やり直しの神子は長生きしたい

kozzy

文字の大きさ
68 / 138

怒らせる人 二人目

しおりを挟む
僕とフォルスト侯爵によって脱線してしまった宮廷会議。
王位についての話し合いはまた翌日以降に持ち越されることになる。まあいい。どうせ一日二日で結論の出る話じゃない。

そして本日は歓迎の大晩餐会がおこなわれる。いちいちやることが派手なのは前王朝からの習わしだ。

「少しは喪に服すとかすればいいのに…」
「こんな時だからこそ貴族たちの結束を固めるために開くのだそうだ。一応幾らか質素に行うという話だが?」
「どうだか…」

僕たちは王族専用の豪華な部屋で時間が来るのを待っていた。
オスビーはこの部屋を含め本宮殿に入るのは初めてのこと。出立式の時でさえ全ては宮殿の外庭で行われた。あの王妃の〝オスビーを王子として認めない”という執念は蛇をも超える。

そこへ行くと僕は王宮ぐらい慣れっこ…と言いたいところだが、アルトゥール目当てでここに出入りしていたのはウル様であって僕じゃない。
エミルだった僕はさすがに王族専用の場所についてくることは出来なかった。だからこそ僕は本宮下働きの部屋でゴシップ集めに精出してたわけだけど…何か問題が?

しかしまあ…なんて目に眩しい部屋だろう。

「分ってはいたけど…神殿中を宝石で飾っても追いつかないよ、コレ」
「ブリッタ様は華美な装飾がお好きではない。王妹宮の落ち着いた佇まいとは雲泥の差だ」

二人そろって室内の無駄な豪華さに呆れるばかり…だってその原資の出どころって…いうなれば王国民でしょ?まったく…

正直言うと僕に晩餐会へ出席する義務はない。神殿で修道士たちとご馳走食べる方がどれだけ気楽か。
だけど以前とは別の意味で命が危ない今のオスビー。彼が王妹宮に戻るまでは離れられない。僕は鉄壁の護衛だから。

繋いだ手と手。これは命を繋ぐ輸送管だ。もし毒物を口にしても瞬時に治癒ってね!

「晩餐の間、絶対この手を離さないで」
「…ああ」

声の調子がここへ来る時と変わっている。いつもなら僕の生命力を惜しむオスビーだけど、フォルスト候の姿を見た今さすがにそうは言っていられないのだろう。
もしかしたら例の裏技を発見したことに少し安心しているのかもしれない。ポッ…

「しかし…よりにもよってフォルスト侯が存命だったとは…」

オスビーにとってもこれは予想外。なにしろ「重責を担う大臣は全滅」そうブリッタ様の手紙には書いてあったから。

軍事を預かるフォルスト侯爵はいろんな意味で強硬派だ。
今オスビーから感じる緊張感は王妃の存命時と同じ深刻なもの。再びあの恐怖を感じさせるとは…血は争えない。

コンコン

ノックに対応した部屋付き従者から伝言を受けた神官長がさらに僕へ伝言を寄こす。入り口から大声で言えばいいのに…

「ウルリッヒ様、ご生家のリンデン伯が御目文字を願っておりますがいかがなされますか」
「えぇっ!」

王城神殿に居た時でさえ、あの〝癒し”を受けるとき以外、面会を申し出たことは一度もなかったリンデンの旦那様が面会…だと?

ピーン

はっは~ん…エドの件だな?

正直…僕が話すと冷淡になりそうで一抹の不安はあるが、ここにリンデンの旦那様が来たのも何かの啓示なのかもしれない。

「いいよ。お通しして」

なんて日だよ!あ、宮廷晩餐会の日か…
まあリンデン家を訪ねる手間が省けたと思えばこれはこれで。


少しも温もりを感じない室内の空気。

「ウルリッヒ。妻に癒しを与えてもらったあの日以来か」
「そうですね」

情の欠片すら感じさせない旦那様のご様子。良かった…ここにウル様が居なくて。こんなの見たら癒えかけた心がまた傷ついちゃう…

まともに視線も合わせないで見送ったあの時のウル様の気持ち、少しは考えろ!って怒鳴りたい気分だけど…僕はウル様…僕はウル様…

スーハー「それで何の用でしょう。癒しのご用命なら神官長を通してください」

「分かっているだろう…エドヴィンのことだ」
「さっぱりわかりません。エドヴィンがどうかしましたか?」

「返してもらいたい。あれはリンデン家の嫡子だ」
「…エドヴィンは嫡子の届けは破棄してきたって言ってました」
「それでもあれはリンデン家の息子だ。返してほしい」

カッチーン!この人は何を言っているのか分かってるんだろうか?ウル様を真似て静かに対応していたが…もう怒った!

「ちょ」
「リンデン伯、それではウルリッヒはあなたの息子ではない、そう聞こえるが」

身を乗り出した僕を制止したのはこちらも静かな怒りを含ませたオスビー。
その言葉はまさしく今僕が言おうとしたこと、そのものだ。

「殿下…、そう聞こえましたか。そのようなつもりはなかったが…そうとっていただいても構いませぬ」
「伯…、それは本気か?」

「ウルリッヒはリンデンを名乗ってこそいるがナンナーの一族というのが正しいのですよ。生まれ落ちた時からリンデンの当主である私に養育の権限はございませんでした。ましてや神子となった今、この子はリンデンに生まれただけの…神からの預かりものなのです。違いますか?」

「では親子の情は無いと申すか」
「親子の情など持たぬように育てられるのですよ殿下。これはナンナーの習わしなのです」



ナンナーの一族が幼少期において親子の情を排除し育てられるのは、いざ神子に選ばれた際、親と子、どちらの悲しみも軽減させるためだ。

その代の神子が選定されるとようやく親子の触れ合いは解放される。けど…

一番愛情を必要とするのは幼少期だ。
その時期に温もりを知らず育った子供はどこか歪な大人になる。
だから慈悲深きリンデンの亡き夫人でさえ人一倍感情に乏しく…「薄気味悪い」そう敬遠され夫の愛を得られなかった。

そこへいくとウル様があれほど人間臭く育ったのは自慢じゃないが僕のおかげだと自負している。

だけどウル様が神子に選ばれてしまった時…本音を言うと僕は少しだけ後悔した。豊かな感情なんか教えない方が良かったのかも…って。今はあれで良かったって感じてるけど。


ウル様があれほどアルトゥールの愛を欲したのは…多分そこに父の愛を重ねたからだ。
善良性の欠片もないアルトゥールなんかに…

今思えばアルトゥールとリンデンの旦那様は背格好が似ている。
自分より大きな男性に優しく励まされ背中を支えられた、ただそれだけのことでウル様は父親の代わりをアルトゥールに求めたんだ、きっと。

その全てを「ナンナーの習わし」そう言って切り捨てるのなら僕が言うべきは…

「ではナンナーの習わしに従って僕は世俗の事に口をはさみません。ご自分で勝手にどうぞ」

こうでしょ。






しおりを挟む
感想 233

あなたにおすすめの小説

夫が運命の番と出会いました

重田いの
恋愛
幼馴染のいいなづけとして育ってきた銀狼族の族長エーリヒと、妻ローゼマリー。 だがエーリヒに運命の番が現れたことにより、二人は離別する。 しかし二年後、修道院に暮らすローゼマリーの元へエーリヒが現れ――!?

捨てられた生贄オメガ、魔王城で極上の『巣作り』始めます!~不眠症の魔王様、私のクッションで爆睡して溺愛モードに突入~

水凪しおん
BL
「役立たずのオメガ」として冷遇され、血も涙もない魔王への生贄として捨てられたリノ。 死を覚悟して連れてこられた魔王城は、寒くて硬くて、居住性最悪のブラック環境だった!? 「こんなところで寝られるか!」 極限状態で発動したオメガ特有の『巣作り本能』と、神業レベルの裁縫スキルが火を噴く! ゴミ同然の布切れをフカフカのクッションに、冷たい石床を極上のラグマットにリフォーム。 すると、不眠症で常にイライラしていた魔王ザルドリスが、リノの作った「巣」のあまりの快適さに陥落してしまい……? 「……貴様、私を堕落させる気か」 (※いいえ、ただ快適に寝たいだけです) 殺されるどころか、魔王様に気に入られ、気付けば城中がリノの虜に。 捨てられた生贄オメガが、裁縫一つで魔王城を「世界一のマイホーム」に変える、ほのぼの逆転溺愛ファンタジー!

大嫌いなこの世界で

十時(如月皐)
BL
嫌いなもの。豪華な調度品、山のような美食、惜しげなく晒される媚態……そして、縋り甘えるしかできない弱さ。 豊かな国、ディーディアの王宮で働く凪は笑顔を見せることのない冷たい男だと言われていた。 昔は豊かな暮らしをしていて、傅かれる立場から傅く立場になったのが不満なのだろう、とか、 母親が王の寵妃となり、生まれた娘は王女として暮らしているのに、自分は使用人であるのが我慢ならないのだろうと人々は噂する。 そんな中、凪はひとつの事件に巻き込まれて……。

失恋までが初恋です。

あんど もあ
ファンタジー
私の初恋はお兄様。お兄様は、私が五歳の時にご両親を亡くして我が家にやって来て私のお兄様になってくださった方。私は三歳年上の王子様のようなお兄様に一目ぼれでした。それから十年。お兄様にはルシンダ様と言う婚約者が、私にも婚約者らしき者がいますが、初恋は続行中ですの。 そんなマルティーナのお話。

【完結】Restartー僕は異世界で人生をやり直すー

エウラ
BL
───僕の人生、最悪だった。 生まれた家は名家で資産家。でも跡取りが僕だけだったから厳しく育てられ、教育係という名の監視がついて一日中気が休まることはない。 それでも唯々諾々と家のために従った。 そんなある日、母が病気で亡くなって直ぐに父が後妻と子供を連れて来た。僕より一つ下の少年だった。 父はその子を跡取りに決め、僕は捨てられた。 ヤケになって家を飛び出した先に知らない森が見えて・・・。 僕はこの世界で人生を再始動(リスタート)する事にした。 不定期更新です。 以前少し投稿したものを設定変更しました。 ジャンルを恋愛からBLに変更しました。 また後で変更とかあるかも。 完結しました。

婚約破棄された「無能」聖女、拾った子犬が伝説の神獣だったので、辺境で極上もふもふライフを満喫します。~捨てた国が滅びそう?知りません~

ソラ
ファンタジー
「エリアナ、貴様との婚約を破棄し、この国から追放する!」 聖女としての魔力を使い果たし、無能と蔑まれた公爵令嬢エリアナ。 妹に婚約者を奪われ、身一つで北の最果て、凍てつく「死の森」へと捨てられる。 寒さに震え死を覚悟した彼女が出会ったのは、雪に埋もれていた一匹の小さなしっぽ。 「……ひとりぼっちなの? 大丈夫、私が温めてあげるわ」 最後の手向けに、残されたわずかな浄化の力を注いだエリアナ。 だが、その子犬の正体は――数千年の眠りから目覚めた、世界を滅ぼす伝説の神獣『フェンリル』だった! ヒロインの淹れるお茶に癒やされ、ヒロインのブラッシングにうっとり。 最強の神獣は、彼女を守るためだけに辺境を「極上の聖域」へと作り替えていく。 一方、本物の聖女(結界維持役)を失った王国では、災厄が次々と降り注ぎ、崩壊の危機を迎えていた。 今さら「戻ってきてくれ」と泣きついてくる王子たち。 けれど、エリアナの膝の上には、甘えん坊の神獣様(執着心MAX)が陣取っていて――。 「聖女の仕事? いえ、今は神獣様とのお昼寝の方が忙しいので」 無自覚チートな聖女と、彼女にだけはデレデレな神獣様による、逆転溺愛スローライフが幕を開ける! (本作品はAIを活用して構成・執筆しています)

母は何処? 父はだぁれ?

穂村満月
ファンタジー
うちは、父3人母2人妹1人の7人家族だ。 産みの母は誰だかわかるが、実父は誰だかわからない。 妹も、実妹なのか不明だ。 そんなよくわからない家族の中で暮らしていたが、ある日突然、実母がいなくなってしまった。 父たちに聞いても、母のことを教えてはくれない。 母は、どこへ行ってしまったんだろう! というところからスタートする、 さて、実父は誰でしょう? というクイズ小説です。 変な家族に揉まれて、主人公が成長する物語でもなく、 家族とのふれあいを描くヒューマンドラマでもありません。 意味のわからない展開から、誰の子なのか想像してもらえたらいいなぁ、と思っております。 前作「死んでないのに異世界転生? 三重苦だけど頑張ります」の完結記念ssの「誰の子産むの?」のアンサーストーリーになります。 もう伏線は回収しきっているので、変なことは起きても謎は何もありません。 単体でも楽しめるように書けたらいいな、と思っておりますが、前作の設定とキャラクターが意味不明すぎて、説明するのが難しすぎました。嫁の夫をお父さんお母さん呼びするのを諦めたり、いろんな変更を行っております。設定全ては持ってこれないことを先にお詫びします。 また、先にこちらを読むと、1話目から前作のネタバレが大量に飛び出すことも、お詫び致します。 「小説家になろう」で連載していたものです。

転生皇女セラフィナ

秋月真鳥
恋愛
公爵家のメイド・クラリッサは、幼い主君アルベルトを庇って十五歳で命を落とした。 目覚めたとき、彼女は皇女セラフィナとして生まれ変わっていた——死の、わずか翌日に。 赤ん坊の身体に十五歳の記憶を持ったまま、セラフィナは新しい人生を歩み始める。 皇帝に溺愛され、優しい母に抱かれ、兄に慈しまれる日々。 前世で冷遇されていた彼女にとって、家族の愛は眩しすぎるほどだった。 しかし、セラフィナの心は前世の主・アルベルトへの想いに揺れ続ける。 一歳のお披露目で再会した彼は、痩せ細り、クラリッサの死を今も引きずっていた。 「わたしは生涯結婚もしなければ子どもを持つこともない。わたしにはそんな幸福は許されない」 そう語るアルベルトの姿に、セラフィナは決意する。 言葉も満足に話せない。自由に動くこともできない。前世の記憶を明かすこともできない。 それでも、彼を救いたい。彼に幸せになってほしい。 転生した皇女が、小さな身体で挑む、長い長い物語が始まる。 ※ノベルアップ+、小説家になろうでも掲載しています。

処理中です...