ShiningHeart

シオン

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第十三章

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~神鋼都市グルタ~

「なんだこの揺れは」

改造中のサウザンド号の船長室でグラハムとラスティンは近くの物を支えに大きな揺れに耐えていた。

揺れは程無く治まった。

「大丈夫か?ラスティン」

「大丈夫ですが、なんだったんでしょうか?今の大きな揺れは」

「さぁな、それより今は乗組員と船体の確認だ」

そう言ってグラハムは船内マイクを手に取る。

「お前達、無事か?」

グラハムの問い掛けにスピーカーから混み合うように無事を知らせる声が聞こえた。

「なら船体に異常がないか確認しろ!」

グラハムが言い終えると船外から警報が聞こえた。

「避難警報!?グルタの都市機能ならあの揺れでも問題ないはず」

ラスティンは警報に驚き、そして、疑問に思う。

「ここはいいから行ってこい」

「すみません」

ラスティンは船外へと出るとそこはグルタの外れで急いでグルタの中心にあるへターミナルタワーに向かう。

ラスティンは地殻変動の被害状況を確認しながらターミナルタワーまで来たが町の被害はいたって軽微だった。

ラスティンが安堵しているとタワーからサリュが出てきた。

「兄様」

「状況は?」

「被害は軽微なのですが、念の為、住民と移民を地下大空洞に避難を進めています」

「そうか、ではそれに追従して地下への都市機能等の移行を」

「分かりました、それにしてもあれは何ですか?兄様」

サリュはラスティンの遠く後方を示して言うとラスティンは振り返る。

「…なんですあれは…(さっきの揺れはあれが要因で?)」

ラスティンは驚きが思わず言葉に出るがすぐに気を取り直して言う。

「分かりませんがさっきの地震はあれに関係している事かもしれません。サリュ、君は地下施設で指示を取ってくれますか?私は此処で地上の指揮を取ります」

「分かりました、兄様」

サリュは地下施設に向かった。



「ルカ、あれは出来たか」

グラハムは船内マイクのチャンネルを特定の人物に切り替えてに言った。

「一応は考古学者にこんな事頼むのはどうかと思うけど、だが、わからないのは何故、俺の机の上に翡翠の瞳があったのか」

「どうであれ完成したならトム爺さんにそれを渡してくれ」

「分かったよ、これでもう本来の作業に戻っていいかい?」

「本来の?」

「保管庫からこの船に運び込んだものの分析」

「あぁ、頼む」

よっぽど早く調べたいのかルカとの通信は直ぐに切れた。



冥界~レイティア・アース~

バルディとメリルは隠し通路の行き止まりにいた。

『今の揺れは何だったんだ』

バルディはそう思っているとメリルが言う。

「此処が出口です」

メリルは行き止まりの壁に手を掛けると壁の一部が奥へと静かに動き、隙間ができて光が射し込む。

「やけに明るいな」

メリルは更に動かして、隙間を広げて壁の向こうの様子を伺う。

「誰かいます」

メリルの言葉にバルディも隙間から覗き見ると複数の人物がいた。

「あれは一体…」

バルディはメリルが見つけた人物ではなく、別のものに目を奪われていた。

バルディの視線の先には光の柱があった。

メリルは横目でちらりとバルディの様子を見た後、光の柱の傍にいる人物達に意識を向ける。

「クックックッ…感謝しますよ、グルベリ、生命の息吹を流してくれたお陰で儀式は完成した」

キルティング博士は歓喜の様相で言った。

「この者はどうしますか?」

クリフォトは床に倒れているフェイを示して言った。

「放っておけ、もう誰にも止められん、世界は一つに…」

そこにビーゼルスが現れた。

「博士、ありがとうごさいます」

「ビーゼルス、それを言うならおめでとうではないかね」

「いえ、合ってますよ」

ビーゼルスは剣を抜いた。

「裏切る気か?クリフォト、こいつを…」

キルティングがクリフォトの方を見ると姿が透けていた。

「ある…じ…」

「セフィロトの因子を持つ者が大樹の目覚めに耐えれるとでも?」

「そんな馬鹿な確かに種は変化したはず…何が…」

「それはあの世ででも悩むといい」

ビーゼルスはそう言ってキルティングの額を剣で貫くとキルティングは後退り光の柱に飲み込まれて塵と消えた。それと同時にクリフォトの姿も完全に消える。

「感謝してますよ、博士、ヴァルキリア様の為に動いて頂いたことを」

ビーゼルスの目の前の空間が裂け、暗闇中に入ると空間は元に戻った。



光の柱を見入っていたバルディも途中から光の柱の傍にいた人物達の成り行きを見ていた。



二人は隠し通路から出ると光の柱に近付く。
バルディは柱の傍に倒れているフェイに触れた。

「まだ、息はある」

「セレディナス様!?」

バルディはメリルの視線の先を見るとそこには壇上で何かの装置に繋がれた三人の人物がいた。

「お母様!」

バルディはその一人の人物、セレディナスが繋がれている場所へ行く為、そこへ繋がる階段を掛け上がる。

メリルはレイティア・アースへ近付いてくる足音に気付いた。

「もう追っ手が来たようね」

メリルは護身用のナイフを抜き、近付いてくる足音の方を向き、ナイフを構えた。するとラズゥールが部下を連れて現れた。

「これは何だ…」

「貴方はどちらの味方?」

「バルディは何処だ…」

ラズゥールは不意に視線を上げるとセレディナスの姿が目に入った。

「…あれは!」

ラズゥールは団員をその場に置いて、階段を掛け上がる。

「待ちなさい!」

「お待ちください、メリル秘書官」

騎士団員はメリルを言葉で諌めた。

「我ら騎士団は敵ではありません、元老院から命は受けましたが従った振りをしただけです」

他の騎士団員も言う。

「我々とて冥王様には恩義があります」

「分かったわ」

メリルは団員達の言葉を信じ、ナイフを納めた。

「この中に治癒が使える人はいる」

「私、使えます」

「では、この子をお願い」

メリルは床に倒れているフェイを示して言った。

「あとは私と上へ」

メリルは騎士団員を連れて壇上へ向かった。

「どうすれば降ろすことができるんだ」

バルディは三人を磔にしている装置の前で地団駄を踏んでいるとラズゥールが現れた。

「バルディ、退け」

ラズゥールは剣を抜き、装置を一刀した。
すると、装置は停止し三人を解放した。

「お母様!…」

バルディはセレディナスを抱え、呼び掛ける。
その呼び掛けにセレディナスはゆっくりと目を開けた。

「バルディ…」

「お母様」

「ここは?」

「レイティア・アースです」

「では、解放されてしまったのですね…」

セレディナスは光の柱を見る。

「一体、何が解放されたの?」

バルディの口調はセレディナスが無事だったことの安堵で年相応の言葉遣いに変わっていた。

「無尽蔵に力を生む生命の樹…バルディ、あとの二人を此処へ」

ちょうどそこへメリルと騎士団員が磔にされていた他の二人、クレアとレイナを連れて来た。

「バルディ、よく聞きなさい…これから残された力を使い、創成時に失われた力を二人に注ぎ、王印を貴方へ継承します」

セレディナスはふらつきながらも立ち上がり魔法印を両方の掌に展開した。

「そんなことしたらお母様が!」

バルディは涙を流しながら言う。

セレディナスは何も言わず、クレアとレイナの胸に手を押し当てる。

「本当にやるのですか………」

「ラズゥール、メリル、バルディを頼みましたよ」

「分かりました」

「はい」

セレディナスは苦悶の顔をしながら力を注ぎ込み、程なく二人の胸から手を離す。

ラズゥール、メリル、騎士団員達はクレアとレイナを連れて下へと降りた。

それを見届けるとセレディナスは言った。

「バルディ、悲しむことはないわ、これからはずっと傍で見守っているから」

セレディナスはバルディの胸に手を当てるとバルディの背後に魔法印が広がり、バルディの背中に王の刻印が刻まれたと同時にセレディナスは静かに亡くなった。

「おかあさま…?お母様!」

バルディははち切れんばかりの声で叫んだ。

「誰がこんな事を…」

数分してバルディは一人、階段を降りて来た。

それをラズゥール、メリル、騎士団員達は片膝をつき、頭を垂れて迎える。

「ラズゥール…母を」

「はい…」

ラズゥールは立ち上がると階段を上がり、暫くしてセレディナスを抱えて降りてきた。

バルディ達はセレディナスの亡きがらを歴代の王族達が眠る墓所に安置するとデア城地下部から外へと脱出した。



~冥府ブロード~

V字の机に並ぶ椅子にはアンセムとベグラムの二人だけが座っていた。

「やはり謀反か」

「ラト及び他数名の騎士団員の処理、終わりました」

「奴らも逆らわなければ生かしておいたものを、馬鹿な奴らが」

「逃げた者達はどうしますか?」

「心配はいらん外に出ても何もできんさ、奴らは外が今どういう状況か知らん」

アンセムは不適な笑みを見せた。



「……一体、何が?…」

外に出た、バルディ達が見たものは割れた大地とそこを流れる熔岩、それと光の大樹だった。



~西都アルメトリス~

アルメトリスは落雷に曝され、次々と街や人に降り注いでいる。

「マリー、大丈夫か?」

ミラは自分とマリーを包み込む様に防壁を展開している。

「これもミュートがやったのかな」

マリーは砕けた宝石が装飾された指輪を見ながら言った。

「それはない、これはもっと別の強い力が働いている…」

ミラはそう言うと溜め息をついて続ける。

「いつまでそうしているつもりだ?マギは死んだ、そのスターサファイアが砕けた事がなによりの証拠」

「分かってるよ、でも…」

「こんな所にいたの?姉さん!」

ミュートは炎を放ったがミラが防壁を展開している為、炎は周辺に散る。

「戦え、マリー」

「出来ない、この子が…」

「それでもマギの弟子か?そんな子供の感情に流されて…もういいお前はどこかに隠れていろ!」

ミラは防壁を解き、手から黒い炎をミュートに向けて放った。

「邪魔しないでくれる?」

ミュートはミラが放った炎を受け止めると炎は収縮して消える。

「雷撃の紡ぎ、十字架を掲げ、従属せよ、インフェリノイノセンス」

ミュートがそう唱えるとミラは空中に上がり、両腕が強制的に開らかれて十字架を模した。

「…これはマギの法術…」

ミラの身体には何とか振りほどこうとするがその度に電流に流れる。

ミュートはその事に気にせず、黒い柩を出し中から黒鉄の短刀を取り出した。

「邪魔者には消えてもらうよ」

ミュートは黒鉄の短刀をミラに向かって投げようとした時…

「もうやめてミュート」

「姉さんが死んでくれるならね」

「分かったわ…」

「何それ、興醒めだよ」

ミュートは黒鉄の短刀をミラに向かって投げた。だが、ミラに当たる直前に黒鉄の短刀は砕け散った。

「何処から?」

ミュートは辺りを見回したがマリー、ミラ以外の人影は見当たらず、ただ落雷があちらこちらに落ちて気配が読めない。

ミュートはその場から少し動くとミュートの頬に細線状の傷が入った。

「避けられてもうたな」

アルメトリスの外にある高台からラズーリが超長距離射程の武器でミュートを狙っている。

ミュートは見えない敵に気を取られ、ミラの魔法が解けた。

「大丈夫?ミラ」

「この雷は邪魔だな」

ミュートは自分の真上に魔法陣を展開した。

「森羅雷象」

魔法陣の真上の雲が渦巻き、魔法陣に雷撃と共に吸い込まれると魔法陣は消えた。

「なんて力だ…やはりマギの力を取り込んで」

「そんなことが…」

空が晴れた事によってミュートは遠くの方に何か光るのを見つけた。

「やばっ」

超長距離射程の武器のレンズ越しに目があった瞬間すぐ移動すると今まで居た場所に雷撃が落ちた。
ラズーリは上を見ると小さな黒雲がまた雷撃を放とうと漂っている。

「何や、あれは」

ラズーリは直ぐさま離れようと近くの森の中に逃げ込むと黒雲はそれに気付き、雷撃を放ちながら追いかけてきた。

「これで邪魔は居なくなったな」

ミュートはマリーとミラの方を見ると二人の姿はなかった。

「かくれんぼ?姉さん」

ミュートは大きな声で言った。

マリーとミラは落雷で崩れた廃墟に隠れていた。

「ミラ、力を貸して」

「できるのか?…」

「この子もいいって言ってくれたから」

「分かった」

ミラはマリーの手に触れると二人は光に包まれた。

「そこか」

ミュートは光の方向に雷撃を放つと廃墟を破壊して辺りに砂埃が立ち上った。

「ようやく本気になってくれたね」

砂埃が晴れると黒装姿にウィッチハットを被った女性が宙に浮いていた。

「すぐに片付けてあげる、覚悟なさい!」

「やっぱり姉さんはそうでないと」

マリーは素早く左手で右腕から手の甲を撫でると魔法文字列が左手に連なって延び、魔法文字列は槍になった。
槍は柄の根元に宝玉の付いており、翼をモチーフにしたような刃が備わっている。

マリーはその槍でミュートを突いたが軽く避けられた。

「遅いよ」

「本当に」

ミュートはマリーから距離を措くため後ろに飛び退くと腹部から血が滲み出た。するとミュートは腹部を手で押さえながら言う。

「…油断した」

ミュートは押さえていた手を退かすと腹部から滲み出ていた血は消えていた。

『流石に姉さん相手だと、この身体じゃ無理があるな』

ミュートは黒柩を出して、中に入ると蓋を閉じた。

「マジックのつもり?」

マリーは黒柩に向かって槍を投げた。
だが槍は黒柩を擦り抜け、後ろにあった瓦礫に突き刺さった。
すると黒柩の蓋が開き、中から黒髪短髪の白いコートを着た男が出て来た。

「さあ、始めようか」

ミュートの両手の甲に刻印が現れた。

「そうね」

槍がマリーを囲むように七つに分身し宙に浮いている。

ミュートは手から炎を放つとマリーの周りを槍が回転して炎を防いだ。

「上ががら空き…」

ミュートは回転する槍の真上に移動して炎を放とうとしたがそこにはマリーは居なかった。

ミュートは背中に気配を感じ、空を見ると勢いよく一本の槍が飛んで来た。
それをミュートは片手の掌で止めると槍が凍り付いた。

回転した槍の刃先は中心に寄るとミュートの背後から突き上がると槍の回転が止まった。

「こんなものか?」

槍の刃先はミュートまで達せず、凍り着いている。

「これからよ」

ミュートの目の前にマリーが現れ、ミュートの腹部に掌を当てるとミュートの身体が後ろへと吹き飛び、槍がミュートの身体を貫いた。

「ふっ」

ミュートは鼻で笑うとそのまま大声で笑い続けた後に言った。

「こんなもので僕が倒せるとでも?」

ミュートの身体に貫いていた槍は一瞬で砕け散り、ミュートは地面に降り立つとその時にはもう槍の傷は消えていた。

「今度は僕の番」

ミュートは黒柩からマリーの持つ槍と同じ形状の槍を取り出し、マリーに向かって素早い突きを放っていく。
マリーはそれを槍で防ぎ躱していったが槍は弾かれて地面に突き刺さった。

「これで終わりだよ」

ミュートは槍を振り下ろしたが槍の刃先はマリーの鼻先で止まった。

ミュートは腕が動かなくなった事に驚き、その後、全身に締め付けられるような感覚に捕われた。

「何をした」

「白柩」

ミュートの後ろに繊細な糸が無数に出た白い柩があり、ミュートはそこに引き込まれ、糸が絡み合い固く閉じる。
そして、白柩は塵すら残らないほどに砕け散りマリーの首元に白い刻印が刻まれた。

「眠りなさい」

マリーは黒柩の蓋を開け、何かを掴むと引きずり出した。それは姿が変わる前のミュートだった。

ミュートは穏やかな寝息を立てて眠っていた。

マリーはミュートを平らな地面に寝かせ、黒柩に蓋をして掌を当てた。すると黒柩に刻印を印すと白柩と同じように塵すら残らないほどに砕け散り、マリーの首元に白い刻印と重なるように黒い刻印が刻まれた。

「これでもう目覚めることはないわね」

そこへラズーリが現れる。

「まったく酷い目におうたわ、終わったんか?」

「えぇ…」

マリーは浮かない顔をする。



冥界~崩壊した大地~

バルディ達はデア城地下部の出口から近くにある洞窟の中にいた。

「ここは…?」

フェイは目を覚ますと視界の至る所に光り輝く水晶があり、洞窟内を照らしている。

「目が覚めたようよ」

メリルがレイナに声を掛ける。

「大丈夫、フェイ」

「あぁ、此処は何処なんだ?」

「デア城の近くにあるアルベール洞窟だ」

ラズゥールの答えにフェイは聞き覚えのない地名を復唱する。


「デア城?アルベール洞窟?」

「お前等、何処から来たんだ?」

「地上から」

「地上!?じゃあ、君達はクレイルと同じ所から」

フェイの言葉にバルディが反応を見せる。

「クレイルさんを知っているんですか?」

「クレイルと知り合いなのか?」

バルディは驚いたように聞いた。

「はい、ヴァルキリアを倒す為に一緒に旅をしていた仲間です」

「そうですか」

「あれ?ない!」

フェイは不意に腕を見てオーブが無いことに気付いた。

「どうしたの?」

レイナはまだ気付いておらず、何のことか分からずに聞いた。

「オーブが無くなってる」

「……!私のも」

「オーブとはなんだ?」

クレアがバルディの疑問に答えた。

「オーブは大精霊を封じ込めた宝玉です」

「クレアさん!?どうしてここに?」

「分かりませんが目覚めた時にはもうここに居ましたから…」

「オーブは何処に行ったか分かりますか?」

「恐らくはフェレストアにある時計塔にあるでしょうね」

「クレアさんと会った、あの塔に」

「じゃあ、グレネリスとミリアリスはあそこに?」

「えぇ、生命の樹の目覚めには彼等の力が必要ですから」

「生命の樹?」

「外に見える光の樹の事です」

「あれは何なんですか?」

「世界を統合し思うがままに創り変えることが出来る時空(とき)の神殿の扉を開ける鍵、その扉を開けば既存世界は消える」

「なんだって!?世界が消える?」

「はい、恐らくはヴァルキリアの手によって」

「止めないと!でもどうやって地上に戻れば…」

「地上に通じるゲートならこの洞窟の奥にある」

バルディは洞窟の奥を示して言う。

「この奥に!?」

「封印されているが」

「こんな所に地上に繋がるゲートがあるなんて始めて聞くな」

ラズゥールは洞窟の奥を見据える。

「僕も初めて知ったけどこれは多分、王印継承で手に入れた知識」

バルディ達は奥にあるイヲス・Σゲートに向かい、バルディはゲートの前に着くと地面にあるゲートに手をついた。
すると王印が光り、重々しく鍵が開く音がしゲートの扉が開いた。

「この先は死都ドラグスネイドに繋がっている」

「ありがとうございます」

フェイは御礼を言い、Σゲートに飛び込んだ。
レイナとクレアはお辞儀してフェイの後に続いて入ると扉は閉まった。

「ラズゥール、メリル、僕たちは元老院へ会いに行く」

「何を言うです」

「俺も同意見だ」

「王としてきちんと対峙しなければいけないと思うんだ、だから…」

「分かりました、でしたら私も同席させていただきます」

「危険だから、メリルはここへ残った方がいい」

「なんと言われようがついて行きます、私は王の秘書官ですから」

「バルディ、心配するな、俺達王宮騎士団がついているから大丈夫だ」

「ありがとう」

バルディ達はアルベール洞窟を出て、デア城地下部に戻り、元老院の元に向かった。



地上~死都ドラグスネイド~

クレイル、レルク、ワグは雲空の中を落ちていた。

「シルウィンド」

クレイルは力を使い、自分とレルクとワグの落下速度を抑えた。

「ここは外のようですね」

「恐らく亜空間から何処か………よりにもよってこんな所とは切っても切れない宿命のようですね」

眼下には都市全体が空中にある都、死都ドラグスネイドがあった。

「最悪だな」

ワグは呟くように吐露する。

クレイル達は都市の中心地近くの大通りに着地した。

「これからどうしますか?」

「戻ってルナ様を助けに」

レルクは即座に述べる。

「それは無意味です、今から戻ってももうあそこにはいないでしょう」

クレイルはレルクの意見を否定する。

「なんだろうと俺はすぐ此処を離れることを進める、此処はヴァルキリアの拠点だ」

ワグは周囲を警戒している。

「知っていますよ、ですが恐らく先程の奴も此処に来るはずですよ」

「どうしてそんな事がわかる」

「目的の邪魔になる者は排除(消す)でしょうから」

「今は逃げた方が良さそうです」

レルクは身構える。

「そのようだな」

視線の先には通りいっぱいに大きな骨のみの龍が勢いよく向かって来ている。

クレイル達は細い路地に駆け込み、路地を抜けると虚城の前に出た。

虚城の前にはフェイ達がいた。

「フェイ」

「クレイルさん?」

「どうして此処に?」

「それは…」

フェイは経緯を話した。

「そうですか…私を追って冥界まで行ってくれたのですね」

「はい」

「此処から先へは進まない方がいい、今の君達二人は無力だ」

クレイルはフェイとレイナに向けて言った。

「どうしてそんな嘘を言うのですか?」

クレアはクレイルに問うとフェイは嘘という言葉に反応して疑問符を浮かべる。

「嘘?」

「二人とも特別な力を持っていますよ、一人は貴方と同じ素質を」

「クレイルさん、どういうことですか?」

クレイルはその問いに答えずに空を見上げる。

「…ちっまた来ましたか」

さっきの骨だけの龍が炎を吐きながら空から襲って来た。
クレイルは防御法陣を空中に広げ、炎を防いだ。

「(仕方がありませんね…)早く城の中へ」

フェイ達は言われるままに虚城の中に入った。

「さっきから何故、攻撃をしない?」

「そんなことより貴方達も早く中へ!」

クレイルはレルクとワグに向けて言った。

「分かりました」

レルクはそう言うと二人は中に入った。

「憐れなドラゴンに救済を…」

クレイルの顔に龍の刻印が現れ、防御法陣を解いた。
龍は高く舞い上がり、勢いよく頭から突撃してきた。そして、辺りに振動が響き渡り、虚城の城門が崩れた。

「クレイルさんは?」

フェイはレルクとワグに聞いたが二人は何も答えなかった。

「まさか、今のに飲み込まれて…?」

「無事ですよ」

クレイルが皆の前に現れた。

「クレイルさん、その顔は?」

フェイはクレイルの顔にある龍の刻印を見て言った。

「此処が龍人族の住んでいた場所だからでしょう」

「それは説明になってないです、それにさっきの話の説明をして下さい」

「………いいでしょう……」

クレイルは一呼吸置いて言う。

「貴方達二人は確かに力を持っています、フェイはヴァルキリアによって滅びた龍人族の力を持っています。しかも、龍人族の純血…」

「俺が龍人族?」

「かつて聖都と呼ばれ栄華を誇っていた、此処に住んでいた一族です」

「弱い種族ですよ」

目が隠れるほどの長い黒髪の男が現れた。

「ユシード」

「おや、誰かと思えば裏切り者ですか…妹はどうしたんです?」

「…」

「失礼、霊獣にのまれたんでしたね」

「何の用だ」

「何の用もないでしょうに君達は敵の陣地にいるんですよ」

赤い髪に右頬に三角のペンタクルのある男が現れた。

「ギルッシュ」

「久し振りですね、ワグ」

ギルッシュは笑顔を見せた。

「グリムレイドですか…下がりなさい」

クレイルは現れた二人の俗称を言うとフェイ達に向けて言った。

「いやです、俺も」

フェイはエレメンタルブレードを抜いた。

「そう、君達は下がっていた方がいい」

ギルッシュがそう言うとフェイ、レイナ、クレアの足元に魔法陣が広がり、三人は何処かに消えた。

「御望み通りこの戦いからは下がらせてあげましたよ」

ギルッシュとユシードは武器を構えた。
ギルッシュの武器は穴の開いた刀身の剣を手に持ち、ユシードは自分の周りに掌大の球体を複数出した。

「誰からきますか?」

ワグは背中の黒い大刀を抜いて構え、クレイルとレルクに言った。

「俺が行く、お前達は隙を見て先に進め」

ギルッシュの瞳に朱い法印が現れ、ユシードとワグを囲むように硝子のような壁が現れた。

「そうは行かせてくれないようですよ」

クレイルがワグに向けて言う。

「準備はいいですよ、ユシード」

「始めようか」

ユシードは身の丈程の長い棒を出し、周囲にある球体を突いて、ワグへと向けて飛ばしていく。
ワグはそれを黒い大刀で弾くと他の球体や壁に当たり、球体は不規則な動きをして行く。

「読み切れない」

球体はワグの身体に当たってはまた、不規則な動きをしてワグに損傷を与えていく。

「なら…」

ワグは防ぐのを止め、黒い大刀をユシードに投げるとユシードは棒で弾き、黒い大刀の柄を掴んだ。

「自分から霊獣を手放すとは……うぅ…これは!?」

黒い大刀から触手のようなものが出て、ユシードの手から腕に侵食していき、血管が浮き出ていく。

「侵食型の霊獣か…」

動いていた球体が止まり、地面に落ちた。

「ユシード、お前の敗因は俺の霊獣の能力を知らなかったことだ」

『違いますね、ユシードの敗因は自分の力への驕り』

ギルッシュは心の中で考察する。

「こんなもので…」

ユシードの顔まで侵食が達し、ユシードは倒れた。



「これでは一人で相手をしなくては…霊獣グウィネス、まだ力があるのならば私と新たに契約を」

ギルッシュはそう言うと複数あった球体が宙に浮き、一つになった。

「いいだろう」

ギルッシュは硝子のような壁を解くとグウィネスはギルッシュに近寄り、沈み込むようにギルッシュの胸に吸い込まれた。

「エルメキアシャドウ」

ギルッシュの身体が分身するように三つに別れた。
三人のギルッシュはクレイル、レルク、ワグの一人一人に向き合うと黒い壁に仕切られた。

「これはかなりの使い手のようですね」

「この姿のままでは楽にはいけそうにありませんね」

レルクは冥霊キマイオスの姿になった。

「冥界の精霊とは珍しい、是非ともヴァルキルア様の思想の元に賛同して頂きたいものです」

キマイオスと対峙するギルッシュは願望を吐露する。

「断る」

キマイオスは両手に神爪牙リベロンを装着し瞬時にギルッシュの背後に移動した。

「エターナルリベリオン」

「まさに神のような速さ、神速ですね」

「全て受けきったか」

「受けきった?冗談を」

ギルッシュがそう言うとキマイオスの身体に複数の傷が現れ、血が飛び散り倒れた。

「先ほどの言葉は撤回します、この程度の力ではヴァルキルア様の思想には到底及ばない」

「貴方がヴァルキルア様を封じたクレイル・シュヴァルツですか」

クレイルと対峙するギルッシュは力量を品定めするかのようにクレイルの全身を見る。

「今度は存在、そのものを消しますよ」

「ヴァルキルア様の力は以前より遥かに増しています、貴方には無理ですよ」

「無理かは分かりませんがグリムレイドの力はヴァルキルアの力に比例していますからね、力が増していることは承知してますよ」

「いや、無理ですね、いくら龍の力が覚醒したとて偽りのドラゴンレイスでは到底、力は及ばない」

「グリムレイドの一人くらい倒すことは造作もないですよ」

「己の力を、身の程を知るといいでしょう」

ギルッシュは携えた剣を引き抜き、剣先をクレイルに向けると何かを呟く。

「エルフィルト」

剣の刃を被うように緑色の光が包んだ。

「武器強化系魔法ですか」

ギルッシュは剣を振ると背骨のように何節にも分かれ、クレイルに向かって延びていく。
クレイルが横に躱すとクレイルの服の一部が切れた。

「この距離でも少し掠りますか、有効範囲が広いですね」

ギルッシュの剣は元の状態に戻る。

「今のを避けましたか、さすがはヴァルキルア様を封印しただけの事はありますね」

ギルッシュはもう一度、同じように剣を振るった。

「これならどうです」

ギルッシュは延ばした剣を波打たせ、横に振った。すると剣は渦巻くような動きでクレイルに向かっていく。

クレイルはルナから借りている剣、プリシラで攻撃を受け止めたが剣は砕け、クレイルは交わった時の反動で飛ばされた。

「ううっ…」

クレイルの腕から血が流れた。

「脆い…」

「借り物の剣なのですがね…でも感謝しますよ」

「何を?」

「これで自分の武器が使えます」

クレイルの血が地面に落ちると魔法陣が広がり剣が迫り上がってきた。

「どんな武器が来ようとも無駄ですよ」

ギルッシュは剣を元の状態に戻した。

「また壊してあげますよ」

ギルッシュは剣を振り上げて振り下ろしたが剣は何の変化もなく、肩に痛みが走った。

「何だ、この痛みは…」

ギルッシュの両腕が削ぎ落ちた。

「終わりです」

そして、ギルッシュの首が落ち、身体は倒れると壁が消えた。

「どうやらこれが本体だったようですね」

クレイルは周囲を見渡し、ワグとレルクが倒れているのを見つけるとそれぞれに近付いて生死の確認をした。

「二人共、息はあるようですね」

クレイルは二人を柱にもたれ掛け、治癒魔法をかけると先へ進んだ。



虚城~シュトラディバイスの間~

玉座にはフードを目深に被ったヴァルキリアがいた。

「ようやく会えたな」

ヴァルキリアの視線の先にはフェイとレイナ、クレアがいた。

「お前がヴァルキリアか」

フェイはエレメンタルブレードを抜いた。

「ヴァルキリア様」

ケイオスがヴァルキリアの前に出て、フェイ達の前に立ちはだかるとフルヴァリーナイツが武器を構え、フェイ達を囲んだ。

「ケイオス、下がれ」

「ですが…」

「大事な客人だ、お前達は此処へ向かって来るものを排除しろ」

「分かりました」

フルヴァリーナイツは武器を納め、ケイオスと共に姿を消した。

「どうして退かせた?」

「大事な客人と言っただろう」

ヴァルキリアは玉座から立ち上がった。

「自ら相手をするってことか」

フェイはエレメンタルブレードを構え、ヴァルキリアに切り掛かったが割って入るように仮面をつけた者がフェイの腕を掴み、エレメンタルブレードを受け止めた。

「お前はあの時の」

フェイはアフロネイロで会った出来事を思い出した。
仮面をつけた者はボーガンを出すとフェイは仮面をつけた者の手を振りほどき、後ろに飛び退いた。

「やっぱり…どうしてお前がリーシュのボーガンを持ってるんだ?」

仮面をつけた者は何も言わずにボーガンを放つと矢はフェイの肩に突き刺さった。

「くっ…」

フェイは肩に刺さった矢を引き抜き、傷口を押さえる。

「フェイ」

レイナはフェイに近付き、傷口に触れると出血と傷が消えた。

「女神が完全に目覚めたか」

「何?今の…」

レイナが驚いているとまた矢が放たれる。それをフェイはエレメンタルブレードで切り落とす。

「レイナ、下がって」

レイナはフェイのいう通り、下がると仮面をつけた者は腰に携えた剣を抜き、フェイに飛び掛かってきた。

フェイは仮面をつけた者が振り下ろした剣をエレメンタルブレードで受け止めた。

「何なんだ、お前は!」

フェイは受け止めた剣を押し退けるとその剣は二つに折れた。
仮面をつけた者はエレメンタルブレードを避けると折れた剣を投げ捨て、ボーガンを向ける。

「お前の正体を見せてもらう」

フェイがそう言うと仮面をつけた者の仮面に一筋の切れ目が入り、二つに割れた。

仮面の下から現れた顔は…。

「リーシュ?…どうして」

「生きていた…生きていたんだ、リーシュ」

「どうして、リーシュが俺達を殺そうとするんだ」

「その少年はもう自分の意思はない」

そこへアビスの声だけが聞こえた。

「そんな、リーシュ!リーシュ!返事しろよ、リーシュ!」

「ペルソナ」

リーシュはボーガンを構え、次々と矢を放っていく。だが、フェイはそれをエレメンタルブレードで薙ぎ払う。

「リーシュ、やめてくれ」

「無駄だ」

「そんなことない!無駄なことなんてない、リーシュは大切な友達だ!」

エレメンタルブレードは白く強い輝きを放つ。

「なんだこの輝き…」

フェイは光り輝くエレメンタルブレードに見入る。

「こちらも目覚めたか、シャイニングハート…」

ヴァルキリアは事の次第をただ傍観する。

「うぁぁぁ…」

リーシュが突然、頭を押さえ叫び出した。

「リーシュ!」

リーシュは前のめりに倒れ込み、フェイはそれを支えた。

「…フェイ…俺は何を…」

リーシュはそう言葉を発した後に気を失った。

「レイナ、リーシュを」

フェイはリーシュをレイナに預けた。

「馬鹿な…心の氷を溶すとは何をした」

アビスがフェイ達の前に現れた。

「何もしてない、ただ友達を強く思っただけだ」

「友を思う心か…」

アビスの心が揺らぐ。そんなアビスの心情を読んだかのようにヴァルキリアは言う。

「もういい」

「ドラクマ?」

「お前はもう必要ない」

ヴァルキリアは片手をアビスに向けると掌に黒い球弾が現れる。

「何を言っている、友に手を掛けるのか?」

「友か…そんなものに何の価値がある」

ヴァルキリアは黒い球弾をアビスに放つとアビスは動揺して避けることも出来ずに黒い球弾に飲み込まれ消えた。

「仲間をどうして?」

「どうして?そんなもの利用価値が無くなったからにすぎない」

レイナとフェイは信じられないという表情をする。

「そんな…」

「そんな理由で自分の仲間を…」

フェイは白く輝くエレメンタルブレードを構えた。

「くだらない理由で怒らなくとも、君には何の関係ない赤の他人」

「赤の他人だろうが、仲間を…利用価値が無くなった?そんな理由で殺す何て俺は許せない!」

フェイはヴァルキリアに斬り掛かる。

『ふっ遊んでやるか』

ヴァルキリアはそう思い、漆黒に染まった剣を抜く。

フェイの攻撃はヴァルキリアの左肩から右脇腹にかけて切り裂かれたかに見えたがヴァルキリアの姿が消える。

「えっ!…」

フェイの首元に後ろから漆黒の刃が当てられる。だが、ヴァルキリアはすぐに剣を退いた。

フェイはすぐさま振り返り、そのままエレメンタルブレードを振り抜いたが先程と同じように残像を切り裂いた。

ヴァルキリアはまたフェイの背後から首元に漆黒の刃を当てすぐに剣を退いた。

「どうして剣を退く」

「そうでなければすぐ終わるからな」

フェイは今度はエレメンタルブレードを自らの脇腹の横を抜けるように後ろへと突き刺さした。するとガチャっという音が響いた。

フェイはエレメンタルブレードを動かそうとしたがびくともせず、エレメンタルブレードをそのままに後ろを振り返った。するとそこにはヴァルキリアの身体の手前で刀身が消えたエレメンタルブレードがあった。

「何だこれ!?」

「そう、それで同じように躱していたのね」

クレアは遠見から全てを把握した。

「君には感謝する」

「何のことだ」

ヴァルキリアの言葉の意味するところを理解できずフェイは聞くがヴァルキリアの姿が消え、クレアの近くに現れる。

そして、その傍の空間が裂け、暗闇が口を開いた。

「待て!」

クレアの腕を掴み、ヴァルキリアは暗闇の中へと消えると裂けた空間は元に戻った。

「ここまで来て逃げられた、それにまたクレアさんを…」

「場所なら分かります」

何処からともなく声が聞こえるが姿は見えなく、ただ空気が湿気に満ちている。

「私は水の精霊、ミスト」

「場所っていうのは?」

時空ときの神殿という所です、入り口は全ての世界の中心に位置するグングニル」

「世界の中心のグングニルって何処なんだ?」

フェイの問いになんの反応もなく、ミストの気配は消えていた。

「レイナ、取り敢えず此処から出よう」

フェイとレイナはリーシュの腕を肩に掛け、今いる部屋から出る。

部屋から出た、その先にはフルヴァリーナイツが倒れていた。

「これは…何が?」

三人の前にクレイルが現れた。

「これは一体?」

「私の足止めですよ、ヴァルキリアは?」

「クレアさんを連れて時空の神殿というところに向かったようなんですが」

「そうですか、時空の神殿に向かいましたか…」

「知っているんですか?」

「えぇ…」

突然、死都ドラグスネイド全体に地響きが起き、建物が崩落し始めた。

「今は急いで此処から出ましょう」

フェイ達は途中、ワグとレルクを助けて虚城から脱出したが外は建物の瓦礫や地面の隆起、沈降によって進めなくなっていた。

「お前達、無事か」

空からグラハムの声が聞こえ、フェイ達は上を見上げると大きな船が宙に浮いていた。

「あれは一体、何です?」

船底の一部が外れ、四本のワイヤーに吊られたゴンドラが下りて来た。

「早く乗ってください」

地面に降りたゴンドラに乗っているラスティンはフェイ達に言った。

フェイ達はラスティンの言う通りにゴンドラに乗り込むとゴンドラは巻き上げられ元の位置に戻る。



~サウザンド・エンプレス~

ゴンドラを格納後、リーシュ、ワグ、レルクの三人はラスティンの指示により医務室に運ばれ、残りの者達は乗組員によって管制室に通された。

「よく来たな、新造船サウザンド・エンプレスへ」

グラハムは管制室に通されたフェイ、レイナ、クレイルに向けて言った。

「凄いですね、壁や床に継ぎ目がないなんて」

「グルタの粋を集めた新造船だからな」

「動力はどうしたんですか?」

「そいつは俺が何とかした」

「私も手伝いましたが…それに何とかしたのはトム爺さんです」

マルクとルカは管制室に入って来て言った。

「細かい事気にすんなや、核周りは俺が仕上げたんやから」

「マルク、いつの間に乗り込んだ」

「大事な動力や、下手に触れられても嫌やからな」

「その動力を放って此処に来てもいいのか?」

「もう戻るから心配いらん」

そう言うとマルクは管制室から出ていった。

「あいつは何しに来たんだ?」

「早速で悪いんですが、コレルド樹海の中心、グングニルへ向かって頂けますか?」

「構わないが、あんたは何者だ?」

目を細めて初めて見る人物、クレイルに対して不躾に聞くとフェイが説明する。

「この人は前、ラウナ火山で言っていた異世界に居た仲間です」

「そうか、会えたのか。フェイの仲間だというなら何処へでも連れていってやる」

そして、フェイはグラハムに言う。

「その前にフェレストアに向かってもらえますか?」

フェイの言葉にクレイルは怪訝な表情で聞く。

「何をするつもりです?」

「時計塔に行ってグレネリス達に会う」

「それはやめた方がいいです、刹那の別れを見ることになりますよ。それでも行くというなら止めはしませんが…」

「それはどうゆう意味ですか?」

クレイルは口を閉ざす、そのまま管制室から出ていった。

「どうするんだ?フェイ」

「フェレストアに向かってください」

グラハムは船をフェレストアに向けるとフェイとレイナも出ていき、管制室にはグラハムとルカだけが残っている。

「ルカ、お前は戻らないのか?」

舵を握りながらルカに背を向けて聞く。

「戻ってもやることはないから」

「ということは、終わったのか?」

「まあ…」

「なんだ?釈然としない返事だ、な…」

グラハムは首筋に針で刺されたような痛みを感じると強い眠気に襲われた。

グラハムの身体は床に倒れ、操縦者を失った舵が赴くままに動こうとするのをルカが舵を掴み止める。

ルカは自動航行に切り替えると舵から手を離し、針の付いた小さなガラス容器を取り出す。そして、針をグラハムの柔肌に突き刺すと小さなガラス容器に赤い液体が満たされていく。

「蒐集王の血統に連なる者の血」

グラハムの柔肌から針を引き抜くとガラス容器から針を引き抜いて封をする。

「これで…」

ルカはうっすらと笑みを見せる。



クレイルとレイナは甲板で会話していた。

「何の用ですか?女神アルミティウス」

「見届けることが私の役目です」

大人びた声色でレイナが答えた。

「ですが、もうその役目から逸脱していると思いますが」

「そうですね、傍観者が当事者になるなど…」

「これを彼に渡してもらえますか?」

クレイルはレイナにサモナイトソード・プリシラを渡した。

「これは冥王の剣の一つですね。しかし、折れてますが…」

レイナはプリシラを鞘から引き抜くと刀身が折れていた。

「折れていてもあの初代冥王の所有していたものですから」

プリシラを鞘に戻して頼みを了承する。

「分かりました」



~フェレストア~

サウザンド・エンプレスはフェレストアに到着し、外壁近くに着陸する。

フェイ、レイナ、そして、目を覚ましたリーシュは船から降りて街の中に入る。

「大丈夫なのか?」

「何がっすか?」

「(やっぱりアビスに操られていた時の記憶を失って…)いや、何でもないよ」

「そうっすか」

三人が街の中に入ると街には全く明かりがなく、静まり返っていた。

「どうして誰も…」

「母さんと父さんは…」

リーシュとレイナは心配様子であちらこちらを見回す。

「二人は家に行って見てきていいよ、俺は先に時計塔の様子を見てくるよ」

「うん」

「ありがとうっす」

レイナとリーシュは自分の家に向かい、フェイは時計塔に向かった。



~時計塔~

時計塔は光の樹に包まれていた。
光の樹は近くで見ると光の粒子で構成されており、粒子は樹が水を吸うように下から上へと移動してしている。

フェイは光の樹を透り抜けて時計塔の中へと入った。

「水の音が聞こえる…」

時計塔の中は水琴窟のような音が響いている。

「綺麗な音だな」

水音に耳を澄ましていると何処からともなく歳老いた低い声が聞こえた。

「聖域に立ち入る者に次ぐ、それより先に進むならば命は亡いと思え」

「今の声…」

フェイは声の言葉には従わず、階段を昇っていく。

「証拠にもなく、入ってきたか」

上の階に着いたフェイの目の前に炎を纏った狼のような獣の姿があった。

「死んで我の糧となるがいい」

炎の獣はフェイに襲い掛かってきた。それに対してフェイはエレメンタルブレードを振り抜きながら躱した。

炎の獣は向きを直り、前足で空を斬った。

「炎斬」

フェイは炎の獣の攻撃に驚き、動作が遅れて避けられず、エレメンタルブレードで受け流した。

『今のは炎斬…どうして…』

フェイがそう思っているとまた炎の獣は炎斬を放ってきた。

『さっきは驚いていて気付かなかったけどこの感じ、まさか…』

フェイはそう思いながらまたエレメンタルブレードで炎斬を受け流した。

「…グレネリス…」

フェイがその名を口にすると炎を纏った獣は動きを止めた。

「我の名を何故、知っている…」

「俺の事を忘れたのか?一緒に旅をしたじゃないか」

「お前如き小僧など知らん、我は鍵を奪うものを排除するため此処にいる」

炎の獣はフェイを突き放すように言い、炎を穿いた。

『あれは間違いなくグレネリス、でもどうして』

フェイはそう思いながら炎を躱した。

「どうした、小僧、動きが鈍いぞ」

獣は炎の尻尾でフェイを叩き飛ばした。

『やっぱり戦うしかないのか?』

フェイはエレメンタルブレードを支えに立ち上がった。

「ほう、まだ立てるか」

フェイはエレメンタルブレードを構えると獣は左右の前足を振るい、二つの炎斬を交わるように放つとそこへ炎を穿いた。

「炎双紅蓮斬」

フェイは紅蓮の炎に包まれた。

「これで終わりじゃな…」

炎の獣は向きを変えて立ち去ろうとすると紅蓮の炎は一瞬で掻き消えた。

「真炎斬」

紅蓮の炎が掻き消えた瞬間に白い刃が飛び出て獣の身体を切り裂いた。

炎の獣は龍のような瞳でエレメンタルブレードを振り抜いた状態でいるフェイを視界に捉えながら口にする。

「これで役目は果たしたな…」

獣の言葉に我に返ったように瞳が戻り、獣に駆け寄った。

「役目ってどういうことだ」

「フェイ、わしはお前に鍵を与える為…ヴァルキリアを…倒す力を与える為に……」

「グレネリス…そんな…」

「承けとれ、フェイ」

「待って…」

フェイの言葉も虚しく炎の獣、グレネリスは光の球に変わり、フェイの胸へと浸透するように入っていった。

「グレネリス…」

周りの景色が変わり、その場にレイナとリーシュが現れた。

「フェイ、ミリアリスが…」

「レイナの所でも…」

「じゃあ、グレネリスも…」

フェイは無言のまま頷く。

「行こう」

フェイ達は時計塔から出る。



~サウザンド・エンプレス~格納庫~

「…家の方はどうだったんだ?」

フェイはレイナとリーシュに聞いた。

「家の中に入ったけど、お父さんもお母さんは何処にも居なかった…その代わりに水の獣の姿になったミリアリスが現れて」

「俺も家に入ると母ちゃんが居なくて、探していると変な獣が現れていきなり襲われたっす」

「リーシュの所にも精霊が?じゃあ、リーシュも契約者だったのか」

「そうみたいっすね、確か変な獣もそんなこと言ってたっすから」

「でも、街の人達は何処に」

「街の住人は生命の樹に還ったのですよ」

クレイルが三人の前に現れて言った。

「還ったってどういうことですか?この際知ってることを話してもらえますか?」

「いいでしょう、何を聞きたいのです?」

「生命の樹って何なんですか?」

「生命の樹は生きとし生けるものの魂の根源たるもの、それ故に世界に現れたことで全ての生命は樹に還ります」

「じゃあ、街の人達は樹に…」

「そんな…お母さん、お父さん…」

「母ちゃん…」

「…でも、俺達はどうして無事で?」

「それは生命の樹には力無きものから還るからです。それに今は次の段階に移行する為の小康状態にあり、次は世界の全てに影響を与えます」

「止める方法は?」

「それはもう君達が行いました。時空の神殿へ鍵であるオーブの破壊、それが止める方法です」

「破壊って、仲間だったっていうのに何でそんな涼しい顔して言えるんです!」

「これは失言でしたね」

クレイルは空手を握ると何かを引き抜く動作をすると何もないところから剣が現れ、その流れのままフェイに斬り掛かる。

フェイは咄嗟にエレメンタルブレードを抜き受け止めた。

「どういうつもりですか?」

「止めてください、クレイルさん」

クレイルはエレメンタルブレードを刀身で受け流し、刃をレイナに向けた。

「力を見せてもらいますよ」

クレイルは柄や反しのない刀身だけ剣を鞘にしまう動作をして引き抜く構えをする。そして、一気に抜刀した。

「止めてください」

抜かれた刃はレイナの目の前で止まる。

レイナの前に薄い膜があり、剣の刃はそこで止まっていた。

「レイナ」

リーシュの声に後ろへ退くと薄い膜は消えて一本の矢がクレイルに向かって飛んできた。
クレイルは身体を後ろに反らせ、矢を躱したが矢はその身をしならせながら周回軌道を取り、クレイルの元へ引き返してきた。

戻ってきた矢を剣で切り落としたクレイルは剣を再び虚空に納め、手を離す。

「よしとしますか」

そういうとクレイルは格納庫の出口を向いて歩き始めた。

「待てよ」

「さっきの言葉は嘘ですから、気にしないでください」

クレイルはそう言い残し、格納庫から出て行った。

「嘘?何が、どうなって」

「貴方達の得た力を試す為よ」

大人びた女性の声が聞こえた。

「レイナ?」

「私はアルミティウス、この子の身体に宿りし女神よ」

「め、女神っすか!?」

「試したってどうしてです?」

「彼は不死の身体を失いつつあり、それによって身体は偽りの龍の力に蝕まれてヴァルキリアを倒す力を持ち合わせていないからよ」


「くっ…もう少し…もってくれ…」

クレイルは倉庫のような部屋の隅で肩を抱えて身体に走る痛みに耐えていた。



「それなら始めから言ってくれても」

「そうっすよ、水臭いっす」

『そうね…でもそれが出来たなら彼は過去は違ったものになっていたでしょうか』

「皆さん聞いてください。もうすぐ目的地に着くので各自の持ち場に戻り、有事に備えて下さい」

突如、船内にラスティンの声が響いた。



「とりあえずはこんなところでしょうか」

ラスティンは管制室の椅子で座った状態で眠るグラハムを見る。

「いったい誰が何のために…」

腕に貼られた小さなガーゼに視線を移す。

「血を抜かれた痕、首にもありましたがそちらは催眠系の薬を塗布したものですね」

「うぅ…ん…」

グラハムが目を覚ます。

「大丈夫ですか、グラハム」

「あぁ…」

「何があったんです?」

「わからないが、ルカと話している途中で急に眠気に襲われて」

『ではルカがグラハムを…しかし、どうして』

ラスティンが少し考え込んでいるとがグラハムは椅子から立ち上がって舵に向かい、窓から外を見て現在地を確認する。

「あれはなんだ?」

コレルド樹海の中心、地面へと直立に突き刺さっている何重もの螺旋を作る歪な赤い樹のようなものが見えている。

管制室の扉が開き、クレイルが入ってきて言う。

「急いでグングニルの中に突っ込んでください!」

「いきなり入ってきて突っ込めとは随分手荒いことを言ってくれるな」

クレイルは何重もの螺旋を作る歪な赤い樹のようなもの、グングニルを注視するとグングニルの螺旋が徐々に絞まっていき、螺旋の間隔がなくなっていく。

「もう扉が閉じかけている、早く!」

グラハムはクレイルの必死の訴えに船の出力を上げようとしたがグングニルと船首の間に人影を見つける。

「なんだ、あれは人か?」

「足止めに現れましたか…」

複数の陽炎のような黒い人影が行く手を阻んでいる。

『死して尚、ヴァルキリアに従うのですね彼等は…』

クレイルはそう思いながらグラハムに言う。
「そのままを突っ込んで下さい!」

「もう、どうとでもなれ!」

グラハムはグングニルに向けて船を直進させる。

「ディー・ディバインド」

クレイルは船首前方に向けて特殊な魔法陣を展開させると魔法陣から帯状の文字列が現れ、グングニルと陽炎のような黒い人影達に巻きついて拘束し、グングニルに巻きついたものはその身を閉じていたグングニルの動きを止める。

だが、クレイルの身体に突然、激痛が走り跪いた。

「こんな時に…」

グングニルと陽炎のような黒い人影達に巻き付いている文字列に亀裂が入り、拘束魔法は崩壊した。

クレイルを淡い光包み、身体の痛みが和らいだ。

フェイ、レイナ、リーシュの三人がいつの間にか部屋の中におり、レイナがクレイルに治癒の力を使っている。

「何でも一人で背負わないで下さい」

「少しは他人を頼ってもいいと思いますよ」
「そうっすよ」

「そういうことよ」

女神はレイナの口を借りて言った。

「炎鎖拘束」

フェイがそう言うとグングニルの近くの地面から炎を纏った鎖が出て、グングニルの螺旋に巻き付いて螺旋同士の間隔を広げるように引っ張っていく。

「ラジカル・バインド」

フェイに続いてリーシュが言うと陽炎のような黒い人影達の周りに鋭い風が吹き荒み、陽炎のような黒い人影を切り裂くようにして拘束する。

フェイの拘束魔法でグングニルが閉じる早さは落ちたが、まだ閉じる力が強く、炎を纏った鎖がカタカタと震え鎖に亀裂が入り始めた。

クレイルはレイナの治癒の力によって痛みの和らいだ身体に力を込めて立ち上がり言う。

「リカバリー・インパクト」

フェイの拘束魔法を強化する力がかかり、亀裂と断裂が消えて徐々に狭まる間隔が止まった。

グラハムはその隙をついてサウザンド・エンプレスを一気にグングニルへと突っ込ませる。すると船はグングニルにぶつかる直前に姿を消す。

船が消えると拘束していた魔法が消え、グングニルは反動で一気に螺旋同士の間隔がなくなり、真っ直ぐ天に伸びた一本の螺旋状の柱のようになる。

そして、グングニルは螺旋に沿うように幾つもの三角形の時限魔法陣が現れ、時を刻むかのように回り始めた。
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