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三者三様 エミル
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ああエミル…君はなんてすごいんだろう。
思えば君は昔からそうだったね。
何時だって僕では思いもつかないようなことを、信じられないような実行力でやってしまうんだから。
産まれた時からずっと一緒にいたエミル。
同じ日同じ時間に生まれたエミルは僕にとってもう一人の自分。
身分も立場も違う二人だけど、僕はいつだってそう思ってた。
僕に出来ないことを僕の代わりにやるためここに居るのがエミルなんだって…
誰にもいえない嫌な自分だってエミルには見せた。誰にも知られたくない惨めな気持ちもエミルになら話せた。
「ごもっともです」そう言ってどんな姿でも受け入れるエミルに僕はいつも安堵していた。
あの日持たされたエミルの日記。そこに綴られていたのは他愛もない彼の日常。
だけどわかってしまった。
エミルが悪戯っ子になったのは僕のためだったんだなって。
街に出たり演劇を観たり散文を読んだり、そういった世俗的なことを、当時の僕は全て禁止されていた。ナンナーの家系は人間に染まっちゃいけないからって。
「僕の毎日はつまらないね…」
「ウル様は神子のお血筋ですから」
「血筋って…ただの傍系なのに」
「でも僕はウル様が傍系で良かったです」
だからエミルは僕を笑わすために、一人何役もして毎日道化劇を見せてくれた。
身振り手振りを交えた面白おかしい話の数々。
それは全部彼が集めた噂話だったのだろう。
悪戯もそう。
社交界デビューも出来ないのにどうして必要なのかわからなかったお作法の勉強。
ナンナー家から派遣されたカヴァネスの先生はいつも怒ってばかり。
だけど思い出したんだ。
エミルが悪さをすればするほど先生は僕に優しくなったって。
「手に負えないエミルに比べればウルリッヒ様は十分お行儀ようございますわね」
いつしか先生はそう言って僕には何も言わなくなった。
だけどね先生。エミルはその気になれば僕より綺麗な所作なんだよ。
エミルの愛に護られる毎日。
それでいいってずっと思ってた。運命のあの日までは。
うなじの中に小さく浮き出た神子の紋様…
僕はあまりのショックに目の前が真っ暗になってそのまま崩れ落ちた。
世話係や従者は儀式の部屋には入れない。
心細くて死にそうだったその時、そっと身体に腕を回して僕を助けてくれた人、それがこの国の王太子、アルトゥール殿下だ。
殿下は優しく僕の背中をさすりながら「君が今代の神子か。これからは同じ王城の住人となる。困ったことがあったら何でも言いたまえ。私が力になろう」そう仰ってくださった。
僕は子供だから…この世に建て前とか社交辞令とか…そういうものがあるってその時はまだ知らなかった…
美しい殿下の優しい言葉。家人以外との初めての触れ合い。そういう全てに僕は舞い上がって…
神殿にあがった僕は、殿下だけがあの醜い大人たちの中で綺麗な人だと思ってしまった。
世間知らずな僕は王城ではただのお馬鹿さんだ。
今思えば…エミルはあの頃僕を否定も止めもしなかったけど、「ごもっともです」とは言わなかった。アルトゥール殿下に関することは、決して。一度も。
エミルのそれが全てだったのに…
ああ…僕と最期まで共に逝こうとしてくれた僕の半身エミル。
その彼に全ての苦難を背負わせどうして僕が平気でいられるだろう。
けれど入れ替わりの運命はもう変えられない。僕に出来るのは…せめてエミルの両親を大切にすることだけ。エミルの代わりに。
神子の代替わりが聞こえてこない間は安心していられた。まだあそこで笑ってるって。
毎日月夜に祈った。神バルデルス様。どうか、どうか一日も長く彼を生かしてくださいって。
そんな時ギーレンの領にまで届いた風の噂。
「おい聞いたか、神子様の話」
僕は心臓が止まるかと思った。まさかこんなに早くその日が来たのかって!
けどその中身ときたら…何が起きたのか意味が分からなかった。だってその風の噂は…
神子が祓いをおこなうために〝神殿替え”をするって言う噓みたいな話だったんだから!
僕は耳を疑った。だってあり得ない!
神子が王城を不在にするってことはその間王都で癒しは受けられないってこと。そんなの王も大臣も認めるわけがない。神官長はどうしてしまったのだろう?
向かう先は西の神殿。そこは歴史に通じた者の間では病の巣窟と呼ばれる『朽ちた神殿』のことだ。
「西に行くってぇならソルトロードを使うんだろ?」
「おうよ!一目見れっかな?」
何も知らない平民の彼らは「神子のお出まし」を無邪気に喜んでいる。
けれど僕には分ってしまった。これはあの時と同じ。強大な力による神子の排斥なのだと…
僕は王城へあがる前、たった独りでナンナーの屋敷へ出向いていた。
傍系の僕は十分な神子教育を受けていない。そのための呼び出し。そこで聞かされた心得のひとつに西の神殿があった。
西の神殿、そこへいけば病に倒れ誰一人として生きては帰れないといわれている禁忌の地…
けれどナンナー伯爵は仰った。西の神殿こそが神バルデルスの故郷であるのだと。
「よいか。神子は知っておかねばならぬ。ナンナーは神バルデルスからあの地を奪った罪人。その罪を償うために子孫たる我らは今もこうして人々を癒し続けているのだということを」
「神子の命を犠牲にしてですか?」
「そうだ」
「マルレーン様は八年で亡くなりました…。僕もそうなるんですね…」
「堪えよウルリッヒ。これはナンナーの一族が背負うべき業なのだ」
「…死ぬのは怖いです…」
「…ああ…、お前は傍系ゆえに分からぬのだな…」
「何をですか?」
「神バルデルスへのこれは贖罪なのだ」
「…神様なら謝ったら許してくれないですか…?」
「許されたくば返さねばならぬ。尊き神の地、古の〝サンクトアリウム”を」
僕にナンナー伯爵の言葉はわからなかった。けれど今こうして、僕の代わりに神子となったエミルが〝西の神殿”へ向かうことには何か意味がある気がする。
だって僕とエミルは神の奇跡によってやり直しを許された死にぞこない。そしてエミルは…僕になったエミルは…
エミルはいつだって僕に出来ないことを代わりにやってくれる人だから!
西への道はギーレンを通る。僕がギーレン領に居ると知っている彼はきっと会いに来る。
もうすぐ会える…エミル…エミル…僕の半身…
お願い。もうこんなの終わりにして。
思えば君は昔からそうだったね。
何時だって僕では思いもつかないようなことを、信じられないような実行力でやってしまうんだから。
産まれた時からずっと一緒にいたエミル。
同じ日同じ時間に生まれたエミルは僕にとってもう一人の自分。
身分も立場も違う二人だけど、僕はいつだってそう思ってた。
僕に出来ないことを僕の代わりにやるためここに居るのがエミルなんだって…
誰にもいえない嫌な自分だってエミルには見せた。誰にも知られたくない惨めな気持ちもエミルになら話せた。
「ごもっともです」そう言ってどんな姿でも受け入れるエミルに僕はいつも安堵していた。
あの日持たされたエミルの日記。そこに綴られていたのは他愛もない彼の日常。
だけどわかってしまった。
エミルが悪戯っ子になったのは僕のためだったんだなって。
街に出たり演劇を観たり散文を読んだり、そういった世俗的なことを、当時の僕は全て禁止されていた。ナンナーの家系は人間に染まっちゃいけないからって。
「僕の毎日はつまらないね…」
「ウル様は神子のお血筋ですから」
「血筋って…ただの傍系なのに」
「でも僕はウル様が傍系で良かったです」
だからエミルは僕を笑わすために、一人何役もして毎日道化劇を見せてくれた。
身振り手振りを交えた面白おかしい話の数々。
それは全部彼が集めた噂話だったのだろう。
悪戯もそう。
社交界デビューも出来ないのにどうして必要なのかわからなかったお作法の勉強。
ナンナー家から派遣されたカヴァネスの先生はいつも怒ってばかり。
だけど思い出したんだ。
エミルが悪さをすればするほど先生は僕に優しくなったって。
「手に負えないエミルに比べればウルリッヒ様は十分お行儀ようございますわね」
いつしか先生はそう言って僕には何も言わなくなった。
だけどね先生。エミルはその気になれば僕より綺麗な所作なんだよ。
エミルの愛に護られる毎日。
それでいいってずっと思ってた。運命のあの日までは。
うなじの中に小さく浮き出た神子の紋様…
僕はあまりのショックに目の前が真っ暗になってそのまま崩れ落ちた。
世話係や従者は儀式の部屋には入れない。
心細くて死にそうだったその時、そっと身体に腕を回して僕を助けてくれた人、それがこの国の王太子、アルトゥール殿下だ。
殿下は優しく僕の背中をさすりながら「君が今代の神子か。これからは同じ王城の住人となる。困ったことがあったら何でも言いたまえ。私が力になろう」そう仰ってくださった。
僕は子供だから…この世に建て前とか社交辞令とか…そういうものがあるってその時はまだ知らなかった…
美しい殿下の優しい言葉。家人以外との初めての触れ合い。そういう全てに僕は舞い上がって…
神殿にあがった僕は、殿下だけがあの醜い大人たちの中で綺麗な人だと思ってしまった。
世間知らずな僕は王城ではただのお馬鹿さんだ。
今思えば…エミルはあの頃僕を否定も止めもしなかったけど、「ごもっともです」とは言わなかった。アルトゥール殿下に関することは、決して。一度も。
エミルのそれが全てだったのに…
ああ…僕と最期まで共に逝こうとしてくれた僕の半身エミル。
その彼に全ての苦難を背負わせどうして僕が平気でいられるだろう。
けれど入れ替わりの運命はもう変えられない。僕に出来るのは…せめてエミルの両親を大切にすることだけ。エミルの代わりに。
神子の代替わりが聞こえてこない間は安心していられた。まだあそこで笑ってるって。
毎日月夜に祈った。神バルデルス様。どうか、どうか一日も長く彼を生かしてくださいって。
そんな時ギーレンの領にまで届いた風の噂。
「おい聞いたか、神子様の話」
僕は心臓が止まるかと思った。まさかこんなに早くその日が来たのかって!
けどその中身ときたら…何が起きたのか意味が分からなかった。だってその風の噂は…
神子が祓いをおこなうために〝神殿替え”をするって言う噓みたいな話だったんだから!
僕は耳を疑った。だってあり得ない!
神子が王城を不在にするってことはその間王都で癒しは受けられないってこと。そんなの王も大臣も認めるわけがない。神官長はどうしてしまったのだろう?
向かう先は西の神殿。そこは歴史に通じた者の間では病の巣窟と呼ばれる『朽ちた神殿』のことだ。
「西に行くってぇならソルトロードを使うんだろ?」
「おうよ!一目見れっかな?」
何も知らない平民の彼らは「神子のお出まし」を無邪気に喜んでいる。
けれど僕には分ってしまった。これはあの時と同じ。強大な力による神子の排斥なのだと…
僕は王城へあがる前、たった独りでナンナーの屋敷へ出向いていた。
傍系の僕は十分な神子教育を受けていない。そのための呼び出し。そこで聞かされた心得のひとつに西の神殿があった。
西の神殿、そこへいけば病に倒れ誰一人として生きては帰れないといわれている禁忌の地…
けれどナンナー伯爵は仰った。西の神殿こそが神バルデルスの故郷であるのだと。
「よいか。神子は知っておかねばならぬ。ナンナーは神バルデルスからあの地を奪った罪人。その罪を償うために子孫たる我らは今もこうして人々を癒し続けているのだということを」
「神子の命を犠牲にしてですか?」
「そうだ」
「マルレーン様は八年で亡くなりました…。僕もそうなるんですね…」
「堪えよウルリッヒ。これはナンナーの一族が背負うべき業なのだ」
「…死ぬのは怖いです…」
「…ああ…、お前は傍系ゆえに分からぬのだな…」
「何をですか?」
「神バルデルスへのこれは贖罪なのだ」
「…神様なら謝ったら許してくれないですか…?」
「許されたくば返さねばならぬ。尊き神の地、古の〝サンクトアリウム”を」
僕にナンナー伯爵の言葉はわからなかった。けれど今こうして、僕の代わりに神子となったエミルが〝西の神殿”へ向かうことには何か意味がある気がする。
だって僕とエミルは神の奇跡によってやり直しを許された死にぞこない。そしてエミルは…僕になったエミルは…
エミルはいつだって僕に出来ないことを代わりにやってくれる人だから!
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もうすぐ会える…エミル…エミル…僕の半身…
お願い。もうこんなの終わりにして。
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