やり直しの神子は長生きしたい

kozzy

文字の大きさ
75 / 138

遺伝子の基

しおりを挟む
ドサ!

う、イテテ…

おもいっきり突き落とされた身体。布越しに触れたのは多分何かの木箱。ならここは地下倉庫か…。
幸い手足は自由だ。けど窮屈な麻袋の中ではどのみち身動きなど取れそうにない。

ここはどこだろう?馬に乗せられたことは分かっている。
がさがさと聞こえたあの音は多分草木をかき分ける音。
そしてあの錆びついた鈍い音は…恐らく今は使われていない古い使用人門、いつだったか墓守が逃げ出した墓所から一番近い門だ。

あの門を抜けた先には鬱蒼とした森が広がり、その森にはまともな道もないと聞いたことがある。
そのため今は城下につながる新しい使用人通用口が出来ており、古い門を使う人はほとんどないとか。

つまり用意をしてたってわけか。僕かオスビーを狙うつもりで…僕たちの帰還が決まった時から。


どうしてもオスビーと話したくて王妹宮に向かった僕はいつものように近道の墓所を抜けようとした。
一体いつから見張られていたんだろう…
そしてどこからつけられていたんだろう…
気がつけば僕は頭上から麻袋をかぶせられていた。

再生の力を持つ神子を剣で斬っても無意味。だから拉致してここに連れてきたんだろう。

どこかで狙って来るとは思っていた。けど…まさかこんなに早く王城内で動くとは想定外だ。

以前より自由度の上がった僕は、滞在中にナンナー家や教会への根回しと言った、城下へのお出かけを告知している。
そしてその予定を組んだのは王城に到着してから。(護衛の都合があるからね)

王族、そして高位聖職者への狼藉は大小関係なく大罪中の大罪。
てっきり狙うなら市井の凶漢を装えるそこだと思って、敢えて隙だらけにするつもりだったのに…

油断したな…

けど王城の騎士が「軍事の指揮をとるフォルスト侯は衝動だけでは動かない」って言ってたのを覚えてたから、こんな風に狙ってくるとは思ってもみなかったのだ…ああ抜かった…

「いくら再生の力を持つ神子でも閉じ込めれば同じこと」

はっ!こ、この声はまさか…

「死なない身体を恨みながら暗闇で生き続けるがいい!生意気な神子が!」

その時頭上から聞こえてきたのは聞き覚えのある、忘れたくても忘れられない妖艶な声。

エマニエル!!!

え?え?誘拐犯はエマニエルなの?フォルスト候じゃなく?
けれど疑問を感じる余裕はない。エマニエルの呪詛が止まないから。

「お前のせいで僕は愛するアルトゥールを失ったのに…それなのにお前はオスヴァルト殿下と婚約?」ワナワナ…「ウルリッヒ…お前だけ幸せにするものか!」
「ぼ、僕のせいって…逆恨みするな!癒しの神子を王城から追い出したのはそっちじゃないか!」

かぁー!袋のせいで睨みつけてやれないのがなんとももどかしいー!

「お前がもっと従順なら西へ追い出す必要などなかった!全てはウルリッヒ…お前のせいだ!お、お前の力があればアルトゥールは…」
「当てが外れたからって言いがかりも甚だしい!」

って、事実計画通りだけど!

「エマニエル!アルトゥールがどういった魂胆で僕を西に送ったか…僕が知らないと思ったら大きな間違いだ!」
「なっ!」
「病の巣窟に送ったはずが僕の行った西神殿が浄化されて僕の去った東の王城に病が蔓延する…」
「な、何が言いたい!」

「分らない?神様は天罰を下したんだ!」
「な、なにが天罰だ。ばかばかしい…」

「同じことを言うんだねオットーたちと。ならエマニエル!知恵を貸したお前も天罰を待つがいい!神の使いを殺そうとした身の程知らずの狼藉者、王妃やアルトゥールみたいに!」
「うるさいうるさいうるさい!」

「この罰当たり者!」

「黙れ腐れ神子!!!」

ぎょっ!この声はフォルスト候!ほらやっぱり居るじゃないか!

…ってことは…手を組んだのか⁉ 
エ、エマニエル…なんて機を見るに敏いんだろうか…

「エマニエル、つまらぬ戯れはよせ。こやつはこの地下からもはや出られんのだ。何を言おうが放っておけ」

なるほど。監禁決定…か…

「それもそうですね…。ふ、ふふふ…興味深いこと。飲まず食わずの状態で自己再生はどう働くのでしょうね、侯爵」

「ふん。死のうが生きていようがもはや構わんのだ」

少しも乱れない巧者の語り口調。さすがあの王妃を作った片割れ。面目躍如といったところか。

「私はな、戦場でたくさんの敵兵を拷問してきたのだよ。だが主君に誓いを立てた兵とはな、どれほど痛めつけられようが屈しないものだ」

あー、王妃の私兵もそんな感じ。無駄に忠誠心が高い。

「そんな屈強な兵であっても何も見えず何も聞こえぬ空間にひと月も放り込んでおけば心を壊す。神子であっても同じことよ。頃合いを見て出してやれば従順にもなっていよう」

…戦場の拷問とはいえ…よくそんなこと思いつくな。悪魔かこの男。

「さすがですねフォルスト候。勉強になります」

ほー?悪のご教授ってか?

フォルスト候はエマニエルを諫めている。「あの時私が王城に居さえすれば」「娘もこ奴を甘くみたものだ」つまりそれは、自分ならもっと上手くやったっていう自慢だ。悪行自慢。

「天罰二人目か…。覚えておく」
「黙れと言ったであろう!」

ガッ!

イタタ、蹴りとばしたのはどっちだ!

「あの庶子、オスヴァルトは必死になってお前を探すであろうな。なにしろ王妹より確かな後ろ盾だ」
「オスヴァルトはそんなことで僕と居るんじゃない!」

「純愛とでも言うつもりか?どちらでも構わんよ。必死になるあの庶子には隙がうまれる。狙いはそこだ。あの思い上がった男を始末しお前と王弟を傀儡にする。それで宮廷は、あの王城は実質私のものだ!」

こんなところで負けるもんか。
暗も静寂も怖くない。何度も言うが、僕は真夜中の墓所だって平気な男だ!



扉を閉じる音。鍵をかける音。遠ざかる足音。
最後まで僕を嘲笑しながら連れ立っていったキツネと獰猛な熊。

「行ったか…」

手足を縛られなかったのは不幸中の幸いだった。奴らはあの場を立ち去ることこそ最優先と考え、ものの数秒で僕を袋に押し込めた。

油断して捕まったことは否定しないが小賢しさまで失う僕じゃない。何を隠そう神殿を出る時、僕は小さな革袋を首からかけていた。

これはいつ何時も、外出時に持ち歩く僕にとっての神器ともいえるもの。

中身のひとつは火打石と蝋燭。これはいつどんな暗闇があっても探し物ができる優れものだ。
そして針金。これはいつどこにどんな扉があっても鍵を開けられる優れものだ。(技術を要する)
最後に長い紐。これはいつどんな掘り出し物があってもまとめて背負える優れものだ。

こうしてみるとまるでコソ泥の神器みたいだが、醜聞を盗む、という意味ではあながち間違っちゃない。

ここが倉庫なら倉庫内に人は常駐しないはず。なら…

勝機は必ず我にあり。





しおりを挟む
感想 233

あなたにおすすめの小説

その首輪は、弟の牙でしか外せない。

ゆずまめ鯉
BL
養子ゆえに、王位継承権を持たないオメガで長男のレイン(24)は、国家騎士団として秘密裏に働き、ただ義弟たちを守るためだけに生きてきた。 第一継承権を持つアルファで次男のリオール(19)は、そんな兄に「ごく潰し」と陰口を叩く連中を許せなかった。自分を犠牲にしてまで守る価値はないと思っていた。なにかと怪我の多い国家騎士団を辞めさせたかった。 初めて訪れた発情期のとき。約束をすっぽかされたリオールが不審に思い、兄の部屋へ行くと、国家騎士団の同僚──グウェンソード(28)に押し倒されるところを目撃して激高する。 「今すぐ部屋から出ろ!」 独占欲をあらわにしたリオールは、グウェンソードを部屋から追い出し、兄であるレインを欲望のままに抱いた。 翌朝、差し出されたのは特注の首輪──外せるのはリオールのみ。 「俺以外に触らせるな」 そう囁かれたレインは、何年も首輪と弟の執着に縛られ続けてきた。 弟には婚約者がいるのに、こんな関係を続けてもいいのか。 本当にこのままでもいいのか。 ひたすら執着して独占したがる弟と、罪悪感に苛まれる兄。 その首輪は、いつか弟の牙で血に染まるのか──。 どうにかしてレインを落としたいリオールと、弟との関係に悩むレインのオメガバースです。 リオール・グランケット(19)×レイン・グランケット(24) ※この作品は2015年頃に本文を書き、2017年頃にオメガバースに改稿、さらに2026年に手直しした作品になります。読みにくいかもしれません。ご了承ください。 三人称ですが攻めだったり受けだったり視点がよくかわります。攻め視点多めです。

魔力ゼロのポーション屋手伝い

書鈴 夏(ショベルカー)
BL
15歳で測定する魔力の量によって、人生の大部分が左右されてしまう世界。 そんな世界で、運命の日を迎えたひとりの平凡な少年──リクは、抱いた淡い期待を大きく裏切られる。魔力が前代未聞のゼロと言い渡されたのだ。 深い絶望とともに頭を抱えていたとき、森でポーション屋を営んでいるというくたびれた男が声をかける。路頭に迷っていたリクは、店で手伝いをしてはどうかという彼の誘いを受けることにする。 捨てかけた夢を拾ってもらった少年と、拾った男。ふたりが絆を深めていく、ポーション屋でのお話です。 一人称おじさんくたびれ男性×魔力ゼロ以外平凡青年のBLです。 カクヨムにも載せています。(完結済み)

カランコエの咲く所で

mahiro
BL
先生から大事な一人息子を託されたイブは、何故出来損ないの俺に大切な子供を託したのかと考える。 しかし、考えたところで答えが出るわけがなく、兎に角子供を連れて逃げることにした。 次の瞬間、背中に衝撃を受けそのまま亡くなってしまう。 それから、五年が経過しまたこの地に生まれ変わることができた。 だが、生まれ変わってすぐに森の中に捨てられてしまった。 そんなとき、たまたま通りかかった人物があの時最後まで守ることの出来なかった子供だったのだ。

私だけが愛して1度も笑ったことの無い夫が、死んだはずの息子を連れてもどってきた

まつめ
恋愛
夫はただの一度も私に笑いかけたことは無く、穏やかに夫婦の時間をもったこともない。魔法騎士団の、騎士団長を務める彼は、23年間の結婚生活のほとんどを戦地で過ごしている。22歳の息子の戦死の知らせが届く。けれど夫は元気な息子を連れて私の元に戻って来てくれた。

塩対応の同室αが実は俺の番を狙っていた

雪兎
BL
あらすじ 全寮制の名門学園に入学したΩの俺は、入寮初日から最悪の同室相手に当たった。 相手は学年でも有名な優等生α。 成績優秀、運動もできる、顔もいい。なのに—— めちゃくちゃ塩対応。 挨拶しても「……ああ」。 話しかけても「別に」。 距離も近づけないし、なぜか妙に警戒されている気がする。 (俺、そんなに嫌われてる……?) 同室なのに会話は最低限。 むしろ避けられている気さえある。 けれどある日、発情期トラブルで倒れた俺を助けてくれたのは、 その塩対応αだった。 しかも普段とは違い、必死な顔で言われる。 「……他のαに近づくな」 「お前は俺の……」 そこで言葉を飲み込む彼。 それ以来、少しずつ態度が変わり始める。 距離は相変わらず近くない。 口数も少ない。 だけど―― 他のαが近づくと、さりげなく間に入る。 発情期が近いと察すると、さりげなく世話を焼く。 そして時々、独占欲を隠しきれない視線。 実は彼はずっと前から知っていた。 俺が、 自分の運命の番かもしれないΩだということを。 だからこそ距離を取っていた。 触れたら、もう止まれなくなるから。 だけど同室生活の中で、 少しずつ、確実に距離は変わっていく。 塩対応の裏に隠されていたのは―― 重すぎるほどの独占欲だった。

秘匿された第十王子は悪態をつく

なこ
BL
ユーリアス帝国には十人の王子が存在する。 第一、第二、第三と王子が産まれるたびに国は湧いたが、第五、六と続くにつれ存在感は薄れ、第十までくるとその興味関心を得られることはほとんどなくなっていた。 第十王子の姿を知る者はほとんどいない。 後宮の奥深く、ひっそりと囲われていることを知る者はほんの一握り。 秘匿された第十王子のノア。黒髪、薄紫色の瞳、いわゆる綺麗可愛(きれかわ)。 ノアの護衛ユリウス。黒みかがった茶色の短髪、寡黙で堅物。塩顔。 少しずつユリウスへ想いを募らせるノアと、頑なにそれを否定するユリウス。 ノアが秘匿される理由。 十人の妃。 ユリウスを知る渡り人のマホ。 二人が想いを通じ合わせるまでの、長い話しです。

番を拒み続けるΩと、執着を隠しきれないαが同じ学園で再会したら逃げ場がなくなった話 ――優等生αの過保護な束縛は恋か支配か

雪兎
BL
第二性が存在する世界。 Ωであることを隠し、平穏な学園生活を送ろうと決めていた転校生・湊。 しかし入学初日、彼の前に現れたのは―― 幼い頃に「番になろう」と言ってきた幼馴染のα・蓮だった。 成績優秀、容姿端麗、生徒から絶大な信頼を集める完璧なα。 だが湊だけが知っている。 彼が異常なほど執着深いことを。 「大丈夫、全部管理してあげる」 「君が困らないようにしてるだけだよ」 座席、時間割、交友関係、体調管理。 いつの間にか整えられていく環境。 逃げ場のない距離。 番を拒みたいΩと、手放す気のないα。 これは保護か、それとも束縛か。 閉じた学園の中で、二人の関係は静かに歪み始める――。

『魔力ゼロの欠陥品』と蔑まれた伯爵令嬢、卒業パーティーで婚約破棄された瞬間に古代魔法が覚醒する ~虐げられ続けた三年間、倍返しでは足りない~

スカッと文庫
恋愛
「貴様のような無能、我が国の王妃には相応しくない。婚約を破棄し、学園から追放する!」 王立魔道学園の卒業パーティー。きらびやかなシャンデリアの下、王太子エドワードの声が冷酷に響いた。彼の隣には、愛くるしい表情で私を嵌めた男爵令嬢、ミナが勝ち誇ったように寄り添っている。 伯爵令嬢のリリアーヌは、入学以来三年間、「魔力ゼロの欠陥品」として学園中の嘲笑を浴び続けてきた。 婚約者であるエドワードからは一度も顧みられず、同級生からはゴミのように扱われ、ミナの自作自演による「いじめ」の濡れ衣まで着せられ……。 それでも、父との「力を隠せ」という約束を守るため、泥を啜るような屈辱に耐え抜いてきた。 ――だが、国からも学園からも捨てられた今、もうその約束を守る必要はない。 「さようなら、皆様。……私が消えた後、この国がどうなろうと知ったことではありませんわ」 リリアーヌが身につけていた「魔力封印の首飾り」を自ら引き千切った瞬間、会場は漆黒の魔力に包まれた。 彼女は無能などではない。失われた「古代魔法」をその身に宿す、真の魔道の主だったのだ。 絶望する王太子たちを余目に、隣国の伝説の魔術師アルベルトに拾われたリリアーヌ。 彼女の、残酷で、甘美な復讐劇が今、幕を開ける――。

処理中です...