ShiningHeart

シオン

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第十章

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冥界~閃光の痕跡~

「うまくいったが…(やはりまだ厳しいな)」

ルナはよろめき倒れそうになった所をレルクが支える。

「ここは…」

クレイル、ルナ、レルク、ワグの四人の目の前には大きく抉られた大地が広がっていた。

「これをあの光が…何て力…」

クレイルは気付く自分の立っている場所が全く別の場所であることを。

「…どうして?」

「戻った力を使って町の外までお前達を飛ばした、住人もとはまでいかなかったがな」

「そうですか…今、戻った力と言いましたが、コア・フラグメントが?」

「あぁ、何故かはわからんがな」

『…創者が易々と返すとは思えませんが…』

クレイルは疑問に思い、少し考え込んだ。

「これからどうしますか?」

レルクはルナに聞いた。

「愚者の森へ向かう」

「ではあそこに向かうのですか?」

「そうなるな…」

「千年前のノーム戦役以来ですね…」

『ノーム戦役といえば、確か反政府組織(宗教論者)が町民(ノーム神信者)を先導して、王宮軍との間に起きた戦争でしたか』

クレイルはルナとレルクの会話が耳に入り、自らの知識を引き出す。

「もう千年か…」

ルナは愁色な雰囲気を漂わせる。

『確か先導した宗教論者は…』

クレイルはルナの表情から察する。

「では、レノーブルに向かうか」

ルナは気を取り直してからその場にいるもの全員に向けて言った。



~北方司令部~執務室~

「なに!?メルテクスが…」

兵士から報告を受けたグレン大佐は勢いよく立ち上がり、椅子が後ろに倒れる。

「はい、消滅したとゼンゲル砦から通信がありました」

「さっきのあの光が原因か…生存者は!?」

「未確認ですが、おそらく…」

兵士は言葉を渋る。

「…直ちに兵を派遣しろ、私も出る」

「分かりました」

兵士は出て行った。

『ネフィル、無事でいてくれ…』

グレンは壁に掛けてある自らのコートを手に取ると袖を通す。



~レノーブル~地の神を崇める町~

「何処まで続いているのでしょうか?」

「わからんが何処かには出るだろう」

ラズゥールはネフィルを背負いながらリベルと洞窟を歩いて行く。

半時ほど歩くと洞窟の先に光が見えた。

「やっと出口みたいですよ」

「ん?」

ラズゥールは何かに気付く。

「どうしたんですか?」

「何か音がしないか?」

聞き耳を立てると何か崩れるような音が歩いて来た方からする。

ラズゥールは振り返り、暫く目を凝らすと突然、叫んだ。

「まずい!走れ!」

「どうしたんですか?」

「いいから走れ!」

二人は駆け出した。

走る二人の背後から崩れるような音は段々と近付いて来る。

「もうそこまで来てますよ」

リベルは後ろを横目で見ると落盤していく様子が見えた。

「出るぞ」

二人は出口の光に飛び込むとそこは…円筒型の壁に囲まれた場所だった。

「そんな…これじゃ…」

リベルは壁に手をついて嘆いた。

「枯渇した井戸か」

ラズゥールは差し込む光を見上げていると人影が現れてロープが投げ下ろされた。

「早く登って」

二人は言葉通り、ロープに掴まり登って行くと縦穴の中腹で洞窟が完全に崩れて砂埃が舞い上がった。

「ゴホッ…ゴホッ…」

二人は咳き込みながらも上まで登りきった。

「大丈夫ですか?」

臙脂色のローブを纏い、そのローブのフードを被った女性が聞いた。

「はい…」

「その方、どうなさったんですか?」

女性はラズゥールが背負っているネフィルを見て言った。

「銃で撃たれて…」

「それは大変…どうぞ、私の家にいらして下さい」

ラズゥールとリベルは言われるがままに家へと案内された。

「あの貴女は?」

女性はフードを取るとフードの下から天使のようにたおやかな顔が現れる。

「すいません、まだ名乗っていませんでしたね、私はアンジェラと申します」

アンジェラが家の扉を開けると少女が抱き着いてきた。

「どうしたの?マリー」

「ミュートが…」

「ミュート!」

アンジェラが名前を呼ぶと少年が出て来た。

「マリーをイジメちゃダメって言ったでしょ、男の子なんだから優しくしてあげなきゃ」

「いーだ」

ミュートはそう言って家を飛び出した。

「ミュート、待ちなさい」

ミュートはアンジェラの呼び止めも聞かず、行ってしまった。

「……あっ!すいません、中へどうぞ」

アンジェラは一瞬、暗い顔をして思い出したかのようにラズゥール達を家の中に招いた。

「こちらの部屋をお使い下さい」

ベットが一つある部屋に通した。

「ありがとうございます」

リベルは感謝を述べると続けて疑問を投げ掛ける。

「そういえばどうして井戸の中に私達がいることがわかったんですか?」

「それは地神ノームの御導きです」

アンジェラは祈るような仕草をする。

「では、失礼します」

アンジェラは扉を閉めて立ち去った。

ラズゥールはネフィルをベットに寝かし、近くにある椅子に座った。

「あのラズゥールさん?」

「なんだ」

「此処ってもしかして…」

「あぁあのレノーブルだ」

「ですよね、ノーム信者がいるのはレノーブルだけですよね…」

リベルは少し溜め息をつく。

『大佐、どうして!…』

ネフィルが飛び起きた。

「大丈夫か?」

「……あぁ」

ネフィルはラズゥールに生返事で答え、状況を確認する。すると部屋の扉が開き、アンジェラが入って来た。

「アンジェラ…?」

ネフィルは見覚えのある顔に思わず名前を口にする。

「えっ?」

「やっぱり、アンジェラ」

「ネフィル?」

「エッケルシュテイト以来だな」

「久し振りね、最初は顔の傷で分からなかったわ」

「ラズゥールさん、ちょっといいですか?」

リベルは気を回して小声でラズゥールに伝えると二人は部屋を出た。

「ネフィル、大丈夫なの?」

「ん?」

「撃たれたって」

「問題ない…」

ネフィルは撃たれた箇所、リベルの冥力でもう傷は塞がっているが服に残された弾痕を見つめて黙り込む。

そんなネフィルに話題を変えようとアンジェラは訊ねた。

「その服装って」

「あぁ、軍人になったんだ。あの事件の後、親戚の軍人に預けられてなその関係で」

「そうなの…」

「アンジェラは?」

「私はあの後、母の故郷だった此処に送還されて神殿の手伝いをしてるわ」

「神殿?」

「地神ノームを御祀りする神殿」

『ノーム…ではここはあのノーム戦役のあった場所か…』

ネフィルは少し眉を顰める。



部屋を出たラズゥールとリベルは居室にいた。

居室は扉一枚で外と繋がっており、中には長机と椅子が四脚置かれている。そして、その1脚にはマリーが座っており、一人遊びしていた。

「ラズゥールさん、ちょっと王宮に連絡するために出てきます」

「分かった」

リベルは外へと出て行った。

「おじさん達、王宮の人達なの?」

部屋の椅子に座っていたマリーが遊びに飽きてラズゥールに話し掛けてきた。

「あぁ、そうだ」

ラズゥールは子供にも態度を変えることなく答える。

「じゃあ、さっきの人止めた方がいいよ」

「何故だ?」

「神殿の人は王宮の人が嫌いだから」

『まだノーム戦役で生まれた感情がこの大地に染み付いているのか…』

ラズゥールはそう思いつつ、リベルを追うために外への扉へと一本を踏み出す。

だが、マリーに呼び止められた。

「待って、これを着て行った方がいいよ」

マリーは神殿の紋章を背に配する臙脂色のローブを二着渡した。

「それを着てれば怪しまれないよ」

「あぁ、ありがとう」

ラズゥールはマリーに礼を言い、ローブを着てると外へと出て行った。

「連絡は済んだけど…(町の中が静か過ぎる)」

リベルは周囲を見回していると突然、頭に強い衝撃が当たり、意識を失った。

「ふんっ王宮の犬が!」

「どうしますか、使徒様」

「連れていけ!地神の生贄として使えるだろう」

「はい」

ローブを着た者達はリベルを連れて何処かへ立ち去り、使徒と呼ばれる人物だけがその場に残る。

「信仰心とは実に利用し易いものだな、ん?」

使徒は何かに気付いた。

「見られたか、出てこい」

そう言うと物陰から目が虚ろなミュートが出てきた。

「また贄が増えたな」

使徒が歩き出すとミュートは何も言わずに使徒の少し後ろを付いていく。



レノーブル~地の神を崇める町~

「驚いたな、千年も経つというのに昔と変わりないとは」

レノーブルは神殿を中心として町で外周をぐるりと無数の石でできた十字架が町を囲んでいる。

「止まれ!」

町の門の前で臙脂色のローブを来た二人の男に止められた。

「お前達、旅人か?」

「そうです」

門番の問いにクレイルが答えた。

「地神眠るレノーブルに何用です」

「奥にあるもり…」

クレイルが答えようとした所、ルナが腕を掴む

「もり?」

臙脂色のローブの男はクレイルの言葉尻を取り、疑問符を浮かべる。

『此処で本当の事を述べても通れないだろう』

クレイルの中にルナの声が聞こえた。

「いえ、地神様の加護を受けたくレノーブルに来ました」

クレイルはルナの言葉に合わせる。

「えぇ、旅の途中でこの子が不治の病を患いまして、どうか、地神様の加護を」

それを聞き、門番の口調が変わった。

「それは大変でしたね、どうぞお通り下さい」

「地神様の加護があらんことを」

二人の門番は共に口にする。

クレイル達は門を通過して曲がろうとした所で…

「待て」

門番がクレイル達を呼び止める。

「なんでしょうか?」

「神殿はそこを真っすぐ町の中心にある」

「ありがとうございます」

クレイル達は言われた通り町の中心に向かった。

「何とか通過出来ましたか…」

「隠れろ!」

ワグは路地に隠れると他の三人も路地に隠れた。

そこへ臙脂色のローブを纏い、フードを被った者達が遽しく現れた。

「何処へ行った!?」

「確かに奴らだったんだろうな」

「あぁ、服に冥王のレリーフがあった」

「まだ見つからないの?」

一人、雰囲気の違う臙脂色のローブの人物が訊ねた。

「はい、もしかしたら誰かが匿っているのではないかと…我々ノーム教のローブを着た者がその者達と一緒にいたという報告もありますから」

「そっじゃあ、早く捜しなさい」

「はい」

臙脂色のローブの者達は情報を元に急いで捜しに向かった。

「こんな所で邪魔が入っちゃ困るわ」

一人、残る臙脂色のローブの人物が呟くと頭の中に声が聞こえる。

『確保した…』

「先越されちゃったわね」

臙脂色のローブの人物は何処かに向かって歩いて行った。



メルテクス~痕跡~

「これは町が完全に消滅している」

メルテクスに到着したグレンと兵士達は前には大きく抉られた大地があった。

「グレン大佐、ゼンゲル砦からポイント72に不穏な動きありとの情報が入りました」

「ポイント72…あの町か」

グレンと兵士達はゼンゲル砦に向かった。



ゼンゲル砦~隠微な拠点~

メルテクスから半時程の距離にある渓谷に隠されるようにある砦。

その廊下で細身の男性が敬礼でグレンを出迎える。

「大佐、お待ちしておりました」

二人は傍の一室へと入る。

「グラス大尉、状況は?」

「はい、ポイント72、レノーブルに潜入している者から信者達が何やら不穏な動きがあると通信があったのですが途切れてしまって」

「そうか」

「あと通信の途切れる前に、ネフィル少佐と冥王のレリーフを付けた二人の者を見たという情報も」

「なに!?(そうか、少佐が生きて…)」

「いかがなさいますか?」

「大尉、アーニャの部隊を借りれるか?」

「構いませんが、何をなさるおつもりですか?」

「私が指揮を取り、町に潜行する」

「大佐、自らですか!?危険です、向こうの出方もわからないんですよ」

「だが誰かが行かねばな、それに自分の大切な部下だ、自ら赴かねばどうする」

「…分かりました、少尉はB-5会議室にいます」

「分かった」

「お気をつけて」

グレンは少尉のいるB-5会議室に向かった。

B-5会議室では兵士が数人集まっており、上官が一人の下級兵士に説教をしていた。

「セント、戦場における大事な事はなんだ?」

「えぇ~それは~その…」

「はぁ…何度言えばわかる、それはな…」

説教をする上官に声が掛かる。

「相変わらずだな、アーニャ」

アーニャは突然の声にそのままの調子で視線を向けた。

「た、大佐ぁ~!?お久しぶりです」

大佐と聞いた瞬間、その場にいた者は敬礼した。

その様子にグレンは言う。

「楽にして構わない」

「少尉、誰なんですか?」

「はぁ…」

アーニャはセントの発言に呆れた。

「それぐらいの事知っておけ、こちらはな北方司令部を仕切る、グレン大佐だ」

「そうなんですかぁ~」

「全くお前は…『そうなんですかぁ~』じゃないだろう、基礎は駄目、鍛え方も足りない、命令もまともに出来ない、それに…」

「アーニャ、そのくらいでいいんじゃないか?」

「いえ、こいつにはしっかりと言っておかないと…そういえば大佐はどうしてここへ?」

「ポイント72に潜入してほしい、勿論、私も同行する」

「ポイント72、またどうしてですか?」

「部下があそこにいる」

「変わりませんね、そういう部下想いな所」

アーニャは微笑んだ。

「わかりました、コルカス、メイテ、ゴーギャン準備を」

刀を持った男、ほぼ全身に包帯を纏った女、尖った耳と朱い眼を持つ女が立ち上がり会議室から出た。

「隊長、僕はどうすれば?」

「お前は居残りだ」

「なんで!?」

「それも解らない奴を連れていっても死ぬだけ」

セントに言い放つと扉に向かう。

「行きましょう、大佐」

アーニャとグレンは会議室から出ていった。

「クソッ!」

セントは憤慨し室内の椅子を蹴り飛ばした。

「何が悪かったんだ…」

セントは落ち着き、椅子に座った。

「すまなかったな、突然頼んでしまって」

「いえ、かつての部下に気を遣わないで下さい」

二人は通路を会話しながら歩いていき、第三格納庫と表記された場所に着いた。

「大佐、部隊の隊員を紹介します」

コルカス、メイテ、ゴーギャンは整列した。

「右からコルカス、メイテ、ゴーギャン。コルカスは腰に携えた刀を自在に操る事のできる剣士。メイテはあの包帯の下に自ら施した法印を用いて治療、防御、補助系統の力を発動させることができます。ゴーギャンは見ての通り幻影の血を継ぐイルフェ族です」

「アーニャ、優秀な人材を集めたな」

「ありがとうございます」

アーニャはグレンの言葉にお礼を言った。

「ゴーギャン、道の準備は」

「外周にあるクロスのせいで町から離れた場所にまでしか作れないね」

「私の力を加えればクロスまで繋げる」

「その手があったね。じゃあ、始めるある」

ゴーギャンの瞳が鮮やかな紅に染まるとメイテの腕に巻き付いていた包帯が自然に解け、その下から様々な模様が入る肌が露わになる。

解けた包帯の先がゴーギャンの背中にスゥーッと擦り抜けるように突き刺されるとゴーギャンの瞳孔が開いた。

「繋がったあるよ」

メイテの包帯がゴーギャンの背中から抜け、包帯はメイテの腕に元通り巻き付いた。

「ではコルカスは先陣を」

「承知」

コルカスはそう言い、ゴーギャンの前方へ歩いていくと突然、姿が消えた。

「消えた!」

グレンは驚き思わず、声をあげた。

「驚きました?」

そう言うとアーニャはコルカスの消えた地点に歩いていった。

「イルフェ族の能力の一つで、このように…」

アーニャは腕を前に出すと腕が消えた。

「…空間に影響を与える」

「これが噂に聞くイルフェ族の力か…」

「コルカスから合図がきました」

「大佐、行きましょう」

残りの隊員とアーニャとグレンはゴーギャンの作った道に入った。



レノーブル~地の神を崇める町~

使徒と呼ばれる者達が意識を通じて会話をしていた。

『また増えたぁ』

愉しそうな少年の声が聞こえた。

『来客多々』

少年の言葉に片言で同感する。

『捕まえた奴は何処にやったの?』

女性の声が誰かに訊ねる。

『聖魂乃間にいる』

落ち着いた老公の男性の声が聞こえた。

『そう、生贄にするの』

そう言うと女性は意識の向こうで笑みを浮かべた。

『侵入何人?』

片言の男が少年に聞いた。

『全部で十一だよ』

『場所は?』

今度は落ち着いた老公の男性が少年に聞いた。

『神殿前に四、裏町中央に一、裏町西に一、外周東に五だよ』

『ちょうど四ヶ所か』

落ち着いた老公の男性は四人いる使徒を意識する。

『私は一番数の多い、外周東をやるわ』

女性は我先にと言わんばかりに選択する。そして、次に少年、片言の男、落ち着いた老公の男性と場所を選んでいく。

『じゃあ、僕は裏町西へ』

『裏町中央』

『では残る神殿前の四人を』

四人の使徒はそれぞれ場所に向かった。



レノーブル~地の神を崇める町~

グレン達の通った道の先はレノーブルの外周にある石でできた無数の十字架クロスが乱立する場所だった。

『ここの何処にネフィルが』

「まずはレノーブルに潜入している部隊に合流しましょう、大佐」

「場所は?」

「聖錬墓地」

「墓地に拠点が?」

「潜入している部隊の隊長、ラズーリは変わり者ですから」

「へぇやっぱり余所者が紛れ込んでるのね、良い話を聞いたわ」

グレン達の五人の前に臙脂色のローブを纏い、フードで顔を隠した女性が現れた。

「こんなに早く見つかるとは…」

「ここは俺が」

コルカスは腰に携えた刀を抜いて前へ進み出る。

「任せる、メイテはコルカスの補佐を」

メイテは包帯を解く。

「ゴーギャン、0地点のマークは?」

「出来てるある」

「逃げる気?そうはさせないわ」

臙脂色のローブを纏うフードで顔を隠した女性は両方の掌に袖口から銀の棒状の物シルバースティックを出し、右手のシルバースティックでアーニャ達の方へ振り掛かった。だが、それをコルカスが刀で受け止めた。

「貴様の相手は俺だ」

コルカスが臙脂色のローブの女性を抑えている間にアーニャとメイテ、ゴーギャンの姿が霞のように消える。

「はぁ~逃げられちゃった…せっかく多い方を選んだのにな!」

臙脂色のローブの女性は左手のシルバースティックでコルカスに突きを放った。

コルカスは刀で受け止めていたシルバースティックを受け流し、そのまま刀の鋒を地面に突き刺すと相手の左手が放ったシルバースティックの突きを刀を支えに横方向へと回転して躱した。そして、その勢いのまま地面から刀を引き抜き、突き出された相手の左腕に向けて切り上げる。

「思ったより出来そうね、でもね…」

左手のシルバースティックが先端から八つに裂け、切り上げられた刀の刃を掴み止めると右手のシルバースティックをコルカスの脇腹に突き刺した。

「ぐぁっ…」

コルカスの手から刀が離れる。

「ふふふっ…苦しみなさい」

コルカスの脇腹に突き刺さるシルバースティックの中程から八つに裂けて傷口を開いていく。

「ぐわぁぁぁ…」

コルカスの悲痛の叫び声が空を切る。

「いい声、ゾクゾクしちゃう…うふふ…」

臙脂色のローブの女性は歓喜の笑い声をあげた。

「了いだな」

臙脂色のローブの女性はコルカスの前で俯いたままボーッと立ち尽くしており、コルカスの背後にメイテがいた。

「そのまま寝ていろ」

コルカスとメイテはアーニャとゴーギャンのいる聖錬墓地へと向かう。

「ほんと、楽しませてくれるわ」

臙脂色のローブの女性は二人が去った後に俯いたまま笑みを浮かべて呟いた。



臙脂色のローブを纏い、フードで顔を隠した少年は神殿の後方に建ち並ぶ町、通称裏町、その西側のある路地を歩いていた。

「いた」

少年は目的の人物を見つけて近付いていく。

「おじさん、此処で何してるの?僕と遊ぼうよ」

「いまは用があるからまた今度な」

「遊んでくれないんだ…じゃあ、仲間がどうなってもいいの?」

「お前、ただの子供ではない」

「正解、僕と遊んでくれたら仲間を助けてあげてもいいよ」

少年は満面の笑みで言った。

「分かった…(真偽は不明だが今は相手の話に乗るのが無難か)」

「やったぁ、何して遊ぼうかなぁ~?」

嬉しそうに考えている。

「そうだ、あれにしよう」

少年は透明な球を出し、二人の間の地面に投げた。すると透明な球は砕け散り、周囲がブラックアウトする。

暗闇の中でも二人の姿ははっきりと見てとれる。

「何を始める気だ」

「見てれば解るよ」

離れた二人の間に格子状の線が現れた。

少年は左手を胸の前から左に振り払うように動かすと駒が現れた。

「チャトランガか」

「ただのチャトランガじゃないよ」

そう言い、盤上に何かを投げた。

盤上を賽子ダイスが転がる。

少年は「赤の三」と言い、手も触れずに盤上の駒を三つ動かすとダイスはラズゥールの手に移動した。

「…」

ラズゥールは手にあるダイスを見る。

ダイスには一から三の数字が二組づつ刻まれていて、それぞれ赤と青に分かれている。

「赤色の数字が攻撃可能で青色の数字が移動のみ可能だよ」

ラズゥールはダイスを盤上に投げた。

『赤の二』

「駒は頭の中で念うだけで動くよ」

ラズゥールは二つの駒を動かした。

ダイスを投げるとまた赤の三を出した。

「やったね、行くよ」

少年は駒を動かし、ラズゥールの駒に攻撃した。

少年の駒から雷撃が出て、ラズゥールの駒を破壊してラズゥールの駒がいた升目の上に移動した。

駒が壊れたのと同時に何処からともなく、鎖が現れてラズゥールの右手首に巻き付いた。

「なんだ、これは!」

「それはね、ジャッチメントチェーン。自分の駒が破壊される事に増えていき、最後には敗者の命を奪う」

少年は愉しそうに言うとラズゥールに行動を促す。

「さぁ、そっちの番だよ」

ラズゥールはダイスを振り、駒を進めた…。



臙脂色のローブの大男が裏町中央にある、一軒の家の前にいた。

「失礼承知」

大男は家の扉を見えない力で粉砕して中に入った。中に入ると破壊音を聴いて奥からアンジェラとネフィルが出て来た。

「使徒キャトルニカ…」

アンジェラが大男の名を口にする。

「其方引致」

キャトルニカはネフィルを指差し言った。

「アンジェラ、下がってろ」

ネフィルは手でアンジェラを後ろに退かせると同時にもう一方の手で拳銃を引き抜いた。

「抵抗無駄」

ネフィルは突然、強い目眩に襲われて倒れた。

「ネフィル!ネフィル…」

アンジェラが何度も呼ぶ声がどんどん遠退きネフィルは意識を失った。

「もっと穏便にできないのですか?」

「加減無理」

そこへ臙脂色のローブの者達が入って来て、ネフィルを運び出そうとしている。

「手荒な真似はしないで下さいね」

「承知しました、聖母様」

キャトルニカと臙脂色のローブの者達はネフィルを連れて出ていった。

「お姉ちゃん、あの人を何処へ連れていくの?」

マリーが奥から出て来て聞いた。

「心配しなくて大丈夫よ。地神ノーム様の加護を賜る為に神殿へ連れていくだけよ、この町に入った人は必ずしなければならないの」

アンジェラはマリーにそう言い聞かせた。

「マリー、一人でお留守番できるわね。ミュートを見つけたらすぐに帰るよう言っておくから」

マリーが頷くのを見て、アンジェラは出て行った。

「聖母はまた隠し事をしているようだぐぅ」

何処からともなく声が聞こえた。

「そんなことないよ」

聞こえた声に対してマリーは怒った口調で言うと服のポケットから何かを出して壁に投げ付けた。

「ひどいだぐなぁ~」

クマのヌイグルミがフラフラと浮き上がり言った。

「ミラがお姉ちゃんのこと、悪く言うからでしょ」

「僕が言ったんじゃないだぐ。僕は魔女マリアンヌ、君の心を代弁しただけだぐ」

「誠名を口にしちゃダメって言ったでしょ!?今度、言うと消しちゃうよ」

「ごめんだぐ…やっぱり聖母が何か隠していると思うから、神殿に行くだぐ」

ミラはフワフワと移動してマリーの肩に乗る。

「わかった、そんなに言うなら行って何も隠してない事を確認しよ」

マリーとミラは家を出て、神殿に向かった。


神殿~地の神の聖域~

「来たな」

臙脂色のローブを纏った老公の男性が教会で一番高い大地の塔の上から眼下を眺めていた。

「…」

ルナは教会から微かに不思議な力を感じた。

「誰かの視線を感じる」

「何処からか判りませんが確かに見られてますね」

クレイルもルナと同様な気配を感じ取る。

「入るのか?」

ワグも何かを感じ取ったのかレルクに聞いた。

「はい、この中に愚者の森へと続く道があったはずです」

「はず?」

「昔のことなので、いまはどうか判りませんから」

ルナ達は神殿の入口へと足を踏み出した。

神殿の入口には二人の臙脂色のローブを着た者が立っており、ルナ達の方を見ている。

「お前達、町の者ではないな」

「はい、地神様の加護を賜りたくやって参りました」

「残念だが今は中に入ることはできない」

「どうしてです?」

「地神様に反する者が侵入したとの報告が入っているからだ。まさか、お前達ではあるまいな?」

臙脂色のローブの者達が四人に疑いの目を向けると突然、神殿の入口の扉が開いた。

「アンテラ様」

「門前で何をしているんです?」

臙脂色のローブを纏った老公の男性が姿を現す。

「いえ、この者達が地神様の加護を賜りたいと言っており、今は入れることはできないと断っていた所で」

アンテラはルナの瞳を見てから答えた。

「この方々は心配ない、通しなさい」

臙脂色のローブの二人はアンテラに指示に従い、ルナ達を神殿の中へと通した。

中は色鮮やかなアフレスコが天井に描かれており、精緻な細工が施された床や壁、柱が配置されている。

「わざわざ此処まで来られたというのに申し訳ありません、聖堂の一番奥が礼拝堂となっていますので私がそこまで案内します」

アンテラはルナ達を連れて礼拝堂へと神殿内を進んでいく。



レノーブル~聖錬墓地~

「本当に此処が潜入部隊の潜伏場所なのか?」

グレンは懐疑的な言葉をアーニャに向けて言った。

「そのはずなんですが…メイテ」

「はい」

メイテの包帯がスルスルと解けて、メイテの周囲を浮遊する。

暫くしてメイテは何か感じ取り、前方に包帯を移動させる。

「きます!」

前方から光の弾が複数飛んできた。

メイテの法印が淡く光り、包帯が各光の弾に対して輪を作るとその輪に光の弾が飛び込んだ。そして、光の弾は全て輪の中心で動きが止まる。

「敵か!?」

「いえ、潜入部隊の部隊長です」

包帯の輪に留まっていた光の弾が包帯の中に消える。

「いやいや、反応が早いでんなぁ」

声が聞こえ、臙脂色のローブを纏う、目が隠れるほどの長さの前髪の男が前から歩いてきた。

「アーニャの部隊は精鋭揃いでええな」

「一人なの?」

「他の奴らはやられてもうてこの墓地に眠っとるわ」

ラズーリはアーニャの質問に答えるとグレンに視線を移す。

「そっちのあんたは見ん顔やな」

「こちらはグレン大佐」

「これはこれは大佐さんとはつい知らず、こんな言葉使いでえらいすんまへんな、でも大佐自ら最前線に出て来るとはそないえらい事になってたんやな」

「いや、そういうわけではないが大切な部下の為に」

「大佐さんは部下想いの方でんなぁ」

「それよりラズーリ、ネフィル少佐をレノーブルで見たという通信が貴方の隊の部下からあったそうなんだけど聞いてる?」

「それなら聞いてる、確か聖母って呼ばれる女の家にいるゆうてたな」

「場所は?」

「裏町や、案内したる」

「お願いするわ」

アーニャ達は行こうと向きを変えたがラズーリに止められた。

「ちょい待ち、その格好じゃあかん」

ラズーリは埋葬の為に掘られた穴の横にある棺桶の蓋を開け、ゴソゴソと探すと臙脂色のローブを人数分取り出した。

「これ着いや」

アーニャ達はローブを着た。そして、聖母の家へと向かう為、聖錬墓地を出た。



レノーブル~裏町中央~

ラズーリとアーニャ達は建物の陰に身を隠しながら目的地の近くまで辿り着いた。

「あそこに見えるのが、そうや」

ラズーリがアンジェラの家を指し示すと家からキャトルニカとノーム教の者達に担がれたネフィルが出てきた。

『あいつは…』

「ネフィル!」

グレンはネフィルを見た瞬間、名を呼び駆け出そうとしたのをラズーリが制した。

「あかん!危険や」

だが、抑えきれずに物陰から出る。

「失礼する」

コルカスは断りを入れつつ、グレンの首に一撃を与えて気絶させた。

「コルカス、大佐に何を」

「こうでもせぬと危険だったので…」

「そうやでアーニャ、そいつの言う通りや」

ラズーリはアーニャにそう言うとキャトルニカ達の方を見た。

『よし、気付かれてへんな』

視線をそのままアーニャに言う。

「アーニャ、あそこの図体のでかい奴が見えるやろ」

「えぇ」

「あれが神殿を守護する使徒ちゅう奴らの一人、キャトルニカや」

「キャトルニカ…第四の使徒ね」

「そうや」

「では、先刻の奴も使徒という奴なのでは?」

コルカスが外周で襲撃してきた人物を思い浮かべながら言った。

「どうゆう奴やったんや?」

「銀の二本の棒を遣う女子(おなご)だったな」

「そいつはドゥーレナ、第二の使徒やな、説明はここまでや奴らがいってまう」

ラズーリは使徒キャトルニカ達が遠ざかって行くのが目に入った。

「此処からは視界が良好さかい、別行動や」

ラズーリはそう一方的に言った後、移動を開始する。

「ちょっとラズーリ」

アーニャはラズーリを引き止めようと声を掛けたが建物の陰伝いでアンジェラの家の陰まであっと言う間に行ってしまった。

「仕方ないわね…コルカスは上からメイテ、ゴーギャンは私と」

「大佐は?」

コルカスは気を失っているグレンを視線で示す。

「私に任せなさい」

コルカスは建物の僅かな取っ掛かりを使い、屋根へと飛び乗り、使徒キャトルニカを追った。

「メイテ、大佐を」

メイテは力を使い、グレンの目を覚まさせた。

「…いててて…」

「すいません」

「…構わない、私も取り乱してしまっていたからな、それで少佐は?」

「今、コルカスとラズーリが追っています」

ラズーリは別の場所に行こうとしてアンジェラの家の細い裏路地を移動していたところで突然出てきたマリーとぶつかった。

「きゃっ!」

マリーは地面に尻餅をついた。

「ごめんな、怪我ないか?」

ラズーリはそう言って手を差し延べた。

「うん」

マリーは服を叩きながら立ち上がる。

「そいならよかった」

「おじさん、神殿のローブを着ているけど教会の人じゃないでしょ?」

「あちゃ~バレてもうたか、内緒にしてな」

「うん、いいけどこんな所で何をしていたの?」

「ちょっとなっとお嬢ちゃん、悪いけど行かなあかんから、またな」

ラズーリはそう言って細い裏路地を駆けて行った。

「ありゃ、軍人だぐ」

マリーの肩に乗っているミラが喋った。

「やっぱりそうなんだ」

「神殿の方に向かったが何か匂うだぐな、俺達も早く向かうだぐ」

「うん」

マリーは細い裏路地を神殿に向かった。



ラズゥールと臙脂色のローブを纏った少年の戦いは終わりを迎える。

「ブレイクメイト」

盤上の駒は臙脂色のローブを纏った少年の勝利を語っている。

「残念だけどこれで終わりだね」

「…」

「さようなら…」

少年は突然、胸を押さえて苦しみ、両膝をつく。

「こんな時に…」

周囲の空間が霧の如く崩れていく。

「何が起きている…」

ラズゥールの身体を拘束していたジャッチメントチェーンが消えた。

『鎖が消えた、退くなら今か』

「…今回だけは見逃してあげるよ」

少年がそう言い残すと空間が元の町並みに戻ると同時に少年は姿を消えた。

『退いたか?だが、此処にきて何故?向こうが優位であったというのに』

ラズゥールはそう思い、再びリベルを捜す為、その場を立ち去った。

「あと少しだったのに…」

路地裏で少年は薬を服用した。

「はぁ…はぁ…」

「また発作?それで逃げてきたわけね」

臙脂色のローブを纏う女性が現れた。

「…ドゥーレナも人の事、言えないじゃないか?」

「私の場合はただ相手の力量をはかったまでよ」

「言い訳にしか聞こえないけど」

「失礼ねぇ言い訳だなんて、だって簡単に壊しちゃつまらないでしょ?」

「アンテラは?」

「計画通り、あの人と一緒でしょうね」



神殿~地の神の聖域~

臙脂色のローブを纏った老公の男性が岩を積み上げたような無骨な壁や天井の奥に質素な造りの祭壇がある場所にルナ達を案内した。

「ここが礼拝堂です、そこの祭壇の裏には愚者の森へと繋がる扉があります」

祭壇の後ろに巨大な十字架で封じられた扉がある。

「こんな所で何をしている、アンテラ」

金糸で精緻な模様の刺繍が施された臙脂色のローブを纏った褐色の髪の初老の男性がルナ達の背後に現れた。

「教主様!」

臙脂色のローブを纏った老公の男性、アンテラは頭を垂れる。

「侵入者はどうしたのだ」

「キャトルニカが連れてきます」

「うむ、でそいつらは何者だ?」

「この方々は礼拝者です」

「ほう礼拝者とな」

教主がそう言うと臙脂色のローブを纏った者達が出て来てルナ達を拘束した。

「どうなって…」

突如、拘束されたことにクレイルは思わず声をあげるとそんなクレイルにルナが声を掛ける。

「今はおとなしく従った方がいい」

「連れていけ!」

ルナ達は礼拝堂から連れ出された。

「教主様、何を」

「私が知らぬと思ったか、あの子供が初代冥王ルナであることを!そして、お前達、使徒がかつてあれに仕えていた事もな」

「知られていたとは…」

「端から知っておったわ、そのような事」

「そうか、初めから…ならばもうお前に従う理由はないな」

アンテラは身に纏っていた臙脂色のローブを脱ぎ捨てた。

露になったその姿は鈍色の髪の執事服を纏う老公の男性だった。

男性は右手で何かを掴むような仕草をした。

「無駄だ、お前達の力は拘束した」

「行動不可」

臙脂色のローブ纏う大男が現れ、教主の傍らに立つ。

「キャトルニカ、お前!」

「キャトルニカは初めから私にのみ仕えている。キャトルニカ!アンテラ、ドゥーレナ、トロワンテを拘束し聖魂乃間へ連れていけ」

キャトルニカにそう言いつけて教主は立ち去った。



神殿~聖魂乃間~

「入れ!」

臙脂色のローブの者達によってルナ達は聖魂乃間に押し入れられると扉は閉じ消えた。

「レルクさん?…」

リベルは一瞬、目を疑う。

「リベル」

「レルクさん!生きていたんですね!」

リベルはレルクに駆け寄る。

「どうしてここにいるんです?リベル」

「私…いえ、私達は…」

「私達?」

「はい、ラズゥールさんとバルディ様の勅命でメルテクスの調査をしていたんですが…」

リベルはレルクにこれまでの経緯を話した。

「…そうですか」

『あのアンテラという者、まさか…な』

ルナは老公の男性のことを気にしていた。

『これからどうしますか、明らかに普通の部屋と違いますね』

クレイルは部屋を見回す。

室内の壁、床、天井には様々な文字列と幾何学模様が描かれている。
それらは時を刻むように動いている。

「これは時在法…か?」

「大方、私達をノームの贄とするつもりだろう」

クレイルの呟きにルナが答える。

「そんなわけのわからないものの為に命を奪われるなんざごめんだ」

ワグは背中に携えた黒い大刀を引き抜き、霊獣デスヴァルクの力を引き出そうとしたが出て来る気配がない。

「出ない?」

ワグが何をしようとしたのかは分からないが時在法を解析したリベルは床に触れながら言う。

「無駄です、時在法の一部に無効化する力が働いていますから」

「ちっ!」

突然、扉が現れて開いた。

アンテラ、ドゥーレナ、トロワンテがキャトルニカによって聖魂乃間に入れられた。

そして、三人が入ると扉が閉まりまた消えた。

「お前らよくも!」

「落ち着いてください」

ワグが三人詰め寄ろうとするのをクレイルが制した。

アンテラはそんなワグには目もくれず、ルナの元へと向かい跪いた。

「ご挨拶が遅れて申し訳ございません、ルナ様」

「おぬしはやはりファウスト」

「はい、セカンド、サードもおります」

「これでもう演じる必要がないのですね、お久しぶりです姫様」

「おひさ~姫っち」

ドゥーレナとトロワンテは今までとは違う口調でルナに話し掛けた。

「だがその姿はどうした」

「この町に入る時に姿を変えたんですが、今は力を封じられて」

「その腕輪だな」

「はい」

クレイルは三人の手首に密着するように嵌められた土で出来た腕輪を見ながら思う。

『見た目は脆そうですが…あの状態では外すのは無理ですね、ましてやこの空間では尚のこと』

「それで此処から出る方法はないのか?」

ワグは此処から出ることを優先として蟠りは捨ててアンテラ達に訊ねた。

「私が知る限りではこの時在法コモンソウルが発動してる間は外からしか扉は開くことができない」

「それじゃこのままただ命が尽きるのを待てと!?」

「心配はいりません、手立ては打ってあります」



教会~地の神の聖域~

「中に入ったがアーニャ達は何処や」

ラズーリは神殿の開いた天窓から中に入り、大聖堂の天井の縁を走る梁からアーニャ達を捜していると後ろに気配を感じた。

ラズーリが直ぐ様、後ろを振り向くとコルカスが居た。

「あんさんはコルカスやったか?アーニャ達は何処や」

「大佐と隊長達は神殿の裏手から侵入しておりますゆえ」

「そうねんや、ちゅうことであんさんはわいの下についてもらうで」

「承知した」

「まずはと…(あれはさっきの子なんでこないなところに)」

ラズーリはふと下に視線を向けると裏路地でぶつかった少女、マリーの姿が目に入った。

「これからどうされる?」

ラズーリはマリーに気を取られ、コルカスの質問に一瞬、反応が遅れる。

「あっ…そやな、まずは隠密行動で奴らの計画を調べることやな、あるところまで調べは進んどるんやけど肝心な所がどうもなぁ」

「承知した」

ラズーリ、コルカスはその場から移動した。


「さすがは聖母の妹だけあって難無く入れただぐな」

「あれって」

マリーは梁の上を走り、何処かへと移動するラズーリを見つけた。

「さっきの奴だぐ、易々と侵入を許すとは教会の力も底が知れるだぐな」

「それってお姉ちゃんを馬鹿にしてる?」

マリーは少し怒り気味で言った。

「ちょっと待つだぐ、俺はただここの教主のことをだぐなぁ」

「分かってる、さぁ行こう」

マリーとミラはアンジェラを捜しに奥へ歩いていった。



神殿~大地の塔~

「ごめんなさい、ネフィル」

アンジェラは逆さまの黒い十字架に張り付けられているネフィルに謝る。

「アンジェラ…どうしてなんだ…」

「私はもう過去の私ではないの」

「私の聖母の血は汚れてしまった…」

「よくやってくれた、聖母…いや、堕天使アンジェラ・ドゥラ・ガブリエル」

金糸で精緻な模様の刺繍が施された臙脂色のローブを纏った褐色の髪の初老の男性、教主が現れた。

「本当にごめんな…さい…」

アンジェラは名前を呼ばれた瞬間、言葉に詰まり、額に逆十字の傷が現れる。そして、肌が浅黒く染まった。

「アンジェラ?どうした?」

「そんな状態にされて、まだ私の心配とはおめでたいやつ」

黒く染まったアンジェラはクスクスと笑った後に馬鹿にしたように言うと冷たい口調で続ける。

「これから人柱になるというのに」

「来たか…」

教主は何かを感じ、姿を消すと…。

「お姉ちゃん!」

マリーが駆け込んできた。

「マリー」

アンジェラがそう言ってマリーの方を振り向くと元の姿に戻っていた。

「マリー、家にいないとダメじゃない」

そう言いながらマリーへと近付いて行く。

「その人をどうするつもり?」

「言ったではありませんか、ノームの加護を得ると」

「いい加減本性を出しな!」

マリーの肩のクマのヌイグルミからいつもと違う声色が聞こえた。

「ミラ!?」

マリーは驚き、肩を見るがいつものクマのヌイグルミはなくマリーの隣には金色の髪の男が立っていた。
その男の手首には鎖の付いた鉄の輪が嵌められている。

「久しぶりで…良かったかしら?ミラ」

アンジェラはまた黒い肌の姿に戻っていた。

「何を今更、ずっとお前の気配は感じていた」

「そう気付いていてここまで…けど今はあんたに付き合ってる暇はないの」

黒のアンジェラはミラに手を翳すと掌の前に黄色に輝く輪が現れ、輪の中心から光がミラに向けて放たれた。
だが、光は何かに阻まれ、ミラには届かずに収束した。

「お姉ちゃん、やめて」

マリーはミラの前に立っていた。

「魔女が何を言う」

「私は貴女に言ってるんじゃないお姉ちゃんに言ってるの」

「まだ家族ごっこか、そんな言葉もう通じない…」

黒のアンジェラの言葉が突然、途切れた。

「は・や・く・に・げ・て…マリー」

「お姉ちゃん!」

「だぁ・ま・れぇぇ……消えろ」

黒のアンジェラはまた手を翳して黄色に輝く輪を掌に作り出す。

「マリー、退いて下さい」

ミラがマリーの前に出ると光が放たれる

ミラはすぐ様、手を前に構えて放たれた光を片手で受け止める。

受け止めた光は周囲に漏れ流れ、天井や壁に当たるが破壊されることなく吸収された。

『これは場所が悪いな、何とかしてマリーを此処から早く出さないと』

そして、放たれていた光は収束する。

「ハァ…ハァ…お姉ちゃん…」

マリーは少しだけ息が乱れている。

「大丈夫、俺がなんとかする…」

そう言い切った後、ミラの姿がクマのヌイグルミに戻った。

「…だぐ」

「あっ…」

「逃げるだぐ」

「カッコつけて言っといてなんなのぉ~!」

マリーはミラを掴んで急いでその場から逃げた。

「………」

黒のアンジェラは無言でそれを見送る。



アーニャ、メイテ、ゴーギャンの三人は物置にされている部屋の窓から侵入し、アーニャはその部屋の扉を少し開けて様子を伺った。

「人目を避けて裏から侵入したけど中の方が警戒厳重ね」

臙脂色のローブの者達が頻繁に行き交う。

「ここは二組に別れて行動した方が賢明だな」

アーニャはグレンの言葉に同意するように頷いた。

「ゴーギャンは大佐に、メイテは私に付いて」

アーニャ達は二手に別れ、時間差で部屋から出る。

「メイテ、力を使って建物の把握を」

メイテは臙脂色のローブの下で周囲に分からないように力を使った。
目に見えない力がメイテを中心にして波打つように円形状に広がった。

「内部が不明な部屋が幾つかあります」

「不明な部屋?」

「近い所ですと、今、歩いている通路を真っ直ぐ行って、右に曲がった所に一つあります」

「では、まずはそこを調べる」

アーニャとメイテはその部屋に向かった。

何事もなく、二人は目的の部屋の近くまで辿り着いた。

「止まって下さい、部屋の前に誰かいます」

メイテは曲がり角の所でアーニャを引き止めた。
アーニャは止まり、角から覗き見て部屋の前を確認した。

「どうですか?」

「男が一人立って…消えた!」

部屋の前に立っていた男は忽然と姿が消えた。
その直後、扉が勢いよく開き、クマのヌイグルミを持った少女が出て来た。

「子供?」

少女は出た勢いのまま通路を真っ直ぐ走って行った。

『どうして子供がこんな所に』

アーニャとメイテはゆっくりとその部屋に近付いて行き、開け放たれた扉から中を覗き見た。すると中には逆十字に貼付けにされた人とその前に立つ人の姿が見えた。

『あの胸のレリーフ、あれが少佐に間違いなさそうね、此処からでは生死までは判らないわね』

アーニャは自分の首元に手を当てる。

『ゴーギャン、コルカス、聞こえる?』

『はい』

二人の声がアーニャの頭の中に聞こえた。

『少佐を発見、直ちに召集』

アーニャは首元に当てていた手を降ろした。

「メイテ、二人の誘導を」

メイテはアーニャと同じように首元に手を当てる。

「あと数分で到着予定」

メイテは二人の位置を把握して、アーニャに報告する。

「次から次へと…」

アンジェラは開け放たれた扉の方に意識を向ける。

「メイテ、伏せろ!」

アーニャはメイテの頭を押さえ伏せた瞬間、壁が吹き飛んだ。

「外したようね(でも、こう邪魔が入っては進まないわ、時期尚早ではあるけど止むおえないわね)」

黒のアンジェラは液体の入ったフラスコを逆十字架の真下に投げた。
フラスコは地面にぶつかり割れて中の液体は形状はあまり変えず半固形状態で地面の上に留まっている。

黒のアンジェラは何か術式を唱えると地面に紅く光る法陣が現れた。

「これで後は邪魔者たちを排除するだけ」



「大丈夫?メイテ」

「はい…」

「何か妙ね、今の破壊音を聞いても誰も来ないなんて」

「調べてみます」

メイテは力を使って周辺を調べた。

「周辺には生態反応は隊員と他数名しかいません」

そこにグレン、ゴーギャン、コルカスがやって来た。

「アーニャ、少佐は?何があった?」

「大佐、この部屋の中にいるやつに不意打ちを、怪我はありませんが少佐と思しき人物は中に囚われています」

「三人、増えたわね、まぁ何人増えようが関係ないけど」

「身体が!…」

「動かない」

突如、アーニャ達は身体の動きを封じられた。

「いい加減、コソコソしないで出て来てもらおうかしら」

黒のアンジェラは手を空に伸ばして引き寄せる動作をするとアーニャ達は姿を現し、黒のアンジェラの方に歩み寄って来た。

「軍の方々が何の御用かしら」

「ネフィルを返せ!」

「残念だけどその願いはもう叶わない」

「何!?」

「そこで黙って見てるのね」

黒のアンジェラはアーニャ達の動きを止めて法陣を施した場所を見た。

『可笑しい…術式の力が上がらない!?まさか、聖魂乃間を…』



~聖魂乃間~

聖魂乃間の扉が現れ、扉が開いた。

「遅いぞ!」

アンテラは開いた扉から現れた一人の人物に言った。

「すんまへん、遅れましたぁ」

現れた人物、ラズーリは相変わらずの軽い口調で返す。

「何をしていた、ラズ」

「そういいなや、色々と下準備があるんや」

「誰なんだ?そいつは?」

ワグは明白に分かるように怪しむ。

「今は秘密や」

「なに!?」

「まぁ、落ち着いて下さい」

クレイルはワグを宥める。

「そうや、そこの兄さんの言う通りやで、はよ出な皆おだふつや」

「そういうことだ、ワグ」

「…わかった」

ワグは渋々という風に受け入れる。

「ほな、はよ出てんか」

ラズーリ以外は先に聖魂乃間から出る。

「ファウ、後は手筈通り頼むで」

「分かっている」

ラズーリとアンテラは擦れ違い様に言葉を交わす。

「ほな、やるか」

ラズーリは聖魂乃間の中心に鉢植えを置くと鉢植えの土から芽が生えて幾本もの蔦が伸び、様々な文字列と幾何学模様が描かれた壁に突き刺さった。

そして、突き刺さった蔦から派生するように蔦が壁、床、天井を覆っていく。

「吸魂乃植媒、緑戒」

ラズーリがそう言うと蔦は一瞬で結晶化した。

「ここはこれでええやろ、ほな、わいも行くか」

ラズーリは聖魂乃間から出て扉を閉めた。

「堕天使が何をやっている!」

教主は一つの棺の前で苛立ちを言い放った。

「あのような者にまかせたのが間違えか…やはり、あれを…」

教会全体に地響きが響き渡った。

「この地鳴り、まさか…(スワロウメトロ、勝手なことを)」

黒のアンジェラが発動した術式は消え、アーニャ達の拘束は解かれた。

「また会えることを楽しみにしてるわ」

黒のアンジェラはそう言って姿を消すと逆さの黒の十字架に張り付かれたネフィルの拘束が解ける。

「ネフィル!」

グレンは黒の逆十字架から落下するネフィルへと駆けて受け止める。

「ネフィル、大丈夫か!?」

メイテは二人に近付き、ネフィルの額に手を当てた。

「気を失っているだけのようです」

「この揺れはなんなんだ」

地響きは徐々に収まっていった。

「揺れが収まったようやな」

ラズーリが部屋に入ってきて言った。

「ラズーリ、何だったんだ今のは?」

「それはなこうゆうことや」

ラズーリは外の映像を出した。

そこには宙に浮いた神殿の景色があった。

「浮上している」

「そこは気にするとこちゃう、問題は町の方や」

「何これ…町に巨大な法陣が」

「うそ!どうして、あれが!」

「ゴーギャン、あれが何か知っているの?」

「………スワロウメトロ、イルフィの禁術ある…」

「イルフィ族の禁術とは何?」

「スワロウメトロは生者を生き贄に死者を甦らせる蘇生術ある」

「レノーブルの民を贄として、そんなこと一体誰が…(さっきの女か?)ラズーリ、諜報部のお前なら何か知ってるんじゃないか」

「わいはな~んも知らんで」

ラズーリは外方を向く。

『あからさまに何か隠しているわね』

アーニャはジトッとした瞳でラズーリを見る。

「町から無数の光が出ているようだが」

「あれは恐らくレノーブルの民の魂でしょう」

「なんや、神殿の頂上に集まっているようやな」

「大佐は少佐とここに居てください。メイテ、コルカス、ゴーギャン、行くぞ」

アーニャ達は神殿の頂上に向かう為、部屋を出た。

「人道的やな、でも人の身でどうにか出来んのかね」

ラズーリはアーニャ達を見送るとそう呟きながら上を見上げる。



神殿~礼拝堂~

「早くこちらへ」

アンテラはルナ達を再び礼拝堂へと案内した。
祭壇の裏、そこには開け放たれた扉があり、中はプリズムのように輝いている。

「どうぞ、神殿の出口で愚者の森の入口に繋がっています」

「感謝するファウスト」

「こんな所にいたか、リベル」

後方からリベルに向けて声が掛けられる。

「ラズゥールさん」

「無事の様だな…」

ラズゥールはレルクと目が合った。

「久しぶりですね、ラズゥール」

「レルク、生きていたか…」

「えぇ」

「お前が易々と死ぬわけはないだろうからな。まぁなんだ、無事で何よりだ」

「はい」

「では、行くか」

ルナは揃った面々の顔を見渡した。

「私達は此処でまだ処理がありますので」

「またの機会に、姫様」

「またね、姫っち」

「あぁ」

ルナ、クレイル、レルク、ワグは扉の中に入った。

「貴方達も早く行くといいわ」

ドゥーレナはリベルとラズゥールに向かって言った。

「ラズゥールさん、行きましょう」

「わかった」

リベルとラズゥールも扉の中に入ろうとした時、トロワンテが二人を止める。

「待って」

その言葉に二人は振り返る。

「悪かったね、おじさん」

「構わん、お前達もお前達の理由があるだろうからな」

「おじさん、優しいんだね見た目によらず」

『見た目によらずは余計だ』

そう思いながらムスッとした顔をする。

「最後の言葉は余計だったね」

トロワンテはラズゥールの心を見透かしたようにいたずらっぽく笑う。

二人のやり取りを見てリベルも笑う。

「なんだお前まで」

「いえ、すいません…もう行きましょう」

笑いを抑えて謝ると扉の方へ向きを直る。

「あぁ」

二人は扉の中に消える。

「さて、あとはテッペンにいる奴だね」

トロワンテは二人を見送ると振り返るといつの間にかアンテラ、ドゥーレナの他にラズーリがいた。

「それだけちゃうで、四人、上に向こうた」
「その二人は?」

ドゥーレナがラズーリの足元に倒れているグレンとネフィルを示す。

「上に向こうた四人の連れでちょい眠ってもろたわ、サード、悪いけどこの二人北方へ送ってくれへんか?」

「いいよ」

「んじゃ、頼むわ」

トロワンテはルペネートを使って二人を北方司令部に飛ばした。

「次は私達を上へ」

「分かってるよ」

トロワンテは自分を含めた全員を神殿の最上階に飛ばした。



教会~空中庭園~

神殿の最上階。そこは普段ならば花が咲き乱れ、美しい庭園なのだが、今は見る影もない。
全ての花が枯れ果てており、茶色の絨毯を作り上げている。

その庭園の中心には教主とキャトルニカがいた。

「教主」

「キャトルニカ、見ろこの魂魄の数を生きとし生けるもの全てが此処に」

二人の頭上には棺が浮いており、その周囲を無数の光が渦巻いている。

「これならば…」

「終劇」

キャトルニカの言葉と共に血に染まる刃が教主の胸部から現れた。

「何をする…お前も裏切るか…」

キャトルニカは剣を引き抜いた。

「残念だが…」

教主の胸部からは流れ出ず、引き抜かれた剣の刃に血は付着していなかった。

「こんな物では私を殺せはできぬよ」

「予想一致」

「お前も贄となれ」

キャトルニカの足元にスワロウメトロの法陣が現れ、キャトルニカの姿が消えた。

渦巻いていた無数の光が動きを止め、すべての光が棺へと吸い込まれていった。

そして、棺はゆっくりと地面に降りる。

「ようやくこの時が…」

棺の蓋がずり落ち、中から赤毛の少女が姿を現した。

「おはよう、ジュリア」

「お父様…」

ジュリアは再び眠りにつく。

「…やはり、すぐには使えないか」

教主は眠るジュリアを抱えあげると背後に空間が裂けて暗闇が口を開ける。

教主は開いた裂け目の方へ振り返り、裂け目の中へと入っていった。

そのすぐ後にアンテラ達が最上階の入口に到着した。

「とうちゃくぅ~」

トロワンテが庭園に一番乗りすると同時に裂け目が閉じる。

『あれっ?』

トロワンテはスタスタと庭園の中心、裂け目の消えた場所に向かうとアンテラ、ラズーリドゥーレナも庭園に入り、トロワンテと同じ方へと向かう。

「誰もいない」

ラズーリは庭園の中心にある蓋の開いた棺を見つけるなり、棺に駆け寄る。

「あかん、一足遅かったわ。中身がのーなっとる」

「サード、重ね重ね済まないが足取りはたどれるか?」

「もうやってる…けど歪みに障壁が発生してて無理だよ」

「そうか、では次なる場所へ向かうか」

「ほな、わいはここで」

「あぁ、分かっている」

トロワンテがルペネートを使い、アンテラ、ドゥーレナ、トロワンテの姿は消えた。

「さて、聞こか」

何処からともなく声が聞こえた。

「目標は教主と共にヴァルキリアの元へ飛びました」

「そうか、ほな、引き続き追跡、監視をよろしゅうな」

「了解」

「そろそろやな」

ラズーリがそう言うとアーニャ達が庭園に入って来た。

「遅かったな」

「どうしてここに?」

「ここにいた奴はもうおらんで」

「ラズーリ、貴方が?」

「ちゃうちゃう、来た時にはもうおらんかった」

「じゃあ、レノーブルの町民は…?」

「残念やが…な…」

「そう…わかったわ、これで私達は大佐達を連れて砦に帰還するわ」

「大佐達なら北方司令部へ送っておいたで」

「ありがとう、ラズーリ」

「かまへん、かまへん、ついでにお前達も送ったる、砦でえぇか?」

「いいわ、自分達で帰還するから」

「そうか、んじゃ、わいは先に戻っとるわ
こんな状況や任務はしまいやしな」

ラズーリはそう言うとラズーリ姿が霞のようになって消えた。

「(…何か変ね)メイテ、この部屋を調べて」

アーニャの中で何か違和感を感じて、メイテに調べるよう指示をする。

「何も異常は見られません」

「そう(…思い違いか?)、では私達も戻りましょ」

アーニャ達、四人はゴーギャンの力で砦へ戻った。



~廃墟~

廃墟の一室にはヴァルキリアとアビス、他一名が卓に着いており、ヴァルキリアの傍らにはセルゲイが立っていた。

「…そうか、すまなかったなアビス」

「構わない」

「お陰で障害は消えた」

部屋の一角に魔方陣がコンパスが円を描くように現れて青白い光の粒が湧き上がり、全身氷で下半身は蛇のように長く、上半身は両腕のない女性の身体が構成された。

「アビス様…」

頭を低くする。

「グラス、何という体たらくだ」

「申し訳…ございません…」

グラスディーテの身体が少し崩れ落ち、疾風のオーブが転がり出た。

「なんだ?これは」

アビスはオーブを拾いあげた。

「それをあの少年に身につけさせておくといい」

「あの人形にか?」

「そうだ」

「…私はどうすれば…」

「戻って傷を癒せ!」

グラスディーテのいる地面に魔法陣が現れ、グラスディーテは水となり魔方陣と共に消えた。

「それでケイオス、エレメントは?」

「はい、全て此処に」

ケイオスは卓の上に布袋を置いた。

「奪った賢者の力と合わせて奴の元へ届けておけ」

ケイオスは立ち上がり、一礼をして立ち去った。

「私もこれを渡してくる」

オーブを持って、アビスは立ち去った。
その後、空間が裂けてジュリアを抱えた教主が現れた。

「突然の来訪、ご無礼申し上げる」

「何者だ?…ん?ほう、冥界の地神を宿した娘か」

「一目見ただけでお分かりとは、さすがは帝王様」

「何が目的だ?」

「冥界神の確保、天界で手に入れた六賢者の力とエレメントを使わせて頂きたいのですが」

「後者は何処から聞いたか気になるが所だが、いいだろう、セルゲイ」

「はい」

「案内してやれ」

「かしこまりました」

セルゲイはヴァルキリアに一礼すると教主に近付いた。

「こちらへどうぞ」

教主はジュリアを抱えたまま、セルゲイに付いて行った。



レノーブル~教会地下墓地~

ほの暗くじめじめとした神殿の最下層。

少年と黒のアンジェラがいた。

「まぁ、こんな所かな、姉さんは遊びがいがある」

「魔女を放っておいてもいいのですか?」

「いいさ、姉さんは見てて飽きないから。それにそのうち向こうから来るよ」

「分かりました」

黒のアンジェラの身体は光の粒となり、少年の背中で黒い翼になった。

「黒柩」

黒い棺が一つ、地面から垂直に迫り出すように現れた。

「久し振りに開けるな」

両開きの蓋を開き、幾つかの物を取り出すと黒い棺は地面へ戻っていった。

「ヘブンズコンパス」

少年は黒い棺から取り出した物のひとつである方位磁針を使った。

「もう神殿の中には誰もいないな」

方位磁針はくるくると回り続けている。

「もう少し此処にいるかな」

空中に浮く神殿の上空では箒に座るマリーと人の姿のミラが宙に浮きながら神殿と町を眺めていた。

「アンジェラ姉さん…」

「言っておかなければならないことがある」

「何?」

「その姉、アンジェラは元々、存在しない」

「何を言ってるの?」

「あれは堕天使ガブリエルの一部を媒介とした、仮初めの姿」

「そんな……」

「奴は人の心に付け入り、躊躇なく心を破壊する、そういう奴だ」

「………なにを知っているの?」

「マリーと出会うずっと前のこと、燃え盛る町の中、天使の微笑みと悪魔の所業を従えて奴は俺の目の前に現れた」

~ミラの過去~

翼を広げ、微笑みながら佇むガブリエルは赤い髪の姿でいた。

「…足りないな」

「…お前は何者だ」

ミラは頭から血を流しながら聞いた。

「まだ生きていたものがいたか」

ガブリエルは向きを直り、ミラの方を見た。

「どうやら人ではないようだな、悪魔か」

「どっちが悪魔だ」

「失礼だな、こう見えても私は天使なのだが…まぁ、していることは悪魔のそれだな」

ガブリエルはそう言って笑った。

「さて、どうするか…名は何と言う?」

「ミラ」

ミラは一応、名前を答えた。

「誠名じゃない、ですよね?悪魔にとって誠名の啓示は死を意味する」

ミラは隠し持っていた数本の銀のナイフをガブリエルに投げた。
銀のナイフは全て、ガブリエルの前で止まり液状化して地面に流れ落ちた。

「そんなもの意味はない」

ミラは続いて別の銀のナイフを投げた。

「無意味だと…」

ナイフはガブリエルの頬を掠めた。

「ヒエログリフか、愉しませてくれそうだ。だが頃合いだ」

背中の翼を広げる。

「待て!」

「愉しませてくれた、礼に名を教えてやろう、我が名はアンジェラ・ドゥラ・ガブリエル」

自らの身体を翼で包むと一気に開く、それと同時に突風が起こり、燃え盛る町の炎は消えた。

「また会おう、ミラ」

そして、風が止むとそこにはもうガブリエルの姿はなく、ガブリエルの羽だけが宙を舞っている。



レノーブル~上空~

「それが奴との最初の出会いだ」

「そう…なんだ」

「マリー、これからどうするんだ?」

「西都に向かうよ」

「分かった」

ミラはそう言うとクマのヌイグルミの姿に戻り、マリーの肩に掴まった。

マリーは何処かへと乗って飛び去った。
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