗い顔をして」
噴水の反対側から声がした。
レクは立ち上がり、その方向を見ると黒装を纏ったアビスが居た。
「師匠!?どうして」
「何がだ?」
「どうして堕天使に!?」
「私は堕天使になったつもりはない、ただ私は友を救うためにしたことだ。そして、今も友の為にここへ来た。氷のエレメントは動かしていないな?」
「氷のエレメントで何を?」
「全てのエレメントを回収し、この世界を崩壊へ誘う」
「………」
レクはアビスの言に言葉を失う。
「お前も来るか?一緒にこの世界が消える様を楽しもう」
「貴方には冷徹な言葉の中にも凍りつかないほどの温かさがあった…もう俺が知っている師匠ではないんですね……」
「温かさ?俺の知る師匠はいない?何も見ていないようだな私を、お前には失望した」
アビスは肩を落とし、落胆する。
「フィーナ、そこにいるな」
「はっはい」
フィーナは突然、名前を呼ばれて思わず、返事をしてしまい、柱の陰から出る。
「お前はどうする?」
「私は…」
「答える必要ない!俺が…俺がここでこの命に換えても師匠を止める!」
レクの手を覆うように冷気を放つ三つの鉤爪状の武器が現れる。
「出来の悪い弟子に仕置きが必要だな…」
アビスもアイシクルソードを出した。
二人が武器を構えると噴水の水はみるみるうちに凍り付いた。
アビスはアイシクルソードを一降りすると噴水は砕け散り、レクは飛んで来る噴水の破片を武器で掻き切る。
アビスはその瞬間にレクの背後へ回る。
レクはそれに気付き、振り返るが振り向き様にアビスに殴り飛ばされた。
レクは地面に鉤爪を突き立て、飛ばされた勢いを抑えるとすぐさま鉤爪で空を斬る。
「マーテルフロー」
鉤爪から三日月状の刃が現れ、アビスに向かって行くが目の前で粒となり消えてしまった。
「どうして消えて…」
「忘れたか、この剣は同属性を吸収する」
「………」
地面が大きな振動し始めた。
「この振動はなんだ」
「始まったな」
「じゃあ、氷のエレメントを」
「これでこの世界は消え行く、最後に師匠から弟子への贈り物だ」
アビスはアイシクルソードで数回、空を斬るとアビスの背後に巨大な魔法陣が現れた。
そこから氷の怪物グラスディーテが出て来た。その姿は全身氷で下半身は蛇の様に長く上半身は女性の体をしている。
「やっぱり外の世界はいいねぇ、ちょうど食事にもありつけそうだしね」
氷の怪物グラスディーテはレクとフィーナを物欲しげに見る。
『このフロストネイルじゃ、効果が得られそうにない…』
レクは手を覆う冷気を放つ三つの鉤爪状の武器を動かす。
「食事の前に遊んであげるわ」
グラスディーテは勢い良く息を吹くと周囲に氷柱が立ち、その氷柱は延びてレクに向かって延びてきたそれを避けようとしたが手足を拘束された。
『どうしよう、何とかしないとでも…』
フィーナはそう思い、アビスを見る。
「さて、ここが崩壊するまでどう遊んであげようかしらね…ふふふ…」
グラスディーテは笑みを浮かべ、舌舐めずりする。
アフロネイロ~時流間元~
「ここか」
声の主は扉を開けた。中は床も壁も天井も透明でその下には大小さまざまな幾つもの歯車が動いている。
「早いなもう戻ってきたか」
ラファエロは視線をそのまま、書類を書きながら言った。
「それで…」
下を向いていた顔をあげるとそこには一風変わった甲冑を着た者が立っていた。
「久し振りだな、ラファエロ」
「久し振り?誰だ」
「忘れているとは全くお前達は危機感がないな、ラファエロ・デ・ルシアス・ミラコシウス」
「わしの名を………」
ラファエロの脳裏に一人の人物の名前が浮かぶ。
「ケイオスか、よく生きて…」
「何をぬけぬけと、生きていただと?私はあの時のことは一度も忘れたことはない!」
腕を真横に振るい、入口の壁に拳を叩き付ける。
衝撃と共に壁に亀裂が広がる。
「…本題に入ろう」
ケイオスは心を落ち着けてる。
「時のエレメントを渡せ」
「断る」
「やはり、そう素直に渡すわけはないか…では大事な弟子の命と引き換えではどうだ?」
ケイオスはそう言うと空中に映像が現れた。
そこには身動きが取れないよう拘束され、喉元に刃物を当てられたクロノスがいた。
「人質とは卑怯な手を!」
「さぁどうするね」
「………分かった…」
ラファエロは室内にある時間を表すレリーフをケイオスに渡した。
「こいつを砕けば時のエレメントが現れる」
ケイオスは受け取るとレリーフを手で握り潰しレリーフは砕け散った。
砕けたレリーフはまた再生し、元通りになるとレリーフから紫の輝く宝石、時のエレメントが浮き出てきた。
ケイオスは時のエレメントを手に取り、確認した。
「どうやら本物のようだな」
「当たり前じゃ。さぁ、弟子を解放するんじゃ」
「物は確保した、放してやれ」
クロノスの喉元にあった刃物は消え、拘束は解かれ、そこで空中にあった映像は消えた。
「さて、仕上げだ」
ケイオスは時のエレメントをしまい、ケイオスの左腕全体に帯状の魔法陣が現れる。
「なにをする気だ」
ケイオスはいきなり、足を一歩踏み出して帯状の魔法陣を纏う左手をラファエロの胸に突き付ける。
「ぐわぁぁぁ…」
ラファエロの胸に帯状の魔法陣の一部が入り込み、ラファエロの悲鳴が響く。
ラファエロの胸から帯状の魔法陣が巻き付いた光の球が引き抜かれた。
「なに…を…」
「力無きことに苦しむがいい」
ラファエロは気を失って倒れる。ケイオスはそんなラファエロを尻目に時流間元から出ていった。
アフロネイロ~回廊~
「クロノスさんを放せ!」
フェイとレイナの目の前には手足を鎖で拘束されたクロノスとその喉元に剣を突き付ける仮面を着けた者がいた。
「…」
突然、仮面を着けた者はクロノスを解放しその場から立ち去ろうとした所をフェイが止めた。
「待て!」
フェイはエレメンタルブレードを構えるが仮面を着けた者は剣を仕舞う。
そこへケイオスが現れた。
「目的は果たした、行くぞ」
空間が裂けて暗闇が現れた。
「おい!待てよ!」
フェイは二人の方へ向かおうと駆け出すと仮面を着けた者は見覚えのあるボーガンで矢を放ってきた。
フェイは矢をエレメンタルブレードで弾きながら駆けていくが仮面を着けた者は強力な一本の矢を放ち、エレメンタルブレードで受け止める。
「くっ…」
フェイはエレメンタルブレードに力を籠めるとブレードの刃は朱く染まった。
「炎斬」
フェイは矢を受け止めた状態から朱い刃を放つと矢と朱い刃は打ち消し合うように消えた。
そして、仮面を着けた者とケイオスの方を見たが二人の姿はなかった。
二人が消えたと同時にアフロネイロの振動は収まった。
「クロノスさんは無事?」
「大丈夫、気を失っているだけみたい」
「あいつら一体?(それにあのボーガン…)」
「甲冑の方はフルヴァリーナイツの一人じゃ」
「フルヴァリーナイツ?」
「ヴァルキリアの騎士よ、元々は天界の扉を守護する者だったらしいわ」
「どうしてそんな人がヴァルキリアに?」
「さぁ、わからないわ」
「とりあえず、先程の部屋に戻った方が良いじゃろうな」
フェイ達は来た道を戻り、癒雨凪へと引き返した。
アフロネイロ~格子角~
「やっと収まったみたいだな」
「一体、なんだったんでしょう?」
格子角の内部全体に亀裂が走り、今にも崩壊しそうになっている。
「ロゼ姉、あそこから出れそうですぜ」
クックが示す、そこには少し崩れた壁がある。
「あいつらはまだ気付いてないようね、早いとここんなとこ出るわよ」
「でもこのままじゃ通れないだる」
壁の隙間を瓦礫が塞いでいる。
「通れないじゃなくて通れるようにしなさいよ」
クックとスリックは言われた通りに塞いでいる瓦礫を少しずつ退かす。
「できやしたぜ、ロゼ姉」
ロゼ達、三人はグラハム達に気付かれないように格子角から出た。
「今にも崩れそうだなこの部屋」
「早く此処から出ないと生き埋めになるかもしれないですね…」
「さっきから気になってたんだがあいつらの声が聞こえないな」
「あれ?確かに何処にもいない、この閉鎖された空間からどうやって…」
「船長、ちょっといいですか?」
乗組員の一人がグラハムに言う。
「どうした?」
「向こうの壁に出れそうな穴が」
「じゃあ、あいつらはそこから出たのか」
「では私達も此処が崩れる前に早く出よう」
「あぁ、そうだな」
グラハム達は壁に開いた穴から出た…そして、その直後に格子角が崩壊した。
アフロネイロ~癒雨凪~
フェイ達が癒雨凪に着くとそこにはたくさんの人が運び込まれていた。
「これは何ともひどいな」
「うん…」
その場で立っていると救護にあたっている人が話しかけてきた。
「怪我人ですか…レイファ?誰か早く担架を!」
担架を持った者が来てクロノスを乗せて運んで行った。話しかけてきた人もクロノスの名前を呼びかけながら付いていき、フェイ達もその後を付いていった。
そこへフィーナがレクの腕を肩に掛けて運んできた。
「誰かレクを…なにこれ」
手当てを終えたマレが治癒凪の入口にレクを担いだフィーナを見つける。
「フィーナ!」
「マレ、レクが」
「フィーナ達も襲われたのか」
「もって?」
「あぁ話は後に今はレクの治療が先」
「でも、マレも怪我してるのに」
マレの腕に巻かれた包帯から薄く血が滲んでいる。
「心配ない、手当てはしたからそれに人手が足りない状態だからね」
フィーナはレクを壁にもたれ掛けるように床に座らせた。そして、マレはレクの治療を始めた。
「これでよしっと」
クロノスが気が付き、ゆっくりと瞼を開ける。
「レイファ、大丈夫か?」
「ネクト…?」
「大丈夫そうだな」
「よかった、気が付いて」
レイナは安堵する。
「レイファ、目が覚めて早速の所悪いけど何が起こっているんだ?話では賢者の方々も深手を負われたそうらしいが」
「……なんですって!?」
クロノスは意識が徐々にはっきりとなり跳び起きた。
「レイファ」
ネクトの言葉に耳を貸さずにクロノスは癒雨凪から駆け出ていき、フェイ、レイナ、ネクトはその後を追う。
途中、癒雨凪の出入口の辺りに居たフィーナとレイナはぶつかった。
「ごめんなさい」
レイナは謝り、ふと目をやるとフェイを助けてくれたマレとレクがいた。
「大丈夫ですか?」
レクの治療が思うように行かず、徐々にマレの力を削いでいく。
「ミリアリス、力を貸して」
レイナはレクの胸の辺りに手を置くと淡い蒼のベールに包まれた。
アフロネイロ~癒雨還~
クロノスはある部屋の扉を開け放つ。
「そんな……」
部屋の中心には正六角形の柱があり、その各面に小窓の付いた箱が置かれている。そして、その中には…。
クロノスは一つの箱に近付く。
中には生気が薄れ、天力も感じられないラファエロが眠っていた。
「じじぃ…」
クロノスは涙を流しながら強く拳を握り絞めた。
部屋の入口からそれを見たネクトは無言でフェイを制止すると誰かが話しかけてきた。
「君達、この世界から逃げるんだ」
二人は声の方に目をやるとそこにはフェイクがいた。
「あんたは!フェイク、逃げろっていきなりなんなんだ?」
「そう突っ掛かるような言い方をすることはなかろう」
「……」
「それで理由を聞かせてもらおうか」
「それは賢者の力とエレメントが奪われたことによってこの世界の要が消え、ソフェルは消滅する」
「そんな馬鹿な話が!そんな話聞いたこともないし、それに揺れは収まって何か起こる様子はないじゃないか」
話し声が中まで聞こえたのか、クロノスが話に入って来た。
「本当の話よ、そのことはごく一部の者しか知らないことのだけど」
「そんな…」
「均衡状態を保っている、今のうちにこの世界のすべての人達を連れて脱出しなければ」
「すべての人を…無理よ、それだけの人達を別空間に転移させるなんて賢者の力じゃなければ…」
「君はその賢者の弟子だ。賢者の力は与えられるものではなく身の内に眠るもの、現象と本質を見誤ってはいけない」
「……解りましたやってみます」
クロノスはフェイクの言葉に納得する。
突然、オーブが強い輝きを放つ。
「なっなんだ?」
「ようやく目覚めたか」
「目覚めた?」
「三つ目のオーブがな」
「クロノスさんは後をお願いします、俺は三つ目のオーブを探してきます」
フェイはそう言ってその場を後にしようとしたらクロノスに呼び止められた。
「ちょっと待って」
クロノスはフェイクから受け取っていた物を出すとオーブへと吸い込まれた。
「どうしてクロノスさんが」
「さぁ行きなさい」
フェイは頷くと駆け出していった。
「ネクト、この世界の民をアフロネイロへ、各村へ繋がるトールはまだ使えるはずです」
「分かった」
「私達も行こう準備をしなければ」
フェイクとクロノスはアフロネイロのとあるところへ向かった。
アフロネイロ~癒雨凪~
「これでもう大丈夫です」
「すごい…傷が消えてる」
レイナはマレの傷の箇所も力を使い治し終えていた。
「ありがとう」
「気にしないでこっちも助けてもらったから」
レイナはそう言って癒雨凪を出た。
『フェイはどこに向かったんだろう?』
そう思いながら歩いているとオーブが強い輝きを放った。
「なに?この光」
「どうやら三つ目のオーブが近くにあるようね」
「どこにあるの?」
「取りあえずはこの回廊を真っ直ぐね」
レイナはミリアリスの言う通りに回廊を進んだ。
アフロネイロ~霊廟殿~
「近いぞ、フェイ」
「うん」
フェイがとある部屋の前に着くと向かいからレイナが来た。
「フェイ」
「貴方達も来てたようね」
「当たり前じゃ」
「オーブの気配が消えた!?急いで中へ入りましょ」
フェイとレイナは扉を開けて中へと入った。
中には全身 氷で下半身は蛇の様に長く上半身は女性の体をしている。
「あのガキ…」
グラスディーテは片腕を失っていた。
『んっ?ちょうどいい、あいつらを…』
グラスディーテは部屋に入ってきた少年、少女に目をつけると自らの後ろに氷の針が次々と作り、数十本程になると二人に向かって飛ばす。
グレネリスはすぐさま炎の壁をフェイ達の前に展開して氷の針を一瞬で昇華させる。
フェイはエレメンタルブレードを抜いて構えた。
「なんなんだあいつ?それにオーブはどこに?」
「この氷の召喚獣のせいで感知できないわ」
「ではこいつを倒さねばならぬということじゃな」
「相手が氷なら、炎斬!」
フェイはエレメンタルブレードに力を込めて振るい、朱い刃を放った。だが、炎斬はグラスディーテの目の前で掻き消える。
「炎斬が…」
グラスディーテは片手を天に翳す。すると手の中に塵のように小さな無数の氷が渦巻き、球体を作り上げていく。
「シルヴァーナ」
グラスディーテは手に渦巻く氷の球体シルヴァーナをフェイに向けて放った。
放たれたシルヴァーナは周囲に先端の鋭い氷の花が咲かせながら素早く向かっていく。
そんなシルヴァーナに対してグレネリスは再び炎の壁を作った。
「また同じことを芸がないわね」
シルヴァーナは炎の壁と接触した。その瞬間、炎の壁は一瞬で凍り付いた。
「我の炎を凍らせるだと…」
「まだ終わってないわよ」
グラスディーテは凍り付いた炎の壁の間近まで来ており、グラスディーテは長い尻尾で凍り付いた炎の壁を叩き砕いた。
砕けた破片が壁の裏にいたフェイ達に襲い掛かった。
辺りは砕けた氷の粉塵に包まれた。
「やり過ぎちゃったわね」
粉塵が晴れるとまるでハリネズミのような氷の破片が突き刺さる半球状の水の膜があった。
「あら良かったわ、死体は美味しくないもの」
半球状の水の膜が氷の破片とともに塵となり消えた。
「危ない所じゃったな」
「本当に、力が落ちたんじゃなくて?」
「何をゆうか、この婆さんは」
「なっまだ数百年しか生きてないわよ」
「四捨五入したら我とさして変わるまい」
「あなた何処を四捨五入したのかしら?」
ミリアリスは鋭く冷たい声でグレネリスに言う。
「まぁまぁ、二人とも」
「レイナ、ありがとう」
「あっうん」
「茶番は済んだのかしら?」
「あぁ、どうしてわざわざ待っていたんだ」
「興味が湧いたのよ、この石と同じ力を感じるその二つの石に」
グラスディーテは自らの体内にある碧色の石を示す。
『あれは!疾風のオーブ!?何故…?だが、これで炎斬が消えたわけも納得が行く』
「もしかしてあれが三つ目の」
「そうじゃ、疾風のオーブ。だからこそ我等の力を。故に遠距離からの攻撃は意味がないぞ、フェイ」
「じゃあ、それなら…」
フェイはエレメンタルブレードの柄を握り直し、グラスディーテに向かって行く。そして、飛び掛かり真上から振り下ろす。
それに対してグラスディーテは掌で受け止めた。
「そんな剣ごときで私に傷つけることなど…」
グラスディーテの掌に亀裂が入る。
「くっ…」
「炎斬」
フェイはエレメンタルブレードを受け止められた状態から炎斬を放つとグラスディーテの拳の亀裂が広がり腕にまで達した。
「もう少し…」
フェイは力を込めてエレメンタルブレードを振り抜く。するとグラスディーテの腕は砕けた。
グラスディーテは苦痛の叫び声を上げ、フェイを尻尾で弾いた。
フェイは咄嗟にエレメンタルブレードで防御したが空中だったこともあってそのまま飛ばされた。
だが、フェイは上手く体勢を変えて壁へと着地して地面に降りた。
「私の腕を…これ以上は無理ね…」
グラスディーテのいる地面に魔法陣がコンパスで円を描くように現れた。
「この借りは今度返す…」
青白い光の粒が魔法陣から湧くように浮き上がりグラスディーテも粒となり消えた。
「まっ待て!オーブを…」
「何者だったのじゃ」
「ヴァルキリアなんじゃ」
「ん…それはなんとも言えんな」
「誰にしろ、奪われたことには変わりありませんわ」
「これでまた行方が分からなくなった」
「せっかく見つけたのに」
話していると何やら部屋の外が騒がしくなってきた。
「何だか廊下から声が聞こえるけど」
「避難して来た人達じゃろうな」
アフロネイロは避難して来た人達で溢れかえっている。
アフロネイロ~出入核~
「見つけただる」
「これを奪って奴らに仕返しよ」
「へい、ロゼ姉」
そこにはグラハム達の船、サウザンド号があった。
ロゼ達はサウザンド号に乗り込んだ。
数分後……
「あぁもう!この船、一体どうやったら動くのよ!」
「ロゼ姉、取りあえず機関室でも見てきましょうぜ」
「お腹空いただる」
「そうね、怒ったら私もお腹が空いたわ機関室にはあんた達二人で行ってらっしゃい」
「えぇ~」
クックとスリックの二人は声を揃えて不満の声を上げる。
「なにか文句あんの!?」
「ぃぇ……」
二人は言われた通り、機関室に向かった。
「まったく人使いが荒いぜ」
「そうだる」
「ここか?機関室は」
二人は機関室へ入った。
「なんだこの装置は…」
「なにかすごいだるか?」
「あぁ、こんなの神鋼都市グルタでも見たことないぜ」
「それでどうやって動くだるか?」
「さぁな」
装置は流線型を描く滑らかな形していて一つの継ぎ目もなく、壁から出ている幾つもの管と繋がっている。
「ここに嵌まってた何かが無くなったから動かないんだろうぜ」
装置の中央にただ一つの窪みがある。
「動かないならロゼ姉の所に戻るだる」
「戻るのはいいが動かないと言っても『何とかしなさい』ってどやされるだろうがな」
二人は仕方なく機関室から出て廊下を歩いているといい匂いがしてきた。
二人はその匂いに誘われるように厨房に辿り着く。そこには驚く光景があった。
「ロゼ姉が料理をしている…」
「ホントだる…」
ロゼは二人に気付き、声を掛ける。
「あんた達、なにそんなとこに突っ立ってるんだい」
「あっはい」
「それでどうだったんだい?」
「それが…動力の元となるものがなくなっていて動かないと言うか動かせないというのが…」
「しかたないわね、作戦を変えるしかないわね」
「えっ?」
二人は拍子抜けしたような顔した。
「どうしたのよ?」
「いや、なにもないですぜ」
「取りあえず、食べるわよ」
三人は出来上がった食事を食べながら話し合い始めた。
「あんた達なにかいい案ない?」
「そうですねぇ…」
「この船の金目の物をいただくってのはどうだる?」
「それは難しいだろうぜ、これだけの船だ金庫室は厳重に鍵がかけられてるはずだぜ」
「いや、スリックの案で決まりだよ」
「でも、ロゼ姉」
「船長室にいけば金庫室の鍵くらいあるはず、それでだめなら…」
「だめなら…?」
「ドカーン!!っとやればいいでしょ?」
クックとスリックは驚いて座っていた椅子から落ちた。
「いててて…それじゃ船が壊れてしまいますぜ」
「動かないなら用はないわ、それにいい仕返しになるじゃない」
三人は食べ終わった食器類をそのままに船長室に向かった。
「鍵はあった?」
「ないだる」
「こっちもないですぜ」
三人は机や棚の引き出しを逆さにして中の物を全て投げ出して探している。
「もうどこにあるのよ!」
ロゼはそう言い、机を蹴る。
「ロゼ姉、落ち着いて」
するとカタッと音がして机の上の一部が浮き上がった。
「なに?」
ロゼは浮き上がった部分を掴んで持ち上げてみると中には丸められたボロボロの布があった。
「きっと鍵だる」
布を取って開いてみると鍵があった。
「これで開けれるわね、さすがは私」
『ロゼ姉、今のは明らかにまぐれ…』
「さぁ、行くわよぉ~」
三人は金庫室の金庫の前まで来た。
ロゼは鍵を鍵穴に差し込み、回すと施錠が外れる音がした。
「開いただる」
「開けるわよ」
「何が入ってるか、楽しみだぜ」
金庫を開けてみると中には何もなかった。
「なにも…」
「…はいって…」
「…ないだる」
「なぁ~に~よ~これぇ~!!」
ロゼがそう言い放った後、三人の後ろから声が聞こえた。
「残念だったな」
三人は振り返り、声の方を見るとグラハムがいた。
「その鍵だけじゃ本当の宝の部屋には繋がらないわよ」
「ちっ!」
「それで…よくも俺の船で好き勝手をしてくれたな」
グラハムは拳を作り、間接を鳴らした。
「覚悟はいいかぁ?」
「良くはないわよ!」
ロゼは地面に何かを投げ付けると辺りは煙に包まれた。
「行くよ!」
「へい!」
三人は煙の中、咳込むグラハムの脇を擦り抜け、逃げて行った。
「待て…」
グラハムは咳込みながらもそう言い、煙を避けるため通路へと出た。
そこにはもう三人の姿は無かった。
「大丈夫か?船長」
登頂部が禿げた白髪のゴーグルを頭に着けた老人が声を掛ける。
「あぁ、でも逃げられた…」
グラハムの咳も落ち着いた。
「…それでトム爺さん船は動くか?」
「無理じゃな、肝心な動力が無くなっておる」
「それもあいつらか…」
グラハムは拳を握りしめて壁を一発叩いた。
「船長」
そこへ、船員がやってきて言った。
「船長室やら厨房から何まで目茶苦茶ですよ」
「ったく…船体整備、炊事の部署の奴らは船の片付け、残りは甲板に集まれと伝えろ!」
「はい」
船員は元気よく返事をして走って行った。
アフロネイロ~王核六花~
フェイクはクロノスを案内してアフロネイロの中枢に繋がる階段を降りる。
「ここは?」
「王核六花、アフロネイロの制御室みたいな所だ」
王核六花は名の通り、球体状の部屋の中央に一枚一枚属性を表すかのように六枚の花びらを持つ大きな花が一輪ある。
「ここで力を注ぎアフロネイロごとこの世界から脱出する」
「そんな大きな質量、いくらなんでも…」
「決めたからには貫け!」
フェイクは強くそう言い放つと笑顔で続けて言った。
「それに心配ない、このアフロネイロは別名…方舟」
「はこぶね?」
「もともと天上界ソフェルは名の通り天に存在した…だがあれの目覚めで全ては闇へと消える瞬間、このアフロネイロで出来るだけの民を連れて脱出した」
「それって…」
「そう、創成の書の一節に載っている…天が闇に染まる時…」
突然、崩壊までの数字が現れ、カウントダウンしていく。
「もう時間がない」
「残り十五分…」
「始めようか」
「はい…でも、どうすればいいんですか?」
「花の中心に天力を注ぎ込み、空間転移の力を使えばいい」
「解りました」
クロノスは花の中心に立ち、瞳を閉じると周囲は水を打ったような静けさに包まれた。
『洗練された天力だな、師がいいのか、あるいは先天的なものか…』
花びらの色は淡い色から濃い色へと徐々に変化していく。
『不思議…さっきまで不安な気持ちでいっぱいだったけど此処に立ってスゥーっと抜けていく。それに何だか賢者の方々の力を感じる…』
クロノスの目から一筋の涙が落ち、花に雫が触れると花は光り、花びらからオーロラのような光の柱が現れた。
「光、火、木、雷、氷、時の加護、真の姿を、今、此処に示し給え」
クロノスは頭の中に出てくる詞読みあげた。
「方舟フォリラテア」
アフロネイロの外壁に線が入りキューブ状のパズルのようになった。
それから外壁の線の部分が開き、溝に沿うように法陣が走る。
「ディーテルマトール」
クロノスは呟くように言った。すると方舟フォリラテアは淡い光に包まれたかに見えた瞬間に消えた。
方舟が消えた数秒後にソフェルの大地に一瞬で亀裂が入り、砕けると天界は圧縮されるように消えた。
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