やり直しの神子は長生きしたい

kozzy

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複雑な関係

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半年年下のエドヴィンは現在十三。癖のある赤毛はリンデンの旦那様譲り。
きっと旦那様は自分によく似たエドヴィンが可愛くて仕方なかっただろうに…

カチャ…

「エドヴィン…」
「ウルリッヒ様…」

なんか生き別れの兄弟が再会した…風の雰囲気を醸し出しているが、ウルリッヒ様とエドヴィンに交流はほとんどない。
彼らエドヴィンやドローテア夫人は本邸で幸せな家族を堪能していたし、ウル様は養育棟でお付きのナニーや乳母、カヴァネスにチューター、そういった顔ぶれを疑似家族にしてお過ごしだったから。

誤解しないでね。この場合異例なのは本邸の方で、貴族子女は本来十歳前後まで、子供だけ別棟、別室で育てられるのが普通だからね。
だからウルリッヒ様だって本当なら、いたずらに自分を悲しんだりせずに済んだはずなのに…




…今も思いださずにはいられない…

ときどき庭から漏れ聞こえる幸せそうな団欒の声、それらはいつだってウルリッヒ様を苦しめた。

「まてー、チョウチョさんまてー!」
「ま!エドヴィン、伯爵家の子がその様に走ってはなりません。転びますよ」
「だってチョウチョが、あっ!」
「ほらごらんなさい。泣くのではありません。こちらへエドヴィン、泥を払ってあげましょう」

幼いエドヴィンが楽しそうに庭を駆け回り、それを嗜めながらも微笑ましそうな母親の声。

「ウルリッヒ様…」
「エミル、今日は養育棟のお庭でクローバーを探そう」
「幸運のクローバーですね」

その後僕が、クローバーを探す振りをしながらバッタをモリモリ捕まえて、本邸の居間に黙って放してきたのはここだけの秘密だ。


また家族で向かう日曜礼拝、ウルリッヒ様も神子の傍系筋でありながらナンナー家から礼拝を禁止されていた。

笑いながら馬車に乗り込む三人の親子。

「お父様、帰りに貴族街に寄ってはいけませんか?」
「おやエドヴィン、何が欲しいのだね」
「お母様のお茶会でふるまう焼き菓子を自分で選びたいのです!」
「良いだろう。教会ではいい子にしているのだよ」

ウル様…彼は泣いたり叫んだりしない。ただ黙ってその光景を二階の窓越しに眺めるだけだ。

「ウルリッヒ様…」
「…エミル、果樹園のブドウはもう熟れたかな?見に行こう」
「僕がぜーんぶ採って差し上げます!」

その日から僕が、誰よりも朝早く果樹園へと向かい、食べごろになった果実を根こそぎ収穫して、本邸の人が季節中ひと口も食べられないようにしたのは、きっと許されるささいなイタズラだと思ってる。


わかるだろうか。彼自身が何をしたわけでも無ければ、ドローテア夫人が何をしたのでもない。(旦那様は別だ。何もしないのがすでに許せない!)

だからといって、エドヴィンと話す事など正直何も無い。

「お久しぶりです。母を助けていただいたあの時以来ですね」

そういえばあの時お父様の背後に居たっけ。一言も話さなかったから忘れてたけど。

「あ!その…、もしかして…だからきたの?」
「と申しますと?」
「嫡男でありながら二年間の西辺境赴任にあたることだよ。お礼のつもり?」

「この任は私が自ら希望いたしました。両親は必死に制止しておられましたが」
「え、ええっ!」

驚愕の事実!エドヴィン本人の志願だって?
イッキに狼狽える僕。売られたケンカならいくらでも買える太っ腹な僕だが、こう言うのは逆にちょっと…

「その…、これをウルリッヒ様」
「手紙?」

「私の気持ちをまとめておきました。どうか後ほどご一読ください」
「…わかった…読ませてもらう…」

彼はそれを手渡すと一礼して馬の水やりに戻って行った。



さて、移動はまだまだ終わらない。このソルトロードは馬の体力に合わせてちょうどいい場所に宿屋が作ってあるそうだ。なので暗くなる前にそこを目指すらしい。

気がつけば後続に貴公子たちの馬車が延々続いている。
何処までも続く馬車列…。通常なら街道沿いとは賊とかが出るものだが…僕が居る時点でその心配は大幅に減少する。何故なら…

市井ではまことしやかに「神子の怒りに触れたものは寿命が奪われる」とか何とか信じられているからだ。ほら、城下でも「神子と目があったら寿命が延びる」とか言われてたでしょ?
そんなことは常識で考えてあり得ないのだが…もう生死に関して神子はは自由自在くらいの存在に思われてるんだよね。
この国は神バルデルスの作られし国。僕という奇蹟が実際に存在するため、悪人であっても神は信じている。
あ、これは誰かに聞いたんじゃなくて、ごく普通の一般論だよ。


そうして日暮れ前。ようやくお目当ての宿屋へ到着。

ここは本来無人の宿屋。宿屋と言っていいのかどうか…。五室ほどの部屋と煮炊きの出来る厨房。飼い葉の積まれた厩舎と、そして井戸がある。
つまりご自由にどうぞ、ってやつだ。週に一度宿の清掃と飼い葉などの補充に来るらしいが、これはソルトロードを有する領の義務でもある。
なので今回ばかりは王宮からの指示で、最低限の使用人が僕たちの到着を待っていた。

通常ならば貴人の旅は街道を外れ市中に入り、その領の当主邸や聖職者であれば教会に泊めていただくものだ。
けど、それをするとさらにどんどん到着が延びる…。

こちらにはこちらの予定と都合と計画がある。なので今回その案は僕が強固に却下した。一日も早く西辺境に到着するのが最優先だ。

街道沿いの宿屋はすべて二人部屋。それが五室ということはベッドに寝れるのは十名。合わせて何十人もの全員が布団で眠れるわけではない。

僕とオスヴァルト、神官長は当然部屋を使うとして…
残りの顔ぶれは日替わりで部屋を使うことに決まったようだ。(残りは廊下ね。護衛は外で見張りだよ)

が、いずれにしてもこの状況下で二人部屋を一人で使うのは気が引ける…


僕はオスヴァルトに同室を願い出た。



「ウルリッヒ、どれほど二人きりになりたかったか…」
「それだけ聞いたら恋人同士みたい」

籠の鳥オスヴァルトは当然恋愛経験もないのだろう。僕の冗談に一瞬狼狽えるがすぐ真顔になる。

「本心だウルリッヒ…まさか本当に何事もなく城を出られる日が来るとは…」
「任せとけって言ったでしょ。けど一回目のお断りはなかなか良かったよ」
「あの手紙で君の意図は分かったのでね」
「上出来。アルトゥールなんかよりずっと冴えてる」

王様は馬鹿だ。選ぶべき王子を間違えるなんてね。

「君自身にも言えることだ。まさか王が〝癒しの神子”を王城から手放すなど…普通ならあり得ない」
「あ。それ聞きたい?聞いちゃう?」

オスヴァルトは、僕の仕込んだ、出戻り人生初日からまんまとエマニエルが釣れたあの日までの、様々な誘導の一つ一つを知るたびに驚き…呆気にとられ…最終的には大爆笑だ。

「ハハハ、とんだ悪童じゃないか!」
「え?それ褒め言葉でいいんだよね?」
「もちろん。君ほど情の深い人を私は知らない」

「情が深い?甘いな。敵には容赦ないよ?」

アルトゥールが目の前で死んだって可哀想だなんて微塵も思わない。だってあの日のウルリッヒ様を見てしまったから。

「…神子ウルリッヒは幸せ者だ。だから神は君たちを助けたのだろう」
「そうかな?」

「君が味方についた私も幸せ者になるだろうか」
「オスヴァルトは僕の主じゃありません。でも僕たちは運命共同体です」

「もちろんだウル、いや…エミルと呼んだ方が良いのか?」
「まさか!周囲の目があるのでウルリッヒで」
「では運命共同体の相棒らしく…ウーリと呼んでも?」
「ウーリ…」

これは巷じゃポピュラーなウルリッヒの愛称である。グッと距離が縮まった気がする…

「じゃあ僕はオスビーって呼ぶね」
「いい響きだ」

楽しい旅になりそうだ!





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