やり直しの神子は長生きしたい

kozzy

文字の大きさ
78 / 138

襲う者、襲われる者

しおりを挟む
早朝からギルドへ出向き必要な情報は手に入れた。

私たちは王妹宮のみならず王弟宮の騎士団までをも借り受け、昼過ぎにはフォルスト候の傘下であるハノーファー子爵領へと到着していた。

フォルスト侯の弟が婿入りしたハノーファー子爵領、そこには子爵の名で数ヶ所の商会施設がある。

不正の為に立ち上げた隠れみの。
いくつもの拠点に分かれたそれはウーリの発見を困難にする。
元々不正を隠すための施設だ。〝発見を困難にする”、まさにそのための小細工なのだろう。

我らは手分けして僅かな異変も見逃さぬようウーリの居所を探していた。



商会は市街地の雑居家屋にいくつかの部屋を所有している。
だが常に人の出入りするそこに人を運び入れ監禁するとは考えにくい。

もっとも怪しいのが、人目を避けるように領の山側に用意された、恐らくは取引客をもてなすための小さな屋敷だ。
だが騎士が到着した際、ここに人の気配はなくまた最近出入りした様子もなかったという。

引き続き屋敷を見張らせた斥候からは、昼をかなり回った頃、数人の男が馬で屋敷へやって来たと報告があった。が、そこに不審な荷や連行される神子の姿は無い。

明らかに怪しい動き。だがそこにウーリが居ないのであれば、下手に踏み込むことはかえって悪手に思える…

思いのほか難航を極める調査に気ばかりが焦っていく。
騎士ローマンがその異変を報告したのはそんな時だ。

「殿下!その屋敷近くで火の手があがっております!」

「ウルリッヒに関わる騒ぎか!」
「わかりません…ですがこの頃合いで無関係とは思えませぬ」

「近くとはどこだ!」

「屋敷から程近くにある古びた倉庫です」
「何故今まで報告がなかったのだ!」

「そこは商会の倉庫ではなくハノーファー子爵、フォルスト侯爵の名義でもありませんでしたので…、いえ、言い訳は止しましょう」

小屋敷より戻った斥候がローマンを庇う。

「騒動に紛れ土地の者に聞いた話では倉庫の持ち主とはフォルスト侯爵夫人の又従姉に婿入りした商家の息子だとか。その倉庫は婿入り以前に保有していた模様です」

「だから見落としたのか…」

「婿の生家は隣国と商いをしております。交易品の一時保管に使っていたのでしょう」
「…隣国…交易…、何かと符合する…」

火の手…。ウーリはまた無茶をしたのだろうか。己の身体を厭わずに。

「嫌な予感がする、急ぐぞ!」
「お待ちください。まだ全員戻っておりません!」
「追って合流させろ!」
「ははっ!」



それほどの広さを持たぬ領内であれば郊外へもほどないはずだ。
だが甘い考えはすぐに打ち消される。

数十人にも及ぶ賊が現れたのだ。
間違いない!
この男どもこそ私を葬らんと金で雇われた悪徒!

「恐ろしいほど仕事が早い…、さすがは軍務の長。一体いつから待ち構えていた!」
「なんのことだかわからねえな!いいから金目のものを置いてくたばりやがれ!」

「はっ!王族に仕えし我ら聖騎士団を舐めたものだ!それだけの手勢で倒せるつもりか!」

この帰還により改めて西への再同行を申し入れてくれた忠誠心篤き騎士ラインハルト。
彼は私の剣となり、先陣をきって悪漢に立ち向かう。


恐らくは数で圧倒するのが奴らの手口なのだろう。
馬鹿め!勝負とは数ではない!場を読む力と判断力、そして結束の力だ!


数の利を生かせず白兵戦の中で次々と数を減らしていく賊。だがその中に数人動きの違う男がいる。

「ラインハルト!フォルカー!なんとしてもその男を生きて捕らえよ!」

ウーリに聞かされた王兄の悲劇。
そうだ。妃となる前の令嬢エメリンは盗賊の襲撃に私兵を紛れ込ませた。
あれは誰の思いつきだ!

「その者こそ侯の手駒!油断するな!」

「殿下!後ろを!」
「問題ない!」

交わる剣。間違いない、この手応え…
これは相当訓練された剣筋、荒事で覚えた腕前ではない!

「お前が最も手練れた者だな!」

「わかるか?ならばあなたもなかなか。尤もここで死ぬなら意味なきことだが!」
「随分評価してくれたものだ!」

二度三度と打ち合う剣は決定打とならぬまま時間と体力を奪っていく。

「ここまでやるとはな…。恐れ入ったぞオスヴァルト王子!だが遊びは終わりだ!」
「いいだろう。これで最後だ!」

高らかに響く金属音。そして一本の剣が空を舞った。





------------------



「お、おい!だれか急いで小屋敷からエマニエル殿を呼んで来い!」
「どうした?」
「見ろよあの換気口を。煙だ!地下で何かが燃えているぞ!」

「馬鹿お前!大変じゃないか!さっさと扉を開け…」
「馬鹿はお前だ!「今代の神子は知恵が回る。何があろうと決して開けるな」そう侯爵閣下に言われたのを忘れたのか!」
「確かに言われたが…」
「面倒に関わるのは御免だ。エマニエル殿を呼んで侯爵閣下に伝達を送れ。言われた通りにすればいい」
「…そうしよう」


倉庫の見張りを命じられたハノーファー家の家臣が息を切らして駆け込んできたのはすでに陽が沈みかかった頃。

憎きウルリッヒを閉じ込めた地下から不審な煙が漏れ出ているという。
大急ぎで駆け付ければ確かに換気口は白煙を吐き出している。

「こ、これはどういうことですか!何故地下から煙が!」

「わ、わかりません。ですがこの煙は熱を持ったもの!粉煙ではありません!」
「地下で火が出たと、そう言うのですか!」

あの地下に火の付くものなど無かったはず。あそこにあるのは金属の武器類。オットー殿が命がけで持ち帰った火薬爆弾のレシピは、両陛下の崩御でうやむやのまま正妃宮内に放置されている…

それにウルリッヒは早朝の墓所で夜着のまま捕らえたはず…。火を起こせる道具など持っているはずが無い。

「神罰…」

後ろでボソリとつぶやいたのはハノーファー家の家臣。
何が神罰だ気の小さい。これだからこの男どもはいつまでたっても子爵家の護衛如きに甘んじているのだろう。
こいつらを見ているとうだつの上がらなかった父を思い出しイライラする…

「こうしてはいられません。地下にあるあれらが燃えては大変な損害です。何故放置しているのですか!」
「絶対開けるな。これは閣下からの厳命ですので」

チッ!「では僕の権限で命じます!その扉を開け中の荷を運び出しなさい!」

あの麻袋は分厚く、そしてかなり頑丈に縛られていた。

「どうせ逃げられやしない…」

ウルリッヒに再生の力がある以上所詮命に別状はない。いっそ死んでくれればいいものを…忌々しい。

ギ、ギィィィ…

倉庫の床板を外すと鉄の扉が現れる。その重たい扉を開けた向こうに地下の隠し倉庫はある。

「うぉお!」
「これはひどい熱気だ…」

「うっ!ゴホゴホ…は、早くお行きなさい!」
「しかし…」
「早く!」
「は、はい!」

真っ白に煙の充満した地下内はどこが火元かすらわからない。

「何故こんな…は、早く火を消すのです!何が燃えているか分かりますか!」
「これですエマニエル様!」
「えっ?」

バサッ

「あ、熱い!何をす」

投げつけられたのは燃え盛る何か。

ガン!ドゴォォン…

そして蹴り飛ばされ閉じられた鉄の扉。その前に立つのは…

「ウルリッヒ!」





しおりを挟む
感想 233

あなたにおすすめの小説

失恋までが初恋です。

あんど もあ
ファンタジー
私の初恋はお兄様。お兄様は、私が五歳の時にご両親を亡くして我が家にやって来て私のお兄様になってくださった方。私は三歳年上の王子様のようなお兄様に一目ぼれでした。それから十年。お兄様にはルシンダ様と言う婚約者が、私にも婚約者らしき者がいますが、初恋は続行中ですの。 そんなマルティーナのお話。

婚約破棄された「無能」聖女、拾った子犬が伝説の神獣だったので、辺境で極上もふもふライフを満喫します。~捨てた国が滅びそう?知りません~

ソラ
ファンタジー
「エリアナ、貴様との婚約を破棄し、この国から追放する!」 聖女としての魔力を使い果たし、無能と蔑まれた公爵令嬢エリアナ。 妹に婚約者を奪われ、身一つで北の最果て、凍てつく「死の森」へと捨てられる。 寒さに震え死を覚悟した彼女が出会ったのは、雪に埋もれていた一匹の小さなしっぽ。 「……ひとりぼっちなの? 大丈夫、私が温めてあげるわ」 最後の手向けに、残されたわずかな浄化の力を注いだエリアナ。 だが、その子犬の正体は――数千年の眠りから目覚めた、世界を滅ぼす伝説の神獣『フェンリル』だった! ヒロインの淹れるお茶に癒やされ、ヒロインのブラッシングにうっとり。 最強の神獣は、彼女を守るためだけに辺境を「極上の聖域」へと作り替えていく。 一方、本物の聖女(結界維持役)を失った王国では、災厄が次々と降り注ぎ、崩壊の危機を迎えていた。 今さら「戻ってきてくれ」と泣きついてくる王子たち。 けれど、エリアナの膝の上には、甘えん坊の神獣様(執着心MAX)が陣取っていて――。 「聖女の仕事? いえ、今は神獣様とのお昼寝の方が忙しいので」 無自覚チートな聖女と、彼女にだけはデレデレな神獣様による、逆転溺愛スローライフが幕を開ける! (本作品はAIを活用して構成・執筆しています)

大嫌いなこの世界で

十時(如月皐)
BL
嫌いなもの。豪華な調度品、山のような美食、惜しげなく晒される媚態……そして、縋り甘えるしかできない弱さ。 豊かな国、ディーディアの王宮で働く凪は笑顔を見せることのない冷たい男だと言われていた。 昔は豊かな暮らしをしていて、傅かれる立場から傅く立場になったのが不満なのだろう、とか、 母親が王の寵妃となり、生まれた娘は王女として暮らしているのに、自分は使用人であるのが我慢ならないのだろうと人々は噂する。 そんな中、凪はひとつの事件に巻き込まれて……。

【完結】Restartー僕は異世界で人生をやり直すー

エウラ
BL
───僕の人生、最悪だった。 生まれた家は名家で資産家。でも跡取りが僕だけだったから厳しく育てられ、教育係という名の監視がついて一日中気が休まることはない。 それでも唯々諾々と家のために従った。 そんなある日、母が病気で亡くなって直ぐに父が後妻と子供を連れて来た。僕より一つ下の少年だった。 父はその子を跡取りに決め、僕は捨てられた。 ヤケになって家を飛び出した先に知らない森が見えて・・・。 僕はこの世界で人生を再始動(リスタート)する事にした。 不定期更新です。 以前少し投稿したものを設定変更しました。 ジャンルを恋愛からBLに変更しました。 また後で変更とかあるかも。 完結しました。

ぼっちな幼女は異世界で愛し愛され幸せになりたい

珂里
ファンタジー
ある日、仲の良かった友達が突然いなくなってしまった。 本当に、急に、目の前から消えてしまった友達には、二度と会えなかった。 …………私も消えることができるかな。 私が消えても、きっと、誰も何とも思わない。 私は、邪魔な子だから。 私は、いらない子だから。 だからきっと、誰も悲しまない。 どこかに、私を必要としてくれる人がいないかな。 そんな人がいたら、絶対に側を離れないのに……。 異世界に迷い込んだ少女と、孤独な獣人の少年が徐々に心を通わせ成長していく物語。 ☆「神隠し令嬢は騎士様と幸せになりたいんです」と同じ世界です。 彩菜が神隠しに遭う時に、公園で一緒に遊んでいた「ゆうちゃん」こと優香の、もう一つの神隠し物語です。

転生皇女セラフィナ

秋月真鳥
恋愛
公爵家のメイド・クラリッサは、幼い主君アルベルトを庇って十五歳で命を落とした。 目覚めたとき、彼女は皇女セラフィナとして生まれ変わっていた——死の、わずか翌日に。 赤ん坊の身体に十五歳の記憶を持ったまま、セラフィナは新しい人生を歩み始める。 皇帝に溺愛され、優しい母に抱かれ、兄に慈しまれる日々。 前世で冷遇されていた彼女にとって、家族の愛は眩しすぎるほどだった。 しかし、セラフィナの心は前世の主・アルベルトへの想いに揺れ続ける。 一歳のお披露目で再会した彼は、痩せ細り、クラリッサの死を今も引きずっていた。 「わたしは生涯結婚もしなければ子どもを持つこともない。わたしにはそんな幸福は許されない」 そう語るアルベルトの姿に、セラフィナは決意する。 言葉も満足に話せない。自由に動くこともできない。前世の記憶を明かすこともできない。 それでも、彼を救いたい。彼に幸せになってほしい。 転生した皇女が、小さな身体で挑む、長い長い物語が始まる。 ※ノベルアップ+、小説家になろうでも掲載しています。

悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?

  *  ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。 悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう! せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー? ユィリと皆の動画をつくりました! インスタ @yuruyu0 絵も動画もあがります。ほぼ毎日更新! Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。動画を作ったときに更新! プロフのWebサイトから、両方に飛べるので、もしよかったら! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー! ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください!

届かない「ただいま」

AzureHaru
BL
いつも通りの変わらない日常のはずだった。 「行ってきます。」と言って出て行った貴方。1日が終わる頃に「ただいま。」と「おかえり。」を笑顔で交わすはずだった。でも、その言葉はもう貴方には届かない。 これは「優しさが奪った日常」の物語。

処理中です...