ShiningHeart

シオン

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第十二章

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冥界~愚者の森~

大地の神殿から愚者の森に入って数時間、歩いている。

「昼だというのに随分と暗いですね」

「目的の場所はまだなのか?」

ワグはルナに聞いた。

「………」

ルナは何も答えず歩いていく。

「お~い」

「………」

ルナは何も答えない。

「返事くらいしたらどうなんだ」

「ルナ様?」

反応のないルナにレルクも心配になり、声を掛ける。

「……迷った…」

「なっ!なにぃ~~!!!」

ワグはまさかの答えに声をあげる。

「仕方ないであろう、先程からあれの気配が感じられないのだからな」

「じゃあ、今まで適当に歩いていたのか?」

「何を失敬な!適当ではない、勘だ」

ワグはため息をついて思う。

『こいつは頭が切れるのか、抜けているのか…いや、ある意味…』

「それでこれからどうします?辺りは暗闇の深みが増す一方ですし」

「仕方がない、危険ではあるが光を使うか」

ルナはレルクに命令する。

「力を貸せ」

「はい」

レルクはルナの背後に立って背中に手を翳すと自らの精霊の力を引き出してルナに注ぐ。
ルナはそれを受けながら詠唱していく。

「森よ、森よ、木々に住む精霊よ。我が命を聞け、闇の結びを解き、光を紡げ。レイスピリタス」

言い終えると光の球が幾つも現れ、暗闇から木々達が輪郭を現した。

「早速、来たな」

光の球に黒い蝶が集まってきた。

「光血蝶ですね」

「あぁ光血蝶は名の通り、光と血を好む蝶だ」

「血って」

ワグは蝶に対して警戒する。

「心配いりませんよ、出血がなければ大丈夫ですから」

光血蝶は光を吸って、羽根が七色の光を帯びていく。

「これでこいつらが導いてくれる」

「初めからそうすれば良かったんじゃないか」

「全くお前にはこの森の名が似合いだな。愚者の森の愚者とは森に住む、アーデルリンガー達のことを指すのではない。何も知らずにこの森に入る愚か者を指す。これだからシスコンは…」

「そうか…ってシスコンは今の話に関係ないだろうが!」

「そうか?十分、愚か者の部類に入ると思うがな」

ルナはワグに背を向けて光血蝶の行く末を見詰める。

『コイツゥ~』

ワグは怒りの瞳でルナの背を睨む。

四人は暗闇に幻想的に舞う光血蝶の群れについて歩き出す。

クレイルは歩く速度を落とし、一番後ろを歩くワグに近付く。

『もう心配なさそうですね』

クレイルは妹を奪われた後のワグの様子を思い浮かべ、今のワグを見る。

「何が用か?」

「一つ、初めから光血蝶を使わなかったのは光は闇を際立たせる、七色の光となれば殊更」

「闇なんて何のこともない、あの方に仕えているのだからな」

「本当、貴方にはこの森の名前が似合いかもしれませんね」

「お前も俺が愚か者だというのか」

ワグは怒りを示す。

「与えられた闇の深淵を知らない者は愚か者と言わず何と?」

クレイルの冷たい瞳がワグの瞳を捉える。

ワグはその視線に囚われた瞬間に寒気と背後から這い寄る何かを感じて振り返る。

そこにあるのは闇、ただただ先の見えない闇だった。

「今の感覚を忘れないでください、くれぐれも」

クレイルは立ち止まるワグを残して先を歩いていく。



愚者の森~???~

髪の色が真ん中で白と黒に分かれた対称的な双子、ディオス・クロイは森の中にいた。

「ディオス、あの人が本当にここに来ているの?」

「当たり前じゃないか、ご褒美を貰わなきゃ」

「僕、苦手だよ、あの人」

「あの御方の為だよ」

「うん、分かってるけど」

木の陰から黒いローブのフードを被った者が現れた。

「遅いぞ」

突然、現れたその者に二人は驚き後ろに倒れそうになった。

「やめてよ、それ」

「何がだ」

「その登場のしかた…」

「創者の抹殺、施設破壊は確認した」

黒いローブの者は身の丈程ある布袋を差し出す。

「約束の物だ」

ディオスが布袋を受け取る。

「次の依頼だ」

黒いローブの者がそう言うとディオスとクロイの中に依頼内容が流れ込んだ。

ディオスとクロイは内容の確認を終えると黒いローブのフードを被った者は消えていた。

「うぅ気持ち悪いぃ~」

「毎回、この情報の受け渡し方、何とかして欲しいよ」

「うんうん…」

ディオスとクロイは錠剤を数粒取り出し飲んだ。

「は~落ち着いたよ~、そういえばそれって何なの?中身しらないんだけど…」

「俺も知らないけどあの御方の望まれた物だよ、俺達、ホムンクルスが知ることじゃないさ」

「そうだけど、ディオスは気にならないの?」

「クロイ、行くよ」

「待ってよ~」

二人は暗い森の奥へと消えて行った。



冥王宮ルシファール

王宮に戻ってきたラズゥールとリベルは報告の為、国王執務室にいる。

「では、聞こうか」

「メルテクスの石化現象はあの一帯を牛耳っている権力者、タクリ公爵によるものだった」

『あの情報は正しかったな…』

バルディはある所から入っていた情報と照合した。

「恐らくタクリ公爵はクリエスターだ。住人の魂を抜き取り、自分の創った擬似生命を動かすのに使っていたようだ」

「それで公爵は?」

「公爵の館の地下通路で何者かに殺害されているのを発見した。その近くにはメルテクスまで案内をしてくれたネフィル少佐が倒れていたが命には別状はなく、リベルの治癒魔法で治療を施した」

「その後、メルテクスが消滅したようですね」

バルディの傍に立つ側近メリルがその後に起きた出来事を言った。

「俺達は館の地下通路に居たから生き埋めになりそうになったが行き止まりにあったレノーブルの枯れ井戸に逃げ込み事なきを得たが」

「レノーブル、地下通路はノームの教の町に繋がってたのか?じゃあ、公爵はノーム教と繋がりがあった?」

「分からないが、それはないだろう」

「そうです。もし繋がりがあるのなら神殿に直接、繋がっていると思います」

「確かにな」

「そして、レノーブルの事だが…」

「そこからは諜報部から報告は受けています」

ラズゥールがレノーブルで起きた事柄について話そうとしたが話を切るようにメリルが言った。

「そういうことだからもう下がっていいよ」

ラズゥールとリベルはバルディの言葉に従い、部屋を出た。

「はぁ~」

バルディは深い溜め息をついた。

「この国に一体、何が起こっているんだ?母上の事もある、それに…」

「諜報部からあがってきている、初代冥王ルナの件ですね?」

「そう、どうしてレルクが王宮から去り、目覚めた冥王ルナと行動してるのか」

「諜報部の方には引き続き、動いてもらった方がよろしいですね」

「そうだな」

バルディはそう言い、机の上にある書類の束を取り、目を通していく。



~???~

そこは薬品や香料が入り交じった匂いが漂う薄暗い部屋、空間が裂けて闇からベルデが現れた。

「ベルデ、僕を消しに来たのかい?」

暗がりにぼんやりと浮かび上がる人影から声が掛けられた。

「私がグルベリ様を?そんなこと…できるわけないじゃありませんか」

ベルデはキルティング博士との会話とは、全く違う声色を使っている。

「冗談だよ」

暗がりにグリベルの微笑む口元が見えた。

「これを見なよ、ベルデ」

グルベリは液体が満たされた容器を示した。中には眠るように瞼を閉じるセリウスが安置されていた。

「これに神具セフィロトをお使いになるんですか?」

「もう適合済みだ。この冥霊スーリセにな」

「グルベリ様、お伝えしなければならないことがあります…」

ベルデは神魔クリフォトについて話した。

『複製の力を増幅させる為に用いた血の影響か…?だとすれば脅威足りえないが…しかし』

「グルベリ様、どうしたのですか?」

「ベルデ、引き続き対象の監視を頼むよ」

「はい」

ベルデは来た時と同じ様にキルティングの元へ戻った。

「グルベリ様」

「今度はゲルヴか、ヴァルキリアの状況は?」

部屋の隅にある大鏡にゲルヴの姿が写し出された。

「天上界ソフェルを崩壊させ、宝玉の一つの疾風のオーブ、エレメントと賢者の力を手中に収め、そして、疾風のオーブは一人の少年に与えたようです」

「順調に動いているようだな」

「先程、ヴァルキリアの部下がエレメントと賢者の力を私の所へ持ってきました」

ゲルヴは大鏡を介してエレメントと賢者の力をグルベリに渡した。

「無論、複製は取ってありますので直ぐに気付かれることはないはずです。それに出過ぎた真似かと思いましたが、あれの処理を施しました」

「いや、それでいい。後はそれをヴァルキリアにくれてやるといい」

「はい」

大鏡に写し出されていたゲルヴの姿が消えた。

「あと少し…」

冥霊スーリセが目を覚ました。
グルベリは容器内に満たされていた液体が排出され、容器の扉が開いた。

「俺は…」

スーリセの頭の中にデア城の戦いをはっきりと思い出された。

「あいつは何処だ。私を、私達を捨てた、あの男は!」

『セリウスの時の記憶がまだ残っているのか』

グルベリはそう思い、スーリセに命じる。

「…僕の声を聞け…」

グルベリの言葉にスーリセの瞳は深く曇った。

「忘却の扉を開き、その身に刻まれた書物を解放し、僕、ランス・ド・グルベリの命に従え…」

スーリセにはグルベリの声が木霊して聞こえている。

「はい…マスター」

スーリセはグルベリの言葉に逆らう事なく感情の抜けたような返事をした。

「では、ゼノミーティアの所在は?」

「ゼノミーティア…別名、始焉の鍵…始原の鍵と終焉の鍵が対に成りし創成の光へ続く扉の鍵……形状…所在は不明…」

スーリセは問われた名称のものを説明した後に答えた。

「ユグドラシルの断片(神具セフィロト)でも所在までは解らないか…」

グルベリはその場で少し考え、スーリセを引き連れて何処かへと歩みを進める。



冥界~愚者の森~

大地の神殿から愚者の森に入って数時間、歩いている。

「昼だというのに随分と暗いですね」

「目的の場所はまだなのか?」

ワグはルナに聞いた。

「………」

ルナは何も答えず歩いていく。

「お~い」

「………」

ルナは何も答えない。

「返事くらいしたらどうなんだ」

「ルナ様?」

反応のないルナにレルクも心配になり、声を掛ける。

「……迷った…」

「なっ!なにぃ~~!!!」

ワグはまさかの答えに声をあげる。

「仕方ないであろう、先程からあれの気配が感じられないのだからな」

「じゃあ、今まで適当に歩いていたのか?」

「何を失敬な!適当ではない、勘だ」

ワグはため息をついて思う。

『こいつは頭が切れるのか、抜けているのか…いや、ある意味…』

「それでこれからどうします?辺りは暗闇の深みが増す一方ですし」

「仕方がない、危険ではあるが光を使うか」

ルナはレルクに命令する。

「力を貸せ」

「はい」

レルクはルナの背後に立って背中に手を翳すと自らの精霊の力を引き出してルナに注ぐ。
ルナはそれを受けながら詠唱していく。

「森よ、森よ、木々に住む精霊よ。我が命を聞け、闇の結びを解き、光を紡げ。レイスピリタス」

言い終えると光の球が幾つも現れ、暗闇から木々達が輪郭を現した。

「早速、来たな」

光の球に黒い蝶が集まってきた。

「光血蝶ですね」

「あぁ光血蝶は名の通り、光と血を好む蝶だ」

「血って」

ワグは蝶に対して警戒する。

「心配いりませんよ、出血がなければ大丈夫ですから」

光血蝶は光を吸って、羽根が七色の光を帯びていく。

「これでこいつらが導いてくれる」

「初めからそうすれば良かったんじゃないか」

「全くお前にはこの森の名が似合いだな。愚者の森の愚者とは森に住む、アーデルリンガー達のことを指すのではない。何も知らずにこの森に入る愚か者を指す。これだからシスコンは…」

「そうか…ってシスコンは今の話に関係ないだろうが!」

「そうか?十分、愚か者の部類に入ると思うがな」

ルナはワグに背を向けて光血蝶の行く末を見詰める。

『コイツゥ~』

ワグは怒りの瞳でルナの背を睨む。

四人は暗闇に幻想的に舞う光血蝶の群れについて歩き出す。

クレイルは歩く速度を落とし、一番後ろを歩くワグに近付く。

『もう心配なさそうですね』

クレイルは妹を奪われた後のワグの様子を思い浮かべ、今のワグを見る。

「何が用か?」

「一つ、初めから光血蝶を使わなかったのは光は闇を際立たせる、七色の光となれば殊更」

「闇なんて何のこともない、あの方に仕えているのだからな」

「本当、貴方にはこの森の名前が似合いかもしれませんね」

「お前も俺が愚か者だというのか」

ワグは怒りを示す。

「与えられた闇の深淵を知らない者は愚か者と言わず何と?」

クレイルの冷たい瞳がワグの瞳を捉える。

ワグはその視線に囚われた瞬間に寒気と背後から這い寄る何かを感じて振り返る。

そこにあるのは闇、ただただ先の見えない闇だった。

「今の感覚を忘れないでください、くれぐれも」

クレイルは立ち止まるワグを残して先を歩いていく。



愚者の森~???~

髪の色が真ん中で白と黒に分かれた対称的な双子、ディオス・クロイは森の中にいた。

「ディオス、あの人が本当にここに来ているの?」

「当たり前じゃないか、ご褒美を貰わなきゃ」

「僕、苦手だよ、あの人」

「あの御方の為だよ」

「うん、分かってるけど」

木の陰から黒いローブのフードを被った者が現れた。

「遅いぞ」

突然、現れたその者に二人は驚き後ろに倒れそうになった。

「やめてよ、それ」

「何がだ」

「その登場のしかた…」

「創者の抹殺、施設破壊は確認した」

黒いローブの者は身の丈程ある布袋を差し出す。

「約束の物だ」

ディオスが布袋を受け取る。

「次の依頼だ」

黒いローブの者がそう言うとディオスとクロイの中に依頼内容が流れ込んだ。

ディオスとクロイは内容の確認を終えると黒いローブのフードを被った者は消えていた。

「うぅ気持ち悪いぃ~」

「毎回、この情報の受け渡し方、何とかして欲しいよ」

「うんうん…」

ディオスとクロイは錠剤を数粒取り出し飲んだ。

「は~落ち着いたよ~、そういえばそれって何なの?中身しらないんだけど…」

「俺も知らないけどあの御方の望まれた物だよ、俺達、ホムンクルスが知ることじゃないさ」

「そうだけど、ディオスは気にならないの?」

「クロイ、行くよ」

「待ってよ~」

二人は暗い森の奥へと消えて行った。



冥王宮ルシファール

王宮に戻ってきたラズゥールとリベルは報告の為、国王執務室にいる。

「では、聞こうか」

「メルテクスの石化現象はあの一帯を牛耳っている権力者、タクリ公爵によるものだった」

『あの情報は正しかったな…』

バルディはある所から入っていた情報と照合した。

「恐らくタクリ公爵はクリエスターだ。住人の魂を抜き取り、自分の創った擬似生命を動かすのに使っていたようだ」

「それで公爵は?」

「公爵の館の地下通路で何者かに殺害されているのを発見した。その近くにはメルテクスまで案内をしてくれたネフィル少佐が倒れていたが命には別状はなく、リベルの治癒魔法で治療を施した」

「その後、メルテクスが消滅したようですね」

バルディの傍に立つ側近メリルがその後に起きた出来事を言った。

「俺達は館の地下通路に居たから生き埋めになりそうになったが行き止まりにあったレノーブルの枯れ井戸に逃げ込み事なきを得たが」

「レノーブル、地下通路はノームの教の町に繋がってたのか?じゃあ、公爵はノーム教と繋がりがあった?」

「分からないが、それはないだろう」

「そうです。もし繋がりがあるのなら神殿に直接、繋がっていると思います」

「確かにな」

「そして、レノーブルの事だが…」

「そこからは諜報部から報告は受けています」

ラズゥールがレノーブルで起きた事柄について話そうとしたが話を切るようにメリルが言った。

「そういうことだからもう下がっていいよ」

ラズゥールとリベルはバルディの言葉に従い、部屋を出た。

「はぁ~」

バルディは深い溜め息をついた。

「この国に一体、何が起こっているんだ?母上の事もある、それに…」

「諜報部からあがってきている、初代冥王ルナの件ですね?」

「そう、どうしてレルクが王宮から去り、目覚めた冥王ルナと行動してるのか」

「諜報部の方には引き続き、動いてもらった方がよろしいですね」

「そうだな」

バルディはそう言い、机の上にある書類の束を取り、目を通していく。



~???~

そこは薬品や香料が入り交じった匂いが漂う薄暗い部屋、空間が裂けて闇からベルデが現れた。

「ベルデ、僕を消しに来たのかい?」

暗がりにぼんやりと浮かび上がる人影から声が掛けられた。

「私がグルベリ様を?そんなこと…できるわけないじゃありませんか」

ベルデはキルティング博士との会話とは、全く違う声色を使っている。

「冗談だよ」

暗がりにグリベルの微笑む口元が見えた。

「これを見なよ、ベルデ」

グルベリは液体が満たされた容器を示した。中には眠るように瞼を閉じるセリウスが安置されていた。

「これに神具セフィロトをお使いになるんですか?」

「もう適合済みだ。この冥霊スーリセにな」

「グルベリ様、お伝えしなければならないことがあります…」

ベルデは神魔クリフォトについて話した。

『複製の力を増幅させる為に用いた血の影響か…?だとすれば脅威足りえないが…しかし』

「グルベリ様、どうしたのですか?」

「ベルデ、引き続き対象の監視を頼むよ」

「はい」

ベルデは来た時と同じ様にキルティングの元へ戻った。

「グルベリ様」

「今度はゲルヴか、ヴァルキリアの状況は?」

部屋の隅にある大鏡にゲルヴの姿が写し出された。

「天上界ソフェルを崩壊させ、宝玉の一つの疾風のオーブ、エレメントと賢者の力を手中に収め、そして、疾風のオーブは一人の少年に与えたようです」

「順調に動いているようだな」

「先程、ヴァルキリアの部下がエレメントと賢者の力を私の所へ持ってきました」

ゲルヴは大鏡を介してエレメントと賢者の力をグルベリに渡した。

「無論、複製は取ってありますので直ぐに気付かれることはないはずです。それに出過ぎた真似かと思いましたが、あれの処理を施しました」

「いや、それでいい。後はそれをヴァルキリアにくれてやるといい」

「はい」

大鏡に写し出されていたゲルヴの姿が消えた。

「あと少し…」

冥霊スーリセが目を覚ました。
グルベリは容器内に満たされていた液体が排出され、容器の扉が開いた。

「俺は…」

スーリセの頭の中にデア城の戦いをはっきりと思い出された。

「あいつは何処だ。私を、私達を捨てた、あの男は!」

『セリウスの時の記憶がまだ残っているのか』

グルベリはそう思い、スーリセに命じる。

「…僕の声を聞け…」

グルベリの言葉にスーリセの瞳は深く曇った。

「忘却の扉を開き、その身に刻まれた書物を解放し、僕、ランス・ド・グルベリの命に従え…」

スーリセにはグルベリの声が木霊して聞こえている。

「はい…マスター」

スーリセはグルベリの言葉に逆らう事なく感情の抜けたような返事をした。

「では、ゼノミーティアの所在は?」

「ゼノミーティア…別名、始焉の鍵…始原の鍵と終焉の鍵が対に成りし創成の光へ続く扉の鍵……形状…所在は不明…」

スーリセは問われた名称のものを説明した後に答えた。

「ユグドラシルの断片(神具セフィロト)でも所在までは解らないか…」

グルベリはその場で少し考え、スーリセを引き連れて何処かへと歩みを進める。



~???~

キルティング博士の元へ戻ったベルデは博士に話し掛ける。

「始末して部屋の中を調べたけど、やっぱり本物はなかったわよ」

ベルデはキルティングに種を渡した。

「偽物だらけですね、だが、この出来なら申し分ない」

「あとはこれ」

ベルデはキルティングに紅い液体の入った栓のされた試験管を差し出した。
キルティングはそれを取ろうと手を延ばしたが、ベルデは試験管を持つ手を引いた。

「どうしたのです?」

「…なんでもないわ」

ベルデはキルティングに紅い液体の入った試験管を渡し、何処かへ行った。

「なんだったんですかね、今のは」

キルティングは疑問に思ったが気にせず、そのまま紅い液体と種を持ち、クリフォトの元へ向かった。

「どうです?」

「渇いた砂が水を吸うが如く知識を吸収していきます…ですが…その反面、力が不安定になりつつあります」

「心配はいりませんよ」

「主…」

キルティングは注射器に紅い液体を入れ、種に注入した。
紅い液体を注入した種は脈動する。
それをクリフォトの胸に当てると種はクリフォトの身体に根付く。

「うわぁぁぁ…」

キルティングはゆっくりと後退り、クリフォトから離れるとクリフォトの身体中の血管が浮き出る。そして、物凄い力が溢れ出る。
その溢れ出した力によって周囲の物や壁、天井は消し飛んだ。

「これで安定とより増した力が備わったはず」

「では、そろそろ行動を?」

「レイティア・アースを開く…」

「その旨を他の者達にも伝えてきます」

「クリフォト、行きますよ」

「はい、主」

そして、キルティングとクリフォトの姿が消えた。



愚者の森~霧の集落~

ディオスとクロイは森の中に現れた大きな窪地に出た。

「ここがアーデルリンガーの住み処」

辺りには家と呼ぶにはお粗末な木と土で造られた洞が幾つもある。

「何の気配もないよ」

「もう彼等には消えてもらったよ」

双子はアーデルリンガーの住み処を見回す。

「誰だ」

木と土で造られた洞の中からグルベリとスーリセがいた。

「グルベリ様」

「グルベリさま」

「預かったものは?」

「ここに」

ディオスはグルベリに身の丈程ある布袋を渡した。
グルベリは布袋を受け取り、布袋を閉じている紐を解いて中にあるものを引き出した。
引き出されたそれは四重螺旋を描く四ツ又の槍だった。

「スーリセ」

グルベリは槍をスーリセに渡した。

「ディオス・クロイ」

グルベリは二人に自分の意志を飛ばした。

「分かりました」

「わかりましたぁ」

二人はすぐさま何処かに向かった。

「僕等は地上に向かうよ」

「はい、マスター」

『漸く全てが動き出す』



~廃墟~

ヴァルキリアに傅く老紳士、セルゲイは主の名を呼ぶ。

「ヴァルキリア様」

「動き出したか…」

「はい、いかがなさいますか?」

「まだ、動くときではない」

「ですが、先にあれを全て押さえられては…」

「心配はいらん、それよりもうすぐ客人が来る」

「客人?ですか」

「オーブを取りにな」

「お、オーブを譲り渡すというのですか!?」

セルゲイは驚きのあまり、言葉が吃る。

「ただ奴らに入り口を開ける鍵の役割になってもらう」

「失礼しました、そのようなお考えとはつい知らずご無礼を…」

セルゲイは深々と頭を下げる。

「まぁ良い、だからと言ってただで渡すわけではないからな。ここまで言えば分かるだろう、セルゲイ」

「はい、その様に取り計らいます」

セルゲイはその場から立ち去り、入れ代わりにゲルヴが入ってきた。

「ヴァルキリア様、先刻届けて頂いたエレメントの解析によってより精度の上がった物が仕上がりました」

「そうか、そこへ置いて下がれ」

「はい」

ゲルヴはそそくさと立ち去った。

ヴァルキリアはゲルヴが置いて行った物に近付いた。そこにはエレメントと鎧が置かれていた。

「くだらん、この程度出来で持ってくるとは…」

ヴァルキリアはエレメントと鎧に掌を向けて握る動作をすると跡形もなく壊れた。

「わざわざ程度の低い模造品まで置いていくとは本物は大方、奴…グルベリが持っているのだろうな、そろそろあいつも潮時だな…ブリューナクはあいつらに渡したのだろう?シュビッツ」

ヴァルキリアの呼び掛けに暗闇から黒のローブのフードを被った者が現れた。

「あぁ、奴のホムンクルスに渡し、幻獣達の排除を命じた」

「同族殺しか」

「それを言うなら俺にではなく、グルベリの方に使うのが正しい、恐らく奴自ら消すからな」

「それもお前の力か」

「まぁな…そろそろ行く、俺も忙しいんでな」

そう言い残し、シュビッツは姿が暗闇に消える。

「…余興が始まるな…」



~廃墟~夢幻回廊~

黒のローブを纏ったソフェルに居た仮面を被った者が一人、立っていて手にはボーガンが握られている。

「オーブ付きの出迎えが来ているとは手間が省けましたね」

キルティングとクリフォトがその者の前に現れた。

「そのオーブを素直に渡して頂けますか?」

「………」

仮面を被った者は何も言わずにボーガンを構えた。

「身の程知らずが…」

キルティングはドスを利かせた声で呟いた。

「クリフォト、お前の力を見せてやりなさい」

「はい、主」

仮面を被った者はクリフォトにボーガンを向けて引き金を弾いた。
放たれた矢は直ぐさま紫色の雷光と共に消えた。
仮面を被った者はクリフォトにまた矢を放った。今度は何も起きずクリフォトの頬を掠め、黒い血が流れ出たが血はすぐに傷口へと戻り、何事もなかったように傷は消えた。

「無駄ですよ、どんな傷も直ちに癒える治癒能力があるのです。まさに神に等しいほどの力、いえ、むしろ神と言っていいでしょうね…その存在を造った私は神をも超えるということか」

キルティングは自らを誇り嗤う。

「その私の造り上げた神の作りし障壁を擦り抜け、傷を付けれた事は誉めてあげましょう」

クリフォトと仮面を被った者の間にはベルデの時のように無数の線が交錯している。

「クリフォト」

「はい、主」

クリフォトは交錯した線を解き、一瞬で仮面を被った者に近付くとクリフォトは仮面を掴み、手から雷撃を放つ。その雷撃の威力は凄まじく仮面を被った者の身体から何本もの雷電が放出されている。
クリフォトは手を離すと仮面を被った者は俯せに倒れ、身体が燃え上がった後に散り散りとなって仮面とオーブを残して身体は跡形もなく消えた。

「ふざけた面だな」

キルティングがそう言うと仮面は亀裂が入り真っ二つに割れた。
キルティングは疾風のオーブを拾い、クリフォトと共に何処かへ消えた。



~廃墟~研究室~

ゲルヴが自室に戻ってくると部屋の中にはグルベリとスーリセが居た。

ゲルヴは急いで自室の扉を閉めた

「グルベリ様!どうされたのですか?突然、このような所に少々危険では?」

「心配はない、とっくに気付かれている。僕が此処に来る前からね」

「今し方、ヴァルキリアに偽のエレメントを渡しに行ってきた所ですが、そのような様子はありませんでしたが…」

グルベリは自分の指に嵌められている指輪を弄りながら言う。

「そうか…」

グルベリは何かを握り潰すような仕草をするとゲルヴがもがき苦しみ倒れた。

「グゥ…ル…ベリ……」

ゲルヴはピクリとも動かなくなった。

「………」

明かりが弱くなり、研究室の中が一時的に暗くなったがすぐに戻る。

「マスター」

「わかってる、定刻通りだ」

二人は研究室から出た。



~廃墟~闇ノ帝座~

「予定通りことは運んだ」

ヴァルキリアの前には仮面を被った者が立っていた。

そこへゆっくりと扉が開く音が聞こえた。

「ヴァルキリア」

仮面を被った者がボーガンを構えた。

「僕は君等に危害を加えるつもりはない」

「ペルソナ」

ペルソナはボーガンを退いた。

「シュビッツか?ランス・ド・グルベリ」

「何処にいる?」

「聞かずとも知っているのでは?」

「ソレイド…」

グルベリは思い当たる場所を口にするとソレイドへの入口を開いた。

「では失礼する」

二人は入口に入り、ソレイドの入口と共に消えた。その瞬間にセルゲイが血相を変えて入って来た。

「ヴァルキリア様!ゲルヴ博士が!」

「分かっている、落ち着け裏切り者が死んだに過ぎない」

「取り乱して申し訳ございません」

『だが、奴らと同時刻に侵入してくるとは、やはりシュビッツと同じ力を持っているか』

ヴァルキリアはそう思い、セルゲイに告げる。

「彼地へ向かう」

「かしこまりました」



~冥界~愚者の森~

「はじめまして、そして…(さようなら)」

フェイとレイナの前に左目に眼帯をした隻眼、黒髪の男が現れ、いきなり刀を抜き襲って来た。

フェイは素早く剣を抜き受け止めた。

「何者だ」

「フェイ!」

レイナはフェイを助ける為に力を使おうとしたが、突然、首筋に強い衝撃が受け、気絶した。

「レイナ!」

男は片手で刀を持ちつつ、もう一方の手をフェイに向けて伸ばすと手首から先が消えた。

「どうして手がこんな所に…」

消えた手がフェイの首を掴む。

フェイの意識は徐々に遠退いていき、剣を握っていた手の力は抜け、剣は地面に突き刺さり、フェイが完全に気を失うのを確認すると男は手を元に戻した。

男は刀を鞘に仕舞うと二人を両腕に抱え、そのまま森の闇に消えていった。

「ここがアーデルリンガーの住み処のようですが、何の気配も感じられませんね」

「待っていたよ」

「待ってた待ってたぁ」

ディオスとクロイがルナ達を待ち構えていた。

「お前等はあの時の」

「何の用だ」

「まずはこれを」

ディオスはコア・フラグメントを出した。
するとコア・フラグメントはディオスの元から消え、ルナに取り込まれた。

「…何が目的だ」

「俺達はただあの方、グルベリ様に仕えるだけ、グルベリ様の命令が全て」

「グルベリとは館に居た創者の事ですか?」

「グルベリ様をあんなものと一緒にするなんて…」

「ひどいよぉ~死にたいの?」

「そうか、お前達はグルベリのホムンクルスだったか。通りで納得がいった」

ルナはグルベリという人物が何者かを思い出し得心がいく。

「じゃあ、ついて来てよ」

「わかった、いいだろう」

「ルナ様、危険ではないでしょうか?」

「心配はない、奴が私に危害を加えることはない(というか無理なのだからな)」

「では、」

「行こうぉ~」

ディオス・クロイが互いの片手を合わせると地面に魔法陣が広がった。

『個体では使えないはずの魔法を相互換で術式を紡ぎ、循環させる事により使えるようにしたか』

ディオス・クロイはルナ、レルク、クレイル、ワグと共に消えた。

ラズーリが木の陰からひそかにその光景の様子を伺っていた。

「向こうたようやな、んじゃわいも」

ラズーリも魔法陣を開き、姿を消した。



亜空間ソレイド~神々の家~

シュビッツの前にグルベリとスーリセが現れた。

「時間通りだな」

そこは神殿の一画の様で白を基調とした石造りの荘厳とした場所だった。

「どうだ自らの仲間を手に掛けた気分は?」

グルベリは表情を変えず、冷淡に答える。

「全ては時の均衡の為」

「何が時の均衡だ、それでどれだけの命を絶った?」

「時の均衡が崩れれば、より多くの命が消えることは分かっているはず」

「試してもいないのに何故分かる」

「試さなくても見えるものが全て」

「それが事実とは限らない」

「話してもキリがないことは分かっているはず」

グルベリは手に剣を出した。

「マスター」

「お前はあの場所に行き、事を進めろ」

「はい、マスター…気をつけて」

スーリセは神殿の奥へと向かった。

シュビッツはそれを一瞥しただけで何もせず、グルベリを見据える。

「さぁ、始めよう」



レノーブル~神殿地下墓地~

地下墓地の棺に座るミュートは何かに気付き立ち上がる。

「そろそろ行くか」

ミュートの姿が消え、一瞬で神殿の外に出ると黒い翼を広げ、西に向かって飛んでいった。

その様子を無人になった町の一角から見ていた。

「動いたわね」

「砦に戻らず、待っていたかいがあったあるね」

「行くわよ」

行動しようとするアーニャに声が掛けられる。

「待って貰えますか、隊長」

アーニャの部下である下級兵士が現れた。

「セント、何でお前が此処にいる」

「隊長が余計な事をしなければ、僕が此処へ来る事なんてありませんでしたよ」

「何を言っている?セント」

「貴方方にこれ以上付き合う理由が無くなったということですよ」

セントは手を合わせて引くと槍が現れ、アーニャ達に向けて構えた。

「汝は敵ということか」

コルカスは携えた刀を抜き、アーニャもサーベルを構えた。

「ゴーギャン、メイテ」

ゴーギャンはすぐに自らの力を使い、メイテと一緒にミュートを追い掛けた。

「逃がしたか…ほんと、イルフィは厄介ですね」

セントは言い終わるとすぐにアーニャに切り掛かったが、それをコルカスが刀で受け止めた。

「さすがですね、先輩」

セントは受け止められていた剣を振り切り、アーニャ達を吹き飛ばした。

「…どうしてこんな事を?」

「分かっているはずですよ、隊長」

セントはアーニャに剣先を向けた。

「では、その前にこちらから聞かせて頂こうか?」

コルカスはいつの間にかセントの背後におり、セントの喉元に刃を突き付けた。

「先輩は忍耐という言葉は知らないのですか?」

喉元に突き付けられた刀の刀身がパキンと折れ、その直後に響く銃声。

コルカスは脇腹を手で押さえながら後退る。
脇腹を押さえた手の指の隙間からは大量の血が流れ出ている。

「コルカス!」

アーニャは心配してコルカスを叫んだ後、セントを睨むとセントの剣を握っている腕の下の方から硝煙が立ち上る銃口が見えていた。

「貴方は優秀では無かったけど気概があると見込んでいたのだけど…」

アーニャはサーベルを地面に突き立て、そのまま手を放した。するとサーベルは地面に溶け込み、周囲に無数のサーベルが現れた。

「それが隊長の剣技の一つ千鋭ですか、初めて見ましたよ。噂では隣国の一個大隊を一人で殲滅したとか」

セントがそう言い終えた時にはサーベルを持つアーニャがセントのすぐ傍まで来ていた。

「何時まで無駄口を叩いているつもり?」

アーニャはセントに突きを放つ。
セントはそれを剣で弾き上げるとすぐにアーニャに向けて銃弾を放ったが躱された。
アーニャは距離を取るともう片方の手にもサーベルを掴み取り、移動しながらいくつもセントに向かって投げていく。
セントは剣で飛んでくるサーベルを弾き落としていき、その合間にアーニャに向かって銃弾を放っていく。

「隊長、いつまで単調な攻撃をしてくるつもりですか?」

セントは飛んで来るサーベルを剣で弾き落とすと剣を回転させるように振るい、手を離すと目の前の空中で剣は回転する。
回転する剣は次々と飛んで来るサーベルを弾いていく。
その間にセントは銃に違う銃弾を装填すると剣を掴み取り、飛んで来たサーベルを躱して銃弾を放つ。
放たれた銃弾は赤い閃光を発しながらアーニャに向かって飛んでいく。

アーニャはそれをサーベルを振り抜いて弾き上げた。

「そんなも…」

アーニャがそう言いかけた途端、サーベルの銃弾が触れた部分が発火し溶け落ちた。

「どうですか、精霊銃の力は?」

「精霊銃」

「隊長なら知っているでしょ?これがどういう代物か」

「そう、彼等が…」

アーニャは何かを悟った口ぶりで言った。

「コルカス!いつまでへばっている」

アーニャは声を荒げて喝を入れた。

「御意」

コルカスは傷口を押さえ、素早く二人から距離をおいた。

「終わりにしましょうか」

「本当に残念ですよ、貴方のような人材を失うのは」

「本当に残念ね…」

アーニャはそう呟くと一本のサーベルを放り投げた。サーベルは地面に刺さり、魔法陣が現れた。

「何をしようというのですか?」

周囲にあったサーベルが浮き上がり、地面に突き刺さるサーベルに向かって一斉に鋒を向ける。

そして、鋒を中心に向けるサーベルが時計回りに消えていき、最後に中心に突き刺さるサーベルが消える。

「これで終わりよ」

アーニャは片手を高く上げる。

セントは真上に気配を感じて上を見上げると大きなサーベルが鋒を向けて浮遊していた。
すぐにその場から動こうとするが足が縫い付けられたかのように動かすことが出来ない。

そんなセントにアーニャは手を振り下ろす動作をすると大きなサーベルが落下した。

その衝撃によって辺りに砂埃が立ち込める。

砂埃の中、コルカスがアーニャの近くに現れた。

「傷は大丈夫?」

「止血はしたので少々の間であれば…」

突然、二人の目の前の砂埃が晴れて剣が現れてアーニャの頬を掠めた。

「さすがですね、あそこから躱すとは」

「突鋭を受けても無事でいられるなんてね」

「破られたのは初めてですか?」

砂埃が晴れると煮えたぎる熔岩のような橙色の液体がセントの周囲に浮いている。

「予想外だったわ…精霊の力がここまでとはね」

「あるお方のお陰で召霊時間が延びましたから」

「それが私達を足止めしている理由のもう一つのようね」

「さすがに勘がいいようですが、もうこちらも終わりにしましょうか?隊長、先に行った二人はもう生き絶えているでしょうから」

「話が長いわ」

セントの上にあった液体が弾け、セントに降り注いだ。

「なんだ!?これ、どうなって…」

セントは動揺して咄嗟に手で振り払う動作をする。

「いくら時間が延びたからといって力量が無ければ差ほど効果はないわ」

「腕が…腕がぁ…」

セントは降り注いだ液体によって右腕が溶け切れ、地面に落ちた。セントは苦悶の表情をしながら左手で魔法印を結び、地面にその手をつけるとセントの身体は地面に飲み込まれるように消えた。

「コルカス」

「後から追うので先に向かって下され」

「傷が癒えたらちゃんと来なさい」

コルカスをそう言葉を残し、アーニャの姿が虚空に消えるメイテとゴーギャンの元に向かった。



冥界~グリフィス荒野~

植物一つ生えていない、岩と砂礫の大地にある巨大な窪んだ地形の中、三人の人物がいた。

「強いある…」

「底知れない力…」

ゴーギャンとメイテは地面にうずくまっており、二人の視線の先には黒い翼を持つ少年がつまらなそうに聞く。

「もう終わり?」

「メイテ、ゴーギャン」

そこへアーニャが現れ、二人に駆け寄る。

「仲間が到着したようだね」

「大丈夫?」

アーニャはサーベルを構えて、少年を見据える。

「手酷くやられちゃったある…」

「すいません…」

「始めようか…」

ミュートは両の手の平に魔法陣を出現させるとアーニャ達の背後から大勢の兵士が行進して現れ、ミュートは手の平の魔法陣を消した。

「遅いよ、メビウス」

大勢の兵士はアーニャ達に武器を向ける。

そして、兵士達の間から眉月のような目と口が空いた無気味な笑みの白い仮面を着けた兵士が現れた。

「申し訳ありません」

「誰の命で兵を?」

アーニャは兵士達を見回して言う。

兵士達の武具には冥王騎士団の紋章が刻まれていた。

「勿論、王の勅命ですよ」

「王はそのような命は出すはずないわ」

「バルディには退席して頂きました」

「直系の王がただおいそれと引くわけはない」

「その忠義は感銘を受けますね」

「まさか、セレディナス様を掠ったのも」

「それは私共は関与していません、ただ…」

「メビウス」

ミュートは高圧的な声色で名前を呼び、メビウスは一度、咳ばらいをして言った。

「では、お仲間共々着いて来てもらいます」
メビウスが兵士、及びアーニャ達を連れて消えるとミュートは再び西へと向かった。



冥界~王宮ルシファール~

バルディとメリルの二人は王宮の隠し通路に居た。

「陛下、大丈夫ですか?」

「大丈夫だが、そろそろ降りてくれると有り難いな」

俯せに倒れているバルディの上にメリルが馬乗りになっている。

「申し訳ありません!」

メリルは慌てて降りた。

「何故、騎士団が謀反を」

バルディは立ち上がると呟く。

「すみません、確証を得てからと思ったんですが」

「何を知っている?」

「今回の謀反は副団長のラトが起こしたものです」

「目的は?」

「例の案件に関係していると思います。ですから恐らく王宮内は掌握されているはずです」

「だろうな、奴らが関わっているとなるともう次が動いている(ラズゥールは大丈夫かな)」

「今は此処から脱出をしましょう」

二人は隠し通路を進んだ。



王宮ルシファール~回廊~

ラズゥールは縄に縛られた状態で副団長ラトが騎士団の指揮を取っている。

「どうゆうつもりだ」

「どうゆうつもりも、私は本来の仕事をしているだけですよ。レーデルの件では失敗したのでね」

「本来の仕事?まさか、冥王失脚?」

「そう、ラズゥール団長はどうだか知りませんが私達は元々、元老院の指揮下なのですから。」

「それは冥王あっての提言だ」

「はっきりいいましょうか?元老院は冥王代行。いや、冥王制など認めていないんですよ」

ラトは剣を抜き、剣先をラズゥールの顔に向けた。

「さぁ、冥王の逃げた隠し通路はどこに繋がっているか、言って貰えれば貴方に冥王を打つ名誉な役をあげますよ」

ラズゥールはその言葉に何かを感じ取り、隠し通路の出口の場所を教えた。

「デア城の地下深くにあるレイティア・アースだ」

ラトは団員に縄を解くよう指示し、ラズゥールを数名の団員と共にレイティア・アースに向かわせた。

『ラト』

ラトの頭の中に声が響き、ラトは団員に持ち場に戻るように指示して何処かへ向かった。


~冥府ブロード~

V字の机に数人の元老院の面々が並んで椅子に座っており、その元老院の視線の先にはV字の机の間で直立不動の姿勢で立つラトがいた。

「何か不備でも?」

「どうして、ラズゥールを向かわせた」

元老院の一人が棘のある声色でラトの問いに問いで返す。

「それは…」

ラトに問いをした元老院の一人に対して別の者が宥める。

「良いではないですか、べグラム議長。計画は当初の通りに進んでいるし、例えラズゥールが命令に背いたとて他愛もないこと」

「…もう良い、下がれ」

べグラムは不服そうな口調でラトに言い、黙り込んだ。

「ラト、私はラズゥールを向かわせた事には何も言わないが目的を忘れるでないぞ」

べグラムを宥めた元老院の一人がラトに優しい声を掛ける。

「はい」

ラトは部屋から出て行った。

「アンセム様、失礼な事言い申し訳ございませんでした」

ラトが出ていったのを確認するとべグラムは自らを宥めた人物に深々と頭を下げる。

「良い、表向きはベグラム、お前が元老院の議長だからな」

「では、ラズゥールとラトの件はどう致しますか?」

「勿論、死を与える、バルディ共々な」

「アーニャの件はどうするの?」

二人とは別の者がアンセムに訊ねた。

「セントはしくじったんだったな、リミウム」

「手負いで帰ってきたわ」

「まだ、使えるか」

「…」

リミウムが何か言おうとした途端、セントが入ってきた。

「まだ、いける…」

溶け切れた右腕は元の形を取っていたが包帯でグルグル巻にされていた。

「ふん、中々の忠義心…では銃機兵・改を二機連れてブラストスカイ向かえ、メビウスがアーニャを連れてきた」

突然、入ってきたセントに対してアンセムは眉一つ動かさずに命令を下す。

「メビウスが!…分かりました」

セントはすぐさま扉を閉めてブラストスカイに向かった。

「くっそ、メビウスの奴が、メビウスなんかに!…」

セントは扉を閉めてすぐに悪態をついた。

「行かせて良かったの?」

リミウムは危惧をしてアンセムに訊ねる?

「何故、行かせたと思う?」

「失敗を払拭する機会を与えた?」

「何の為に、銃機兵を二機つけたと思っている」

『……どちらにしろ死ということね……』

リミウムはアンセムの言葉の意味をすぐに察した。



~ブラストスカイ~

石造りの円錐台の建築物の最上部、そこには柱が円を描くように立ち並び、その中央にはメビウスとアーニャ、メイテ、ゴーギャンを拘束する騎士団がいる。

「誰が来たかと思えば…」

円錐台の外面に配する階段から二機の銃騎兵を引き連れたセントが姿を現す。

「お前もしくじったな、アーニャ達の仲間はもう一人いる」

「そんなことは知っている、もうこのブラストスカイにいることもな」

「怪我したくなかったら、お前は下がって見ていろ」

「出来損ないの貴方じゃあるまいし怪我なんて…」

メビウスはその場から動く事はなかった。

『短い命をせいぜい生きる事ですね』

メビウスはそう思い、事の次第を眺めた。

「出てこい、コルカス」

セントは徐に右腕の包帯を解いていくと複数の触手で形作られた右腕が露わになる。

右腕の触手が解れ、舞台全体に延び広がり、次々と兵士を捕えて行くと周りにいた兵士達はたじろぎ辺りを逃げ惑う。

混乱の中、アーニャ達に一人の兵士が近付き、アーニャ達の拘束を解いた。

「ご無事か?」

それは騎士団員の姿に扮したコルカスだった。

「大丈夫」

コルカスは取り上げられていた全員の武器を渡した。

「一旦、散り挟撃する」

アーニャは小声で言い、四人は散開した。

メビウスはそれに気が付いたが何も言わず、ただただ眺めている。

アーニャ達が柱の陰に隠れ、様子を伺うと逃げ惑っていた兵士達は舞台から逃げていなくなる。

そこでようやくセントはアーニャ達が居ないことに気が付いた。

「何処へ隠れた…」

セントの様子が少し変わる。

左腕も右腕のようになり、白目の部分が黒く染まり瞳が紅くなった。

その様子を見た、アーニャ達は武器や魔法を構えて柱から飛び出し、セントに向かっていく。

「くそっ…」

セントは四人に触手を同時に伸ばした。

アーニャとコルカスは武器で触手を薙ぎ払い、メイテは体に巻かれた包帯を操り、触手を往なしていき、ゴーギャンはイルフェの力で空間を瞬間移動しながら躱した。
だが、突然、四人の足元から触手が現れ、四人を捕えた。

「どうして、下から」

アーニャはセントの足元を見ると脚までもが触手に変化していた。

「ぐぅははは…捕まえだぁ~」

『もう自我を失いましたか、与えられた力も使い熟せないとは弱すぎる精神ですね』

メビウスの視線の先には顔が獣と化したセントがいる。

「そんな姿になってまで何がしたいの?」

「…だだまれ」

セントはアーニャを掴んでいる触手を締め付けた。

「もう潮時ですね」

メビウスはそう呟くとセントの背後で人形のように動かなかった二機の銃機兵は砲口をセントに向け、砲弾を発射した。

砲弾はセントに直撃して辺りに爆煙が広がる。



そして、爆煙の中からバラバラになった二機の銃機兵が飛び出てきた。

「俺も見限られたか」

落ち着いたセントの声が聞こえ、爆煙が消し飛ぶ。すると地面には鉄屑同然となった二機の銃機兵の残骸が散らばっており、爆心地となった場所にはもう人の形を取っていない化け物がいた。

「銃機兵二機の主砲を…不完全ながらも力を得たようですね、手間がかかる」

メビウスは仮面越しに溜め息を漏らし、剣を抜き、素早く軽やかに剣で虚空を数回斬るとアーニャ達を捕らえている触手を切り落とした。

「どうして?」

「誤解しないで下さい。助けたわけじゃありませんから、まずはあの出来損ないを処理したいので」

「出来損ない…言ってくれるね、出来損ないかどうかその身に刻むがいい」

メビウスの足元から地面を突き破って触手が現れ、メビウスはそれを滑るように後ろへ退いて躱すと触手を剣で斬り裂いた。

「同じ事をなんとも芸がなさすぎる」

メビウスは剣の鋒をセントに向ける。

触手から解放されたアーニャ達は一つ所に集まっていた。

「どういたす、隊長」

コルカスはアーニャに訊ねる。

「取り敢えずこの場から離れた方がいい、ゴーギャン」

「わかってるあるよ」

四人はゴーギャンの力でどこかへ移動した。

『逃げましたか、早く終わらせて追わなければいけませんね』

そう思い、メビウスは腰に携えたもう一本の剣を抜いた。

「もう奴らなどどうでもいい、この力があれば…お前を消し、元老院の老人共を喰らってやる」

「とうとう思考まで獣じみてきましたか、見るに耐えませんね」

セントは全触手を使い、メビウスに攻撃するがメビウスはそれを躍りを踊るかのように躱していき、時より剣で触手を切り落としていく。

「ちょこまかと」

セントは触手を一本だけ別に動かし、他の触手に紛れ込ませてメビウスの死角から触手を伸ばし、寸前で触手を四本に裂いてメビウスの四肢に巻き付かせる。

「これで終わりだ」

他の触手は動きを止めて、先端を尖らせると突端をメビウスに向けた。


「そうですね」

メビウスは剣を一本ずつ鞘に納める。その際に自分の指先が刃に当り、血が地面に滴り落ちる。

そして、血が地面に落ちて弾けるとセントを囲むように地面に魔法陣が現れた。

「リバース」

メビウスがそう口にするとセントの身体は一瞬で外皮と内部が入れ代わり、地面に崩れる。

「いつもこうですね」

メビウスの姿は返り血を浴びて血塗れになっており、紅い涙が仮面から滴り堕ちる。

そして、メビウスはそのままブラストスカイから立ち去った。



アーニャ達は冥府ブロードの使用されていない一室にいた。

「これからどうするあるか?」

「先程の奴がすぐにくるだろうから、対応が必要ね」

「その役、私がやるね!メイテ、預けておいたメルトレイカを出して欲しいね」

メイテは両手、両腕の包帯を解き、手を胸の前で構えると両腕の刻印が光り輝き、両手の間に複数の弦の付いた弓が現れた。

ゴーギャンはそれを掴み取ると弦を鳴らした。

「これで短時間だけど他者の認識をずらせるね」

「生きて戻るのよ」

「もちろんあるよ」

ゴーギャンはそう言うと部屋から出て行った。

「私達は老人達の元へ向かうわよ」

アーニャ、コルカス、メイテは別の扉からから出ていった。



~西都アルメリトス~

種類の違う大小様々な建物が一つに集まり、巨大な塔の形をした都を旋回するようマリーは空を飛んでいた。

「何をしにアルメリトスに来ただぐ?」

「先生に会いに来た」

マリーのその言葉にミラはゆっくりとマリーの肩から離れる。

「俺、ちょっと用事が…」

マリーは何処かへ行こうとするミラを掴んだ。

「はいはい、行くよ~」

「やめるだぐ~」

嫌がるミラを引きずるよう連れてマリーは塔の下層から飛び出た崖にある屋敷の前に下りた。

そこへ屋敷の玄関の扉が開き、白髪で長い髪の男が出て来た。

「マリー、久し振りですね」

「マギ先生」

「ミラも」

マギはマリー達を屋敷の中へ招き入れた。

「さて、何しに来たのかは分かっているので本題に入りましょう…その子の願いは叶いません」

「どうしてですか?」

「あれはミュートの死徒契約によって連鎖から逃れた魂」

「ちょっと待って下さい、先生!今、ミュートって」

「その子の弟を演じていた少年、そして、マリー、君の弟弟子です」

「そんな…ミュートが先生の弟子…?…」

「貴女が出て行った少し後、ペンドラドから預かったんですよ」

「ペンドラドさんがミュートを?どうして?」

「それは…」

「僕から話しましょうか?」

扉に背中を預けてこちらに視線を向けるミュートがいた。

「もう防壁を破ってきましたか」

「こんなことになったのは残念だよ、姉さんとの生活は愉しかったんだけどここで終わり」

ミュートは言葉とは裏腹に嬉しそうな表情で言うと床から黒柩が浮かび上がる。

「そんなことはさせませんよ、貴方の深層を見抜けなかったのは師としての私の責任です。マリー、貴女は逃げなさい」

「出来ません!」

「ミラ」

いつの間にか人の形を成していたミラはマリーを抱き抱える。

「ちょっと離してよ、ミラ!」

ミラは硝子窓を突き破って外へ逃げ、割れた窓は時を遡るかのように元の形へと戻る。

「せっかく姉さんと遊べると思ったのに残念」

ミュートは落ち込む素振りを見せた。

「ミュート、もう止めるだ」

「そのつもりだよ、貴方と姉さんでね」

「あの時、封印ではなく私の命を掛けてでも殺しておくべきでしたね」

マギは部屋の書棚に向かって左手で引き寄せる素振りを見せると書物はミュートに向かって飛び出した。
黒柩の蓋が開き、中から龍の柄の付いたステッキが飛び出してミュートの手に納まり、ミュートは向かい来る書物にステッキを向けると龍の口から炎が噴き出し、書物を消し炭した。

「あの時と同じ手は効かないよ」

消し炭になった書物が舞い上がり、部屋中に渦巻くように二人を囲む。

「火燃ゆる赤き月、司津かなる青い月、交わりてウェルトリスの修道女の讃美歌の導きによって啓け、テンペストゲート」

マギが詠唱を終えると渦巻いていた消し炭になった書物が消え、屋敷の部屋の中ではなく、光満ちる聖堂のような場所へと変わっていた。

「もう僕に聖域なんて低俗な箱は効かないよ」

ミュートはステッキを掲げると龍の口から炎を吐き出し、瞬く間に火が拡がるが直ぐに弱まっていき、ステッキの龍の口から炎が出なくなった。

「どうして…(聖域の支配から抜けたはず)」

ステッキが灰へと変わり、形象崩壊した。

「当然です、ここはソレイドですから」



~王宮ブロード~

アーニャ達は元老院達がいる扉を開けたが中には誰もおらず、一体の絡繰り人形が椅子に座っている。

その奥には扉が一つある。

「元老院達は何処に?」

「オコタエシマショウカ?」

絡繰り人形は吊り上げられるように椅子から立ち上がり、アーニャ達に向かってナイフを投げるとナイフは扉に突き刺さった。

「アナタガタガイキノビタナラバ」

「何なのこの人形は」

「ここは引き受ける、先に行かれよ」

コルカスが絡繰り人形の前に進み出るとアーニャとメイテは奥の扉に走った。

「イカセマセン」

今度はカードを取り出し、アーニャとメイテに向かって投げた。

「相手はこっちだ」

コルカスは空を切り裂き、カードを切り落とし、絡操り人形に刀の切っ先を向けた。その間にアーニャとメイテは奥の扉へと入る。

「ニゲラレタ」

絡操り人形はコルカスにむかって腕を伸ばした。腕は何接にも分かれてコルカスに近づくと指先から鋭利な刃物が出た。

コルカスがそれを刀で払うとそこにもう一方の腕が伸びてきてコルカスの喉元を掴み、コルカスは刀で絡操り人形の腕を切り落とそうとしたが先に刃物の付いた手で胸を貫かれた。

「貴方の血は何色?僕の血は何色?…」

唄いながら朱い髪の少年が現れた。
少年はコルカスに向かって歩いて行くと目の前で止まった。するとコルカスの姿が煙りとなって消え、少年の後ろに現れた。

「動くな!」

コルカスは少年の背中に刃を向ける。

「お前が操り人か?」

「流れるスープは美味しそう、味はどんな味?…」

少年は唄いながら振り返り、前に歩みを進めると自らコルカスの刃を身体に刺した。
そして、コルカスの瞳をじっと見つめるとコルカスの目から生気が消え、刀から手が離れて人形の様に立ち尽くした。

「………」

少年は自分の身体に刺さった刀を引き抜いた。だが、刀には一滴の血液も付着していない。
少年はまた唄いながら奥の扉へと歩いて行くとその後を絡操り人形とコルカスがついていった。

「これは何……?」

「翼龍ノ祠です」

二人の前にある地面には渦を描く傷痕が広がっている。

「翼龍ノ祠?」

アーニャは疑問符を浮かべながらメイテの方を振り向くとアーニャの身体にナイフが突き刺さる。

「どうして…」

アーニャの問いにメイテは何も答えず、アーニャはその場に倒れ込み、床に血が広がる。

そこへ朱い髪の少年と絡操り人形、コルカスが現れた。

「約束は守りました、妹を、妹を返して下さい」

「………」

少年は指を動かすと上から一人の少女が糸で吊られるように降りてきて宙に止まった。

「マナ!」

「お姉ちゃん…」

「早く妹を降ろして」

「まだそう言うわけにはいかない」

ベグラムがメイテの背後から現れた。

「その子にはまだ用があるのでね」

「騙したのね!」

メイテはアーニャの血の付いたナイフを手に取り、ベグラムに向けて振り上げた。

だが、その手は振り下ろされる事なく動きを止める。

「騙される方が悪い、ギミック」

朱い髪の少年、ギミックはマナを地面に降ろし、メイテの身体を吊り上げるようにして宙に浮かせた。

「お姉ちゃん!……」

ベグラムはマナに近付いて額に触れるとマナの身体は崩れ落ち、ベグラムはそれを受け止めた。

「ギミック、後の処理は任せる」

ベグラムはそう言うとマナを肩に担いで何処かに消え、コルカスを引き摺りながらメビウスが現れた。

「ギミック、君一人ですか?」

ギミックは頷いた。

「君は優秀ですね、賊を三人も片付けるとは…私もイルフェ相手では流石に手間が掛かりました」

メビウスは縄で縛られたゴーギャンを地面に投げ放した。

ギミックは指を動かすと虚ろなコルカスと吊られたメイテと共に部屋から出て行った。

「うぅ……待て……」

アーニャは薄れゆく意識の中、掠れた声で言葉を発する。

メビウスはアーニャへと近付いた。

「それだけの出血でまだ意識があるとは、今、安らかな眠りへ導いてあげましょう」

メビウスは刀身に紋様が刻まれた短刀を取り出した。

「古しえより刻まれし龍の牙よ、汝の力用いて輪廻の楔を打ち込め」

メビウスは短刀をアーニャの額に突き刺して言い放つ。

「ドラグレイヴ」

するとアーニャの身体は忽ち光の粒となり、翼龍ノ祠に吸い込まれていった。

「さて、元老院はこのイルフェをどうしようと言うのだろうか」



亜空間ソレイド~神々の家~

なぜか地面には剣で腹部を一突きされたリベルがシュビッツに支えられて横たわっている。

「これで…私の役目は終わった…」

「そこまでして…」

シュビッツは涙を流しながら言い続けた。

「どうして避けなかった?…リベル」

「分かっているでしょ…こうなるべき事が運命…」

そして、リベルはそう言い終えると息絶えた。

「そんな運命、俺は認めない」

シュビッツはリベルから離れ、周囲に陣をはると辺りは光に包まれ、その光が消えるとシュビッツの姿はなかった。

「馬鹿…何で……本当、馬鹿…シュビッツ」

シュビッツは定められた運命の輪を変えるため、自らの命をリベルに与えた。

「止めないと…」

「何を今更」

「もう貴方の言いなりにはならない」

「聞く必要はない」

リベルは独りで声色を変えながら会話をしている。

「もとよりその肉体は僕のものだ、お前には消えてもらう」

「そんな…こと…」

容姿がグルベリへと変化した。

「その程度で主人格に盾突こうなんて身の程を知れ、それにしても上手く邪魔者が消えてくれたな…」

グルベリは何処かへ去って行った。



亜空間ソレイド~祈りの洗礼~

「これ以上やっても無駄ですよ、ここでは君の力は無力」

黒柩は杖と同じように消えた。

「そんなの…」

ミュートは息切れしたように肩で息をしている。

「…力を解放すれば」

「その前にここで終わらせましょうか」

マギは銀の杭を出した。

「エルステッドの神獣よ、銀の息により滅びの楔を打て…」

マギがそう唱えて銀の杭を投げると同じ質量のまま複数に分裂し、ミュートの前の虚空で円を描きながら回転を始める。

そして、銀の杭は次第に回転速度を増し、中心に向かって銀粉を放つと銀鎗を構築していく。

「サウザンドシルバー」

マギが銀鎗の名称を言うと銀鎗が完成してミュートに回転していた銀の杭が打ち込まれる。

「うぅく…こんな」

そして、銀鎗が放たれ、ミュートの胸を貫いた。

「………」

ミュートは仰け反るように倒れ、銀鎗の突端が地面に刺さり、動きを止めた。

「これで…」

マギはミュートに歩み寄り、銀鎗を掴むために手を伸ばす。だが、掴んだのはマギ手ではなかった。

ミュートはグイッと身体を起こして銀鎗を引き抜き、くるりと銀鎗の向きを変えてマギの胸へと突き刺すとそのまま壁まで押し進み、壁に銀鎗の突端が深く突き刺さる。

「ぐはっ…銀が…効かない…?」

「最後に教えてあげますよ、僕は………」

ミュートはマギの耳元で何か囁くとマギは静かに絶命した。

「後は姉さんだけ」

ミュートはその空間から去ると光の満ちていた聖堂の中の光が段階的に消えて闇が訪れる。



亜空間ソレイド~創成の中核~

天球の中のような場所で真上に太陽、その周囲を月が回る。

足元には石造りの床は巨大な円形で何重もの輪が中央に向かって層になっており、その輪と輪の間には文字が刻まれている。そして、円のそれぞれがゆっくりと別々の方向へ動いている。

「着いたよ~」

クロイは到着と同時に明るい声を上げる。

ディオスとクロイ、ルナ達は中央の輪で円形の石板を持ち、力を注ぎながら操作をしているスーリセを見つける。

「グルベリ様は?」

ディオスはスーリセに聞く。

「後程来られます、私は先に準備を任された」

スーリセは円形の石版上に手を乗せ力を注ぎながら操作をしている。

「お久しぶりですね、初代冥王」

グルベリが現れてルナに声を掛けた。

「その姿ではな」

グルベリはルナの言わんとすることを読み取り含み笑いをした。

「やはり貴女は素晴らしい、これはお返しします」

グルベリは大きなテキステル・コア・フラグメントを取り出し、ルナに差し出すとコアはルナに取り込まれる。

「世界に散ったコア・フラグメントはそれで全て」

「確かに…」

ルナがそれを自らの内に確認するとクレイルはグルベリに疑問を投げ掛ける。

「コア・フラグメントを集めて、それを持ち主に返すとは何が望みですか?」

「愚問だな、僕らに利が有るからに決まっている」

ルナはグルベリの思惑を察して言う。

「驕りだな、全てを取り戻した私を従えるとでも思っているのか?」

「もちろんですよ」

「身の程を知れ!」

ルナはそう言って指先から雷撃を放ったが雷撃はグルベリには当たらず、何かに弾かれた。

「順調に起動してるようだな」

「そうか…」

ルナは何か悟ったように言った。

「分かっていただけたようで、スーリセ」

「分かりました」

スーリセが円形の石版を操作するとルナはシャボン玉のような被膜に包まれた。

「ルナ様!」

レルクは身を案じてルナの名を叫ぶ。

「いま、出します」

クレイルは剣を抜き、振り下ろした。
だが、剣は硬い物にぶつかった時のような音を立てて弾かれた。

「心配ない、レルク」

「ですが…」

「今は待て」

「…分かりました」

「黙って聞いてればお前達は誰なんだ?」

「準備は整ったな」

ワグがグルベリに言葉を掛けるが見向きもしなかった。

「無視をするな、お前達は…」

「煩いな、消えろ!」

するとワグ、クレイル、レルクの足元の床が円形に消え、三人が落ちると床が元に戻った。

「グルベリ様」

「どうした?ディオス」

「これがお探しの物です」

ディオスは長い布袋を両手で差し出した。

「これがゼノ・ミーティア…」

グルベリは布袋を外すと三重螺旋を描くように延びる三ツ又の鑓が姿を表した。

「ふっふっふっ…これで…揃ったな、スーリセ、石板を前へ」

スーリセは円形の石板をグルベリに向けて両手で持つ。

グルベリはその石板に向けて三ツ又の鑓を向ける。すると鑓はシュルリと僅かに身を引き締め、三ツ又の突端が一点に合わさる。

そして、グルベリは鑓で円形の石板ごとスーリセを貫いた。

「グルベリ…さま」

スーリセの身体に内包された神具セフィロトにより、生命の息吹が吹き出し、円石版から光りの柱が一直線に真上と真下に向かって出現した。

「これでセフィロト・ツリーの初動が始まった」

同刻、キルティングはレイティア・アースにソレイドで起っている同じ事象を見ながら言った。

「クックックッ…始まったようですね」

光の柱を囲むようにセレディナスとクレアとレイナが壁に繋がれていた。
そして、その傍には倒れているフェイの姿もあり、フェイとレイナのオーブが失くなっていた。

同刻、地上でも同じ事象がフェレストアの時計塔にて起こっていた。
時計塔内部では窪みに埋まる三つのオーブと円を描くように並ぶ文字列が光っており、その中心から光の柱が出ている。

「あの光…始まるか…」

同刻、ヴァルキリアは地上界上空に浮かぶ、死都ドラグスネイドからそれを眺めていた。
そして…地上、冥界の各地で地殻変動が起き、世界は改変を始める。
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