やり直しの神子は長生きしたい

kozzy

文字の大きさ
45 / 138

二人で語り合う夜

しおりを挟む
ソルトロードが使えない今、西の辺境領一帯では北ルートでしか物を仕入れられない状況だ。
つまり物資が足りないのはここだけじゃない。
そこで僕たちは木を伐採して家具を作ったり空き土地を開墾したり(硝石あるしね)、出来る限り自給自足を心掛けようと話し合っていた。
あまり近隣領主に迷惑ばかりかけられない。

当面の麦などは二か月の道中少しづつ買い溜めてきた。
そして南部入りの直前、あのグレーデン伯爵邸で近隣当主たちからはそれぞれ物資を支援していただいている。追加支援のお願いは出来る限り避けたいところ。

西領中央部の管理者はグレーデン伯爵の弟さんであるグラーツ子爵だ。彼には農具や工具を大量にお願いしたが、もちろん「廃棄用の古いもので構いません」と一言添えるのを忘れなかった。

あの病は暑期に発生して雨期に拡大する。今は乾期ということもあって周囲の病に対する警戒も緩い。
今じゃなければ商取引も流石に出来なかったとグラーツ子爵からは言われていた。

その言葉は非常に重い…

だってその言葉は、この乾期の間に生活基盤を整えないとマズイってことと、一人の病人も出さないで暑期雨期を乗り越えなければいくら予防薬があってもこの土地に人は戻らない、ってことを意味している。


「何故でしょうウルリッヒ様。私たちが健やかに暮らしを営めば安心を感じてはいただけませんか?」
「エド、ここには僕がいる。再生の力を持つ僕がね。奥の手を疑われたら意味がないんだよ」

「だからこそ予防薬の効果を信じさせるためにも病による東の瓦解は逆に良い対比となるな」
「さすが分かってるねオスビー」

こうして僕たちは生まれ変わりを知る四人による、裏の話し合いをコソコソと重ねていた。



因みに表の話し合いとはオスヴァルトを中心とした、騎士、貴公子たちによる決起集会のことだ。

オスヴァルトはすでに貴公子たちの旗頭となっている。

貴公子たちは地震、橋の崩壊を神からの合図と感じたようだ。

僕を爆破現場から連れ戻ったあの翌朝、オスヴァルトは彼らに囲まれ詰め寄られていた。

「今こそ立つべきです!この国を正せるのはあなたしか居ない!」
「正当な決起には王家の血が必要だ!オスヴァルト殿下、ご決断を!」

早朝からモテモテなオスビーに僕がこっそり笑ってたのはナイショね。



北側諸国の襲撃を何度も押し退け、何千年も大きな問題を抱えることなく繁栄をつづけたこのアードラスヘルム国。
そこに陰が差し始めたのはこの数代のことだ。

そして今その陰はもっとも闇深くなろうとしている。

腐敗した国の腐敗した王朝には腐敗した大臣が居座り、そしてまた腐敗した諸侯は悪い見本のまま領地へ戻り腐敗した統治をおこなう。

…つけを払うのはいつでも庶民だ。
ソルトロードでの旅は僕たちにいろんな現実を見せてくれた。

いつも王城で姿を見かけた羽振りのよさそうな貴族たち。彼らの治める領では農民はボロを纏い農具は旧式だった。
ギーレン領のように農民ですら笑顔なのはとても珍しい。代わりにあの領の運営は常に大赤字だ。

これだけ繁栄した国で末端に豊かさが行き渡らないのは上から順に取っちゃうからだ。
城の御馳走と一緒。どんな豪勢な食事だって下層使用人のところに下りて来る頃にはカスしか残らない。

「仕組みを変える必要がある。だが先ずは国の膿を除かなければ」

オスヴァルトの言葉に俄然漲る貴公子たち。

とは言え、オスビーはほっといても王家が瓦解することを知っている。
なので彼らのそのヤル気はこの国をどんな国にしていくか、そういった発展的な部分に主軸を置いて話し合うようお願いしている。


そんな南部入りして数日目の夜…

「やっぱり入植者は当分増えないんだよね…」ガクリ…

農作業の開始…住居の修繕拡張…家具や備品の製作…人手が足りなさ過ぎて心がめげそう。

「だが人が少なければ管理は容易い。多くの物資を用意できない今の私たちにはむしろ好都合だと思わないか」

「まあね…」
「ああ。私も率先して働くつもりだ。ウーリ、君たちは調薬に専念してくれ。グズグズしていてはすぐに暑期がくる」
「わかってる!」

そう!やるしかない!



丘の斜面では初の都市民とも言える彼らがせっせと家屋の修繕、草刈りに励み、ほんの数週間で石畳はほとんど姿をあらわした。

「フッ」
「何笑ってるの?」
「いや、馬車道が使えるようになったというのに馬車に乗って行く先がない、そう思ってね」

「あー、ね。でも海岸に下りる道ができたから食事に魚が並ぶようになったじゃない」

「大量に刈った草のおかげで馬の餌には事欠かないと騎士たちが笑っていたな」
「良かったじゃん」
「明日は私も海へ行くつもりだ」
「…何しに?」
「ニシンを釣りに」
「釣れるの?」
「見ているがいい。うまい魚を食べさせてやろう」

結果?さあ…?
だって全員分の収穫が桶にまとめてあっちゃね。
けど口数少ないところをみるに結果はお察しで。

また少し元気になった農奴たちはせっせと農地作りに励んでいる。そこには麦の種を撒く予定だ。


現在この街の食事は『神子の館』改め『貴公子の館』の厨房でまとめて作り、僕たちの配膳分以外は下の広場で配給している。
彼らは全員が同じように器を持って並び、それぞれに具のあるスープと干し肉、パンを受け取り、家に戻って食べたり、広場に配置した切り株椅子に腰掛けお喋りを楽しみながら食べたりしているのだが、体力を酷使しているわりになんだか楽しそうだ。

「当然だウーリ。自分の住む街を自分の手で切り拓く、夢のある話しじゃないか」
「オスビーも毎日楽しそうだもんね。ちょっと焼けたんじゃない?」
「私は気にしない」

僕も気にしない。真っ白な籠の鳥より陽に焼けた今のオスヴァルトの方が断然きりっとしてカッコ良い。カッコ…

「…」ブルブル
「どうした?」
「ううん別に」

今のはなしで。

「知っているかウーリ」
「何を?」
「この南部に入ったあの日は私の誕生日だった」
「ウソ!何で言ってくれなかったの!」

知ってたらお祝いしたのに…水臭い…

「成人の儀を行う十六でもあるまい。私も忘れていたくらいだ。ただ…」
「ただ?」
「ふと思ったのだよ。まるでこの都市は君から私へ贈られた祝いのようだな…と」
「ぷっ!」

「何故笑うウーリ!」

「だって僕も同じこと考えた」
「同じこと?」
「王城を出る日。あの日は僕が十四になった日で…まるでこの旅立ちは僕への贈り物だなって」

「十四になった?…何故言わなかった!」
「ほら、同じこと言ってる」

よく似た僕たちは考えることも同じ。それがなんだか嬉しい…

「ウーリ、十五の誕生日は盛大にやろう」
「じゃあ二十一の誕生日も」

っていうか、オスヴァルトの誕生日が南部入りした日なら、それって建国記念日じゃないか!

「オスビーの誕生日は都市民全員で祝おう!」

王様の誕生日として、それはもう盛大に!




しおりを挟む
感想 233

あなたにおすすめの小説

その首輪は、弟の牙でしか外せない。

ゆずまめ鯉
BL
養子ゆえに、王位継承権を持たないオメガで長男のレイン(24)は、国家騎士団として秘密裏に働き、ただ義弟たちを守るためだけに生きてきた。 第一継承権を持つアルファで次男のリオール(19)は、そんな兄に「ごく潰し」と陰口を叩く連中を許せなかった。自分を犠牲にしてまで守る価値はないと思っていた。なにかと怪我の多い国家騎士団を辞めさせたかった。 初めて訪れた発情期のとき。約束をすっぽかされたリオールが不審に思い、兄の部屋へ行くと、国家騎士団の同僚──グウェンソード(28)に押し倒されるところを目撃して激高する。 「今すぐ部屋から出ろ!」 独占欲をあらわにしたリオールは、グウェンソードを部屋から追い出し、兄であるレインを欲望のままに抱いた。 翌朝、差し出されたのは特注の首輪──外せるのはリオールのみ。 「俺以外に触らせるな」 そう囁かれたレインは、何年も首輪と弟の執着に縛られ続けてきた。 弟には婚約者がいるのに、こんな関係を続けてもいいのか。 本当にこのままでもいいのか。 ひたすら執着して独占したがる弟と、罪悪感に苛まれる兄。 その首輪は、いつか弟の牙で血に染まるのか──。 どうにかしてレインを落としたいリオールと、弟との関係に悩むレインのオメガバースです。 リオール・グランケット(19)×レイン・グランケット(24) ※この作品は2015年頃に本文を書き、2017年頃にオメガバースに改稿、さらに2026年に手直しした作品になります。読みにくいかもしれません。ご了承ください。 三人称ですが攻めだったり受けだったり視点がよくかわります。攻め視点多めです。

魔力ゼロのポーション屋手伝い

書鈴 夏(ショベルカー)
BL
15歳で測定する魔力の量によって、人生の大部分が左右されてしまう世界。 そんな世界で、運命の日を迎えたひとりの平凡な少年──リクは、抱いた淡い期待を大きく裏切られる。魔力が前代未聞のゼロと言い渡されたのだ。 深い絶望とともに頭を抱えていたとき、森でポーション屋を営んでいるというくたびれた男が声をかける。路頭に迷っていたリクは、店で手伝いをしてはどうかという彼の誘いを受けることにする。 捨てかけた夢を拾ってもらった少年と、拾った男。ふたりが絆を深めていく、ポーション屋でのお話です。 一人称おじさんくたびれ男性×魔力ゼロ以外平凡青年のBLです。 カクヨムにも載せています。(完結済み)

カランコエの咲く所で

mahiro
BL
先生から大事な一人息子を託されたイブは、何故出来損ないの俺に大切な子供を託したのかと考える。 しかし、考えたところで答えが出るわけがなく、兎に角子供を連れて逃げることにした。 次の瞬間、背中に衝撃を受けそのまま亡くなってしまう。 それから、五年が経過しまたこの地に生まれ変わることができた。 だが、生まれ変わってすぐに森の中に捨てられてしまった。 そんなとき、たまたま通りかかった人物があの時最後まで守ることの出来なかった子供だったのだ。

私だけが愛して1度も笑ったことの無い夫が、死んだはずの息子を連れてもどってきた

まつめ
恋愛
夫はただの一度も私に笑いかけたことは無く、穏やかに夫婦の時間をもったこともない。魔法騎士団の、騎士団長を務める彼は、23年間の結婚生活のほとんどを戦地で過ごしている。22歳の息子の戦死の知らせが届く。けれど夫は元気な息子を連れて私の元に戻って来てくれた。

塩対応の同室αが実は俺の番を狙っていた

雪兎
BL
あらすじ 全寮制の名門学園に入学したΩの俺は、入寮初日から最悪の同室相手に当たった。 相手は学年でも有名な優等生α。 成績優秀、運動もできる、顔もいい。なのに—— めちゃくちゃ塩対応。 挨拶しても「……ああ」。 話しかけても「別に」。 距離も近づけないし、なぜか妙に警戒されている気がする。 (俺、そんなに嫌われてる……?) 同室なのに会話は最低限。 むしろ避けられている気さえある。 けれどある日、発情期トラブルで倒れた俺を助けてくれたのは、 その塩対応αだった。 しかも普段とは違い、必死な顔で言われる。 「……他のαに近づくな」 「お前は俺の……」 そこで言葉を飲み込む彼。 それ以来、少しずつ態度が変わり始める。 距離は相変わらず近くない。 口数も少ない。 だけど―― 他のαが近づくと、さりげなく間に入る。 発情期が近いと察すると、さりげなく世話を焼く。 そして時々、独占欲を隠しきれない視線。 実は彼はずっと前から知っていた。 俺が、 自分の運命の番かもしれないΩだということを。 だからこそ距離を取っていた。 触れたら、もう止まれなくなるから。 だけど同室生活の中で、 少しずつ、確実に距離は変わっていく。 塩対応の裏に隠されていたのは―― 重すぎるほどの独占欲だった。

秘匿された第十王子は悪態をつく

なこ
BL
ユーリアス帝国には十人の王子が存在する。 第一、第二、第三と王子が産まれるたびに国は湧いたが、第五、六と続くにつれ存在感は薄れ、第十までくるとその興味関心を得られることはほとんどなくなっていた。 第十王子の姿を知る者はほとんどいない。 後宮の奥深く、ひっそりと囲われていることを知る者はほんの一握り。 秘匿された第十王子のノア。黒髪、薄紫色の瞳、いわゆる綺麗可愛(きれかわ)。 ノアの護衛ユリウス。黒みかがった茶色の短髪、寡黙で堅物。塩顔。 少しずつユリウスへ想いを募らせるノアと、頑なにそれを否定するユリウス。 ノアが秘匿される理由。 十人の妃。 ユリウスを知る渡り人のマホ。 二人が想いを通じ合わせるまでの、長い話しです。

番を拒み続けるΩと、執着を隠しきれないαが同じ学園で再会したら逃げ場がなくなった話 ――優等生αの過保護な束縛は恋か支配か

雪兎
BL
第二性が存在する世界。 Ωであることを隠し、平穏な学園生活を送ろうと決めていた転校生・湊。 しかし入学初日、彼の前に現れたのは―― 幼い頃に「番になろう」と言ってきた幼馴染のα・蓮だった。 成績優秀、容姿端麗、生徒から絶大な信頼を集める完璧なα。 だが湊だけが知っている。 彼が異常なほど執着深いことを。 「大丈夫、全部管理してあげる」 「君が困らないようにしてるだけだよ」 座席、時間割、交友関係、体調管理。 いつの間にか整えられていく環境。 逃げ場のない距離。 番を拒みたいΩと、手放す気のないα。 これは保護か、それとも束縛か。 閉じた学園の中で、二人の関係は静かに歪み始める――。

『魔力ゼロの欠陥品』と蔑まれた伯爵令嬢、卒業パーティーで婚約破棄された瞬間に古代魔法が覚醒する ~虐げられ続けた三年間、倍返しでは足りない~

スカッと文庫
恋愛
「貴様のような無能、我が国の王妃には相応しくない。婚約を破棄し、学園から追放する!」 王立魔道学園の卒業パーティー。きらびやかなシャンデリアの下、王太子エドワードの声が冷酷に響いた。彼の隣には、愛くるしい表情で私を嵌めた男爵令嬢、ミナが勝ち誇ったように寄り添っている。 伯爵令嬢のリリアーヌは、入学以来三年間、「魔力ゼロの欠陥品」として学園中の嘲笑を浴び続けてきた。 婚約者であるエドワードからは一度も顧みられず、同級生からはゴミのように扱われ、ミナの自作自演による「いじめ」の濡れ衣まで着せられ……。 それでも、父との「力を隠せ」という約束を守るため、泥を啜るような屈辱に耐え抜いてきた。 ――だが、国からも学園からも捨てられた今、もうその約束を守る必要はない。 「さようなら、皆様。……私が消えた後、この国がどうなろうと知ったことではありませんわ」 リリアーヌが身につけていた「魔力封印の首飾り」を自ら引き千切った瞬間、会場は漆黒の魔力に包まれた。 彼女は無能などではない。失われた「古代魔法」をその身に宿す、真の魔道の主だったのだ。 絶望する王太子たちを余目に、隣国の伝説の魔術師アルベルトに拾われたリリアーヌ。 彼女の、残酷で、甘美な復讐劇が今、幕を開ける――。

処理中です...