やり直しの神子は長生きしたい

kozzy

文字の大きさ
4 / 138

長いプロローグ ④

しおりを挟む
さて、こうして婚約者を得たウルリッヒ様だが、大好きな第一王子と婚約したことで彼は夢のような毎日を送るかと思いきや…ますます辛い日々を強いられることになる。

何故なら…苛烈なる王妃の怒りがさく裂したのだ。
と言っても相手は〝再生の力”をもつ唯一無二。世間の姑みたいな嫁イビリをするはずがない。
王妃様は〝癒しの神子”を逆手に取ったのだ。

その入れ知恵をしたのは婚約者の第一王子と背後にいるエマニエル。

「母上。今代神子はあまりに暴虐無人。清らかで従順な神子へと替えることはできないのでしょうか」
「無理よ。神子は必ず時代に一人、二人は存在しない。ウルリッヒが居る限り替えはないの」
「…ウルリッヒが居る限り…ですか」
「何を考えているの…無駄よ。神子は紋様が浮かんだ瞬間から自己再生によってその身を守られる、傷一つ付けられないわ」
「母上、ではこんなのはいかがでしょうか。少々お耳を」

というやりとりがなされたかどうかはさておき、彼らはウルリッヒ様が王子に首ったけなのをいいことに、神官長の目を盗んでは「これは断れない筋からの依頼だから内密に」と〝再生の力”を次から次へと無駄に使わせた。

〝再生の力”は有限。その源は神子の生命力。だからこそ神官長は力の行使を管理するのだ。

つまり彼らのその〝内密なお願い”はウルリッヒ様の寿命を縮めるも同然の行為。これはある種の暗殺未遂。
つまり王子とその恋人、そして話を持ち掛けられた王妃は、「さっさと生命力の枯渇を起こして、婚姻可能な十六歳となる前に次の神子に挿げ替えれば良い」そう結論付けたのだ。

彼らにとって〝癒しの神子”など道具も同じ。不具合があれば取り換えればいい。なんと残酷で冷徹なのだろう…
王家と宮廷の腐敗、僕はその時それを肌で実感した…

いくらウルリッヒ様が子供だからと言って、多すぎる王子の頼み事、それがどんな意味を持つかぐらいはさすがに気付く。
婚約後すっかりワガママなど影をひそめたウルリッヒ様は、ある時から何かを考え込むことが多くなっていた。

そして…その時はやって来たのだ。



ウルリッヒ様が十五歳になり半年も過ぎた頃、王都を襲ったのは罹れば死ぬと言われる恐ろしい伝染病。王城周辺では決して少なくはない数の人々が次々と罹患し、人々は戦々恐々としていた。

連日神殿へと運ばれる貴族たち。

「もうお断りになった方が」
「ううん。これが僕の役目だから」

だけど僕は分っていた。これは王妃と王子がこれ幸いと意図して寄越しているのだと。ウルリッヒ様十六歳の誕生日まであと半年。敵も必死だ。だって混乱に乗じて王子が寄越してくる顔ぶれのほとんどが、見たことも聞いたこともない末端貴族だ…

そうして誕生日を間近に控えたある日、ウルリッヒ様は王と王妃、第一王子を神殿へとお呼びになられた。「これが最後の対面になるでしょう。どうか別れの挨拶を」とそう仰って。

歴代の神子は在位が十数年、と言うのが平均した期間だ。つまり紋様が浮かんでから枯渇まで、神官の管理下に置いてそれくらいということ。内乱で力を乱発したマルレーン様でも八年は生きた。ウルリッヒ様は文様が浮かんでからわずか五年半、それが何を意味するか分かるだろうか…

厳重に消毒された清浄な神殿内の貴賓室。伝染病を警戒され僕は前室待機だ。
室内にいるのはウルリッヒ様とお三方のみ。テーブルにはすっかり瘦せこけたウルリッヒ様が手ずから淹れられたお茶が用意されている。

「僕が開催する最初で最後のお茶会です。どうぞ皆様」カチャリ
「ご馳走になろう」

カップを手にしながらそれぞれが口にするどこか空々しい労りの言葉。

「ウルリッヒ。婚約者としてこの結果を残念に思う」
「殿下…」
「神子ウルリッヒ。今日まで良く務めてくれました。礼を言いますよ」
「妃殿下…」
「神子よ。急な流行り病ゆえ短くはあったがご苦労であった」
「王陛下…」

そして三人の退去後、そこには空になったカップを見つめ泣き笑いをするウルリッヒ様の姿があった…



それから十日後。今ではベッドから起きることも出来ないウルリッヒ様を呼び出したのはそのお三方だ。

「ウルリッヒ様!王、王妃殿下、第一王子殿下が揃って罹患なさいました!どうか〝癒し”を施しますようお願い申し上げます」
「およし下さい!ウルリッヒ様はもう立つのもやっとなんですよ!」
「これは王命です!」

ウルリッヒ様の状態をわかっていながらなんて冷酷な!

「せめて皆さまがこちらへいらしてください!」
「下がってエミル。…今行きます。身体を清めますのでしばしお待ちを…」

人払いが済むと力無く、けれど楽しそうに笑いだすウルリッヒ様。

「無理しないでください。こんな身体のウル様に出向かせるだなんて…悪魔ですかあの人たちは!」
「怒らないでエミル。これこそが僕の望んだ最後の我儘なんだから…」
「ウル様?」
「エミルはずっと役に立ってくれたね。全ては君のおかげだよ」
「どういう意味ですか?」
「エミル、君は病に罹っているね」

ドキ!
ウルリッヒ様は気付いていらっしゃったのだ。連日運び込まれる患者によって、僕が病に伝染していることを。
けど言えなかった。言えば引き離されてしまうし…それに、ウルリッヒ様は自己再生により僕の病はうつらない。

「熱が高いでしょう?立っているのもやっとのはずだよ?ごめんね無理させて」
「いいえ…、うぅぅ…いいえ!」
「けどそのおかげで願いが叶った。勝負に勝つのはどちらが先かって思ってたけど…」
「え?」

王と王妃、そして王子の罹患、それは僕からだと言うのだ。

「僕は同席していなかったのに⁉ 」
「面会の日の早朝、君がまだ寝ているときに口から唾液をとって小瓶に隠してた。そしてカップに混ぜた。ふ、ふふ…あの三人が飲んだのは特別製のお茶だよ」
「こ…これが仕返しですか?」
「ううん。仕返しはこれだ」

言うが早いか、ぎゅぅぅっと僕を抱きしめるウルリッヒ様。身体に何か温かいものが流れてくる。こ、これは…まさか!

「ウル様いけません!そんなことしたらあなたが!」
「どうせ僕は助からない。死んでもあいつらは助けない!力はこれで最後だ!」

ああ…全ては計画的だったのだ。ウルリッヒ様はこの日を待っておられた。
彼は王妃と王子が自分を殺そうと画策していることに気付いた時から、何らかの形で王子たちが運び込まれるのを待っていたのだと言う。

「もしあいつらが救いを求めてきたら…その目の前で力を使い切ってやろうと思ってた」

ここには多くの動物が居る。神殿の中に居る犬猫だけでなく、裏庭にも多くの小動物が居る。屋外で放し飼いの動物など調べなくとも何か病気を持っているものだ。彼はそれらを全て元気にして王子の目の前で王子を救うことなく嘲笑いながら死に絶えるつもりでいたのだとか。

「けどあいつらはどんどん病人を運んでくる。王子が病気になるのが先か、僕が枯渇を起こすのが先か、いざとなったらせめて王子だけでも剣で貫いて、そう思ってたけど…、アハハハハ、エミル、君はやっぱり僕の味方だ!」

自暴自棄な笑い。なんて悲しいのだろう…

「最高の結末。ありがとうエミル。約束だよ。目が覚めたらここを出て自由に生きて。僕の代わりに」

「ウル様…うぅ…ウルリッヒさまぁ…」
「エミル…僕のたった一人の…友…だ…ち…」

神子は時代に一人。そして不在もない。けれど空白の期間は存在する。そこに居るのが当たり前すぎて、神子が居ることに慣れ過ぎて、傲慢な彼らは気付いていないけれど。

それが新しい神子に紋様が浮かび上がるまでのひと月あまり。

神様にだって都合はある。明日から「次は君!」ってわけにはいかない。
この病は発病から数週間ほどで死に至る。もう彼らは間に合わない。

何て愉快で残酷な復讐。誰より神子の力をあてにしていた王家だけが神子の恩恵を受けられない。

血の通わない王子と王妃、神子の短命を笑った王にはピッタリの…

惨めな…

最期…



しおりを挟む
感想 233

あなたにおすすめの小説

夫が運命の番と出会いました

重田いの
恋愛
幼馴染のいいなづけとして育ってきた銀狼族の族長エーリヒと、妻ローゼマリー。 だがエーリヒに運命の番が現れたことにより、二人は離別する。 しかし二年後、修道院に暮らすローゼマリーの元へエーリヒが現れ――!?

捨てられた生贄オメガ、魔王城で極上の『巣作り』始めます!~不眠症の魔王様、私のクッションで爆睡して溺愛モードに突入~

水凪しおん
BL
「役立たずのオメガ」として冷遇され、血も涙もない魔王への生贄として捨てられたリノ。 死を覚悟して連れてこられた魔王城は、寒くて硬くて、居住性最悪のブラック環境だった!? 「こんなところで寝られるか!」 極限状態で発動したオメガ特有の『巣作り本能』と、神業レベルの裁縫スキルが火を噴く! ゴミ同然の布切れをフカフカのクッションに、冷たい石床を極上のラグマットにリフォーム。 すると、不眠症で常にイライラしていた魔王ザルドリスが、リノの作った「巣」のあまりの快適さに陥落してしまい……? 「……貴様、私を堕落させる気か」 (※いいえ、ただ快適に寝たいだけです) 殺されるどころか、魔王様に気に入られ、気付けば城中がリノの虜に。 捨てられた生贄オメガが、裁縫一つで魔王城を「世界一のマイホーム」に変える、ほのぼの逆転溺愛ファンタジー!

婚約破棄された「無能」聖女、拾った子犬が伝説の神獣だったので、辺境で極上もふもふライフを満喫します。~捨てた国が滅びそう?知りません~

ソラ
ファンタジー
「エリアナ、貴様との婚約を破棄し、この国から追放する!」 聖女としての魔力を使い果たし、無能と蔑まれた公爵令嬢エリアナ。 妹に婚約者を奪われ、身一つで北の最果て、凍てつく「死の森」へと捨てられる。 寒さに震え死を覚悟した彼女が出会ったのは、雪に埋もれていた一匹の小さなしっぽ。 「……ひとりぼっちなの? 大丈夫、私が温めてあげるわ」 最後の手向けに、残されたわずかな浄化の力を注いだエリアナ。 だが、その子犬の正体は――数千年の眠りから目覚めた、世界を滅ぼす伝説の神獣『フェンリル』だった! ヒロインの淹れるお茶に癒やされ、ヒロインのブラッシングにうっとり。 最強の神獣は、彼女を守るためだけに辺境を「極上の聖域」へと作り替えていく。 一方、本物の聖女(結界維持役)を失った王国では、災厄が次々と降り注ぎ、崩壊の危機を迎えていた。 今さら「戻ってきてくれ」と泣きついてくる王子たち。 けれど、エリアナの膝の上には、甘えん坊の神獣様(執着心MAX)が陣取っていて――。 「聖女の仕事? いえ、今は神獣様とのお昼寝の方が忙しいので」 無自覚チートな聖女と、彼女にだけはデレデレな神獣様による、逆転溺愛スローライフが幕を開ける! (本作品はAIを活用して構成・執筆しています)

失恋までが初恋です。

あんど もあ
ファンタジー
私の初恋はお兄様。お兄様は、私が五歳の時にご両親を亡くして我が家にやって来て私のお兄様になってくださった方。私は三歳年上の王子様のようなお兄様に一目ぼれでした。それから十年。お兄様にはルシンダ様と言う婚約者が、私にも婚約者らしき者がいますが、初恋は続行中ですの。 そんなマルティーナのお話。

大嫌いなこの世界で

十時(如月皐)
BL
嫌いなもの。豪華な調度品、山のような美食、惜しげなく晒される媚態……そして、縋り甘えるしかできない弱さ。 豊かな国、ディーディアの王宮で働く凪は笑顔を見せることのない冷たい男だと言われていた。 昔は豊かな暮らしをしていて、傅かれる立場から傅く立場になったのが不満なのだろう、とか、 母親が王の寵妃となり、生まれた娘は王女として暮らしているのに、自分は使用人であるのが我慢ならないのだろうと人々は噂する。 そんな中、凪はひとつの事件に巻き込まれて……。

【完結】Restartー僕は異世界で人生をやり直すー

エウラ
BL
───僕の人生、最悪だった。 生まれた家は名家で資産家。でも跡取りが僕だけだったから厳しく育てられ、教育係という名の監視がついて一日中気が休まることはない。 それでも唯々諾々と家のために従った。 そんなある日、母が病気で亡くなって直ぐに父が後妻と子供を連れて来た。僕より一つ下の少年だった。 父はその子を跡取りに決め、僕は捨てられた。 ヤケになって家を飛び出した先に知らない森が見えて・・・。 僕はこの世界で人生を再始動(リスタート)する事にした。 不定期更新です。 以前少し投稿したものを設定変更しました。 ジャンルを恋愛からBLに変更しました。 また後で変更とかあるかも。 完結しました。

母は何処? 父はだぁれ?

穂村満月
ファンタジー
うちは、父3人母2人妹1人の7人家族だ。 産みの母は誰だかわかるが、実父は誰だかわからない。 妹も、実妹なのか不明だ。 そんなよくわからない家族の中で暮らしていたが、ある日突然、実母がいなくなってしまった。 父たちに聞いても、母のことを教えてはくれない。 母は、どこへ行ってしまったんだろう! というところからスタートする、 さて、実父は誰でしょう? というクイズ小説です。 変な家族に揉まれて、主人公が成長する物語でもなく、 家族とのふれあいを描くヒューマンドラマでもありません。 意味のわからない展開から、誰の子なのか想像してもらえたらいいなぁ、と思っております。 前作「死んでないのに異世界転生? 三重苦だけど頑張ります」の完結記念ssの「誰の子産むの?」のアンサーストーリーになります。 もう伏線は回収しきっているので、変なことは起きても謎は何もありません。 単体でも楽しめるように書けたらいいな、と思っておりますが、前作の設定とキャラクターが意味不明すぎて、説明するのが難しすぎました。嫁の夫をお父さんお母さん呼びするのを諦めたり、いろんな変更を行っております。設定全ては持ってこれないことを先にお詫びします。 また、先にこちらを読むと、1話目から前作のネタバレが大量に飛び出すことも、お詫び致します。 「小説家になろう」で連載していたものです。

転生皇女セラフィナ

秋月真鳥
恋愛
公爵家のメイド・クラリッサは、幼い主君アルベルトを庇って十五歳で命を落とした。 目覚めたとき、彼女は皇女セラフィナとして生まれ変わっていた——死の、わずか翌日に。 赤ん坊の身体に十五歳の記憶を持ったまま、セラフィナは新しい人生を歩み始める。 皇帝に溺愛され、優しい母に抱かれ、兄に慈しまれる日々。 前世で冷遇されていた彼女にとって、家族の愛は眩しすぎるほどだった。 しかし、セラフィナの心は前世の主・アルベルトへの想いに揺れ続ける。 一歳のお披露目で再会した彼は、痩せ細り、クラリッサの死を今も引きずっていた。 「わたしは生涯結婚もしなければ子どもを持つこともない。わたしにはそんな幸福は許されない」 そう語るアルベルトの姿に、セラフィナは決意する。 言葉も満足に話せない。自由に動くこともできない。前世の記憶を明かすこともできない。 それでも、彼を救いたい。彼に幸せになってほしい。 転生した皇女が、小さな身体で挑む、長い長い物語が始まる。 ※ノベルアップ+、小説家になろうでも掲載しています。

処理中です...