やり直しの神子は長生きしたい

kozzy

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手紙… 

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部屋でスープと干し肉とパン程度の軽食をとり、お湯をもらって身体を拭く。
背中は互いに拭きっこしたのだが、王子様が僕の背中を拭く…なかなかできない体験だ。

「この後はどうする?夜通し話そうか?」
「いや…、実は令息たちが挨拶代わりにと酒に誘ってくれてね。これも初めての経験だ。君とは毎夜共に出来るのだし今夜は親睦を図ってくるよ」

再びの問題発言。だから誤解を招くから言い方に気をつけろとあれほど…別にいいけど…


さて、問題はエドヴィンから手渡されたそれなりに厚みのある手紙だ。
静かな部屋でじっくり目を通したいと思っていた僕に、この時間はむしろ好都合。

カサリ…

さあ何が書いてあるのか…




ウルリッヒ様

いったい何をどこからお伝えすればいいのか、私は未だわかりかねています。

子供の頃は色々なことが私にはわからなかった。私は何故あなたが本邸で暮らさず、一人で使用人達と別棟にいるのか理解できていなかった。
私はいつでも思っていました。同じ父を持つ兄なのに何故あなたはここに居ないのだろう?一人でいるより皆でいる方がずっと楽しいのにって。

だけどあなたが屋敷を離れ癒しの神子として王城へ入られたことで、私はその時初めて癒しの神子とは何だろう?そう考え始めたのです。

再生の力、神子がどういった存在であるか私は何も知らないのだと気づきました。そして私なりに調べました。

知識を得たのは屋敷の書庫、そして文法学校の図書室です。
あなたもご存じなように、私は七歳の時から文法学校に通っていますから。
これも入学後に知ったのですが、あなたは学校に通われていなかったのですね。私は学校でならあなたとお話出来るのではないかと、ひそかに楽しみにしていたのですよ。

そして知りました。神子がその命と引き換えに人々の怪我や病を治す奇跡の存在だと言うことを。
それを知った時、私がどれほどの衝撃を受けたかお判りでしょうか?
振り返ることなく、それでもどこか心細げに屋敷を後にしたあなた。いったいどんな想いで王城へ入られたか…それを考えるだけで胸が痛みます。

私は父を責めました。どうしてこのように過酷な運命を背負おうウルリッヒ様をもっと愛してやらなかったのか、と。

ナンナーの血を引く者は、たとえ傍系であっても世俗にまみれぬよう様々な制限の中で育てられます。ウルリッヒ様がそうだったように前夫人もそうでした。

父は言いました。前夫人と父の婚姻は生まれた時からの決まり事。
父は鷹揚に見えて感情の薄い前夫人を、どこか人に思えぬとお感じになりどうしても愛せなかったのだと仰いました。その結果が母との隠れた交際なのだと。
そしてその血を色濃く受け継いだウルリッヒ様のこともまた、産まれた子を一目見たその瞬間に、この子は我が子でありながら私の子ではない、そう強く感じたと仰いました。

思えば父は、ウルリッヒ様が神の子であられることを直感で気付いておられたのかもしれませんね。

父は気持ちの過敏なお方です。神経質と言い換えましょうか。
父にとって人ならざる癒しの神子は畏敬の対象でなく畏怖すべき対象でした。父はウルリッヒ様を恐れ…そして遠ざけました。
ですがそれはウルリッヒ様を孤独にしていい理由にはなりません。私はそれ以来父に対しわだかまりを抱き続けています。

そんな中、母はお腹に子を宿しました。生まれた子は男児、私の弟でありリンデン伯爵家のスペアです。屋敷中が祝福につつまれたのも束の間、母はそれ以来ベッドから起きられなくなりました。
何日も続く高熱。食欲は日ごと無くなり顔色は土気色です。皆が前夫人の不幸を重ねて見たのは無理もないでしょう。

あとはご存知ですね。父はあなたに手紙を送りました。
私は思っていました。そんな都合のいい話、聞き届けられるはずが無いと。
今まであなたを顧みもしなかった父。父に全てを委ね我関せずを貫いた母。無知を理由にあなたの心情を慮ることも無かった私。あなたが私たちを、母を助ける理由がどこにあるでしょう。

日に日に弱っていく母。私たちは皆、腕の中の小さな赤子を憐れみながら焦燥の中でその日を覚悟しました。

その時神殿から返事が届いたのです。そこには特別な許可証と共に『今すぐ患者を馬車に乗せ神殿へ参られよ』と書かれていました。

神殿に着くと神官様は仰いました。

これは神子様からのご実家に対する特別な配慮によるもの。神子様はこの癒しの許可を得るため、今まで「再生の力は安易に使うものではない」と断ってこられた、幾人かの〝地位は高いが軽症の貴人”を治癒されたのだ、重々心せよ、と。

その意味はあなたの生命力が無駄に減ったという意味です。なんと重い言葉でしょうか。
あなたは私の顔も父の顔も一度も見ませんでしたね。それがあなたの私たちへの気持ち…、なのにあなたは母を救ってくださいました。

安堵に包まれた帰路の馬車。
父も母もその意味を解っていません。母が健康を取り戻した分、ウルリッヒ様はまた一歩死に近づいたのです。

私はどうにかしてあなたを救えないかと、より一層深く癒しの神子について知ることにしました。いいえ、知らなければならない、そんな強い使命感にかられました。

まず私は学校の図書室で、今まで難解だからと避けていた古代語で書かれた古の書を手に取りました。
文法学校とは主として古代語を学ぶ学校です。
学びを深めた私は以前より古代語に通じています。何が重要かはわかりませんが、それでも一般書よりも多くのことがわかりました。

また、聖職をお持ちの一部教師しか立ち入れない特別書庫、そこになんとか入れないかと考え、学校長、主幹の信頼を得るよう私は優秀にして敬虔な生徒であり続け、どんな面倒な雑務でさえ快く引き受けました。

そうしてある日、ついにその特別書庫へ、学校長の忘れ物を取りに行くという機会に恵まれたのです。

それはほんの僅かな時間。ですが少しだけ知れた事実があります。

またナンナー伯爵家の屋敷も訪ねました。

ナンナーのご当主にはにべもなく追い返されましたが、離れに住む大奥様は私の熱意に負け、一時間だけなら、そう言ってお招きくださいました。
そしていくつかの質問にお答えくださいました。

そこでもまたいくつかの収穫がありました。

それらは私の推測や憶測なども混ざったものですが、いくつかはあなたの役に立つのではないか、そう思えるものです。私はあなたと話す機会を強く望んでおりました。
そんな矢先です、王宮があなたの神殿替えに帯同する貴公子を集めていると耳にしたのは。そこで自ら志願の手紙を王宮に送ったのです。

あなたの許しが簡単に得られるとは考えておりません。ですがどうか。どうか僅かでも話し合う時間をお作り頂ければ、そう願ってやみません。

この旅が、この二年間が私たちの垣根を取り去る日々になれば幸いです。



あなたの愚弟、エドヴィン・リンデン 




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