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第十一章
しおりを挟む地上界~コレドル樹海~
樹海は常に霧が掛かり、湿気に満ちている。
霧が渦を巻き始め、その中心部で次々と稲妻が走る。
稲妻は次第に激しくなり、突然止んだ。
その瞬間、渦の中心にあった木々は大地ごと消え、方舟フォリラテアが現れた。
「はぁ…はぁ…はぁ……」
クロノスは大質量の方舟を転移させたことで大半の天力を消費して息が乱れている。
「無事に着いたようですね」
フェイクは無事に事が済んだことを王核六花の中に表示されている外部の映像で確認した。
「…はい、でもこれからどうすれば?」
暫く息を整えてからフェイクに訊ねた。
「街に移動した方がいい、ここは樹海ですから」
「街にってどうやって何処にいけば…」
「移動は方舟の飛行機関を使えば造作もない、町については心当たりがある、南東方向へ進路を」
フェイクはクロノスに飛行機関の動かし方を教え、方舟を南東方向に向けて動かさせた。
方舟フォリラテア~出入核~
「なんだ?」
グラハムは出入核の壁に映し出された外の映像に目を遣る。
「あれは地上か?いつの間に地上に」
「さっきのあの現象が関係あるんだろう」
ラスティンは転移の時に発生した違和感を示す。
「あぁ、さっきの目の前が眩むような感覚か」
「皆を集めてこれからどうするつもりです?」
甲板には船長の指示により、船員達が集まっていた。
「まずは船の改造をな、動力が使えないんじゃ新たな動力が必要だろう?ちょうどいいことにこのデカブツは神鋼都市グルタに向かっているようだしな」
「そうか、私は部屋に戻って薬品の整理でもするよ」
「そうだ、ラスティン、ついでにトム爺さんに改造の指揮を取るよう伝えてくれ」
「どこかへ行くのか?」
「ちょっとな、あと通信機付けとけよ」
そう言ってグラハムは船員達が告げる。
「お前達!私が戻るまでに船の調整を終えておけよ」
船員達は威勢良く返事をすると各員、駆け出して自分の持ち場に向かう。
グラハムはその様子を確認した後、サウザンド号から降りた。
方舟フォリラテア~霊廟殿~
「無事に着いたみたいだね」
フェイは部屋の中に現れた、映像を見て言った。
「どこかしら、ここ?」
「コレドル樹海じゃな、聖域の中とは、また妙な所に出たな」
レイナの疑問にグレネリスが答えた。
「聖域ってあの未開の地、そんな所に!?」
「聖域の中心に降りたようだけどグングニルはどこへ」
ミリアリスは周囲の光景が表示される映像を知覚しながら疑問を呟く。
「あれは常にこちら側にあるとは、限らんよ」
「そうでしたわね」
「グングニルって何なの?」
フェイは精霊同士の会話に出てきた用語について訊ねた。
「グングニルはこの世界そのものであり、世界の一部であるものじゃ」
「どういう意味?」
グレネリスの説明にフェイの頭に疑問符が浮かぶ。
「全ては一つで、その一つが全てっていうことでしょ?」
レイナは自分なりの答えを言った。
「まぁ、そういうことじゃな」
「ん~よくわからない」
「そのうち分かるじゃろう」
「ん~」
外を映し出している映像とは別に映像が現れれ、クロノスの姿が映っている。
「フェイ君、レイナちゃん、聞こえる?」
クロノスの呼び掛けに二人は返事をする。
「私のいる所まで来てもらえる?場所はここ」
クロノスの映像が消え、現在位置から王核六花まで道筋に印がついてる地図が表示された。
フェイとレイナは霊廟殿から回廊に出た。
回廊には避難してきた者達はもうおらず、フェイとレイナが霊廟殿から出てきた所をグラハムが声を掛ける。
「こんな所にいたのか」
「無事だったんですね」
「どこへ行く所だったんだ?」
「クロノスさんの所へ」
「私も一緒に行っていいか?」
「構わないと思いますけど」
三人は王核六花へ向かった。
方舟フォリラテア~王核六花~
三人はクロノスに指示された場所に着いた。
「船長も一緒のようですね」
「来る途中で会って、駄目でしたか?」
「いえ、構いません」
「それで何の用なんですか?」
「この方舟フォリラテアは今、南東方向にある…」
「神鋼都市グルタだな」
「正解です」
「確かにあそこならこのデカブツに乗っている奴らを受け入れてくれるだろうな、あんたの考えで?」
「いえ、そこにいるフェイクさんが……」
さっきまでいたはずのフェイクが居なくなっている。
「あれ?」
「何を考えているだ、あいつ」
フェイは自分でもわからない苛立ち見せる。
「あの人は悪い人じゃないありませんよ」
「でも、追放されたってことは何かしたんでしょ?」
「…たぶん理由があったんだと思うわ、当時の記述は全て残されていないから分からないけど」
「そんなもの、詮索してもなんの意味はない、知ったところでそれは過去のことじゃ」
一同は沈黙する。
レイナは雰囲気を変えるためグラハムに訊ねる。
「グラハム船長、グルタってどんな街なんですか?」
「グルタは神鋼都市と名の通り、鋼業中心とした街だ、これで船の改装ができる」
「改装って、船に何かあったんですか?」
「動力源の后玉クーゲルが奪われて動かなくなったからな」
「クーゲルじゃと!?」
グレネリスはグラハムの発言に驚愕する。
「そんなに驚いてどうしたの?グレネリス」
「驚きもするわい」
「クーゲルはオーブの別名よ」
ミリアリスはグレネリスが驚いた理由を説明する。
「なんだって!?」
「歴史上、オーブには色々な呼び名があったわって聞いてないわね」
フェイは驚きの余り、ミリアリスの言葉は耳に入らなかった。
「そんな近くにあったなんて」
「あれがお前達が探していたオーブだったとはな」
「(そんな近くにあったと言うのに気付かなかったとは…)一体何処で見つけたんじゃ?」
「あのサウザンド号はある遺跡に眠っていたものだ、その遺跡の最深部に后玉クーゲルがあった」
「ある遺跡とは?」
「それは…」
「それは私から説明しましょうか?グラハム」
茶髪で短髪の学者風の青年が火の点いてない煙草を啣えながら入って来た。
「なぜ、ここにいる?ルカ」
「ここは実に興味深い場所だったんでね」
ルカはフェイ達の元へ近付いた。
「皆さん初めまして、ルカリド・ウィッチ、考古学者をしている」
ルカは啣えていた煙草を手に持ち、自己紹介をする。
「おっと遺跡の話だったな、遺跡は風の神、シルフィードを奉ったイルフェ族の遺跡でグルタの地下に存在している。イルフェ族は元々、異界からやってきたことが遺跡に記されていた風形文字を解読して解った。」
「そういえば、クーゲルについては何か分かったのか?」
「解読できたのは、クーゲルはイルフェが造ったものでないことと『空から賜りし風の子』という一文だけだ」
「イルフェか元々の祖先は冥界に住む異質な力を持つ民じゃな」
「今の声は何処から?」
ルカは何処からともなく聞こえた高年の男の声に周囲を見回す。
「ここだよ」
フェイは片腕を上げて朱い宝珠の埋め込まれた銀色の腕輪を見せた。
「こ、こ、これは!クーゲルと同質のもの、実に興味深い!これを何処で?」
ルカは興奮したように問いただした。
「もしやこれを使えば一時的にでも船を動かせるじゃ…外して調べさせてくれないか?」
「それは無理です、これは外すことができないんです」
「そうか、実に惜しい…」
ルカは酷く残念がる。
「だがあの三人組なんの目的で…」
「三人組って?」
「ロリック団とかいう奴らがクーゲルを奪いやがった」
「ロリック団…何処かで聞いたような」
「森の遺跡であった奴らが確かそんな名前だったような」
「でも、クーゲルがオーブなら奪ったのはその三人組じゃないですよ」
「なに!?じゃあ、誰が?」
「それは恐らく賢者アビスでしょうね」
クロノスはそう答えると王核六花の機能を使い、アビスの姿が写る静止画を出す。
「方舟の記録された映像の中に攻め込んできた者の中にいましたから。多分、賢者アビスはヴァルキリアの元にいるわ」
「何だって!じゃあ、疾風のオーブはヴァルキリアに」
「まずいことになったな」
「そうですわね」
「おぉ~こんな所にもう一つ、クーゲルと同質のものが!やはりそっちも駄目か?」
ルカはレイナの首に掛かる蒼い石が埋め込まれた首飾りを見つけてレイナに詰め寄る。
「はい…」
レイナはルカの勢いに負けそうになったが断った。
「そうか…じゃあ、またな」
ルカは後ろ向きで手を振り、うなだれるように王核六花から去っていった。
「もうすぐ着くみたいだな」
映像に神鋼都市グルタが見えてきた。
「でも、いきなり行って大丈夫なんですか?」
「それはそうですね」
「それは心配はいらない」
グラハムは耳に付けていた通信機に片手を添えた。
「聞こえたな、ラスティン」
「私は構いませんよ。すぐに居住スペースの用意をします、ソフェルの方々が良ろしければの話ですが…」
ラスティンの声が通信機のスピーカーホンから聞こえた。
「ありがとうございます、ですが少し時間をいただけますか?ソフェルの住人達の混乱がおさまるまでには時間が必要ですから」
「はい、いいですよ」
そして、通信が切れた。
「何者なんですか?」
「あいつはグルタの全てを統括する管理者だからな」
「医者ってだけでも凄いのにそんなに凄い人だったんですね、ラスティンさんって」
「まぁな」
グラハムは何故か自慢気に言うとクロノスに声を掛けた。
「俺の船が入っているドックの扉を開いてくれないか?」
「分かりました」
「では、私は船に戻る」
グラハムは王核六花から出て行った。
~暗黒闇夜~
フェイクは回廊を何処かに向かって歩いているとフェルセルクと出会った。
「よく無事で」
「師匠が私を庇って…」
「そうですか…」
「これからどちらに?」
「暫くはまた彼処で彼方の監視になる」
その後は二人は無言で歩く。
フェイクはとある部屋の前で止まる。
『まだ使えるといいんですが…』
方舟フォリラテアの最下層、二人の前には黒い扉がある。
「ここって」
「闇の賢者の部屋です、此処からなら彼等の居場所に行けるはず」
フェイクは扉の取っ手に手を触れる。
すると二人の視界は闇に染まり、二人の姿は扉の前から消えた。
方舟フォリラテア~立方白亜~
方舟に複数ある白亜の部屋にソフェルの住民達がいた。
「どうなっているんだ」
「早く説明しなさいよ」
「賢者はどうした!」
ソフェルの住民達が説明不足のまま避難させられたことで騒いでいる。
「皆さん、落ち着いて下さい」
避難している人達が、収容されている全部の部屋にクロノスの映像が映し出された。
「落ち着いて下さい」
住民達の騒ぎが止まった。
「皆さん、お話しなければならないことがあります…私は賢者ラファエロの弟子、クロノス・レイファです」
クロノスは躊躇いながらも重い口を開いた。
「賢者の方々が侵入者に襲われ、昏睡状態になり…」
住民達にざわめきが広がった。
「…さらに私達の世界、ソフェルが消滅し、この方舟を地上へと移動させました…」
住民達に更なる動揺が走った。
「そんな…」
「嘘だろ…ソフェルが消えたなんて…」
「これは大変悲しい出来事です…しかし、ソフェルはどんな時にも私達の心の中にあり、私達のいる場所が新たな世界[ソフェル]になると私は思います」
住民達はクロノスの言葉に動揺が少し和らいだ。
そして、クロノスの映された映像が消えた。
「はぁ…」
クロノスは賢者達が眠る、癒雨還で小窓の付いた一つの箱の前にいた。
「じじぃ、これからどうすればいい?……」
ラファエロが眠る箱に問い掛けたが、返事は返ってくることはなかった。
クロノスはまた深いため息をつき、癒雨還から出ようとすると…
「レイファ、お前が良いと思う行動をすればよい」
ラファエロの声が聞こえた気がしてクロノスは振り返った。
「…今、じじぃの声が…」
ラファエロの方を見たが変わりなく眠っている。
『気のせい…?でも、あれは確かに……自分が良いと思う行動をしろ…か…』
クロノスは癒雨還から出た。
方舟フォリラテア~出入角~
出入角の開閉式の扉が開き、グルタの特殊機械が入ってきた。そして、サウザンド号が運び出す準備をする。
「こりゃ、驚いたなぁこないデカイ船があるなんてな」
寝癖の付いた頭にゴーグルを掛け、つなぎを着た男が言った。
「マルク」
「おぅ、グラハム、凄いもん連れて来たもんやな」
「まぁな、これが新船のデザインとシステムだ」
グラハムはマルクに製図を渡した。
「なるほどな……」
マルクは製図をじっくり見て言った。
「この動力を造るには二、三必要な物がある」
「分かっている、翡翠の瞳、ファングルの骨、極色鳥の羽根だろう?」
「なら、動力以外は取って戻ってくるまでに仕上げといてやる、後半の二つはラウナ火山に行けば手に入るやろう」
「エアプレスが必要だな」
「グラハム、ちょっといいかな?」
ラスティンがやって来て聞いた。
「統括、久しぶりやな」
「その呼び方は止めてくれないか、マルク。私はほとんどグルタを留守にしていて、代行に任せっきりなんですから」
「それでラスティン、なにか用か?」
「ちょっとターミナルタワーまで行ってくるよ、ここの住民の件があるからね」
「分かった、私も行こう」
「一緒に来るのか?」
ラスティンは驚いたという顔で言った。
「私が行っちゃ何かまずいのか?」
「いや、そうじゃないが…」
「案ずるな、私も用事があって行くだけだ、用が済んだらすぐにでも去る」
「分かったよ」
「マルク、後は頼む」
「おぅ、まかせい」
皆を乗せたままのサウザンド号は特殊機械で方舟から運び出される。
神鋼都市グルタ~商業区~
「貴方達も街に降りるの?」
クロノスはフェイとレイナに聞いた。
「はい、取り合えず地上に降りてこれからのことを考えようかなって」
「貴方達の行く末を見届けたかったけど(じじぃの言葉でもあったし)…この状況じゃ」
「今は天上の人々は々なものを突然、失ったからな、お前も無理はするなよ」
グレネリスはクロノスを労る。
「…ありがとう」
クロノスは背を向けてお礼を言った。そのクロノスの瞳にはうっすら光るものがあった。
「…地上に行く方法は決まっていますか?」
クロノスは背後にいるフェイ達に分からないように涙を拭って振り返る。
「いえ、決まってません」
「なら街の入口まで送ってあげる」
「いいんですか?」
「短い間だったけど一緒に旅をした仲間なんだから遠慮しないで」
フェイとレイナはクロノスの瞳を見て頷くと二人はお礼を言う。
「ありがとう」
クロノスは方舟の機能を使い、神鋼都市グルタの入口の商業区に座標を指定した。
「これで準備はできたわ」
フェイとレイナの足元に二人を囲むように円形の輪が現れる。
「これでお別れね」
「でも、また何処で会えますよ」
「うん、世界は繋がってるんですから」
フェイとレイナはクロノスに言った。
「そうね」
クロノスは笑顔を見せると円形の輪は収縮してフェイとレイナの姿が消える。
フェイとレイナの二人の前には出店が建ち並び、賑わうグルタの商業区の大通りがあった。
「これからどうしようか?三つ目のオーブはヴァルキリアの手に渡っちゃったし、リーシュも…」
「ん~そうじゃの、奴らの居場所さえ分からないからな」
「クレイルさんなら、何か分かるんじゃ」
「そうやも知れんな、ではあいつの元へ行ってみるか」
「冥界に?でも、何処から行けば」
「ここからだと南西にあるラウナ火山から行けるはずじゃ」
「じゃあ、そのラウナ火山に向かおう」
「まぁ、待て、ラウナ火山は生きとし生けるもの全てに死を与える場所じゃ」
「そんなに危険な所なの?」
「人にとってはな…」
「ラウナ火山は常に有毒ガスが発生している所なのよ」
「じゃあ、どうすれば…」
フェイ達が困っている所へ何者かが声を掛ける。
「こんな所で何をしているんだ?」
それはグラハムでラスティンと共にいた。
「僕たちはこれからラウナ火山に向かおうって話をしてて…」
「あんな危険なところに子供だけで!?例え大人でもエアプレスが無ければ一秒も持たない危険な場所なんですよ」
ラスティンが語気を強めて言う。
「でも、行かなければいけないんです」
「ならば私が同行しよう、それなら問題ないだろう?」
グラハムはラスティンに確認を取る。
「……仕方ないですね。でしたらエアプレスが必要です」
「エアプレス?」
フェイは聞きなれない用語を復唱する。
「エアプレスってのは空気を容れたカプセルだ」
「正確にいうと風の魔法を応用した酸素マスクみたいなものですよ」
「私は今からそれを取りに行く所だ」
「用事ってのはそれだったんですね、でしたら私が取ってきても」
「他にも用はあるんだ、さぁ行くぞ」
グラハムはグルタの中央区の中心に聳え立つ鋼鉄と硝子の塔に向けて歩く。
『やれやれ、少し頭が痛いですね』
ラスティンは塔を見上げる。
神鋼都市グルタ~ターミナルタワー~
四人がターミナルタワーに入ると少女が長い髪を靡かせて勢いよく駆け寄ってきた。
「兄様ぁ~」
少女はそのままラスティンに抱きついた。
「お帰りなさい、兄様」
「元気だったかい、サリュ」
ラスティンの妹である少女、サリュはフェイやレイナよりも幼く、ラスティンに抱きつき見せる少女の笑顔にはあどけなさがある。
「うん、兄様が帰ってきたって聞いて急いできたの」
「そうか」
ラスティンはサリュの頭を撫でた。
その光景を見ながらグラハムは言う。
「相変わらずだな」
「あんたも居たの、胸だけ女」
兄に対する甘い声色とは別に棘のある声色でグラハムに言った。
「まな板に言われたくないものだな」
「サリュはこれから成長するからいいもん、あんたはこれから落ちていくんだから」
「全く可愛げのない…」
『全く二人が会うといつもこうですね…』
ラスティンは溜め息混じりに思った。
「まぁ二人共、サリュ行こう」
ラスティンはサリュをグラハムから引き離すように立ち去った。
「さて、私達も行くぞ」
グラハム達、残された三人はエアプレスを受け取りに向かう。
「グラハム船長、さっきの子って?」
「あれはラスティンの妹でここグルタの統括代行をやっている」
「あんなにちっちゃな子がこの大きな街を取り仕切っているの?」
「あぁ見えて兄に劣らず、頭が切れるからな…だが、見た目通りまだまだ子供だ」
グラハムはそう言って笑った。
「さて、此処だ」
保管庫と表示された重厚な扉の前に着いた。
グラハムは扉に付いたダイヤル式の三つの錠を操作する。そして、解錠した扉が開く。
「中は少し複雑だ、迷うなよ」
「あの、私達も入って大丈夫なんですか?」
外から見える中の立派な作りにレイナはグラハムに確認を取る。
「心配ない、私が許す…」
「でも(閉じられた立派な扉、厳重な鍵)」
フェイは閉じていた重厚な扉を思い出し、一歩を躊躇う。
「…私の金庫だからな」
グラハムはそう言うと中に歩みを進める。
フェイとレイナもグラハムの後に続き中に入ると扉が閉じる。
「グラハム船長は何者は何ですか?」
奥へと進む道すがらフェイは訊ねた。
「サウザンド号の船長だが」
「そういうことじゃなくて」
「分かってるって」
グラハムは悪戯っぽく笑う。
「此処なら大丈夫か…」
グラハムは立ち止まり、二人の方を振り返る。
「私のフルネームはグラハム・レイ・ギルガメスという…」
「ほう、あの蒐集王ギルガメスの末裔か」
グレネリスはグラハムの名に懐かしさを感じる。
「しゅうしゅうおう?」
「世界のあらゆる珍品や名品を集めた人物、精霊グレネリス氏は知っていたんだな」
「もしかしてオーブもその中にあったの?」
フェイはグレネリスに聞いた。
「いや、その頃はまだ我もオーブの中に封じられておらんかったからな」
『グレネリスがまだオーブでなかった時の』
「だからギルガメスは共に世界を旅した友人だった」
『縁とは奇なものだな』
感慨深く思うとフェイ、レイナ、グレネリス、ミリアリスを順に見た後、背を向けて再び歩き出した。
暫くして三人は行き止まりに辿り着く。
そこは円筒形の場所で壁と床中に大小様々な引き出しがある。
グラハムはすぐに目的の引き出しを開けてエアプレスを取り出すと引き出しを閉めて部屋の中心に向かう。
部屋の中心には引き出しが一つあり、それだけが鍵が取り付けられている。
グラハムは襟口から指を入れて何かを引き出した。それは首に掛かる紐で全てが内から出ると紐には鍵が繋がっていた。
その鍵を引き出しの鍵穴に差し込んで解錠する。
床の引き出しはゆっくりと迫り上がり、円柱状の硝子が現れる。
硝子の中には黄金の剣とその柄を掴む左腕があった。
「大丈夫、そうだな」
グラハムは硝子の中のものを確認する。
「これは何なんですか?」
「慾深き者の左腕、ギルガメスの名を継ぐ者に受け継がれているものでよくは分からない。ただ『目覚めの兆しがあれば破壊しろ』という言葉も受け継いでいる」
グラハムはそう言い終えるとグレネリスとミリアリスに訊ねる。
「因みにこれに関して精霊の方々は何か知っていますか?」
「我は知らんな」
「私も同じく知らないわ」
「話を聞く限り、危険そうなものみたいですけど目覚める前に壊してしまえばいいんじゃないですか?」
フェイは硝子に顔を近付けて中のものをまじまじと見る。
「壊せたならそうしてる、どうやってこの中に入れたか分からないがこれはどんなものを使っても壊せない」
フェイは手の甲で軽くコンコンっと叩いてみた。
「確かに固そう…」
フェイの耳に何か聞こえた。
「誰だ!」
フェイは睨むように周囲を見回すが部屋の中にはレイナとグラハムの姿だけだった。
「どうしたの?フェイ」
「今、誰の声が」
「私には何も聞こえなかったけど」
「私もだ」
「確かに聞こえたんだ」
「だが、私達以外に此処へは入れない入口には鍵が閉まっているからな、それに私が中にいる内は外から開けることはできん」
「また聞こえた」
またフェイにだけ声が聞こえた。
「何処だ!」
フェイは語気を強めて言うと突然、罅割れる音が響いた。
「なっ!?」
グラハムは驚きの声を上げる。
視線の先には内側から亀裂が入る円柱状の硝子がある。
「何故、突然」
更に亀裂が広がり、外側まで達し、三人は円柱状の硝子から後ずさる。すると円柱状の硝子は砕けて崩れる。
そして、中にあった慾深き者の左腕が禍禍しい気を放ちながら宙に浮かんでいる。
『寄越セ力』
今度はレイナとグラハムにも声が聞こえた。
「この声はあの左腕か?」
グラハムは警戒しながらしゃがみ、足元の小さな引き出しの取っ手に手を掛ける。
「レイナ、そのままゆっくり下がって出口へ」
フェイはエレメンタルブレードを構えて、庇うようにしてレイナの前に立つ。
「うん」
レイナは胸の前にある蒼穹のオーブを左手で掴みながら後ずさる。
慾深き者の左腕は何の前触れもなく黄金の剣でフェイに向けて斬りかかってきた。
フェイは僅かな所作で黄金の刃を受け止める。
『寄越セソノ力』
慾深き者の左腕が胎動し、左腕の断面から触手が暁のオーブに向かって伸びる。
「こいつ、オーブを狙って」
フェイはすぐ様、受け止めていた黄金の刃を払い除けて距離を取ると意識を背後に向ける。
『レイナは部屋の入口まで下がったみたいだな』
そう思っていると慾深き者の左腕は再び斬りかかってきた。だが、今度は銃声と共に左手が撃ち抜かれ、黄金の剣が床に投げ出された。
フェイは視線を少しずらすと長剣と一体となった銃を構えるグラハムがいた。
「今のうちに」
グラハムの言葉にフェイはエレメンタルブレードを逆に持ち、両手で慾深き者の左腕に降り下ろす。
だが、慾深き者の左腕は先程伸ばしていた触手で床の引き出しの取っ手を掴むと触手を収縮させてフェイの降り下ろした刃を躱す。
慾深き者の左腕は触手を増やして、床の引き出しの取っ手を手当たり次第、掴んで引き抜いた。
引き抜かれた引き出しは中身を撒き散らしながらフェイやグラハムに向かって投げ飛ばされる。
「あいつよくも」
グラハムは飛んできた引き出しを躱して、慾深き者の左腕へと三発、銃弾を放つ。
放たれた銃弾は引き出しを引き上げた触手を撃ち抜く。引き出しはその場で落ちて、床に中身が転がり出る。
「あれは」
フェイは床に転がり出た見覚えのある石に目が止まる。
『あれを取り込めば一気に片が付くかも』
その思惑に反応するかのように慾深き者の左腕は触手を使い、床に転がっている石を掴み取ると腕の中に取り込んだ。
「どうして!?」
自分の思いを読んだかのような行動に声をあげる。
突然、保管庫の壁の一部が爆発する。
『主様、なんとおいたわしや』
悲しむ少女の声がその場にいた全員に聞こえた。
ターミナルタワー~最上階・総統括室~
最上階の一室、サリュはソファーに座り、膨れっ面で呟く。
「全くお兄様がどうしてあんな女と一緒にいるのかわかりません」
「それは分かっているはずですよ?」
「はい…でもぉ…」
ラスティンはソファーに座るサリュの後ろから頭に手をポンっと乗せた。
「大丈夫」
サリュは頷いた。
「さて、都市機能と財政状況、各部署の報告書は?」
ラスティンがそう聞くとサリュは目の前の脚の低い長机の上に置かれたファイルを取る。
「報告書はこのファイルに都市機能、財政状況は変わらず正常に動いています」
サリュはラスティンにファイルを渡した。
「今回は以外に随分と少ないね」
「いえ、お兄様…それはここ数日のもので……残りはそこに…」
サリュは壁に列んでいる棚の一つを示した。
「やはり、そうですよね…仕方ないやりますか」
ラスティンはファイルに目を通していく。
サリュはソファーから立ち上がり、窓際に近付く。
「お兄様はグルタの外にある、あれはなんですか?」
「通信で伝えたはずですが…」
「それは、あの、お兄様が帰って来たと聞いて…その…」
「あれは異次元からの移住者の舟ですよ」
「異次元?そんなものが実際にあるのですか?」
「私も詳しいことは分からないが俗に天使と呼ばれる天上人だそうですよ」
「天使、やっぱり羽根があるのですか?」
サリュは目を輝かせてラスティンに訊ねた。
「聞いた話では羽根はあるみたいですよ」
「そうなんだ」
サリュは窓に張り付くように方舟を見詰めながら漫ろに体を揺らす。
「サリュ、彼等を迎え入れる手続きをしておいて下さい」
「分かりました、お兄様」
サリュは浮かれ気分で総統括室から出て行った。
「んっこれは…」
ラスティンはファイルの一つの項目に目を止め、窓際にある執務机の端末を操作する。
「ラウナ火山の磁針振動数値が異常な数値を示している」
表示されている文字と数字が赤く明滅している。
「あの舟の影響か…?」
窓の方を向き、遠くに見える方舟を見た。すると下層から振動を感じた。
「この振動は何です」
ラスティンは下を覗き込むと煙が上がっていた。
「あの辺りは保管庫がある…」
ターミナルタワー~保管庫~
爆発で巻き上げれた土埃が晴れると慾深き者の左腕の前に立つ和装のような装いの長い黒髪の少女がいた。
少女の右手には慾深き者の左腕が最初に握っていた黄金の剣があった。
徐に少女は黄金の剣の刃を自らの左腕に当てると素早く右腕を引いて、左腕を切り落とした。
その場にいたフェイ、レイナ、グラハムは少女のあまりの行動に言葉無くその様子を見ていた。
少女は流れ出る血をそのままに黄金の剣を床に突き刺し、残る右手で血に染まる慾深き者の左腕を拾い上げた。
そして、拾い上げた慾深き者の左腕を空虚な左腕に当て行った。すると流れ出ていた血が止まり、色が違う肌が綺麗に繋がった。
「主様、遅れて申し訳ございません」
『彼者ノ力ヲ』
「承知しました」
和装の少女はフェイに視線を向けて、黄金の剣の鋒を向ける。
「一体、何者なんだ」
「確かなのは戦いは避けられんということじゃろう」
フェイもエレメンタルブレードを構えて対峙する。
そこへ少女に向けて一発の銃弾が放たれる。だが、少女は右手首を返し、銃弾を黄金の剣で弾く。
「ちっ、目障り」
少女は手で弾くように剣を左手に持ち変えると同時にグラハムの方に向けて足を踏み出す。
僅かな時間でグラハムとの間合いを詰めて、黄金の剣を左下方から右へと斬り上げる。
斬り上げられた刃は長剣と一体となった銃の刃部分の接合部に直撃し、刃が外れて天井に弾き飛んで突き刺さる。
少女は振り上げた左手を同じ軌跡で降り下ろす。だが、刃の軌道が途中で変わり、床に黄金の刃を突き刺し、剣に体重を掛けて床をけって体を跳ね上げる。すると少女がいた場所に朱い刃が過ぎ去る。
黄金の剣の上で逆さまの少女は飛び上がり、天井に着地する。
「身軽の域を通り越しているな」
グラハムは見上げて銃を構える。
「なんで天井に立って…」
少女は天井を駆ける。
グラハムはすぐに引き金を連続で引いていく。だが、放たれた銃弾は全て躱される。
少女の向かう先にはレイナがいた。
「来るわよ、レイナ」
「うん」
蒼穹のオーブを握る手に力が入る。
少女は駆ける勢いのまま天井を蹴り、体を捻りながら床に着地する。
すると少女は動きを止めた。
少女の足元には水が溜まっており、その水が少女の体表を網目状に覆っている。
拘束された少女の右手の袖口から丸いものが床に落ちる。そして、次の瞬間、丸いものが爆発、少女は炎に包まれる。
炎により体表を覆っていた水は蒸発し、少女は左手の黄金の剣で炎を一振りで掻き消した。
そこへ少女の背後から振り下ろされる太刀、それは少女の左腕、いや、慾深き者の左腕を切り落とした。
不意に与えられた衝撃により少女は床に膝を突き、床に倒れる体を右手を床に突いて支える。
少女は首だけを動かして後ろにいる人物を睨む。
そこに立っていたのはフェイだった。
「お前は何なんだ?」
フェイはエレメンタルブレードを構えたまま聞く。
少女は何も答えず、右手で黄金の剣を持つ慾深き者の左腕を掴み、フェイに向けて振るうと高い音が響く。
交わる刃、弾く刃、流れ出る血、舞う黄金の剣。
少女は再び左腕を繋ぐ。そして、宙を舞う黄金の剣が輝き、光が保管庫内に満ちる。
フェイ、レイナ、グラハムは光に目が眩む。光はすぐに収まったが三人の視界は暫しの暗闇の後、瞳に部屋の輪郭が映る。
だが、少女と慾深き者の左腕、黄金の剣の姿は消えていた。
「これは酷いですね」
爆発で開いた穴からラスティンが現れ、荒れた室内を見回す。
「何があったんですか?」
銃剣の替え刃を付け替えているグラハムの姿を見つけて聞いた。
「なんと言えばいいのか…」
ラスティンは再び室内を見渡し、状況を把握する。
『あの左腕が動き出したようですね…』
フェイは和装の少女がいた場所で床に転がる石を拾い上げる。
「やっぱりあの石だ」
拾い上げた石は突然、砕けて塵となる。
塵はフェイの手のひらの上を漂いながら淡い光を放ち、暫くして暁のオーブの中に吸い込まれていった。
「……そうか、あれはヴェルフの」
グレネリスは何かを思い出して呟いた。
「ヴェルフ?」
「あぁ、ただの愚か者の名じゃ」
「さっきのあれって何だったの?」
レイナがフェイに声を掛ける。
「それはグレネリスが知ってると思う」
フェイとレイナの視線は暁のオーブに集まる。
「あの小娘は何者か知らんが、左腕はヴェルフという男のものじゃ」
「何者なんだそれは?」
グラハムとラスティンが二人の元にやって来た。
「ギルガメスの友人であり、ギルガメスに死を与えた者でもある」
「でも、どうしてその人の左腕だけが」
「それはあいつの末路が左腕を残し、全て消えたからじゃよ…」
グレネリスの思考に左手を伸ばす男の姿が過る。
「それから何があって此処に保管されてたのかまでは知らんが」
「この保管庫に詳しいことが分かるものがあるかもしれないな」
「それならルカが適当でしょうね」
グラハムの言葉にラスティンが適任だと思われる人物の名をあげる。
「…確かに彼奴なら私よりこの中に納められたものに詳しいかもな…」
「では、船に連絡をしておきます」
『横道にそれて本来の目的を見失わなければいいがな』
グラハムはルカの性格を鑑みて、不安に思う。
「それで目的のものは確保しているのですか?」
「あぁ、問題なくな」
「なら、此処はまかせてラウナ火山へ」
「分かった」
グラハム、フェイ、レイナの三人は壁の穴から外へ出る。
和装のような装いの長い黒髪の少女。その左腕の接合部、肌の色の違う境から少女の喉元に触手が伸びる。
触手は首に巻き付いて締め付ける。
「あぁ、あるじさ、ま…」
少女は意識が遠退いて地面に倒れ、顔の穴から体液が漏れる。
声にもならない声をあげると少女の首から触手がするりと外れる。
少女は妨げられていた空気を急いで取り込もうとして咳き込む。
『飢餓状態カラハ脱シタ』
周囲には干からびて枯れ木のようになった人々、いや、だったものがある。
「…主様…これからどうされる」
少女は息を整えて訊ねた。
『宝物殿ノ鍵ヲ開ケル』
左腕は地面に突き刺さる黄金の剣を引き抜く。そして、剣を振り上げて虚空を縦に振り抜く。
振り抜いた剣の軌跡に黄金の線が現れ、左右に開くと黄金の空間が現れる。
現れた黄金の空間は少女の方向に伸び、少女の姿は黄金の空間に消える。
ラウナ火山~火上の園~
ラウナ火山の麓は火の粉を付けたように紅く染まった葉を付けた木々が広がっている。
「まだ麓なのに暑い…」
フェイは休む為に木の幹に手をつこうと伸ばした。
「待て」
グラハムはフェイの手首を掴んだ。
「どうしたんですか!?急に」
グラハムは掴んだ手を放し、ベルトに結わい付けられた水袋を取り外し、中身を木に掛けた。すると水は幹に触れた瞬間、一気に蒸発した。
「うわっ!」
「ここらにある木は溶岩を栄養に育ち、その熱を放出しているからな」
「気をつけないと」
「今のうちにこれを…」
グラハムはカプセルを二人に渡し、三人はカプセルを飲み込んだ。
「何も変わってないみたいだけど」
「うん」
「まぁ、吸い込んだ有害な空気を綺麗にするだけだからな…んっ?」
樹木の影から灰色の人型の獣が這い出てきた。
「何あれ」
フェイとレイナは同時に反応する。
「ファングル(こんな所まで下りてきているとは、山に何かあったのか)」
グラハムは銃剣を構えた。そして、フェイも武器を構えた。
グラハムは銃剣でファングルに向け、数発の弾丸を放った。
弾丸はファングルに全て命中したが傷口は直ぐに塞がっていった。
「傷が消えた!?」
「確かに当たったのに」
フェイとレイナが驚いているとグラハムは言う。
「いや、もう終わった」
ファングルは突然、発火して灰になり燃え後には骨だけが残った。
グラハムがその骨を縄で一纏めにして担ぐと三人は歩き始めた。
「それをどうすんですか?」
「これは船のパーツだ、あと極色鳥の羽根と翡翠の瞳」
「翡翠の瞳って確かグワールが護っている」
「そうだ、翡翠の瞳はグワールが護っている物でグワールは滅多に姿を見せない、だから翡翠の瞳は別名、至宝の后玉とも呼ばれている」
「翡翠の瞳ならフェイクが持っていたはず」
「そいつは手間が省けたな、フェイクって奴は何処にいるんだ?」
「たぶん方舟の中にいると思いますよ」
「…あとは極色鳥の羽根だけか」
「それは何処にあるんですか?」
「極色鳥の住み処は中腹から山頂にかけて繋がる洞窟にいる」
その後…歩き続けている間、ファングルが何度か襲ってきたが、グラハムが銃剣で斥けた。そして、漸く洞窟までたどり着いた。
ラウナ火山~七色洞窟~
三人は洞窟に入ると火の粉混じりの熱風が吹いてきた。
「熱っ!」
「前に来た時より熱の放出量が大きい」
「何か来る」
熱風が止み、複数の光るものが奥から押し寄せる。
それは七色に輝く羽根の鳥達で三人の上を通り過ぎ洞窟から出て行った。
「極色鳥達が飛び出しって行ったな」
グラハムは地面に落ちていた極色鳥の羽根を拾いしまった。
「早く此処から出た方がいい」
グラハムの警告にグレネリスが言う。
「心配はいらん、我等が用のあるのはこの先じゃ」
「でも、どうやって先に?」
「心配いらんと言ったであろう」
腕輪のオーブが光り球体状に広がり消えた。
「熱が退いていく、これなら…」
「だが、そう長くは持たんぞ」
「分かったよ、グラハムさんはグルタに戻って下さい」
「お前達は何処に行くつもりなんだ?」
「仲間に会いに異世界へ」
「そうか、仲間の為にか…では、私はグルタで待つとするか」
グラハムはエアプレスを取り出す。
「これを渡しておこう」
残っていたエアプレスの一部をフェイに渡した。
フェイとレイナはグラハムと別れ、洞窟の奥へと進んだ。
「壁中が七色に輝いてる」
「極色鳥の羽根が琥珀の中で輝きを放っているのじゃろう」
洞窟内の至る所に極色鳥の羽根が入った琥珀が埋まっている。
二人は先に進むと開けた場所に出た。
どうやらそこはラウナ火山の内部のようで目の前には沸々と煮立ったマグマと上には薄暗く曇った空が見える。
「何だ此処、綺麗に地面が整えられている」
中央に円形状の岩の足場がある。
二人はそこまで歩いていくと地面に扉があった。
「それが異界に繋がる扉じゃ、気をつけろよ」
「何が?」
フェイはグレネリスに聞いたと同時にマグマの中から二体の龍が顔を出した。
「何これ?」
「扉を護る者、炎龍じゃ」
「立ち入る者、全て滅する」
炎龍はそう言ってフェイとレイナに地獄の業火のような炎を吐きかけられ、二人は炎に包まれた。
フェイは炎を炎で制し、レイナは水で相殺する。二人はオーブの力を使って炎を処理する。
「なんだいきなり」
フェイはエレメンタルブレードを構えた。
「レイナ、片方頼むよ」
「分かった」
レイナはオーブの力を使い、手の平位の水弾を複数個作り、炎龍に向かって放った。
それに対して炎龍は炎を吐き、水弾を消し去る。
「もっと密度を上げないと駄目みたい」
一方、フェイはもう一体の炎龍に炎斬を放つと命中し真っ二つになり、上半分が液化してマグマに戻ったが残された下半分から頭が生えた。
試しにもう一度、炎斬を放ったが全く結果は同じだった。
「これじゃキリがない」
「フェイ、二体にそれを打ち続けてその間に私が」
「そう簡単じゃないけど…」
エレメンタルブレードを双刀に変えたフェイは炎龍に向けて炎斬を放ち続ける。
フェイが二体を相手にしている間にレイナは蒼弓のオーブの力を使い、両手に水弾を作り、密度を濃縮させていく。
「はぁ…はぁ……本当、次から次へと…レイナ!」
フェイは二体の炎龍、それぞれに炎斬を放つと上半分を切り落とす。
「できた」
レイナは両掌にある深蒼の水弾を放った。
水弾は下半分となった二体の炎龍に命中すると一瞬で凍り付き、炎龍の身体を伝ってマグマをも凍り付く。
「終わったぁ~」
レイナは疲れた表情で地面に座り込むと凍り付いた炎龍が砕けて凍り付いたマグマの上に散らばる。
「…でも、今のは何だったのかな」
何処からか声が聞こえた。
「今のは君達の力を試したんだよ」
「試した?」
「異界へ渡るに相応しいかだよ、でも、さすがオーブを使えるだけあるよ~」
「いい加減、姿を見せたらどうじゃゴブレ」
「相変わらずせっかちだよ、グレネリスは」
突然、何もない所で炎が燃え、大きな火の耳を持つ子狐が姿を現すと凍り付いたマグマが熱を帯びて溶解する。
「グレネリス、知ってるの?」
「こいつはイヲス・θゲートの門番じゃ」
「んじゃ、紹介が終わった所で…」
θゲートの扉が開き、扉の上に乗っていた二人は落ちた。
「行ってらっしゃ~い」
θゲートの扉が閉じた。
~???~
「ここは…」
「何ボーっとしてるっすか」
リーシュはフェイを押し退けた。そこへ黒い光弾が飛んで来た。
「大丈夫?」
レイナはフェイに駆け寄り怪我がないか看た。
「あぁ…うん」
フェイは二人の方を見ると大分、疲弊している。
「強いっすね…」
「さすがはヴァルキリア…」
「そうか、俺はヴァルキリア戦って」
フェイは漆黒の鎧甲と剣を着た人物の方を見た。
「レイナ、オーブを」
「もうそれしかなさそうね」
レイナはリーシュに蒼弓のオーブを渡した。
リーシュは地面に落ちている暁のオーブが埋め込まれたエレメンタルブレードを拾い、疾風のオーブを暁のオーブの隣に嵌め、蒼弓のオーブをその隣に嵌め込んだ。
「リーシュ!」
「受け取れ!フェイ」
リーシュはフェイに向かってエレメンタルブレードを投げた。フェイはその柄を掴むと刃が光り輝き、すぐさまヴァルキリアに立ち向かった。
ヴァルキリアも漆黒の剣を構え、フェイに向かって行くと二人が一刀のもとに擦れ違う…。
ヴァルキリアの鎧の脇腹辺りに亀裂が入り、砕け黒血が吹き出た。
「やった!あのビクともしなかった鎧を敗ったっす」
「いや…」
オーブの全てに亀裂が入り、エレメンタルブレードが一気に砕け散った。
「フェイ!」
フェイは膝から力が抜けるように崩れ落ち地面に伏せる。二人はすぐさまフェイに駆け寄った。
冥界~星降りの湖~
「起きてフェイ」
レイナの声にフェイは瞼を開けると枯れた大樹とその大樹の枝の隙間から見える夜空に光る星があった。起き上がり周りを見ると周囲を囲む湖の波一つない水面に星が写っている。
「ここが異世界?」
「私もさっき目が覚めたばかりだからよくわからないけどたぶん…」
「確かにここは冥界じゃ」
「冥界特有の力が満ちているわ」
辺りには細かな光が瞬いている。
「だが此処は異常なくらいだな」
「これでは向こうの世界に影響を及ぼしているのも納得がいくわね」
「どうにか出来ないの?」
「単純な事、元凶を何とかすればいいだけじゃ」
「それくらいは分かるよ」
「仕方がないの、オーブを外してエレメンタルブレードの窪みに嵌めるんじゃ」
「でも、これって外れないじゃ?」
「今のお前なら外せる」
フェイは試しにやってみると思いの外、簡単に外れて驚く。
「あっ!」
「レイナのオーブも渡してくれんか?」
レイナはグレネリスの言われた通りに首から掛かる首飾りからオーブだけを外してフェイに渡した。
フェイはそれと自分のオーブをエレメンタルブレードの窪みに嵌めた。すると刃がほのかに輝き始め、満ちていた力が刃に吸い込まれていく。
湖を囲む森の茂みから何かが蠢く音が聞こえてきた。
「なに?」
レイナは森の暗闇に目を凝らす。
「元凶が出て来たか」
蠢く音が止み、黒紫色の霧が森から出てきて二人がいる枯れた大樹がある浮島を取り囲む。するとその霧は不気味な獣の姿へと成り、島に足を踏み入れる。
その獣の身体の一部にはひび割れた髑髏の仮面を身に着けていた。
「アーデルリンガー、やはり此処は愚者の森の深部か」
アーデルリンガーは鋭く尖った爪でレイナに襲い掛かかる。
突然、レイナの様子が変わり、片手を襲い掛かってきたアーデルリンガーの方に突き出した。
「法錬結守」
レイナがそう呟くとアーデルリンガーは何かに阻まれて弾き飛ばされた。
「なに?」
レイナは我に返り、何が起きたのか理解出来ず、困惑している。
「今のは…?」
弾き飛ばされたアーデルリンガーは肉体が崩壊し髑髏の仮面だけが残された。
『契約者としての資質の片鱗が目覚めたようね』
『だが、自覚を持つにはもう少し時が必要じゃな』
『そうね』
フェイは遺された髑髏の仮面を拾いあげた。
「不気味な仮面…」
言った後…フェイの瞳が少し翳る。
『…何だろうこの感じ…何か…』
「どうした、フェイ」
「…いや、何でもない」
グレネリスの声にフェイは仮面から視線を上げると瞳から翳りが消えた。
「大丈夫か?」
フェイはレイナに声を掛ける。
「うん…」
「そういえば、さっきのは?」
「わからない…(でも…確かあの時…声が…)」
「そう…か」
「もうオーブを外していいぞ、魔力も影響が出ない程に減った」
「あぁ、分かった」
フェイはグレネリスの言うとおり、オーブをエレメンタルブレードから外して腕輪に戻すと蒼弓のオーブも外してをレイナに差し出す。
「レイナ?」
「…あっうん」
レイナは上の空でフェイに名前を呼ばれたことに気付き、差し出されたオーブを受け取り、首飾りに戻すと誰となく聞いた。
「これからどうするの?此処が何処だか分からないし」
「此処は愚者の森深くにある星降湖よ」
ミリアリスが答える。
「じゃあ、さっきのは?」
「この森に住人よ、外界には干渉せず、温厚な者達のはず」
「それならどうして」
「教えてやろうかの、異界の者達よ」
程近い場所から声が聞こえた。
「誰だ」
フェイとレイナは周囲を見回したが誰もいない。
「こっちじゃ」
声は近くにある大樹から聞こえた。二人は大樹をじっと見ていると目、鼻、口が現れ、顔となった。
「儂の名はエンドラ」
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「雰囲気がな」
「レイナが王様に似てるのか、ん~」
フェイは想像してみた。
「なんか似合わないな」
「それはどういうことかな」
レイナはフェイの頬を抓る。その表情は笑顔だが目が笑っていない。
「お爺さん、私達に任せて」
レイナはエンドラにそう言うとフェイの頬から手を離し、森の方に向かった。
「待てよ、レイナ」
フェイはすぐさまレイナを追った。
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