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夜明け
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東からの賓客が帰路につき、神殿では改めて伯爵の協力が貴公子たちに知らされた。
「なんという鮮やかな流れ…」
「ウルリッヒ様はこれを予見しておられたのですか!? 」
「そうじゃないカーステン!」
「な、なにがだ…フェリクス」
「落橋に始まり…これは我らに血を流させんとするウルリッヒ様の起こされた奇蹟に違いない!お力を貸していただけた、そうなのですね⁉ 」
黙ったまま意味ありげに微笑んでおく。どう解釈するかは個人の自由だ。
「ああやはり…」
「神子の救いを手にしたのは反王家派。そして神子を軽んじた者たちの末路はご覧の通り」
「では蜂起する必要もなく王朝は瓦解したということか!」
「これこそが神の思し召しだ!」
「だが東の宮廷はどうなる!」
一斉に集まる視線。そうだね。オスビーだね。
「無事であるなら王弟リュディガー様が仮の王になるのだろう。あの方は信頼に足るお方だ」
「何を仰る殿下!王家を王家足らしめる神の使いはここに居るではありませんか!」
確かに…
アードラスヘルム国設立より神子を囲い込んでいた王家。〝奇蹟の神子”は王家の象徴と言える。
ナンナー伯の話を聞いた今なら、何故癒しの神子があれほど命を搾取され続けても王家と共にあったか…その理由がわかるってものだ。
正直言うと、僕とオスビーが再興したいのはこの神殿都市であって国の舵取りなんて本気でしたい訳じゃない。
王弟がその気ならそれはそれで……っていうわけにはいかないんだろうな。
「オスヴァルト様は王が自ら印を手渡された正式な王子!ならば王も王太子も亡き今、王位の継承は直系血族オスヴァルト様にございます!」
すっかりその気の若木たち。
「王弟殿下と手を携えるのは至極結構。ですが国の長たるはオスヴァルト殿下でなくてはなりません!」
「落ち着くのだ皆。この雨期の終わり、この禁忌の地がいかに豊かで幸福に満ちているか、まず我々はそれを全ての民草に見せつける必要がある!」
根強い悪評があるからね…
「ではこの雨期を超えさえすれば東から多くの謁見希望が舞い込むのは目に見えて明らか。備えねばなりません」
「皆!編成案を出すのだ!」
「宮廷を整えよ!」
あっつ!熱いよ坊ちゃんたち!
若木たちは新たな大志に燃えている。
「今少しいい?」
「エミル…どうしたの?もちろんいいよ」
時は真夜中。会議を終えたオスビーの戻りを待ってようやく眠ろうかというところだ。
ウル様の横には当然の如くエドがいる。ちょっとやきもち…
「オスヴァルト様、あの話を覚えておいででしょうか」
「ああ。例の話だな」
「東の結末を見届けてから、そういう約束でした。ではもうよいのではないでしょうか」
「そうだな…。そろそろウーリの未来に目を向けてもよいのだろう」
「僕の未来…?」
これは岩場で聞かされたあの話のことなのだろう。
「長生きのことなら子爵邸の護衛を癒して以来、力は使ってないよ」
「それは分かっています。ですが私の話はもっと抜本的な話になります」
ん?この話はエド発信なのか。
「ウルリッヒ様、ナンナー伯爵はこれで許されたと信じておられますがその保証はどこにあるでしょう」
「え?うん、まあ…」
身も蓋もない…
けど本人が重荷をおろしてるんだから別にいいじゃないか。
僕は長生きする予定だし、ナンナーの当主は次の神子選定を待たず故人となる。
「もし伯爵が仰るよう次代の神子が生まれ出なかったとしても…ウルリッヒ様にその救いは届きません」
まあ…すでに神子として存在しちゃってるからね。
「あの日ナンナーの大奥様はこう仰いました」
『神バルデルスの力は再生と崩壊、神はお与えくださるが気を損ねれば奪いもなさる』
「私たちは教会の教えで神の力を死と再生、そう教わりますね?ですがナンナーの大奥様は再生と崩壊、そうはっきり仰いました」
再生と崩壊…ねぇ。
ナンナー伯もそんなこと言ってた気がする。話が見えないな。
「実に神様らしい概念だけど…、それがなに?」
「分かりませんか?神子とは神の力を体現する者。であれば神子もまた崩壊の力を持つのではないでしょうか?」
「崩壊の力って…」
まあ…東の王家を崩壊させた手腕のことを指すならあながち間違っちゃない。
「私は神の偉業、神の奇蹟と呼ばれる数多の事例を、とりわけ装飾された近年語られるお伽話のような奇蹟ではなく、特別書庫の文献に残された史実として語られる古き奇蹟について調べました」
そしてエドは気付いたという。
崩壊とは、物質の破壊や物事の瓦解を想像しがちだが、神の力においては消失…衰退…枯渇…、様々な形で示されるのだと。
「そしてこの地で…神殿内部の壁画に刻まれた古代文字の中に私の考えを裏付ける記述を見つけたのです」
「はっきり申せ、エド」
神の一族が住まう古のサンクトアリウム、楽園さながらのその地ではどんな悪も許されなかった。
古の神殿都市に裁判などというものはない。そこは神の代理である君主の領域。
ある時、この神殿都市に異分子が群れで紛れ込んだ。
凶漢は捕らえられるとバルデルス神の前に引きずり出された。
すると神はこの地を血で汚した男たちに罰を与えた。
その罰とは…
「神は罪人の生命力を奪い、代わりに病人や身体の弱い者に分け与えていった、と」
「!」
「だからナンナーの始祖は再生の力で救われると信じたんだ…」
「あの巨大な神の像にそのような力が?」
「何千年も前の話です。嘘か真かなど論じても意味のないこと。ただ私は…神に双方向の譲渡が可能ならば癒しの神子にも可能なのではないか、そう考えたまでです」
ガタ!
立ち上がったのはオスビーとウル様。
「エミル!今すぐ奪って!僕の生命力!」
「ウーリ!私の生命力を使うがいい!」
「ちょ…落ち着いてって…」
そんな力感じたこともない。ウル様だって身に覚えないでしょーが!
そう言うとガッカリと椅子に崩れ落ちる二人。
気持ちは嬉しいけど…
もし出来たって二人の生命力は奪わないからね?
「私が話し合いたいと申しましたのはまさにその部分です」
どうすれば生命力を神子に譲渡できるか…
僕以上の使命感に燃えた二人によって、話し合いは夜を徹して行われる。
「そもそもその生命力はどこから持ってくるの?」
「私の」
「だからイヤだってば!」
「僕の」
「いいえ!それでしたら私のをお使いください!」
「どっちも要らないってば!」
「では古の神と同じく罪人から…」
「そんな穢れた生命力もっと要らない!」
既に外は白みはじめている。
その時僕たちは全員、行方不明になった睡魔のせいでおかしな精神状態に支配されていた。
「僕の頭脳に悪心が合体したら巨悪の誕生でしょうが!」
「確かにそうだ。ウーリと一体になるのは私だけでいい」
「は?オ、オス」
「あはは!一睡もせず夜を明かすんですか?オスヴァルト様激し過ぎです!」
「え?ウルさ」
ガタン!
その時エドが椅子を倒しながら勢いよく立ち上がった。
「わかった!分かりました!」
落ち着きのある佇まいには定評のあるエドまでがどこかおかしい…
「何がわかったのだ」
「わ、わかりはしましたが…その、私の口からそれをいうのは憚られます…」
真っ赤になるエド…何事?
「エド、ウーリの未来がかかっているのだ、躊躇うのではない!」
「…成人のオスヴァルト様にならお分かりになるはずです」
「と言うと?」
エドの告げる幾つかの断片。それは…
不要な生命…
一体…
朝焼け…
そして…
愛し合う二人。
「なんという鮮やかな流れ…」
「ウルリッヒ様はこれを予見しておられたのですか!? 」
「そうじゃないカーステン!」
「な、なにがだ…フェリクス」
「落橋に始まり…これは我らに血を流させんとするウルリッヒ様の起こされた奇蹟に違いない!お力を貸していただけた、そうなのですね⁉ 」
黙ったまま意味ありげに微笑んでおく。どう解釈するかは個人の自由だ。
「ああやはり…」
「神子の救いを手にしたのは反王家派。そして神子を軽んじた者たちの末路はご覧の通り」
「では蜂起する必要もなく王朝は瓦解したということか!」
「これこそが神の思し召しだ!」
「だが東の宮廷はどうなる!」
一斉に集まる視線。そうだね。オスビーだね。
「無事であるなら王弟リュディガー様が仮の王になるのだろう。あの方は信頼に足るお方だ」
「何を仰る殿下!王家を王家足らしめる神の使いはここに居るではありませんか!」
確かに…
アードラスヘルム国設立より神子を囲い込んでいた王家。〝奇蹟の神子”は王家の象徴と言える。
ナンナー伯の話を聞いた今なら、何故癒しの神子があれほど命を搾取され続けても王家と共にあったか…その理由がわかるってものだ。
正直言うと、僕とオスビーが再興したいのはこの神殿都市であって国の舵取りなんて本気でしたい訳じゃない。
王弟がその気ならそれはそれで……っていうわけにはいかないんだろうな。
「オスヴァルト様は王が自ら印を手渡された正式な王子!ならば王も王太子も亡き今、王位の継承は直系血族オスヴァルト様にございます!」
すっかりその気の若木たち。
「王弟殿下と手を携えるのは至極結構。ですが国の長たるはオスヴァルト殿下でなくてはなりません!」
「落ち着くのだ皆。この雨期の終わり、この禁忌の地がいかに豊かで幸福に満ちているか、まず我々はそれを全ての民草に見せつける必要がある!」
根強い悪評があるからね…
「ではこの雨期を超えさえすれば東から多くの謁見希望が舞い込むのは目に見えて明らか。備えねばなりません」
「皆!編成案を出すのだ!」
「宮廷を整えよ!」
あっつ!熱いよ坊ちゃんたち!
若木たちは新たな大志に燃えている。
「今少しいい?」
「エミル…どうしたの?もちろんいいよ」
時は真夜中。会議を終えたオスビーの戻りを待ってようやく眠ろうかというところだ。
ウル様の横には当然の如くエドがいる。ちょっとやきもち…
「オスヴァルト様、あの話を覚えておいででしょうか」
「ああ。例の話だな」
「東の結末を見届けてから、そういう約束でした。ではもうよいのではないでしょうか」
「そうだな…。そろそろウーリの未来に目を向けてもよいのだろう」
「僕の未来…?」
これは岩場で聞かされたあの話のことなのだろう。
「長生きのことなら子爵邸の護衛を癒して以来、力は使ってないよ」
「それは分かっています。ですが私の話はもっと抜本的な話になります」
ん?この話はエド発信なのか。
「ウルリッヒ様、ナンナー伯爵はこれで許されたと信じておられますがその保証はどこにあるでしょう」
「え?うん、まあ…」
身も蓋もない…
けど本人が重荷をおろしてるんだから別にいいじゃないか。
僕は長生きする予定だし、ナンナーの当主は次の神子選定を待たず故人となる。
「もし伯爵が仰るよう次代の神子が生まれ出なかったとしても…ウルリッヒ様にその救いは届きません」
まあ…すでに神子として存在しちゃってるからね。
「あの日ナンナーの大奥様はこう仰いました」
『神バルデルスの力は再生と崩壊、神はお与えくださるが気を損ねれば奪いもなさる』
「私たちは教会の教えで神の力を死と再生、そう教わりますね?ですがナンナーの大奥様は再生と崩壊、そうはっきり仰いました」
再生と崩壊…ねぇ。
ナンナー伯もそんなこと言ってた気がする。話が見えないな。
「実に神様らしい概念だけど…、それがなに?」
「分かりませんか?神子とは神の力を体現する者。であれば神子もまた崩壊の力を持つのではないでしょうか?」
「崩壊の力って…」
まあ…東の王家を崩壊させた手腕のことを指すならあながち間違っちゃない。
「私は神の偉業、神の奇蹟と呼ばれる数多の事例を、とりわけ装飾された近年語られるお伽話のような奇蹟ではなく、特別書庫の文献に残された史実として語られる古き奇蹟について調べました」
そしてエドは気付いたという。
崩壊とは、物質の破壊や物事の瓦解を想像しがちだが、神の力においては消失…衰退…枯渇…、様々な形で示されるのだと。
「そしてこの地で…神殿内部の壁画に刻まれた古代文字の中に私の考えを裏付ける記述を見つけたのです」
「はっきり申せ、エド」
神の一族が住まう古のサンクトアリウム、楽園さながらのその地ではどんな悪も許されなかった。
古の神殿都市に裁判などというものはない。そこは神の代理である君主の領域。
ある時、この神殿都市に異分子が群れで紛れ込んだ。
凶漢は捕らえられるとバルデルス神の前に引きずり出された。
すると神はこの地を血で汚した男たちに罰を与えた。
その罰とは…
「神は罪人の生命力を奪い、代わりに病人や身体の弱い者に分け与えていった、と」
「!」
「だからナンナーの始祖は再生の力で救われると信じたんだ…」
「あの巨大な神の像にそのような力が?」
「何千年も前の話です。嘘か真かなど論じても意味のないこと。ただ私は…神に双方向の譲渡が可能ならば癒しの神子にも可能なのではないか、そう考えたまでです」
ガタ!
立ち上がったのはオスビーとウル様。
「エミル!今すぐ奪って!僕の生命力!」
「ウーリ!私の生命力を使うがいい!」
「ちょ…落ち着いてって…」
そんな力感じたこともない。ウル様だって身に覚えないでしょーが!
そう言うとガッカリと椅子に崩れ落ちる二人。
気持ちは嬉しいけど…
もし出来たって二人の生命力は奪わないからね?
「私が話し合いたいと申しましたのはまさにその部分です」
どうすれば生命力を神子に譲渡できるか…
僕以上の使命感に燃えた二人によって、話し合いは夜を徹して行われる。
「そもそもその生命力はどこから持ってくるの?」
「私の」
「だからイヤだってば!」
「僕の」
「いいえ!それでしたら私のをお使いください!」
「どっちも要らないってば!」
「では古の神と同じく罪人から…」
「そんな穢れた生命力もっと要らない!」
既に外は白みはじめている。
その時僕たちは全員、行方不明になった睡魔のせいでおかしな精神状態に支配されていた。
「僕の頭脳に悪心が合体したら巨悪の誕生でしょうが!」
「確かにそうだ。ウーリと一体になるのは私だけでいい」
「は?オ、オス」
「あはは!一睡もせず夜を明かすんですか?オスヴァルト様激し過ぎです!」
「え?ウルさ」
ガタン!
その時エドが椅子を倒しながら勢いよく立ち上がった。
「わかった!分かりました!」
落ち着きのある佇まいには定評のあるエドまでがどこかおかしい…
「何がわかったのだ」
「わ、わかりはしましたが…その、私の口からそれをいうのは憚られます…」
真っ赤になるエド…何事?
「エド、ウーリの未来がかかっているのだ、躊躇うのではない!」
「…成人のオスヴァルト様にならお分かりになるはずです」
「と言うと?」
エドの告げる幾つかの断片。それは…
不要な生命…
一体…
朝焼け…
そして…
愛し合う二人。
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