やり直しの神子は長生きしたい

kozzy

文字の大きさ
12 / 138

過去の幽霊

しおりを挟む
傾国の美青年エマニエルが唯一頭の上がらない相手、それが自分自身の上位互換ともいえる、鋼の悪意を持った美女、愛するアルトゥールの母親、王妃エメリンである。

これは前世軸で正妃宮の窓ふき人夫がポロっと口にした話なのだが…

この頃のエマニエルは王妃から王子の恋人として受け入れられてはいたが、妃として認めるかは別の話と言われていたそうだ。

美女の王妃が相手ではせっかくのお色気も意味をなさないのが辛いところ。
そこでエマニエルは王妃を懐柔するのに別の手を使う事にした。それが…誰よりも王妃の役に立ち先んじてツボを押さえ、忠実な駒になることだ。

真正面から力技でぶつからないのがエマニエルのやり方である。彼はなんでも権力にものを言わせる王妃よりも奸智に長けている。王妃には取り入りうまく利用するのが己にとっては有益、恐らくそう結論づけたのだろう。

ウルリッヒ様の排除もその一つ。
神の力で護られるウルリッヒ様を合法的に消し去る奥の手。その奸策をアルトゥールを通して伝授したことによって、彼は下位貴族の男爵子息でありながら王宮への出入りが許されるようになったのだから。

さてここで思い出していただきたい。王妃にはウルリッヒ様の他にもう一人排除したい目障りが居たね?
そう。オスヴァルト様だ。




これは当時、王妹宮から本宮まで引っ張りだこだった、当時人気の絵描きから、ウルリッヒ様に一目会わせるのを条件に聞きだした、正真正銘の重要機密だ。

長時間同じ体勢でポーズをとるモデルは、退屈しのぎに側付きの侍女などと雑談に花を咲かせるものだという。
そして時に…うっかり口を滑らすこともあったりする。

もちろん画家は何も聞かなかったふりをするのが常なのだが、記憶には残るものだ。
それが印象的な出来事であればあるほど…


あれは時系列でいうとちょうど今頃…

当時王妹ブリッタ様は、老衰で亡くなられた叔父、辺境伯閣下の葬儀に王の名代として参列するため、王妹宮を留守になさっていた。

辺境へは片道一か月以上を要する過酷な旅だ。
そのためこのお出ましは「せっかくの機会だから」と、有力な領主を訪ねながらの、外遊も兼ねた長期のもの。

因みにやり直しの日々でもウルリッヒ様の関わらない歴史は変わっていない。
今世もブリッタ様は、現在城内に不在である。
留守を預かるのはオズヴァルト。アルトゥールの一つ上である彼は現在十九歳。王妹の庇護はそれほど必要ではなくなっている。


王城内に「幽霊が墓所にでる」と噂が立ち始めたのはそんな頃だ。そう。僕がたった今エマニエルをちびるほど怖がらせた幽霊話のことね。

何の事は無い。幽霊とは王妹宮を抜け出し墓所を出歩いていたオスヴァルト。けどそれを知るのは人生二度目の僕だけだ。

辺境伯は亡くなられる直前、王妹ブリッタ様に一通の手紙を寄越していた。内容はオスヴァルトの身柄を辺境伯領で引き受けてやろうというもの。
そこには、死ぬまで王妹宮で飼い殺しなど、若く精悍なオスヴァルトがあまりにも気の毒。ならば王妃の手が届かぬ辺境伯領で一貴族として面倒をみてやろうと書かれていたそうだ。

辺境伯はオスヴァルトにとって自分を気にかけてくれる数少ない王族。

これは僕の想像だが…王宮の礼拝堂へ立ち入れないオスヴァルトは、墓所内にある王族慰霊碑に哀悼の念を捧げたかったのじゃないかと思ってる。

彼は王族宮から出てはならないとの誓約書によって安全が保証されている。これは逆に、王妹宮以外の場所では何が起こってもおかしくないということでもある。

だが長年の平和で彼は少しばかり気が緩んでいたのかもしれない。それとも夜の墓所ならバレない、そう高をくくったのだろうか?

ともかく、彼は王妹宮を抜け出し真夜中の墓所に来た。
禁とは一度破ってしまえば二度目は敷居が低くなるものだ。
いつしか墓所の散歩はオスヴァルトの日課になっていったのだろう…


そんなある日のことだ。
僕の世話係として神殿につめる今世と違い、王妃を訪ねる事が多かった前世軸のエマヌエルは、キャンバスの前でポーズをとる王妃にお茶を差し出しながらこんな入れ知恵していたそうだ。

「王妃様、最近使用人達の間で噂になってる話をご存知ですか?」
「エマニエル、使用人の噂などと…下世話なこと」
「ですが少々興味深い話なのですよ」
「いいわ。言ってみなさい」
「墓所に幽霊が出るという話です」
「まあくだらない!」
「ですが王妃様、僕にはその幽霊の正体がわかった気がするのですよ」
「…興味深いわね…」

「王妃様、恐らく墓所の幽霊は王妃様の心の染み」
「……確証は?」
「ありませんが、もしそうならこれは…」
「千載一遇の好機ね」

「墓所の安全を確認するのに兵を差し向けて何が困りましょう」
「そうね。何も無ければただの笑い話というだけ、何も困らないわね…」

「もしそこに不審な者が居たならば…」
「今ブリッタは不在…、役に立つ子ねエマニエル」
「光栄にございます…」

その晩何があったか。
その部分は僕やウルリッヒ様でさえ知る王城の大事件だ。

墓所に噂の確認に出向いた王妃の私兵は…
墓所内に居るを、王城に忍び込んだ不届き者と見なし問答無用で切りつけたという。

前世軸でウルリッヒ様とオスヴァルト様に面識はなかった。
ブリッタ様も不在では、誰もウルリッヒ様に救いを求めることは出来なかったのだろう…

それとも即死だったのか。

なんにせよひどい話だ。ウルリッヒ様もオスヴァルト様も、ただ特別な立場に産まれた、それだけだったのに。


だけど今回のエマニエルは、一筋縄でいかない僕をアルトゥールの忠実な傀儡にするため悪戦苦闘の真っ最中だ。
成果は思うように上がらない。きっと毎日新たな手を模索して、オスヴァルトのことまで考える余裕はないだろう。

それでもこうしてエマニエルを墓所まで連れ出して脅かしたのは、万が一に備え、エマニエルに墓所の幽霊とは「自分を脅かすためにウルリッヒが仕込んだ悪質ないたずら」と思わせるためだ。


「今代の神子は随分我儘だと聞いてはいたが…とんでもない悪戯っ子だ」
「お褒め頂きドーモ。けどこれはすべてオスヴァルト様、あなたの為ですよ」

「私が誰だかわかるのか…」

一瞬でまとう警戒の色。
加減によって茶にも金にも見えるブロンズの髪。

アルトゥールが王妃の美貌と非道さを受け継いだように、オスヴァルトもまた、母親の知的さ冷静さ、そして気丈さを受け継いだのだろう。
彼は狼狽えることなく、その深みのあるヘーゼルの瞳で僕を見据える。

「墓所を挟んであっちは神殿こっちは王妹宮、年の頃十代後半の色男ときたら該当するのは一人です」
「聡いものだ…」

いやー、それほどでも。

「…私のためとはどういうことだ」

ド直球。社交に揉まれていない幻の王子は掛け引けをお好みでないようだ。

「話したいのはやまやまですがもうすぐ墓守が休憩を終えて戻ってきます。だからひとつだけ」

彼が愚鈍な男でなければ分かるはずだ。僕と彼、二人は同じ、羽を捥がれた鳥だって。

「僕はあなたの味方です。何かあったら…僕のとこまで来てください。そこのトチノキに洞があります。必要なものは入れておきました」
「それはどういう…」

「しっ!墓守が戻ってきた!行って!」

僕を気にしながら、それでも踵を返すオスヴァルト。

「忘れないで。僕は味方」


最後の言葉は彼の耳に届いただろうか?

一度目の出会いはこれで十分。

さて、運命はどう変わるか…







しおりを挟む
感想 233

あなたにおすすめの小説

その首輪は、弟の牙でしか外せない。

ゆずまめ鯉
BL
養子ゆえに、王位継承権を持たないオメガで長男のレイン(24)は、国家騎士団として秘密裏に働き、ただ義弟たちを守るためだけに生きてきた。 第一継承権を持つアルファで次男のリオール(19)は、そんな兄に「ごく潰し」と陰口を叩く連中を許せなかった。自分を犠牲にしてまで守る価値はないと思っていた。なにかと怪我の多い国家騎士団を辞めさせたかった。 初めて訪れた発情期のとき。約束をすっぽかされたリオールが不審に思い、兄の部屋へ行くと、国家騎士団の同僚──グウェンソード(28)に押し倒されるところを目撃して激高する。 「今すぐ部屋から出ろ!」 独占欲をあらわにしたリオールは、グウェンソードを部屋から追い出し、兄であるレインを欲望のままに抱いた。 翌朝、差し出されたのは特注の首輪──外せるのはリオールのみ。 「俺以外に触らせるな」 そう囁かれたレインは、何年も首輪と弟の執着に縛られ続けてきた。 弟には婚約者がいるのに、こんな関係を続けてもいいのか。 本当にこのままでもいいのか。 ひたすら執着して独占したがる弟と、罪悪感に苛まれる兄。 その首輪は、いつか弟の牙で血に染まるのか──。 どうにかしてレインを落としたいリオールと、弟との関係に悩むレインのオメガバースです。 リオール・グランケット(19)×レイン・グランケット(24) ※この作品は2015年頃に本文を書き、2017年頃にオメガバースに改稿、さらに2026年に手直しした作品になります。読みにくいかもしれません。ご了承ください。 三人称ですが攻めだったり受けだったり視点がよくかわります。攻め視点多めです。

魔力ゼロのポーション屋手伝い

書鈴 夏(ショベルカー)
BL
15歳で測定する魔力の量によって、人生の大部分が左右されてしまう世界。 そんな世界で、運命の日を迎えたひとりの平凡な少年──リクは、抱いた淡い期待を大きく裏切られる。魔力が前代未聞のゼロと言い渡されたのだ。 深い絶望とともに頭を抱えていたとき、森でポーション屋を営んでいるというくたびれた男が声をかける。路頭に迷っていたリクは、店で手伝いをしてはどうかという彼の誘いを受けることにする。 捨てかけた夢を拾ってもらった少年と、拾った男。ふたりが絆を深めていく、ポーション屋でのお話です。 一人称おじさんくたびれ男性×魔力ゼロ以外平凡青年のBLです。 カクヨムにも載せています。(完結済み)

カランコエの咲く所で

mahiro
BL
先生から大事な一人息子を託されたイブは、何故出来損ないの俺に大切な子供を託したのかと考える。 しかし、考えたところで答えが出るわけがなく、兎に角子供を連れて逃げることにした。 次の瞬間、背中に衝撃を受けそのまま亡くなってしまう。 それから、五年が経過しまたこの地に生まれ変わることができた。 だが、生まれ変わってすぐに森の中に捨てられてしまった。 そんなとき、たまたま通りかかった人物があの時最後まで守ることの出来なかった子供だったのだ。

私だけが愛して1度も笑ったことの無い夫が、死んだはずの息子を連れてもどってきた

まつめ
恋愛
夫はただの一度も私に笑いかけたことは無く、穏やかに夫婦の時間をもったこともない。魔法騎士団の、騎士団長を務める彼は、23年間の結婚生活のほとんどを戦地で過ごしている。22歳の息子の戦死の知らせが届く。けれど夫は元気な息子を連れて私の元に戻って来てくれた。

塩対応の同室αが実は俺の番を狙っていた

雪兎
BL
あらすじ 全寮制の名門学園に入学したΩの俺は、入寮初日から最悪の同室相手に当たった。 相手は学年でも有名な優等生α。 成績優秀、運動もできる、顔もいい。なのに—— めちゃくちゃ塩対応。 挨拶しても「……ああ」。 話しかけても「別に」。 距離も近づけないし、なぜか妙に警戒されている気がする。 (俺、そんなに嫌われてる……?) 同室なのに会話は最低限。 むしろ避けられている気さえある。 けれどある日、発情期トラブルで倒れた俺を助けてくれたのは、 その塩対応αだった。 しかも普段とは違い、必死な顔で言われる。 「……他のαに近づくな」 「お前は俺の……」 そこで言葉を飲み込む彼。 それ以来、少しずつ態度が変わり始める。 距離は相変わらず近くない。 口数も少ない。 だけど―― 他のαが近づくと、さりげなく間に入る。 発情期が近いと察すると、さりげなく世話を焼く。 そして時々、独占欲を隠しきれない視線。 実は彼はずっと前から知っていた。 俺が、 自分の運命の番かもしれないΩだということを。 だからこそ距離を取っていた。 触れたら、もう止まれなくなるから。 だけど同室生活の中で、 少しずつ、確実に距離は変わっていく。 塩対応の裏に隠されていたのは―― 重すぎるほどの独占欲だった。

秘匿された第十王子は悪態をつく

なこ
BL
ユーリアス帝国には十人の王子が存在する。 第一、第二、第三と王子が産まれるたびに国は湧いたが、第五、六と続くにつれ存在感は薄れ、第十までくるとその興味関心を得られることはほとんどなくなっていた。 第十王子の姿を知る者はほとんどいない。 後宮の奥深く、ひっそりと囲われていることを知る者はほんの一握り。 秘匿された第十王子のノア。黒髪、薄紫色の瞳、いわゆる綺麗可愛(きれかわ)。 ノアの護衛ユリウス。黒みかがった茶色の短髪、寡黙で堅物。塩顔。 少しずつユリウスへ想いを募らせるノアと、頑なにそれを否定するユリウス。 ノアが秘匿される理由。 十人の妃。 ユリウスを知る渡り人のマホ。 二人が想いを通じ合わせるまでの、長い話しです。

番を拒み続けるΩと、執着を隠しきれないαが同じ学園で再会したら逃げ場がなくなった話 ――優等生αの過保護な束縛は恋か支配か

雪兎
BL
第二性が存在する世界。 Ωであることを隠し、平穏な学園生活を送ろうと決めていた転校生・湊。 しかし入学初日、彼の前に現れたのは―― 幼い頃に「番になろう」と言ってきた幼馴染のα・蓮だった。 成績優秀、容姿端麗、生徒から絶大な信頼を集める完璧なα。 だが湊だけが知っている。 彼が異常なほど執着深いことを。 「大丈夫、全部管理してあげる」 「君が困らないようにしてるだけだよ」 座席、時間割、交友関係、体調管理。 いつの間にか整えられていく環境。 逃げ場のない距離。 番を拒みたいΩと、手放す気のないα。 これは保護か、それとも束縛か。 閉じた学園の中で、二人の関係は静かに歪み始める――。

『魔力ゼロの欠陥品』と蔑まれた伯爵令嬢、卒業パーティーで婚約破棄された瞬間に古代魔法が覚醒する ~虐げられ続けた三年間、倍返しでは足りない~

スカッと文庫
恋愛
「貴様のような無能、我が国の王妃には相応しくない。婚約を破棄し、学園から追放する!」 王立魔道学園の卒業パーティー。きらびやかなシャンデリアの下、王太子エドワードの声が冷酷に響いた。彼の隣には、愛くるしい表情で私を嵌めた男爵令嬢、ミナが勝ち誇ったように寄り添っている。 伯爵令嬢のリリアーヌは、入学以来三年間、「魔力ゼロの欠陥品」として学園中の嘲笑を浴び続けてきた。 婚約者であるエドワードからは一度も顧みられず、同級生からはゴミのように扱われ、ミナの自作自演による「いじめ」の濡れ衣まで着せられ……。 それでも、父との「力を隠せ」という約束を守るため、泥を啜るような屈辱に耐え抜いてきた。 ――だが、国からも学園からも捨てられた今、もうその約束を守る必要はない。 「さようなら、皆様。……私が消えた後、この国がどうなろうと知ったことではありませんわ」 リリアーヌが身につけていた「魔力封印の首飾り」を自ら引き千切った瞬間、会場は漆黒の魔力に包まれた。 彼女は無能などではない。失われた「古代魔法」をその身に宿す、真の魔道の主だったのだ。 絶望する王太子たちを余目に、隣国の伝説の魔術師アルベルトに拾われたリリアーヌ。 彼女の、残酷で、甘美な復讐劇が今、幕を開ける――。

処理中です...