やり直しの神子は長生きしたい

kozzy

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古の神殿都市 ①

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数日ほどの行程を経て僕たちは南部に入っていた。
もちろん南部入りする全員が予防薬は飲用済みだ。

中央部と南部を隔てるもみの木の防壁林。ただこの防壁林が防ぐのは不浄な厄災である。

分厚いもみの林を抜けるとさらに重厚な石の壁がこちらとあちらを隔てている。

「ところどころ崩れておりますね。貧民はそこから入り込んだのでしょう」
「早めに直しておいて」
「畏まりました」

男爵が寄越してくれた傭兵たちは全員ガタイがいい。力仕事なら何でもお任せの頼れる漢どもだ。

「これ…随分古そうだけど開くかな…」
「超番が錆びついておりますが…ふん!なんとか…」

ギ、ギギギ…

中央にあるでっかい正門を開くと…おおっ!

「聞きしに勝る朽ちっぷり…」
「だが歴史を感じさせる…」

目の前には海に向かってどこまでも広がるなだらかな丘。
けれど自然のまま伸びきった草木によりどこが道だかわからない有様。

カツン

「石畳…、おそらくこれが道だ」
「歩いたほうが早そう」

とは言え、このなだらかだけど長い坂は年長者の神官長にはキツイだろう。

「神官長。僕は様子を確認しながら歩いて行きます」
「危険はございませんかウルリッヒ様」
「貧民でしょ?怖くないです」
「ですが野生の獣は危のうございますぞ」

「我々にお任せください」

護衛をかってでたのは傭兵たち。彼らは元々北端の山岳部に居た流浪民、獣だってドンとこいだ。


馬車隊を先行するのは馬を降りた傭兵たち。草を刈りながら進む彼らをしんがりに僕とオスヴァルト。そしてお互いの従者が続く。


斜面のふもとにはいくつもの放置された民家。大小様々な四角い家々が点々と続いている。

「手を入れれば今でも住めそうだね」
「ここは全てが石造りだ。幸いしたな」

「オスヴァルト様、数は十分足りそうかと」
「つまりそれほど古の世は栄えていたということか…」

ゴソ…

はっ!人の気配!

「傭兵さん」
「なんでしょう神子様」

「民家の中に貧民が居るみたい。叱らなくていいから後でどこかに集めておいて」
「畏まりました」

なるほど。空っぽの家がある。これだけ木々があれば焚き木もある。食べられる野草もあるだろうし、近くに水場があればすぐに死ぬ事はない。

さーて、神殿都市初の農奴となる土着の民は何人いるのやら…



「なんか大きな建物が見えてきたよ!」ダッ
「ウーリ走るな!」
「わぁ!」タタッ
「兄さん待って!」


視界の端に飛び込んできたのは半壊したいくつかの建物。

「エ、ウルリッヒ様!あれもしかして劇場かな?」
「え?あ、ホントだ。舞台らしきものがある」
「じゃああっちのあれって…もしかして音楽堂?」ピョンピョン
「お、落ち着いてエミル…」

ずっと観劇に行きたいって夢見てたウル様は大興奮!

「これは…」

なんとエドウィンまでもが目を輝かせている。

「学校で西の神殿について調べていたとき一枚の絵を見つけました。それはまさにこの場所。想像図かと思っておりましたが…」ホウ…「あれは古き誰かの郷愁だったのですね…」

「文法学校にそのようなものが?」
「ふふ、聖職者だけの特別な書庫に」

「実に面白い作りだ。まさか神殿のこれ程近くが娯楽街とは…」
「人々の営みを肌で感じていたのでしょう」

「じゃあここで演劇とか楽しんでいたのかな…楽しそう…」
「兄さん、いつか必ず復元します。あなたのために」ギュゥ

「あ…う、うん…」ポ

いくらエミルになったところでギーレンの領地ではろくな娯楽は無かっただろう。
ぎこちないけど嬉しそうなウル様。情の深い弟に押されて兄弟仲は順調なようだ。

ところでお気づきだろうか。エドはエミルに入ったウル様を兄さんと呼んでいる。
エミルと呼び捨てるのはどうしても抵抗があったのだろう。周囲はそれを、ウルリッヒを慕う〝兄貴分”の意味に受け取ったようだ。間違っちゃない。

「ねぇオスビー」
「なんだ?」
「エドは劇場を復元するんだって。オスビーは何を復元してくれるの?僕のために」
「ウーリの為に?…そうだな…」

いたずらな質問。けど今日の僕は少しばかり浮足立ってる。興奮しているのはなにもウル様だけじゃない。

「全てだ。ウーリ、全て復元してみせよう」
「全て…。楽しみだな…これが全部元通りになった姿」
「同感だ。丘を一望し想像するがいい。ここで人々が笑いながら幸せに暮らす様を」

じーん…これが繁栄を誇った西の神殿都市か…

「さあウーリ、手を。この石段を登れば恐らく頂き…行こう」
「うん!」ギュ!

いよいよ本拠地しんでんだ!




姿を現したそれは…まさに朽ちた神殿!けどその規模は僕たちの想像をはるかに上回っていた!

「すごーい!!!」
「えぇー?なにこれー!」

目の前に現れたのは女神と男神が並んだ見事な正面ファサードを持つプロピュライア。門となる建造物だ

「ウーリ、ウルリッヒ、ここは君たち神子の故郷も同然。先に入りたまえ」

「う、うん…せーの」

タス!

「う、うわぁ!絶景!」
「エミ、ウルリッヒ様海だよ!見て!海だよ!」タタタ
「待って兄さん!」
「お、落ち着いてエミル!」

初めて見る海にウル様はまたもや大興奮!
丘の頂となるそこから見渡す海はどこまでも青く果てしない。

「なるほど…。ここは一つの神殿でなく神殿の集合体なのだな」
「嘘みたい…これが何千年も前のものだって言うの?」

「だがこれだけは言える。東の王城。あそこはここに似せて造られたのだ」

丘陵の頂に神殿があり広大な敷地の突き当りには崖がある。海と荒れ地の違いはあれどこれは防衛のための立地だ。古の彼らは放棄した都市を再現しようとしたんだろう。もっとも改良された新都市である東のほうが何倍も広いけれど。


思い思いに散策は続く。

「これはほぼ柱だけ…とても住めそうにないね」
「大きな四阿と思えばいい。実に見事な景観じゃないか」

「こっちは屋根以外はほぼ残ってるよ」
「大変だが直せば使えそうだ」

大昔の神殿では屋根部分に木材が使われる。だから屋根だけ数千年の間に落ちちゃうんだね。

「ウルリッヒ様。あちらが主たる神殿ではないでしょうか」

一人の傭兵が指指す先には大きな神殿がある。どうやらアーチ形の石天井らしいそれはほぼ原形を保っている。

「ウルリッヒ。中を見てみよう」

ひんやりとした大理石の神殿内部。
柱の立ち並ぶ吹き抜けになったそこは身廊が伸び、そしてその真正面では少し高い位置から巨大なバルデルス様が睨みをきかせている。

「なんとも素晴らしい…これほどのものを古代の技術でどのように建てたのか…」
「これが放棄されたなんて…もったいない」
「見てください、あの柱頭を。なんと見事な装飾でしょう…」

「あっちにも何かあるみたい」タタッ

キョロキョロしながらエドの手を引いて走り出すウル様。


そうだよね。ウキウキはもう止まらない!







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