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怒らせる人 一人目
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目の前にいるのが王弟リュティガー様…
王弟とオスヴァルトの立ち位置がはっきりしない今、謁見の間にある玉座にどちらかが座ることはまだ出来ない。
そこで挨拶を兼ねた会談として王宮会議室を使用することになっている。
入り口から向かって右奥が王弟とブリッタ様。左奥が僕とオスヴァルト、そして僕の後ろに控えるのが王城神官長だ。
記憶の残骸を呼び起こす。
あれはウル様が王城に上がったとき、ブリッタ様とリュティガー様は揃って神殿まで挨拶にいらしていた。
お会いするのはそれ以来でほとんど記憶にない…要するに影が薄い。
王弟は非常に知的な人物だともっぱらの噂だが、あまり行動的な方じゃないのは王弟の行う王族活動の数で見当がつく。人道支援に精を出すブリッタ様の方がずっと活動的だ。
オスビーは家庭教師だけではいき届かない、宮廷や政治に関する様々な知識をこのリュティガー様から教わったと言っていたが、知識はあっても行動に移さない、つまり頭でっかちの人物ってことだね。
まあ…王妃の危険さを見抜くだけの洞察力を持ちながら後の行動が引き籠り…っていう時点で…ねぇ?
さて、序列を分かりやすく示すのがアードラスヘルムの身分社会。
「お久しぶりです王弟殿下」
「これは…神子ウルリッヒ様、ご健勝であられたか」
空気の変わる室内。
これで僕は神子のほうが上、と周囲に対して示したことになる。
「王弟殿下になんという…」
「今代の神子は相も変わらず不躾であるな」
小さく聞こえた不満の声。なるほど…あの辺りが前王派の残りカスか…
「リュティガー様、ハッキリさせておきますが僕たちがここへ来たのは遷都についての話し合いと王位継承の手続きをするためです」
「ウーリ!ウルリッヒ!」
とっさに制止するオスビー。彼は王弟を慕っている。敵対したいとは考えていない。王弟も王弟で見たところ野心家には思えない。けど、果たして周囲はどうだろうか?
「オスヴァルト、言葉を飾ったって無意味だよ。ここにいるのはどうして神が前王を見放したか少しも理解出来てないバカばかりだ」
「ウルリッヒ!」
「よいのだオスヴァルト。ここに居る者の多くはこの一年を偶然王家を襲った悲劇の産物と考えている。神子であるウルリッヒが不信心を嘆くのも無理はない」
「リュティガー様、ですが…」
「神を崇める国アードラスヘルムにあって実になげかわしい…」
東に戻る道中オスヴァルトに聞かされた話では、宮廷人事は家門や派閥の釣り合いで決められるのが慣習だとか。
ってことは、いくら王弟が救済した下級官吏たちを重要な役職に登用したくとも、家門同士の話し合い…とやらで代替わりした家門からちゃっかり息子や親族がその座に収まったりもするってことだな?
だからと言って、前当主ほどの力は持てないだろう。癒着してた王家はもうないんだから。
なんにしても面倒だな…
その中にあってもっとも手強そうなのが僕の左前方。目の座った大柄な男。あの軍事を担う人物は…僕でも顔と名前が一致するフォルスト侯爵家当主!王妃エメリンの実父だ!
王妃エメリンの実父フォルスト侯爵は軍務大臣であり、あの伝染病騒動の時期、南端の小国を制圧に出ていて宮廷に顔をださなかったらしいんだよね。
王妃エメリンは初期感染者だ。屋敷から一報を受け取る頃にはすでに手遅れで、侯爵は悩んだすえ南国境の制圧を済ませるまで王都に戻らなかったらしい。
鋼の男か…ほんと厄介だな。
「王弟殿下、だからと言ってまともな王族教育も受けておらぬオスヴァルト殿下を王位に…などと酔狂がすぎましょう」
「フォルスト候!オスヴァルトにはこのわたくしが十分な教育を施しております!わたくしを侮辱されるか!」
「ブリッタ様が王族の中でも抜きんでて慈悲深い方なのは承知しておりますが…政務とは慈悲だけでは行えぬもの。同じことを私は神子ウルリッヒ様にも進言いたしましょう」
なるほど!
静かなる怒りが滲み出るブリッタ様。王妃エメリンとは十代の頃より犬猿の仲だったと聞いているが…その親ともやっぱり気は合わないらしい。
が、飛び火はいただけないなぁ…
「…何故そこで僕の名前が?」
「神子は王太子であったアルトゥール殿下からオスヴァルト殿下へと婚姻相手を挿げ替えておられる。気が多いものだと思いましてな。東と西、どちらにつくかはあなた様の今後に関わる。一言忠告までをと」
カッチーン!人を尻軽みたいに!失礼な!静観しようと思ってたけど…もう怒った!
「ほ、ほ~う?つまり侯爵は〝王を選定するのは神子”って言うのをお認めになるわけですね。そりゃ良かった。話が早くて」ツーン
「い、いやそうではない!」
「いつから神子が慈悲深いって思ってたんです?僕はもっと現実主義ですけど?」
「…なるほど。これが噂の傍系神子か」
「お言葉が過ぎますぞフォルスト候!」
神官長は怒りの抗議。どうやらこの侯爵は相当娘から聞かされていたんだろう。…僕の愚痴を。
イラ「しかしよくもまあヌケヌケと…、僕を王城神殿に戻す気でいるとか…正気?あなたの娘があなたの孫と結託して神子である僕を侮り貶めようとしていたこと…僕が知らないとでも思ってるんですか!」
「な、なにを根拠にそのような…」
「根拠もクソも!軍務大臣であるあなたが何の相談もされてないなんて言わせませんよ!」
ガタン!
「王家と共にあるはずの神子を王妃の身勝手な一存で王城から遠ざけた。それは王家の力を神子…教会よりも上だと慢心したからですよね!」
バン!!!
イタタ…二度と机は叩かないって思ってたのに…ついうっかり。
「フォルスト候!それが事実であるのならば思い上がりも甚だしいですぞ!」
「神官長お静まりを…神子様にはなにか誤解があるようだ」
「いいえ!神は全てお見通しです!僕は東の暴挙を許しません!神の裁きを甘く見ると後悔しますよ」
一瞬にして怯む室内。僕は本気だ。
「落ち着けウルリッヒ。この件は後日時間を設けよう」
すっかり僕対フォルスト候の構図になってしまったが…興奮したのはわざとだ。
これでここにいる全員に僕の姿勢は伝わっただろう。
王城神殿には意地でも戻らないっていう確固たる決意が。
王弟とオスヴァルトの立ち位置がはっきりしない今、謁見の間にある玉座にどちらかが座ることはまだ出来ない。
そこで挨拶を兼ねた会談として王宮会議室を使用することになっている。
入り口から向かって右奥が王弟とブリッタ様。左奥が僕とオスヴァルト、そして僕の後ろに控えるのが王城神官長だ。
記憶の残骸を呼び起こす。
あれはウル様が王城に上がったとき、ブリッタ様とリュティガー様は揃って神殿まで挨拶にいらしていた。
お会いするのはそれ以来でほとんど記憶にない…要するに影が薄い。
王弟は非常に知的な人物だともっぱらの噂だが、あまり行動的な方じゃないのは王弟の行う王族活動の数で見当がつく。人道支援に精を出すブリッタ様の方がずっと活動的だ。
オスビーは家庭教師だけではいき届かない、宮廷や政治に関する様々な知識をこのリュティガー様から教わったと言っていたが、知識はあっても行動に移さない、つまり頭でっかちの人物ってことだね。
まあ…王妃の危険さを見抜くだけの洞察力を持ちながら後の行動が引き籠り…っていう時点で…ねぇ?
さて、序列を分かりやすく示すのがアードラスヘルムの身分社会。
「お久しぶりです王弟殿下」
「これは…神子ウルリッヒ様、ご健勝であられたか」
空気の変わる室内。
これで僕は神子のほうが上、と周囲に対して示したことになる。
「王弟殿下になんという…」
「今代の神子は相も変わらず不躾であるな」
小さく聞こえた不満の声。なるほど…あの辺りが前王派の残りカスか…
「リュティガー様、ハッキリさせておきますが僕たちがここへ来たのは遷都についての話し合いと王位継承の手続きをするためです」
「ウーリ!ウルリッヒ!」
とっさに制止するオスビー。彼は王弟を慕っている。敵対したいとは考えていない。王弟も王弟で見たところ野心家には思えない。けど、果たして周囲はどうだろうか?
「オスヴァルト、言葉を飾ったって無意味だよ。ここにいるのはどうして神が前王を見放したか少しも理解出来てないバカばかりだ」
「ウルリッヒ!」
「よいのだオスヴァルト。ここに居る者の多くはこの一年を偶然王家を襲った悲劇の産物と考えている。神子であるウルリッヒが不信心を嘆くのも無理はない」
「リュティガー様、ですが…」
「神を崇める国アードラスヘルムにあって実になげかわしい…」
東に戻る道中オスヴァルトに聞かされた話では、宮廷人事は家門や派閥の釣り合いで決められるのが慣習だとか。
ってことは、いくら王弟が救済した下級官吏たちを重要な役職に登用したくとも、家門同士の話し合い…とやらで代替わりした家門からちゃっかり息子や親族がその座に収まったりもするってことだな?
だからと言って、前当主ほどの力は持てないだろう。癒着してた王家はもうないんだから。
なんにしても面倒だな…
その中にあってもっとも手強そうなのが僕の左前方。目の座った大柄な男。あの軍事を担う人物は…僕でも顔と名前が一致するフォルスト侯爵家当主!王妃エメリンの実父だ!
王妃エメリンの実父フォルスト侯爵は軍務大臣であり、あの伝染病騒動の時期、南端の小国を制圧に出ていて宮廷に顔をださなかったらしいんだよね。
王妃エメリンは初期感染者だ。屋敷から一報を受け取る頃にはすでに手遅れで、侯爵は悩んだすえ南国境の制圧を済ませるまで王都に戻らなかったらしい。
鋼の男か…ほんと厄介だな。
「王弟殿下、だからと言ってまともな王族教育も受けておらぬオスヴァルト殿下を王位に…などと酔狂がすぎましょう」
「フォルスト候!オスヴァルトにはこのわたくしが十分な教育を施しております!わたくしを侮辱されるか!」
「ブリッタ様が王族の中でも抜きんでて慈悲深い方なのは承知しておりますが…政務とは慈悲だけでは行えぬもの。同じことを私は神子ウルリッヒ様にも進言いたしましょう」
なるほど!
静かなる怒りが滲み出るブリッタ様。王妃エメリンとは十代の頃より犬猿の仲だったと聞いているが…その親ともやっぱり気は合わないらしい。
が、飛び火はいただけないなぁ…
「…何故そこで僕の名前が?」
「神子は王太子であったアルトゥール殿下からオスヴァルト殿下へと婚姻相手を挿げ替えておられる。気が多いものだと思いましてな。東と西、どちらにつくかはあなた様の今後に関わる。一言忠告までをと」
カッチーン!人を尻軽みたいに!失礼な!静観しようと思ってたけど…もう怒った!
「ほ、ほ~う?つまり侯爵は〝王を選定するのは神子”って言うのをお認めになるわけですね。そりゃ良かった。話が早くて」ツーン
「い、いやそうではない!」
「いつから神子が慈悲深いって思ってたんです?僕はもっと現実主義ですけど?」
「…なるほど。これが噂の傍系神子か」
「お言葉が過ぎますぞフォルスト候!」
神官長は怒りの抗議。どうやらこの侯爵は相当娘から聞かされていたんだろう。…僕の愚痴を。
イラ「しかしよくもまあヌケヌケと…、僕を王城神殿に戻す気でいるとか…正気?あなたの娘があなたの孫と結託して神子である僕を侮り貶めようとしていたこと…僕が知らないとでも思ってるんですか!」
「な、なにを根拠にそのような…」
「根拠もクソも!軍務大臣であるあなたが何の相談もされてないなんて言わせませんよ!」
ガタン!
「王家と共にあるはずの神子を王妃の身勝手な一存で王城から遠ざけた。それは王家の力を神子…教会よりも上だと慢心したからですよね!」
バン!!!
イタタ…二度と机は叩かないって思ってたのに…ついうっかり。
「フォルスト候!それが事実であるのならば思い上がりも甚だしいですぞ!」
「神官長お静まりを…神子様にはなにか誤解があるようだ」
「いいえ!神は全てお見通しです!僕は東の暴挙を許しません!神の裁きを甘く見ると後悔しますよ」
一瞬にして怯む室内。僕は本気だ。
「落ち着けウルリッヒ。この件は後日時間を設けよう」
すっかり僕対フォルスト候の構図になってしまったが…興奮したのはわざとだ。
これでここにいる全員に僕の姿勢は伝わっただろう。
王城神殿には意地でも戻らないっていう確固たる決意が。
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