ShiningHeart

シオン

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第十四章

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~時空の神殿~

ヴァルキリアは石版の前で周囲に魔法陣を展開しながら、時空の神殿の機能を稼動させていく。

「今更、何をしに来た?」

ヴァルキリアは気配を感じてそう言うとフェイクが現れた。

「決まっている、終わらせる為にきたんですよ」

フェイクは弱々しい声で言った。

「随分と弱っているな、やはり真の対であるあの少年の紛い物か。では、せめてもの情けとして終わらせてやろうか」

そして、ヴァルキリアは漆黒の剣の柄に手を掛けるとその場にいるもう一人の人物に声を掛ける。

「そこにいるお前は例によって観ているだけか運命の傍観者」

「えぇ僕はただ興味があるだけだ、二人の逝く末に」

グルベリは離れたところから眺めていた。

「ならば見ていろ」

ヴァルキリアは魔法陣を継続させたまま、縦方向に何重にも捻れた漆黒の剣を抜いた。

「愚かな半身の片割れが消える様を」

ヴァルキリアは剣を一振りすると耳を劈くような風が放たれ、フェイクは何かを受け止めたが飛ばされた。

「はぁ…はぁ…」

フェイクはよろめきながら立ち上がろうとしたが地面に手をつき、血をはいた。

「一思いに逝かせてやろう」

ヴァルキリアはフェイクに近付いて言い放った。

「この時を待っていた…」

フェイクはヴァルキリアの胸倉を掴むと二人が軽く入るくらいの魔法陣が地面に現れた。

「消えろ」

ヴァルキリアの身体がフェイクの手から吸い込まれ消えた。

「これで…」

「終わりだな」

フェイクの言葉に次いでグルベリが呟くと身体中に亀裂が走った。

「うぅ…うわぁぁぁ…」

フェイクの身体の外層が少しずつ剥がれて宙に浮かんでいく。

「…やれ!」

フェイクは崩壊する身体の痛みに耐えながら叫ぶ。

すると目の前の空間の大気が揺らぎ、フェルセルクが現れた。

現れたフェルセルクの手には刃物があり、一思いに崩壊するフェイクの身体を貫く。

「馬鹿な…」

フェイクの中からヴァルキリアの声が漏れ聞こえた。

「馬鹿なことを」

フェイクの身体と刺さる刃が一気に舞い上がり、散々となって消える。

「私を取り込もうなど」

ヴァルキリアは目の前のフェルセルクを斬り伏せる。

「どうして…」

フェルセルクは地に伏して言う。

「最期の力を使い、諸共葬ろうとしたようだが僅かな力を振り絞ろうともたが知れている…もう聞こえていないか」

フェルセルクの意識はもなくなっていた。

ヴァルキリアは時空の神殿の機能稼動作業継続中の魔法陣に入り、石板の前に立つとまた操作していく。

「残すは一つ」

グルベリはヴァルキリアに聞こえない程の声で呟く。



時空の神殿~幻影の園~

サウザンド・エンプレスは花畑の中で傾いた状態で不時着していた。

グラハムは動かなくなった舵を支えに傾いている床で立ちながら言う。

「何だ此処は、これが建物の中か?」

クレイルは甲板にあるロープを使い、花畑の中に逸早く降りるとフェイ達もそれに続いて降りた。

「この花は過去の幻影ですね」

クレイルは花に触れた。

「過去?」

「ここは時空の神殿、名前の通りあらゆる時空が混在する場所ですから」

フェイ達はその空間を色々調べていると小さな泉を見つけた。

泉の中には水晶の三方向の軸で構成された十字架が沈んでいた。

「これが何だかわかりますか?」

フェイはクレイルに聞いた。

「私も此処へ入るのは初めてですから」

リーシュは二人が話しているうちに十字架を泉の中から出すと泉の脇に石柱がせり上がって来た。

「なんか出て来たっすね」

「リーシュ!罠だったらどうするんだよ」

「フェイにどう意見です、少し軽率過ぎますね」

「大丈夫っすよ」

石柱には十字の窪みがあり、リーシュはその窪みに水晶を嵌めた。すると花畑の花が枯れ始め、水晶に白い光が徐々に燈っていく。

「なんかやばかったみたいっすね」

「嫌な気配が満ちていきますね」

水晶の光が強くなり、フェイ達の影が地面に映し出された。

フェイはエレメンタルブレードを抜いた。

影が地面から浮き上がり、フェイ達と同じ姿をした黒い物体となった。

フェイ以外の者も身構える。

「シャドウグロウですね」

女神は後ろに気配を感じて振り返り、自分と同じ姿をした黒い物体を見て言った。

「では、これを倒せば先に進めますね」

クレイルは刀身だけの剣を引き抜き、光の力を付加させた。

クレイルの形をした影は剣を構え、クレイルに切り掛かったがクレイルに一刀され、影は散り散りになって消えた。
そして、クレイルの身体が足元から頭へと霧状になり消えた。

「クレイル!」

「大丈夫、先に進んだだけだから」

レイナはフェイに言うと自分の影を水の刃で消し去るとレイナもクレイルと同じように消えていった。

「一体、どうなってるんすか」

「取りあえず、こいつを倒せば良いみたいだけど…」

フェイはそう言いながら、自分の影の攻撃を躱した。

「そうっすね」

リーシュはボーガンで矢を自分の影へ連続射出すると影も同じように矢を放って相殺させた。

「普通の攻撃じゃ駄目みたいだな」

フェイはそう言うと思った。

『レイナとクレイル、よくこんなの倒したな』

フェイの影は真炎斬を放ってきた。フェイはそれに対して咄嗟に真炎斬を放ち、影の放った真炎斬と共にフェイの影を掻き消した。

「そっちも倒したみたいっすね」

リーシュも自分の影を倒して言った。するとクレイル、レイナと同じように二人の身体も消えた。

「遅かったですね」

フェイはクレイルに声をかけられ目を開けると周囲を見る。

そこは炭鉱のような洞窟の中だった。

「さっきのあれは対迎撃型転移魔法の一つです」

レイナの意識を借りて女神はフェイとリーシュに教えた。

「ここはウェルズ魔窟ようですね」

「魔窟って何ですか」

「千年前に失われた魔導鉱石の取れる洞窟の事です」

「って事は此処は千年前の場所?」

「恐らくは」

クレイルはそう言うと地面に落ちている石を拾うと淡い光を発した。

「それが魔導鉱石っすか?」

「そう、あと此処を抜ける間は力を控えて下さい。鉱石に反応して誘発して大変な事になりますから」

フェイ達は先へと進んだ。

魔窟を進むにつれて入り組んでいき、幾方向にも分かれる道を調べながら進んでいくと大岩が置かれた空洞に着いた。

「行き止まりみたいだけど」

「大きな岩っすね」

「これは…」

クレイルは大岩に触れると淡い光を放った。

「…魔導鉱石、こんなに大きな」

「待っていたぞ」

顔に一筋の傷の入った男、ケイオスが魔導鉱石の陰から現れた。

「貴方は生きていましたか」

「誰ですか?」

「ヴァルキリアの騎士ですよ」

「この傷の御礼に来た」

ケイオスは顔の傷を触れて言うと剣を抜いた。

「今度こそ逝かせて差し上げますよ」

クレイルは何もない所から刀身だけの剣を抜くとケイオスはクレイルに切り掛かってきた。

「クレイルさん」

フェイは意識をクレイルに向けるとケイオスを含めた全員の周囲に複数の絡繰り人形が現れた。

「なんだこいつら、あいつの仲間か?」

フェイとリーシュは咄嗟に武器を出した。

「こいつらはまさか!」

ケイオスはそう思うとその場に居た全員に襲い掛かって来た。

ケイオスは剣で次々と人形を薙ぎ払っていく。

『仲間じゃないのか?』

そう思いつつフェイも剣で人形達に切り込んでいき、リーシュはボーガンの矢を放っていく。

「女神アルティミウス…」

クレイルはレイナに近付き言った。

「はい、彼等も深き沈黙を破り動き出したようですね(あまり好まないやり方ですが、強制転移でこの空間に干渉して道をこじ開けるしかありませんね)」

そして、レイナの内の女神アルティミウスは言葉を紡ぐ。

「闇を喰らいし時の門、繋げ彼方の場所へ、グラヴィティ・イグジット」

すると女神が発動した魔法に対して大岩の魔導鉱石が共鳴し淡い光を放ち始めた。

「皆さん、私の近くへ」

フェイ、リーシュはレイナの近くに寄った。
すると魔導鉱石は淡い光から強く発光し辺りの景色を削り取っていく。そして、魔導鉱石に砕け辺りは一瞬で暗闇に染まった。

「何も見えなくなったっすよ」

暗闇の中に無数の扉が現れ、真っ白な世界になった。

「ここは?」

「神殿の中枢にあるインハーシェル、此処にある扉の一つがヴァルキリアがいると思われるレイジェンティアに繋がっている」

「じゃあ、片っ端から開けるっす」

「それは出来ません」

「どうして?」

「幾つも開けていたら気付かれて扉の鍵を閉められる恐れがあります」

「じゃあ、どうすれば…」

「少々時間がかかりますが、私が何とかしましょう」

クレイルは地面に魔法陣を描き始めた。



「ここは…何処だ」

ケイオスは砂漠の中に居た。

突然、砂の中からさっきの絡操り人形が現れた。

「またこいつらか、邪魔だ消えろ」

ケイオスは剣を抜くと人形達を切り刻んでいき、その場に居た人形達を全て倒した。

「これがフルヴァリーナイツの力だ」

「君の血は何色」

「まだ残っていたか」

ケイオスは声の方を見ると朱い髪の少年が立っていた。

「人形?じゃないな」

「君の血は何色」

少年はケイオスの瞳をじっと見つめると目から生気が消え、ケイオスは人形の様に立ち尽くした。

「………」

少年は唄いながらケイオスを連れて何処かへ消えていった。



時空の神殿~インハーシェル~

「まだっすかぁ?」

クレイルが魔法陣を描き始めて数時間経っていた。

「もう少しですが、邪魔が来たようです」

ケイオスがフェイ達、四人の前に現れた。

「さっきとなんか様子が違う」

リーシュはボーガンの矢を何発も放ったがケイオスは避けずに身体で受け止める。

「変っすね」

ケイオスは剣を抜いた。

「なんかさっきの人形みたいな動きっす」

レイナの内の女神は言う。

「さっきの人形と同じようなものです、彼にはもう意識はなく操られているのですから」
「じゃあ、操っている奴もこの場所に?」

「いないわ」

フェイの言葉に女神は即座に答えた。

「出来ましたよ」

クレイルは魔法陣を描きあげ、魔法陣を発動した。

「イミテーション・ブレイク」

無数にあった扉が次々と消えていった。

「イカセナイ」

フェイはエレメンタルブレードを抜き、ケイオスの剣を弾き落とした。
リーシュは剣を拾う為に伸ばしたケイオスの手と両足をボーガンの矢で地面に打ち付けた。

クレイルの魔法陣によって一つの扉が残った。

「あの扉が、レイジェンティアに繋がっている扉です」

「マテ」

ケイオスは矢の刺さっていない手で手足の矢を引き抜いた。

「サキニハイカセナイ」

そう言うと複数の絡操り人形が現れ、フェイ達を囲んだ。

「私が道を開きます」

クレイルはその場で飛び上がり、剣を引き抜くと円状に剣圧が広がり、人形達を薙ぎ倒すと着地した。

「今のうちに早く」

フェイ達は扉まで向かう間に人形達は次々立ち上がり、数が増えていく。

「全く厄介ですね」

クレイルは扉と人形達の間で立ち止まって言うと一体の人形が飛び掛かって来た。
クレイルはそれを振り向き様に一刀して倒した。

そうこうしている間にフェイ、リーシュ、レイナの三人は扉まで辿り着き、扉を開ける。

「クレイルさん、早くこっちへ」

「先に行ってて下さい」

クレイルは人形達と戦いながら言うとフェイは加勢に向かう為、クレイルの方へ行こうとした瞬間、レイナに腕を掴まれ扉の中に投げ込まれた。

「リーシュも早く中に」

レイナの言われるままにリーシュは扉の中へ入った。

「後は頼みますよ、女神アルティミウス」

レイナは遠い眼差しでクレイルを見ると扉に入った。

時空の神殿~レイジェンティア~

ヴァルキリアは魔法陣を全て消すとグルベリは言った。

「また来たみたいですよ」

「言われなくとも分かっている」

レイジェンティアに扉が現れて扉が開く。

その扉からフェイ、リーシュ、レイナの三人が現れた。

「よく此処まで来れたな、上出来だ」

「此処で終わらせてやる!」

フェイはエレメンタルブレードを勢いよく抜き構えた。

「いいだろう」

ヴァルキリアは黒いローブを脱ぎ捨てるとフェイ達一同、ヴァルキリアの姿に驚いた。

「えっ…」

「同じ顔…っす」

ヴァルキリアの顔はフェイと全く同じ顔だった。

「驚くことはないだろう?」

ヴァルキリアはレイナとリーシュに向かって言った。

「俺が本物のフェイト・エルベーニュだ」

「そんなわけないわ」

「そうっすよ」

「では、その偽者が知らない俺達、三人だけが知っている話をしようか?」



~回想~

フェイ、あぶないよ

だいじょうぶだよ

フェイはシュパールという林檎に似た実のなる樹に登っている。
フェイは上の方にある一つだけ色の違う実に向かって登っている。

あと少し…

レイナは心配そうにフェイを見つめていると足滑らせて樹から落ちた。
フェイは地面へと背中から落ちるとき強い風が吹き、地面との衝突を和らげた。

フェイ!

レイナは急いでフェイの元に駆け寄とフェイは苦しむような表情をしている。

フェイ…どうしよう…

フェイの苦しむ表情から変化を見せこう言った。

な~んてね

フェイは軽々と起き上がった。

もう!心配したじゃない!

怒るレイナにフェイは謝る。

ごめん…

謝るフェイを見てレイナは笑った。

それを見てフェイも笑った。
なぜか二人で笑っているとリーシュがやってきた。

何二人で笑ってるっすか?

いや なんでもないよ

あっ!それ

リーシュはフェイの手にあるシュパールを見つけ言った。

よくとれたっすね

まぁな



「その話は知っている!」

「だが、シュパールの誓いは知らないだろう」

「シュパールの誓い?」



なぁ、このシュパールに誓わないか?

フェイはシュパールの実を見てから言った。

何を誓うっすか?

リーシュが聞くとフェイは考えた。

ん~何がいいかな

フェイが考えているとレイナが思い付いたかのように言った。

じゃあ…

「永遠の友情に」

ヴァルキリアとレイナ、リーシュの三人が同時に言った。

「………」

「どうして…」

「俺が本物だからだよ、レイナ」

「そんな…俺は…俺は…(何者なんだ…)」

フェイは自らの中に疑心が渦巻き、気が遠退いて跪く。

「フェイ!」

リーシュはフェイへと駆け寄り、フェイの身体を支える。

「まだその偽者をそう呼ぶのか、リーシュ」

「例え本物のフェイトがお前だったとしても過ごした時は偽りじゃない」

「リーシュの言う通りよ」

「確かにそうかもしれない。だが、その過ごした記憶がその偽者に造られたものだとしたら?」

「そんなこと…」

「龍人族ならば可能だ、本人は無意識だろうがな」

「じゃあ、本当にお前がフェイトだっていうのか?」

「そうだ」

「でも、おかしいわ、数千年生きている貴方がフェイトなわけない、それに封印されていたはず」

「封印?そんなものは初めからないようなもの、俺は輪廻を巡る一族サムサーラだからな…」

ヴァルキリアは少し曇った表情をした。

輪廻を巡る一族サムサーラ?」

レイナの疑問に内なる女神がレイナの身体を借りて答える。

「サムサーラは悪魔、忌まわしき者として歴史上から消し去られた一族です」

「その通りだ、女神アルティミウス」

「貴方の目的は何です」

「俺はその偽者に奪われた時を取り戻したいだけだ」

「だからってその為にどれだけの命が、俺が知ってるフェイはそんなことはしない」

「本当にそいつがいいんだな、リーシュ、お前は怒ると口癖が抜けるからな…レイナもそうなのか?」

レイナは何も答えずただヴァルキリアを睨んでいた。

「そうか…」

ヴァルキリアは悲しげな表情し、フェイ達に左手を向けると掌に黒い光が集中するように現れ、球体を作り上げる。

「…ならば偽者ごと消えろ」

球体は収縮し、放たれる。



~時空の神殿~レイジェンティア~

ヴァルキリアに放たれた球体はフェイ達には届かず、透き通るような瞳の麗しい美女の障壁によって阻まれた。

「邪魔をするな」

「そうですよ、出来ないのなら貴女を強制的に依り代から縁を引き離すことになります、それに彼等も黙ってはいないでしょうね」

「ランス・ド・グリベル、私は契約は解かれたから、もう傍観者ではないわ」

「では…」

ヴァルキリアは先程より多くの黒い光が集まり、大きな球体を作る。

「遠慮なく撃てるな」

球体は収縮して漆黒の光を放った。

女神はそれを先程と同様に障壁で受け止めた。
だが、漆黒の光は障壁を貫き、貫いた途端、拡散して辺りに爆煙が広がった。

「忌々しい偽者も生きてはいまい…」

爆煙が晴れるとエレメンタルブレードを構えたフェイが立っていた。

「偽者が!まだ消えないか」

「俺は俺だ、お前の偽者じゃない」

「私の手でこの世から消してやる」

ヴァルキリアは漆黒の剣を抜き、エレメンタルブレードと剣を交えるとその瞬間、互いの剣圧で渦巻くような風が広がった。

「俺が消えても何も変わらない」

ヴァルキリアとフェイは互いに剣を次々と斬り結んでいく。

「変わる、俺の世界はな」

ヴァルキリアは言葉と共にフェイを剣圧で弾き飛ばした。

フェイは空中で体勢を整えて地面に着地して踏み止まり、ヴァルキリアの方を見るとヴァルキリアはすぐ目の前まで来ており、漆黒の刃を振り下ろそうとしていた。

「終わりだ」

そこへボーガンの矢が飛んできた。

ヴァルキリアはそれを後ろに跳び退いて躱すとリーシュの方を見た。

「そんなもの当たらない」

リーシュが操り戻って来た矢を黒い炎を放ち消し炭にした。

「俺を嘗めるなよ、リーシュ」

「真炎斬」

その声と共に爆発が起き、その影響でヴァルキリアは吹き飛ばされて壁にぶつかり、瓦礫と砂埃が舞った。

「この距離で放ったのはまずかったな…」

フェイは身体の数ヶ所に傷を負っていた。

「フェイ、大丈夫?今、治療を」

レイナはフェイに駆け寄り、力を使って傷に治癒を施した。

「…偽者の分際でやってくれる…」

砂埃が晴れると胸部から腹部にかけて深い傷を負ったヴァルキリアがいた。

「やはりレプリカではこの程度、遊びはこの辺にしようか」

傍観をしていたグルベリが口を開いた。

「何を言っている?…運命の傍観者」

「君の方が偽者なんだよ」

「俺が偽者?…そんな馬鹿な…!俺はそいつの知らない記憶を…」

「君はそこいる龍人族の生き残りの記憶を写した器(レプリカ)なんだよ、その影響で本体の記憶は欠落してしまったからね」

「俺が…偽者…そうか俺が偽者だったとはな…ふっふふふ…あはははは……」

ヴァルキリアは何かの糸が切れたかのように突然、笑い出した。

「真実に精神が壊れたな」

「ひどい…」

「同情か、同情することはない。あれがお前の同族を殺した史実は事実。まあ、覚えてないだろうけど」

グリベルは掌から黒い石が出てきた。

「何をする気だ」

「終わらせてあげるだけだ」

グリベルは黒い石をヴァルキリアに投げた。
石は地面に落ち儚くも砕け散った。すると上下に二つの魔法陣が現れ、ヴァルキリアは砂のようになり二重螺旋を描くように渦巻いている。

上下の魔法陣が挟むように移動して徐々に姿を現し、魔法陣が重なり消えるとそこには龍のような姿と化したヴァルキリアがいた。

「命で弄ぶなんて…お前は命を何だと思っているだ!」

エレメンタルブレードは強く白い輝きを放つ。

「命?偽りの記憶、偽りの心、偽りの命、これの何処にそんなものがある」

「貴方も傍観者のはず、こんなことをしたら…」

「僕は元より傍観者ではないからね」

「貴方、一体何者?」

グリベルは何も言わず、ヴァルキリアがフェイ達に黒い炎を穿いてきた。

グリベル:「すぐに分かりますよ」

フェイ達は避け、炎が止むとグリベルの姿は消えていた。

「ぐわぁぁぁ……」

ヴァルキリアは雄叫びをあげた。

「あいつ、何処へ?」

「今は、この状況を何とかしなければならないわ」

「来るっすよ」

ヴァルキリアは翼を大きく広げると左右に魔法陣が現れ、そこから大きな白い布を纏った、太陽の刻印が入った仮面と大きな黒い布を纏った、星と月の刻印が入った仮面が現れた。

「アンフェノとインフェノ!どうして此処に」

「何なんですか?あれは」

「神の創りし究極魔導兵器です…」

女神アルティミウスはそう言うと身体が薄れていく。

「もう限界が来ましたか…」

女神アルティミウスの姿がレイナと重なり、レイナの中に消えていった。

アンフェノはフェイ達に向かって強い光を放った。そして、インフェノは自らの前に魔法陣を壁の様に展開し、そこから複数の光の粒をフェイ達に放った。

フェイ達は避けようと散ったがそれぞれに必ず数個、光の粒が追跡してくる。

「この攻撃、躱しても何処までもついてくるっす」

リーシュは避けるのに集中していると目の前に突然、龍のような姿と化したヴァルキリア尻尾が現れ、リーシュの腹部へと打ち付ける。

リーシュの身体は中を舞った後に地面へと叩き付けられ、すぐさまそこへ光の粒が降り注いだ。

光の粒はリーシュの身体に触れた途端、大量の電撃を発する。

「うわぁぁぁ…」

「リーシュ!」

フェイはエレメンタルブレードで光の粒を薙ぎ払うと電流が宙で飛散した。

フェイはすぐにリーシュの所へ向かおうとしたが目の前に龍のような姿と化したヴァルキリアが現れ、フェイは咄嗟にエレメンタルブレードを振った。

ヴァルキリアは翼を羽ばたかせて宙へと躱し、すぐさま黒い炎を穿くと炎はフェイを飲み込み、姿が見えなくなった。

ヴァルキリアは炎を穿き終えると雄叫びをあげる。

「ぐわぁぁぁ……」

「まだ終わってない」

黒い炎が消えるとレイナがフェイの前で炎を防ぐ水の盾を展開していた。

「喰らえ!」

エレメンタルブレードが双振りの短刀に変わり、レイナが水の盾を解き退くとフェイは十字するように自分の前で振り下ろした。

「真双炎斬!」

すると刃から交わった白い刃が放たれ、ヴァルキリアへ向かって飛んでいく。

ヴァルキリアは雄叫びをやめ、向かってくる刃を見据える。そこへインフェノが現れ、ヴァルキリアを自らの黒い布で包み込んだ。インフェノは纏っている大きな黒い布で放たれた刃を受け止め、白い刃を破壊した。

「防がれた!?」

するとアンフェノがインフェノの前に現れた。

アンフェノの纏っている白い布にいくつもの魔法陣が現れ、その魔法陣から雷撃がフェイ達二人に向けて次々と放たれる。

レイナはまた水の盾を展開しアンフェノの雷撃を防ぐ。だが、雷撃は徐々に激しさを増し水の盾を削り取っていく。

『早く何とかしないと…持たない…』

レイナがそう思っているとアンフェノの仮面に矢が突き刺さり、雷撃が止んだ。

「当たったっすね…」

最後の力を振り絞って放った矢が刺さったのを確認したリーシュは気を失った。

「リーシュ!」

レイナは水の盾を解き、リーシュに駆け寄り力を使い、治療をする。

矢が当たったアンフェノは仮面に亀裂が入り、仮面は二つに割れた。

二つに割れた仮面が地面に落ちるとアンフェノの纏っていた白い布が瑠璃色の炎をあげて燃えた。
白い布が燃え尽きると膝を抱き抱えた裸の小さな少年が横になっていた。

「どうして子供が…」

『何故…魔導兵器の中から人間の子供が…』

女神アルティミウスはレイナの内で思った。



~時空の神殿~レイジェンティア~

龍のような姿のヴァルキリアを包み込んだインフェノはヴァルキリアから離れ、インフェノは裸の小さな少年を抱き抱えた。

「ツカエナイヘイキダ、ヘイキニココロハイラナイ」

ヴァルキリアはそう言うとインフェノの仮面を切り裂いた。
インフェノもアンフェノと同じ様に纏っていた黒い布が瑠璃色の炎をあげて燃えた。
黒い布が燃え尽きると膝を抱き抱えた裸の小さな少女が抱き抱えていた少年と寄り添うように横になっている。

「ヌルイ、ヌルイヤツラメ」

小さな少年、少女に向けてヴァルキリアは黒い炎を穿いた。

「やめろ!」

フェイはヴァルキリアと小さな少年、少女の間に立ちはだかり、黒い炎をエレメンタルブレードで受け止めた。

「ジャマヲスルナ」

ヴァルキリアは黒い炎の勢いを強めた。

「レイナ、この子達を…」

レイナはリーシュの治療を終え、フェイの近くで横になっている小さな少年と少女の傍へとすぐに向かい、盾を展開した。

「うぉぉぉ~」

フェイは黒い炎を押し返していく。

「イマイマシイ、イマイマシイ」

ヴァルキリアの身体から触手が現れ、フェイの身体に触手を突き刺した。

「うっ…力が……抜ける」

フェイは黒い炎に押し返されていく。

「モエツキロ」

「そうはいかないっすよ」

ヴァルキリアの触手に矢が数発撃ち込まれた。すると触手はフェイの身体から抜かれた。

「まだまだ行くっすよ」

リーシュはヴァルキリアの周囲に何本もの矢を撃ち込んでいく。

「ソンナモノアタラナイ…ナニ、カラダガ!」

ヴァルキリアは身体を動かそうとしたが動かず、身体には何本もの丈夫な細い糸が絡み付いている。

「今っす」

「真炎斬」

フェイは精一杯の力でエレメンタルブレードを振り下ろした。すると黒い炎は掻き消され、ヴァルキリアを切り裂いた。

「…バカナ…ナゼダ…ワタシハ…ワタシハ……」

ヴァルキリアは深く傷つき倒れると元の姿に戻った。

「あぁ…これでもう辛い思いをすることがないのだな……君達が羨ましかった…偽りの記憶だとしても一緒に過ごせて良かった………」

ヴァルキリアはそう言い残し生き絶えた。

「なんか後味悪いっすね…」

「あいつも何も分からず利用されただけなんだろうな…」

「まさかどうして……ロストナンバー…」

アンフェノとインフェノの中からで出来た少年と少女の手の甲を見るとレイナの身体を借りて女神は呟く。

「どうしたの?」

「いえ…」

レイナは心の内で聞いたが女神は何かを隠すように口を噤んだ。

「それにしてもさっきの男は何者なんですか?」

「…」

女神は何か言おうとした時、フェイ達の前に六角形の透明なものが複数、部屋中に現れ、赤文字で文章が綴られていく。

「…迂闊だったわ」

「これは何ですか」

「神殿の制御機関が術者を失って暴走を始めた」

「えっ!それってまずくないっすか!?」

「はい…このままでは全ての世界が時空の渦に飲み込まれ、無に帰します」

「そんな…」

「大丈夫、私にお任せ下さい」

そう言い、女神はレイナの身体を借りると石版の前に立った。

「二人も手伝って下さい」

「うん」

「分かったっす」

「今からこの神殿全ての時空間を解放します。二人は私の左右に別れて立っていてください」

女神は石版に向けて手を翳すと崩壊した。そして、石版の中から中央に眼のような鉱石が埋め込まれた針のない時計が現れた。
眼のような鉱石は突然、強く光り輝きレイジェンティア内が時空が入り混ざったように景色が変わり、フェイとリーシュのそれぞれの前に扉が現れた。

「その扉を開けて、奥にあるスピリチュアルを破壊してください」

フェイとリーシュはそれぞれの扉を開けて中へ入った。



「すみません」

女神は何故か心の中で謝る。

女神は針のない時計に埋め込まれた眼のような鉱石を石版の時と同じように手を翳し破壊すると意識をレイナに返した。

そして、破壊した鉱石の破片は宙に浮かび、輪を造るように回転し始めた。

「何なのこれ」

レイナは何か危険を感じ後退りした。すると輪の中央から徐々に深蒼に染まった髪の透き通る肌で所々に鱗のような模様がある女性が現れた。

「闘って下さい」

女神アルティミウスはレイナに言った。

「どういう事ですか?」

レイナを囲むように水柱が何本も噴き出した。

「これを倒さなければ完全に破壊されません」

噴き出していた水柱の流れが止まった。

「来ます」

全ての水柱から一斉に何十本も針のように細い水がレイナに向かって伸びた。

レイナはすぐさま全包囲に盾を張った。だが、針のように細い水は全て透り抜けると盾は消えて無くなり、レイナに触れる事なく直前で止まった。

「同質の盾では効果がありません」

女神はレイナの周りに障壁を張り、針のように細い水を防いでいた。

「でも、どうしたら…(私の力はミリアリスの水の力)」

今度は水柱から深蒼に染まった髪の透き通る肌で所々に鱗のような模様がある女性と同じ姿の水が水柱の数だけ現れた。

女性と同じ姿の水は手に水の球体を出し、剣の形へ変えた。

「…あの時、ミリアリスから貰った…」

レイナはフェレストアの自宅でミリアリスと戦った後、別れ際に受け取ったあるものを思い出し、腰袋から手探りで蒼い石のかけらを取り出した。すると石は何かに共鳴するように輝いていた。

『これなら…』

女神は障壁を解いた。すると深蒼に染まった髪の女性と同じ姿の水が剣を突き出し、切り掛かって来た。

そんな時、石が突然、強い輝きを放つと石は水をモチーフにした杖へと変わり、深蒼に染まった髪の女性と同じ姿の水と水柱を消し去った。

「何が起きたの?」

レイナの頭の中に女神とは違う、別の声が響いた。

『その杖は貴女の底に眠る力を引き出してくれます』

何故かレイナはその声に懐かしさを覚え、その言葉を不思議と理解した。

「深蒼より深き蒼、揺蕩う水の息吹よ、我が前に立ち開かる全ての者を斥けよ…」

レイナは杖を構え、頭の中に流れ込んでくる呪文を唱える事にレイナの身体から水球のような光が溢れ、杖へと集まっていく。

「…ラムダ・クリスタル!」

そして、杖から蒼い閃光が走り、深蒼に染まった髪の透き通る肌で所々に鱗のような模様がある女性の身体を貫いた。すると身体は結晶化して脆くも崩れ去った。

レイナは不意に身体の力が抜け、膝を付く。

「なんだか身体が重い…」

そして、女神は顕現して倒れようとするレイナの身体を受け止めた。

「大精霊ミリアリスの置き土産」

女神アルティミウスはレイナの握る杖に視線を向ける。

「でも力の使い方は分かってもすぐには制御は無理ようね」




リーシュは扉の中に入って、その奥にあったスピリチュアルらしき物を破壊した後、身体に傷痕が刻まれた少年と対峙していた。

「こんなの聞いてないっすよ」

身体に複数の傷痕が刻まれた少年は両手をリーシュに向けて翳すと掌から突風が放たれ、リーシュは自らの前に腕を翳し身構えたが後ろへと吹き飛ばされた。

「…なんて力っすか…」

リーシュは立ち上がると身体の複数の箇所に鋭利な刃物で切り付けられたような傷が浮かび上がった。

「この傷、全く痛みを感じない」

リーシュは身体に現れた傷を見て、そう思っていると傷痕が刻まれた少年はまた同じように手を構えた。
今度はリーシュの周囲に風が渦巻くように舞うとリーシュの手首、足首、首に巻き付き、リーシュの自由を奪った。

「このぉ、動けない」

リーシュは動こうと藻掻いたが微かに動く程度でそれ以上は動けなかった。

「このままじゃ、やばい…」

リーシュの頭の中に声が響いた。

「君に力を能えてあげるよ」

すると自由を奪っていた風は消え去り、リーシュの身体から輝く息吹が溢れ出た。

「これは…」

リーシュの頭の中に文字が浮かんだ。

「聖痕の刻まれし虚空の風よ、大地の息吹と合わさりて彼方の者を滅せよ…」

すると傷痕が刻まれた少年を中心に淡い翠の光が集まっていく。

「…オメガ・ブラスト」

傷痕が刻まれた少年の中心に黒く小さな球体のような虚空が現れ、そこへ風が吹き込んだ。そして、周囲の空間ごと傷痕が刻まれた少年を虚空の中に飲み込むと虚空は消え去った。

「今のは何っすか…」

リーシュは驚きの余り思わず口にした。するとその疑問に答えるかのように頭の中に真理が流れ込み、理解した。

「…オーブに封じられた大精霊が俺の中に遺した力っすか…」



リーシュがスピリチュアルを破壊した頃と同じくフェイもスピリチュアルを破壊し、両手の甲に紅球が埋め込まれた朱く燃える髪の男と対峙していた。

「こいつを倒して初めて破壊した事になるのか…?」

フェイがエレメンタルブレードを構えると朱く燃える髪の男は両手の掌に炎の球を作り出した。そして、朱く燃える髪の男は次々と炎の球を作り、フェイに向けて連続して放つ。

フェイはそれをエレメンタルブレードで防ぎながら躱していく。

『一つ一つはたいした事はないけど数が多い…』

そう思っていると後ろから炎の球が飛んで来てフェイの背中に直撃した。
その隙に乗じて朱く燃える髪の男は集中的に炎の球を放ち、火柱を作り上げる。

「真炎斬」

火柱を断ち切るように飛び出した刃は朱く燃える髪の男に襲い掛かる。だが男はその刃に対して両手を翳した。すると手の甲に埋め込まれている紅球が輝き、向かってくる刃を消し去った。

「どうして…」

フェイは試しにもう一度、真炎斬を放つ。だがさっきと同じように攻撃は跡形もなく消された。

『まただ』

フェイはそう思い考えていると朱く燃える髪の男の甲にある紅球から炎が噴き出し、男の全身を覆った。そして、フェイに向かって突っ込んできた。

フェイは炎を身に纏い突っ込んでくる朱く燃える髪の男へとエレメンタルブレードを振り下ろした。すると朱く燃える髪の男はフェイを透り抜けるように過ぎ去った。

「うわっ…」

フェイの身体は燃え上がり、全身を包み込む。

「より強き炎にて、彼者を撃ち破れ」

フェイの頭の中に声が響き、身を包む炎の熱さを感じなくなった。そして、頭の中に文字が浮かび上がる。

「暗黒より深き闇灼の焔、光輝より白き光灼の焔、相見えて力と成せ…」

纏っていた炎が黒へと変わり、エレメンタルブレードが白く輝くと黒い炎はエレメンタルブレードへと移った。

フェイは後ろにいる朱く燃える髪の男に立ち直り、エレメンタルブレードを下向きに構えた。

「…炎燼滅」

エレメンタルブレードを振り上げると黒い炎が消え、朱く燃える髪の男は一瞬で灰となった。そして、灰は光の粒子となりエレメンタルブレードに吸収された。

「今の力…」

エレメンタルブレードの輝きは消え、フェイの手は小刻みに震えていた。

「グレネリスの…」

手に握るエレメンタルブレードは手から滑り落ち、フェイは気を失う。すると何者かがエレメンタルブレードを掴み、フェイの身体をそっと受け止めた。



全ての世界にある光の樹は消え、樹に吸収された人々は元通りに戻った。
そして、何処からともなく障気が現れて世界を徐々に覆っていく。

「アルティミウス…」

女神アルティミウスの心の中に声が響いた。

「神王アポリシス」

「…何故、邪魔をする?滅びは語られた史実」

滅びの年代記ノア・クロニクルは幾千にも紡ぐ運命の一つに過ぎません」

「そう思うのならば、ノア・クロニクルに刻まれている短く儚い運命を君に贈ろう」

女神アルティミウスの身体はレイナから完全に別離し、曖昧なものから限りある命を持つ人の為りへとなった。

「地を這い、己が信じる運命とやらを進むのだな…」

地面に横たわっている少年と少女の身体が宙に浮かび上がり、それぞれ小さな宝石となってどこかへ消えた。

それ以後神王アポリシスの声は聞こえなくなった。

『何故、あの子達を連れて行ったの?』

女神は考え込んでいるとレイナが目を覚ました。

「私…」

「力を使い過ぎて倒れたのよ」

レイナは女神アルティミウスの方を見て、すぐに変化に気付いた。

「その姿」

「理由あって女神としての存在を失ったの…それより新たな問題が発生したわ」

「なんですか?」

「世界を障気が発生し獣達が狂暴化しています」

レイナは不安そうな顔をするとアルティミウスはそれを察して言った。

「大丈夫、幸い、生き残っている人が住まう所にはまだ障気はいません」

レイナはその言葉に安堵の表情をした。

「フェイとリーシュは?」

「まだ戻ってきていませんが、暴走が止まったということはスピリチュアルを破壊し、それに封じられていた大精霊を無事に倒したということでしょう」

「そうですか…」

「大丈夫、すぐに戻りますよ」

アルティミウスの言葉通り、リーシュがレイジェンティアへ戻って来た。

「水だらけっすね」

水浸しになっているレイジェンティアの見渡して言った。

「どうなったんすか」

「無事、暴走は止まったみたいなんだけど…」

「詳しい話は皆さんが揃ってから」

そこへフェイを背負って両目に眼帯をした見知らぬ男が現れた。

「フェイ!」

「心配はいらぬ、気絶しているだけだ」

男は抑揚のない声で言うと駆け寄るレイナとリーシュにフェイを引き渡した。

「アヴァロン、何故、貴方がここへ」

「選ばれし者に託宣を告げに来た」

「託宣?それはアポリシスに言われて来たということ?」

アルティミウスは少し警戒したような声で言った。

「それは違う、アポリシスに異を唱える者は君だけではないということだ」

フェイが目を覚ました。

「あれ?俺いつの間に、ここに…」

『これで役者が揃ったな』

アヴァロンはそう思うと両目の眼帯を外しエレメンタルブレードの刃に自分の姿が写るように構えた。

「無限の知識に集積せし存在よ」

アヴァロンは瞼を開いた。

「解放せよ」

開いた瞼の下にはあるはずの瞳はなく、そこには吸い込まれそうな程の深い闇が存在した。
その眼の闇から何かがエレメンタルブレードの刃に移り、アヴァロンは瞼を閉じて眼帯を戻した。
そして、エレメンタルブレードをレイジェンティアの床に突き刺した。するとエレメンタルブレードに突き刺された箇所からレイジェンティアの様式が内部は大量の本が納められた天高い棚が並ぶ場所へと変わった。

「君達、三人に世界の真実を教える」

アヴァロンは瞼を閉じて言った。

「何をいきなりわけの分からない事を」

「あんたは誰なんっすか?」

「私のことなどどうでもいい事だ」

アヴァロンはそういうとエレメンタルブレードフェイに投げ渡して問う。

「19586256850486、何の数字か解るか?」

「1958……そんなの分かるわけないじゃないか」

「世界が滅びた回数だ」

「えっ…」

「一体どういう事っすか…」

「滅びた世界から抜けた魂は永遠に輪廻し、特定の器に惹かれるとその器に納まる。そして、世界は再生する、それを幾数年の時、繰り返されてきたということだ」

「そんな…信じられない」

「事実ですよ…」

血だらけのクレイルが片足を引きずりながら現れた。

「クレイル!」

「今、治療を…」

「いえ、大丈夫、見た目ほど酷くありませんから」

クレイルは少し引き攣った笑顔でレイナに言うとアヴァロンの方を見た。

「それよりどうして鍵がここに」

「私を一目見てよく分かったな」

「それは此処が無限の英知を与える場所、無限書庫インフィニティ・アーカイブだと分かりましたから」

「誰しもその英知に触れられる訳ではないだがな」

「では此処に入れた私はその資格はあるのですか?」

「ない、だが…」

「分かっています、自分の事ですから…」

そう言うとクレイルはフェイ達の方を見た。

「皆さん…聞いて下さい、彼の語る事柄は全て真実です、ですから彼の言うことにしたがって下さい」

「分かったよ」

フェイはクレイルの真剣な瞳を見て返事をしリーシュとレイナは頷いた。

「私は少々、力を使い過ぎたので此処から出て少し休みます」

「私が外まで送りましょう」

アルティミウスはクレイルの身体を支え歩いて行くとフェイは言った。

「また後で」

「ええ」

クレイルは振り返り笑顔でいうと二人の姿は消えた。

「では話を続けよう」

アヴァロンは見送ると中断していた話を続ける。



「もう此処でいいですよ…」

アルティミウスは支えていた手を放すとクレイルは崩れるように倒れ、仰向けに横たわった。そして、アルティミウスは何も言わず、仰向きに横たわるクレイルの頭を太腿に乗せ言った。

「無茶をしましたね」

「やはりこの魂には逆らえないという事でしょう…」

「そんなことはありません」

「そうかもしれません…前はこのような最期を迎えてはしていませんでしたから、少しは魂に抗えたのかもしれませんね…」

「はい…」

「…これでようやく……」

クレイルは静かな眠りに就くと肉体から魂が抜け出て、天へと消えて行った。
そして、アルティミウスは一粒の涙を流した。



~無限書庫~

「それで聞きたいことは?」

「結局の所、ノア・クロニクルって何なんですか?それに神を倒すって…」

「うむ、私が説明するよりこの場所に聞く方が早いだろう」

上から水晶が降りて来てフェイ達の目の高さ位で止まった。

「ノア・クロニクルに関する記述を開示」

「ノア・クロニクルに関する記述を持つ書籍の該当件数は3024件です」

水晶から事務的な声が聞こえた。

「最も古い記述を」

「最古の記述を読み上げます…私は滅びの年代記ノア・クロニクルという名のものを発見した。

私はその内容に驚愕した。

何故ならそこには有史以前から未来に至るまでの歴史があった。

……私はノア・クロニクルを手に入れてからはや三年経つ、記された全ての事柄は寸分の狂いもなく起きていき、私の精神は少しづつ侵されていくのを感じたが…時は既に遅かった…これはその者の内に眠るものを引き出し現実変えるのだと死の淵に立ち、私はそれ気付いた。

そして、私は最期の力を振り絞り、ノア・クロニクルを葬ることにした。

…以上が所有者不明の手帖に書かれた、最古のノア・クロニクルの記述です」

「…更に分からなくなったっすよ」

「ノア・クロニクルの説明に関する記述を抽出し校正」

「ノア・クロニクルは滅びの年代記と呼ばれ、幾万も繰り返される歴史の中に登場しては文明が消えるともに消え去る神出鬼没の代物。
その実態は使用者の精神を蝕み滅びの連鎖を招き、破滅の輪舞の中へ全ての生命を巻き込むものである」

「そんなものを持つこの世界の創造主っていうのを倒せって、そんなこと…」

「出来なければまた滅び、歴史の再生が始まるだけだ」

「なんで自分で変えようとしないんっすか?」

「軽く言ってくれるな…再生の時に記憶は全て消えて失くなるお前達には分かるまい、変えようにも変えられない、何度も同じ歴史が繰り返される苦しみはなど」

アヴァロンは抑揚もない声に少し憤りが入り交じる。

「今しているこの会話は前にも此処で同じ事を話したということですか?」

「いや…今回は違う、歴史に歪みができ、ノア・クロニクルの影響に変化が現れた…お前の存在によってな」

アヴァロンはフェイの方を向いて言った。

「書簡0番の記述を」

「…幾多の輪廻を繰り返すことにより産まれる白き輝く魂、ノア・クロニクルの持つ滅びの連鎖を断ち切る…」

「それがどうして俺だと」

「繰り返される歴史に存在しなかった者、それ故に全ての事柄にも齟齬が生まれた」

「齟齬?」

「それはヴァルキリアという者の存在」

「じゃあ、あいつが言っていた事は嘘じゃなかったってことか…」

フェイはヴァルキリアの事を思い出して言った。

「だが、グルベリに記憶と精神を弄られてしまい…」

「俺はあいつの居場所を奪った…」

フェイの表情が暗くなった。

「だとしてもそれは過ぎた歴史の事っすよ」

「今此処にいる私達はフェイの幼いときから一緒に過ごした親友よ」

「それにフェイにそんな顔は似合わないっすよ」

「ああ…そうだな!」

フェイは暗い表情から自信に満ちた表情に変わった。

「もう迷わない、神だろうと滅びだろうと断ち切る」

アヴァロンの方を見て言い切った。

「では、精々その覚悟見せてもらおうか」

何処からか声が聞こえた。

無限書庫の水晶に亀裂が入り、無限書庫の上方にある空間が硝子が割れるように音を立てて砕け散った。
そして、四人の顔を隠した者達と後光を携えた黒い龍の顔の被り物で顔を隠した人物、神王アポリシスが現れた。



~無限書庫~

「滅べ、ノア・クロニクルに逆らう者達よ」

その言葉に神王アポリシスと一緒に現れた四人が無限書庫の床に穏やかに降り立った。
するとレイナ、リーシュ、アヴァロンと姿が突然一人づつ消えて行き、それと一緒に降り立った四人の姿も消えていた。

「みんなに何をした」

「一人じゃ何も出来ないのか」

「そんなことない、俺は仲間が心配だけだ」

「直に分かる、それより自分の身を案じることだな」

神王アポリシスは片手を胸の高さくらいまで上げて、掌を上向きにした。

「アルマデル・グリモア」

掌の上に血のような色の赤張りの本が現れた。

フェイは血のような色の赤張りの本に嫌な気配を感じ、エレメンタルブレードを構えた。

「デモニアック・ウルフ」

神王アポリシスがそう言うとフェイを囲むように複数の狼と鬼を合わせたような二足歩行の怪物が現れた。
そして、デモニアック・ウルフはフェイに一斉に襲い掛かる。

フェイはエレメンタルブレードの柄を強く握り締め、襲い掛かってくるデモニアック・ウルフを次々と一刀のもと斬り伏せていく。

「この程度は軽く倒してもらわねばな、レイシックドラゴン」

フェイがデモニアック・ウルフを倒し終えると黒い鋼の鱗の鎧で固めた大きな龍が現れた。
フェイはデモニアック・ウルフを倒した勢いのままレイシックドラゴンへと攻撃したが硬い鱗に阻まれてエレメンタルブレードの刃は弾かれた。

「くっ…硬い、なら…」

エレメンタルブレードが白く輝く。

「真炎斬」

エレメンタルブレードを振り降ろすと刃が放たれ、レイシックドラゴンの首を切り落とした。

「ただ召喚するだけしか、出来ないのか?」

「レイシックドラゴンは不死身だ」

神王アポりシスがそう言うとレイシックドラゴンは自らの落ちた首を拾いあげ、切り口に合わせた。すると傷が見る見るうちに繋がり、フェイに向かって火球を吐いた。

フェイはエレメンタルブレードで炎を切り裂くと口先に粒子状の光が集めるレイシックドラゴンがおり、その粒子状の光は一つの白い輪を作り上げる。

そして、光の輪の中心に光が一瞬で集束し、閃光がフェイに放たれた。

フェイはすかさず放たれた閃光を躱した。すると閃光は無限書庫の棚に当たり、燃え上がった。

「蔵書保安の為、空間隔離を行います」

無限書庫の本が次々と消えて行った。そして、炎は棚を焼き、無限書庫全体へと燃え広がっていく。

『不死身でも何か弱点があるはず…首を落としても再生するなら…』

燃え盛る炎の中、フェイは考えをまとめる。
「暗黒より深き闇灼の焔、光輝より白き光灼の焔、相見えて力と成せ…」

周囲で燃える炎の色が黒色へと変わり、エレメンタルブレードの刃が白く輝いた。すると黒い炎はエレメンタルブレードへ吸い寄せられるように集まる。

フェイは黒い炎を刃に纏うエレメンタルブレードを下向きに構えた。

「…炎燼滅」

そして、エレメンタルブレードを振り上げる。
黒い炎が消え、レイシックドラゴンは一瞬で灰となり、灰は光の粒子となりエレメンタルブレードに吸収された。

「さて、そろそろか…」

「何がそろそろなんだ」

「キュービックミラージュ」

フェイとアポリシスの個々の身体を囲むように立方体が現れ、その空間を切り取ると二人を無限書庫から別の空間に飛ばした。



~黄昏の方舟~

全てを朱く染めるような空と朱を飲み込もうとする闇の空が交わる黄昏の世界。

フェイの前には十字架に張り付けにされたリーシュ、レイナ、アヴァロン、アルティミウスが居り、その前には皆と消えた白面で顔を隠した四人が身の丈ほどのグングニルと同じ形状の槍を持ち立っていた。

「リーシュ、レイナ!」

フェイは名前を叫んだが反応はなかった。

「大人しく滅びの運命を受け入れるならば滅びまでの刹那の時を自由にさせてやろう、拒むというならばこの場で仲間の死をその目に焼き付け滅びの時まで苦しみながら待つのだな……さぁ、どちらを選ぶ?」

『………滅びの運命を受け入れた振りをして反撃の機会を待てば助けることが…』

フェイはそう思っていると十字架の前に立つ、四人は張り付けにされているリーシュ、レイナ、アヴァロン、アルティミウスの胸に槍を突き刺した。

「やめろ!」

「良からぬ考えを巡らせるから仲間は死んだ」

「そんな…………」

フェイは膝を突き、放心状態で地面の一点を見つめる。

突然、黄昏の方舟、内部に扉が現れ、重々しい音を立てて開いた。

「そんな幻に騙されちゃ駄目っす」

その言葉と共に開いた扉から矢が飛んで来て、十字架に張り付けにされた四人を貫いた。
それと同時に開いた扉から結晶状の槍が神王アポリシスに向かって放たれると神王アポリシスは結晶状の槍を触れる事なく粉砕した。

「ナンバーズを倒したか」

十字架に張り付けにされた四人は消え、その前にいた白面で顔を隠した者達、ナンバーズの幻影も消え去った。そして、開いた扉からリーシュ、レイナ、アヴァロン、アルティミウスが現れ、リーシュとレイナはフェイに駆け寄った。

「フェイ!」

二人は名前を呼ぶがフェイは意識無く地面を見つめている。

「神王アポリシス、何をした」

アヴァロンは神王アポりシスに向かって怒りの感情を露にする。

「随分と人間らしいな、アヴァロン」

アヴァロンは無言でただ神王アポりシスを閉じた目で睨む。

「それはいいとして…お前達はその少年がノア・クロニクルも予期せぬ存在だと思っているようだが、初めからノア・クロニクルに記されている…真の滅びを齎す者として、見るがいいこれから始まる再生無き終焉を…」

神王アポリシスの持つ血のような色の赤張りの本が黒い革張りに変わった。
黒い革張りの本の頁が開き、本は黒い球体に包まれた。すると黒い球体から複数の黒い手が伸び、神王アポリシスを黒い球体が飲み込んだ。そして、リーシュとレイナ達にもその黒い手を伸ばし、二人の身体を掴んだ。

二人は抵抗するが少しずつ引きづられていく。

「ダーク・ブレイズ」

アヴァロンは二人を掴む黒い手に黒い刃を放った。だがダーク・ブレイズはそのまま黒い手に吸収されるように飲み込まれた。

「エターナル・ライトニング」

アルティミウスは雷を纏う光の剣を出し、二人を掴む黒い手に近付き、頭上から黒い手を目掛けて振り下ろした。
だが、同じくエターナル・ライトニングも黒い手に吸収されるように飲み込まれた。

黒い球体は反撃するかのようにアヴァロンとアルティミウスにも黒い手を伸ばした。
二人は咄嗟に躱したが黒い手はその動きすら予期していたかのように方向を変え、二人の身体を掴んだ。

黒い球体はリーシュ、レイナ、アヴァロン、アルティミウスの四人を宙に引っ張りあげる。すると突然、四人の身体を掴んでいた黒い手の腕の部分から切れ、四人は地面へと落ちた。

「何故だ、心は絶望の闇へと堕ちたはず」

黒い球体から神王アポリシスの声が響いた。そして、黒い球体の前には髪が銀色に染まったフェイの姿があった。

「心の闇と光は表裏一体、どちらかだけが消えることはない」

発せられた声はいつものフェイの声色とは違い、透き通るような大人びた声色だった。

「ならば共に滅びの道を…」

黒い球体は形状を変え、幾つもの生物が混ざったまがまがしい巨大な怪物に姿を変えた。

「自らの姿を捨て、滅びの輪廻が動き出したか」

「これは…なに…」

「ぐぅわぁぁぁあ…」

まがまがしい巨大な怪物は雄叫びをあげた。

「もう意識もノア・クロニクルにのまれたようね」



~黄昏の方舟~

「皆さん、力を貸して下さい」

「改まってどうっ……」

リーシュとレイナは変化したフェイの姿を見て驚いた。

「…その…」

「その姿、どうしたの?」

「今は説明している暇はありません、貴方達四人でノア・クロニクルの表層を覆っている輪廻を排除して下さい。私は真光の鍵エレメンタルブレードに力を注ぎ、ノア・クロニクルを討ちます」

四人は納得する間もなく、ノア・クロニクルの覆っている輪廻が動き出した。

輪廻の中央に麗しい女性が中から上半身だけ浮き出るように現れて美声を響かせた。

「耳を塞げ!」

リーシュとレイナはアヴァロンがいう通りに耳を塞ぐとアルティミウスは現れた麗しい女性に素早く近付き、喉元を何かで切り裂いた。

麗しい女性はのけ反るように倒れ、そのまま輪廻に沈み込んだ。

リーシュとレイナは塞いだ耳から手を下ろした。

「何なんっすか」

「セイレーンの歌声、滅びの序曲にはお似合いね、次は何が来るのかしら」

アルティミウスが不謹慎でありながらも少し笑みを見せているとレイナが皆に向かって言う。

「次が来ます」

輪廻から右半分に出ている三つ又の蛇ケリュケイオンが別種の鳴き声を同時にあげた。
すると赤い月の瞳と逆立つような鱗を持つ白い大蛇が現れた。

「次はバジリスクか…有名処が次々と対処がわかりやすい」

アヴァロンは術式を唱えた。

「白刃の霧よ、彼者を取り巻け…ミラーブレイク」

バジリスクの頭上に鏡が現れ、粉々に砕けた。

「これならばバジリスクの瞳の効果を無効化できる」

バジリスクは鏡の粒子を振り払おうと鱗を震わせた。

「さあ、その矢で瞳を狙って」

アルティミウスはリーシュに向かって言った。

「えっ、あっ分かったっす」

リーシュはボーガンを構え、バジリスクの両の眼に狙いを定め、矢を連続で放った。

放たれた矢はバジリスクの瞳を掠めるように抜け、瞳を切り裂くとバジリスクは叫び声をあげてのたうちまわる。

それを余所にケリュケイオンがまた鳴き声をあげる。すると周囲に土埃が発生し、フェイ達を覆い隠した。

「ケリュケイオンをまずは何とかしなければいけない」

「それなら私にまかせて」

レイナはそう言うと呪文を唱える。

「蒼弓より出し、水の息吹よ、我が前に立ち開かる全ての者を斥けよ…」

レイナの身体から水球のような光が溢れ、杖へと集まっていく。

「…ブルーミスト」

そして、杖からやらかな蒼い光が広がり、土埃を徐々に消し去っていくと額に眼のあるバジリスクの姿を現した。

「(…あれはアルバジリスク)見るな!」

アヴァロンが全員に呼び掛けるが間に合わず、リーシュが石へと変わった。

「遅かったか…」

「リーシュ!」

レイナは目を伏せて輪廻に向かって杖を構え、氷結の呪文を唱え始めた。

「深蒼より深き蒼、揺蕩う水の息吹よ、我が前に立ち開かる全ての者を斥けよ…」

そして、唱える毎にレイナの身体から水球のような光が溢れ、杖へと集まると力を発動させる。

「…ラムダ・クリスタル!」

すると杖からケリュケイオンに向かって蒼い閃光が走った。
ケリュケイオンは叫び声をあげると身体は結晶化して脆くも崩れ去った。

召喚したケリュケイオンが消えたことにより、アルバジリスクは石へと変わった。

今度は輪廻の左半分から出ている大きな鬼の顔が動き出した。
鬼は輪廻の表面でうごめく複数の怪物を取り込み、身体を作り上げると輪廻から離れてフェイ達の前に立ちはだかった。

「ようやく俺様、デュナス様の出番か」

「お喋りなグリムデーモンが出て来たものだな」

「久し振りの対面になるか、アイズ・オブ・ダークネス」

「死葬のデュナスだったか?」

「お前を倒すために滅びゆく者達の力を借りて戻って来た」

「知り合い?」

「昔の友…いや、ただの死念の塊だ…」

「そう…でもあのグリムデーモンで最後のようね」

ノア・クロニクルが纏う輪廻が少なくなっていた。

「あれは私が相手する、貴方はそこの者と石化の解呪を施すといい」

アヴァロンはアルティミウスに向かって言った。

「分かりましたわ」

アルティミウスは石化したリーシュを見た。

「リーシュ…どうしたら元に」

「レイナ、力を貸すわ」

「お願いします」

「始めよう…」

デュナスがそう言うとデュナスの身体は見る見るうちに縮んでいき、身体はアヴァロンと同じくらいの大きさへとなった。

「そうだな…」

アヴァロンは虚空の瞳を開いた。

「鳴懴剣」

デュナスは天に向けて右手を挙げるとデュナスの右手に身の丈の何十倍もある巨大な剣が現れた。

デュナスは鳴懴剣を握りしめるとアヴァロンに向けて振り下ろした。

アヴァロンは振り下ろされた鳴懴剣に対して掌に黒い弾球を作り放った。

黒い弾球は鳴懴剣の刃に当たると一旦、膨張した後、すぐに収縮して触れた物質を全て消し去った。

すると鳴懴剣の巨大な切っ先はフェイの背後に突き刺さった。

「少しは静かにやってはくれないか、力を籠めるのに気が散る」

フェイは白く淡い光を放つエレメンタルブレードを握りながら言った。

「それは済まなかったな」

「そいつでノア・クロニクルを破壊するつもりか…」

デュナスは輪廻に左手を翳すと輪廻が収縮しながらデュナスの左手に近付いていき、掌へと吸収された。

「これで何をしようとも無駄だ」

「器ごとノア・クロニクルを破壊すればいいだけのこと」

「出来るものならやってみるがいい」

「ならばその身で受けろ」

フェイは飛び上がりエレメンタルブレードを頭上に振り上げた。するとエレメンタルブレードの刃の周囲に光の粒が現れて刃へと集まっていく。

「白閃一光」

エレメンタルブレードの刃が白金のように輝く。
フェイは落下する勢いのまま、デュナスに向けてエレメンタルブレードを振り下ろした。

振り下ろされた刃はデュナスの頭上で止まり、衝撃波が広がった。

「通らない!?」

フェイは力を籠めて刃を押し込めた。だが、エレメンタルブレードから亀裂が入るような音が聞こえた。

「なんだ今の…」

突然、エレメンタルブレードから白金の輝きが消え、刃がバラバラに砕けた。

「なぜ…」

「古びた鍵で葬ることなど無理なのだよ」

デュナスはフェイの頭を掴み、アヴァロンの方に向けて投げ飛ばした。

投げ飛ばされたフェイはアヴァロンとぶつかり、二人は地面に身体を打ち付けながら転がっていく。

「さあ、次はお前達だ」

デュナスはレイナ、アルティミウスを見て言った。そして、その傍らには石化の解けたリーシュが横たわっていた。



レイナはすぐさま杖を構え、デュナスに対して呪文を唱える。

「…深蒼より深き蒼、揺蕩う水の息吹よ、我が前に立ち開かる全ての者を斥けよ…ラムダ・クリスタル!」

杖からデュナスに向かって蒼い閃光が走ると閃光はデュナスの目前で何かに弾かれてレイナの元へと戻ってきた。

レイナは何も出来ずにいるとアルティミウスがレイナの前に立ち、蒼い閃光を身体で受け止めた。

「くっ……」

「そんな…」

アルティミウスの身体は足元から徐々に結晶化していく。

「まだ…貴方達を失うわけにはいかないのよ…」

結晶化は頭の先まで達し、結晶と化したアルティミウスの身体は粉々に崩れ去った。

「私のせいで…」

「無駄な攻撃だったな、古びた鍵とて破壊するノア・クロニクルの力にそんな攻撃が効くと思っ……」

突然、デュナスの口に止まった。

「うぅ……」

デュナスは身体を抱えて苦しみ出した。

「フェイ」

「漸く到達したか」

フェイは刀身のないエレメンタルブレードを苦しむデュナスに向けた。

「お前…何をした…」

するとデュナスに向けたエレメンタルブレードから刀身がデュナスの胸を貫くように現れた。

「ノア・クロニクルの闇の奥底の潜む光に届くまで時間が掛かっただけだ」

「ノア…クロニクルに光だと…?」

「どんなものにも互いに相反するものが固有の中に存在する」

「相入れない者が一つになることなどない、個体となる器に潜む光に呼応したに過ぎない…我は破滅を導く、闇の書物なり」

デュナスの内から声が聞こえ、デュナスの身体は砂となり、黒い装丁、黒い頁、全てが黒い書物があらわになった。

「ノア・クロニクル」

「器から出てこい、シャイニング・ハート」

「断る」

「ならば…」

ノア・クロニクルは消え、床に横たわるリーシュの傍に現れた。そして、ノア・クロニクルは黒い煙となり、リーシュの口から中へ入った。するとリーシュは起き上がり、ボーガンの鏃をすぐ傍にいたレイナの首元に宛がった。

「リーシュ、何の…」

「喋るな女」

「そこまでして貴方は何がしたい」

「お前を消し去り、新たな破滅への始まりを」

「貴方は下がっていてください」

独り言のように呟くとフェイの姿と声色が元通りに戻る。

「弱き器が何用だ」

「リーシュの中から出ていけ!」

「特異点がこの私に命令か、ではその剣で切り伏せるがいい」

フェイはエレメンタルブレードを構え、ノア・クロニクルに向かっていく。

「クロニクル、四十四章、破滅の剣 ヘテロジニアス」

ノア・クロニクルがそう言うと手に黒い艶やかな鞘に納まった刀が現れた。そこへフェイがエレメンタルブレードを頭上から振り下ろした。
ノア・クロニクルはレイナを突き飛ばし、直ぐさま鞘に納まったままのヘテロジニアスで受け止めると鞘は砕け散り、妖気を放つ刀身があらわになった。

「なんだ…この嫌な感じ」

「ヘテロジニアス、エレメンタルブレードとは相対にあるものだ」

ノア・クロニクルはエレメンタルブレードをヘテロジニアスで払うように押し退けた。
するとエレメンタルブレードがフェイの手から放れてしまい、宙を舞ってフェイの後方の床に突き刺さった。

「これでも出てこないというなら…」

ノア・クロニクルはヘテロジニアスをどこかへ向けて振り放す。

放たれたヘテロジニアスはレイナの胸に突き刺さる。

「えっ…」

「レイナ!」

「問題ない、今はな」

ノア・クロニクルはそう言うとヘテロジニアスが突き刺さるレイナに近付き、ヘテロジニアスを引き抜いた。

「レイナに何をした!」

「フェイ、大丈夫何ともないからリーシュを早く」

「…分かった」

フェイは突き刺さったエレメンタルブレードを引き抜いた。

「うぉぉぉぉ……くらえぇ!」

フェイはエレメンタルブレードを精一杯の力を込めて虚空を斬った。すると刃から六色の光が現れ、ノア・クロニクルを貫いた。

その光によってリーシュの身体はノア・クロニクルから解放された。

「精霊解放…」

そして、リーシュは倒れ、宙には六色の光に囲まれた闇があった。

「…まさか、特異点が剣を解放することが出来るとはな…」

フェイの胸から白い光が勢いよく飛び出し、六色の光に囲まれた闇に直撃する。

その瞬間、辺りは激しい光に包まれた。



「もうこれで終わりにしましょう、ノア・クロニクル、いえ、もう一人の私…」

「そうか…私は……これでもう繰り返される破滅の輪廻が…終わりを迎えることが出来るのか…」

光は闇と共に消え去った。



「終わった…リーシュ!」

フェイは地に伏しているリーシュに駆け寄った。

「…あれ…フェイ?…何がどう…」

突然、大地が揺らぎ、黄昏の方舟内に雷撃が飛び交った。するとレイナが叫び声を上げた。

レイナの胸に黒い浸みが現れ、何にもない空間からレイナを拘束するかのように幾つもの布を裂いたような紐がレイナの身体中に巻き付いた。

「何が…」

『ようやく繋がったが…遅かったようだな』

フェイの頭の中にルナの声が聞こえた。

『支えを失った世界は崩壊する、それを防ぐ為、方舟がよりしろを定めた』

「どうやったらレイナを」

『今、黄昏の方舟が消えるということは世界が無に帰すことと同義、だが特異点なら方舟のみを消すことが可能…』

「それじゃ…」

フェイは地面に転がっているヘテロジニアスが目についた。

「これを使えば…」

ヘテロジニアスを拾いあげた。

「リーシュ、後は頼むよ」

「えっ?なにいって」

フェイはヘテロジニアスを強くにぎりしめ、レイナを拘束している紐を切り落とした。

フェイは直ぐさまレイナの身体を掴み、リーシュに向けて投げ放った。そして、リーシュがレイナを受け止めるとフェイは自らの胸にヘテロジニアスを突き刺した。

「うわぁぁあ~」

紐は切り口から伸びて、今度はフェイの身体に巻き付いた。

「フェイ!!」

リーシュとレイナの身体が消え、強制的に黄昏の方舟から追い出された。

「これで終わり…レイナ、リーシュ…約束守れなくてごめん…」

空間が崩壊していき、強い閃光と共に消えた………。

リーシュとレイナはサウザンド・エンプレスのある最初の花畑に居た。

「良かった、お前ら無事…でもないようだな、だが今は落ち込んでいる猶予はない」

花畑が消え、雷鳴のような音が轟いた。

「早く船に」

リーシュはグラハムの言う通り、レイナを抱えてサウザンド・エンプレスに移動した。

「此処から離れる、出航準備」

「ちょっと待って、フェイがまだ」

「残念だが、彼はもういない」

声の方にはルナが居た。

「世界が存続と引き換えに命を賭けて破滅に誘う方舟、黄昏の方舟を破壊した」

「そんな…」

「じきに時空の神殿も崩壊する、早く脱出した方がいい」

船の準備は整い、グラハムはすぐさま船を出発させた。

「全速力で脱出だ」

閉まっていたグングニルの扉が開き、サウザンド・エンプレスは物凄い速さで扉を抜けた。

その後すぐグングニルの螺旋の間隔が広がり、光の柱に包まれて消えた。

そして、各世界にあった光の樹も消え、解放された人々は何事もなかったかのように元の通りに戻った。

「ここは何処っす…それに俺は何を…」

サウザンド・エンプレスは森の中に不時着していた。

「不調和な記憶は消え去り、全ての者は平穏な世界に生きる…」

ルナは不時着したサウザンド・エンプレスを眺めながら呟き、姿を消した。
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