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襲う者、襲われる者
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早朝からギルドへ出向き必要な情報は手に入れた。
私たちは王妹宮のみならず王弟宮の騎士団までをも借り受け、昼過ぎにはフォルスト候の傘下であるハノーファー子爵領へと到着していた。
フォルスト侯の弟が婿入りしたハノーファー子爵領、そこには子爵の名で数ヶ所の商会施設がある。
不正の為に立ち上げた隠れみの。
いくつもの拠点に分かれたそれはウーリの発見を困難にする。
元々不正を隠すための施設だ。〝発見を困難にする”、まさにそのための小細工なのだろう。
我らは手分けして僅かな異変も見逃さぬようウーリの居所を探していた。
商会は市街地の雑居家屋にいくつかの部屋を所有している。
だが常に人の出入りするそこに人を運び入れ監禁するとは考えにくい。
もっとも怪しいのが、人目を避けるように領の山側に用意された、恐らくは取引客をもてなすための小さな屋敷だ。
だが騎士が到着した際、ここに人の気配はなくまた最近出入りした様子もなかったという。
引き続き屋敷を見張らせた斥候からは、昼をかなり回った頃、数人の男が馬で屋敷へやって来たと報告があった。が、そこに不審な荷や連行される神子の姿は無い。
明らかに怪しい動き。だがそこにウーリが居ないのであれば、下手に踏み込むことはかえって悪手に思える…
思いのほか難航を極める調査に気ばかりが焦っていく。
騎士ローマンがその異変を報告したのはそんな時だ。
「殿下!その屋敷近くで火の手があがっております!」
「ウルリッヒに関わる騒ぎか!」
「わかりません…ですがこの頃合いで無関係とは思えませぬ」
「近くとはどこだ!」
「屋敷から程近くにある古びた倉庫です」
「何故今まで報告がなかったのだ!」
「そこは商会の倉庫ではなくハノーファー子爵、フォルスト侯爵の名義でもありませんでしたので…、いえ、言い訳は止しましょう」
小屋敷より戻った斥候がローマンを庇う。
「騒動に紛れ土地の者に聞いた話では倉庫の持ち主とはフォルスト侯爵夫人の又従姉に婿入りした商家の息子だとか。その倉庫は婿入り以前に保有していた模様です」
「だから見落としたのか…」
「婿の生家は隣国と商いをしております。交易品の一時保管に使っていたのでしょう」
「…隣国…交易…、何かと符合する…」
火の手…。ウーリはまた無茶をしたのだろうか。己の身体を厭わずに。
「嫌な予感がする、急ぐぞ!」
「お待ちください。まだ全員戻っておりません!」
「追って合流させろ!」
「ははっ!」
それほどの広さを持たぬ領内であれば郊外へもほどないはずだ。
だが甘い考えはすぐに打ち消される。
数十人にも及ぶ賊が現れたのだ。
間違いない!
この男どもこそ私を葬らんと金で雇われた悪徒!
「恐ろしいほど仕事が早い…、さすがは軍務の長。一体いつから待ち構えていた!」
「なんのことだかわからねえな!いいから金目のものを置いてくたばりやがれ!」
「はっ!王族に仕えし我ら聖騎士団を舐めたものだ!それだけの手勢で倒せるつもりか!」
この帰還により改めて西への再同行を申し入れてくれた忠誠心篤き騎士ラインハルト。
彼は私の剣となり、先陣をきって悪漢に立ち向かう。
恐らくは数で圧倒するのが奴らの手口なのだろう。
馬鹿め!勝負とは数ではない!場を読む力と判断力、そして結束の力だ!
数の利を生かせず白兵戦の中で次々と数を減らしていく賊。だがその中に数人動きの違う男がいる。
「ラインハルト!フォルカー!なんとしてもその男を生きて捕らえよ!」
ウーリに聞かされた王兄の悲劇。
そうだ。妃となる前の令嬢エメリンは盗賊の襲撃に私兵を紛れ込ませた。
あれは誰の思いつきだ!
「その者こそ侯の手駒!油断するな!」
「殿下!後ろを!」
「問題ない!」
交わる剣。間違いない、この手応え…
これは相当訓練された剣筋、荒事で覚えた腕前ではない!
「お前が最も手練れた者だな!」
「わかるか?ならばあなたもなかなか。尤もここで死ぬなら意味なきことだが!」
「随分評価してくれたものだ!」
二度三度と打ち合う剣は決定打とならぬまま時間と体力を奪っていく。
「ここまでやるとはな…。恐れ入ったぞオスヴァルト王子!だが遊びは終わりだ!」
「いいだろう。これで最後だ!」
高らかに響く金属音。そして一本の剣が空を舞った。
------------------
「お、おい!だれか急いで小屋敷からエマニエル殿を呼んで来い!」
「どうした?」
「見ろよあの換気口を。煙だ!地下で何かが燃えているぞ!」
「馬鹿お前!大変じゃないか!さっさと扉を開け…」
「馬鹿はお前だ!「今代の神子は知恵が回る。何があろうと決して開けるな」そう侯爵閣下に言われたのを忘れたのか!」
「確かに言われたが…」
「面倒に関わるのは御免だ。エマニエル殿を呼んで侯爵閣下に伝達を送れ。言われた通りにすればいい」
「…そうしよう」
倉庫の見張りを命じられたハノーファー家の家臣が息を切らして駆け込んできたのはすでに陽が沈みかかった頃。
憎きウルリッヒを閉じ込めた地下から不審な煙が漏れ出ているという。
大急ぎで駆け付ければ確かに換気口は白煙を吐き出している。
「こ、これはどういうことですか!何故地下から煙が!」
「わ、わかりません。ですがこの煙は熱を持ったもの!粉煙ではありません!」
「地下で火が出たと、そう言うのですか!」
あの地下に火の付くものなど無かったはず。あそこにあるのは金属の武器類。オットー殿が命がけで持ち帰った火薬爆弾のレシピは、両陛下の崩御でうやむやのまま正妃宮内に放置されている…
それにウルリッヒは早朝の墓所で夜着のまま捕らえたはず…。火を起こせる道具など持っているはずが無い。
「神罰…」
後ろでボソリとつぶやいたのはハノーファー家の家臣。
何が神罰だ気の小さい。これだからこの男どもはいつまでたっても子爵家の護衛如きに甘んじているのだろう。
こいつらを見ているとうだつの上がらなかった父を思い出しイライラする…
「こうしてはいられません。地下にあるあれらが燃えては大変な損害です。何故放置しているのですか!」
「絶対開けるな。これは閣下からの厳命ですので」
チッ!「では僕の権限で命じます!その扉を開け中の荷を運び出しなさい!」
あの麻袋は分厚く、そしてかなり頑丈に縛られていた。
「どうせ逃げられやしない…」
ウルリッヒに再生の力がある以上所詮命に別状はない。いっそ死んでくれればいいものを…忌々しい。
ギ、ギィィィ…
倉庫の床板を外すと鉄の扉が現れる。その重たい扉を開けた向こうに地下の隠し倉庫はある。
「うぉお!」
「これはひどい熱気だ…」
「うっ!ゴホゴホ…は、早くお行きなさい!」
「しかし…」
「早く!」
「は、はい!」
真っ白に煙の充満した地下内はどこが火元かすらわからない。
「何故こんな…は、早く火を消すのです!何が燃えているか分かりますか!」
「これですエマニエル様!」
「えっ?」
バサッ
「あ、熱い!何をす」
投げつけられたのは燃え盛る何か。
ガン!ドゴォォン…
そして蹴り飛ばされ閉じられた鉄の扉。その前に立つのは…
「ウルリッヒ!」
私たちは王妹宮のみならず王弟宮の騎士団までをも借り受け、昼過ぎにはフォルスト候の傘下であるハノーファー子爵領へと到着していた。
フォルスト侯の弟が婿入りしたハノーファー子爵領、そこには子爵の名で数ヶ所の商会施設がある。
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だが常に人の出入りするそこに人を運び入れ監禁するとは考えにくい。
もっとも怪しいのが、人目を避けるように領の山側に用意された、恐らくは取引客をもてなすための小さな屋敷だ。
だが騎士が到着した際、ここに人の気配はなくまた最近出入りした様子もなかったという。
引き続き屋敷を見張らせた斥候からは、昼をかなり回った頃、数人の男が馬で屋敷へやって来たと報告があった。が、そこに不審な荷や連行される神子の姿は無い。
明らかに怪しい動き。だがそこにウーリが居ないのであれば、下手に踏み込むことはかえって悪手に思える…
思いのほか難航を極める調査に気ばかりが焦っていく。
騎士ローマンがその異変を報告したのはそんな時だ。
「殿下!その屋敷近くで火の手があがっております!」
「ウルリッヒに関わる騒ぎか!」
「わかりません…ですがこの頃合いで無関係とは思えませぬ」
「近くとはどこだ!」
「屋敷から程近くにある古びた倉庫です」
「何故今まで報告がなかったのだ!」
「そこは商会の倉庫ではなくハノーファー子爵、フォルスト侯爵の名義でもありませんでしたので…、いえ、言い訳は止しましょう」
小屋敷より戻った斥候がローマンを庇う。
「騒動に紛れ土地の者に聞いた話では倉庫の持ち主とはフォルスト侯爵夫人の又従姉に婿入りした商家の息子だとか。その倉庫は婿入り以前に保有していた模様です」
「だから見落としたのか…」
「婿の生家は隣国と商いをしております。交易品の一時保管に使っていたのでしょう」
「…隣国…交易…、何かと符合する…」
火の手…。ウーリはまた無茶をしたのだろうか。己の身体を厭わずに。
「嫌な予感がする、急ぐぞ!」
「お待ちください。まだ全員戻っておりません!」
「追って合流させろ!」
「ははっ!」
それほどの広さを持たぬ領内であれば郊外へもほどないはずだ。
だが甘い考えはすぐに打ち消される。
数十人にも及ぶ賊が現れたのだ。
間違いない!
この男どもこそ私を葬らんと金で雇われた悪徒!
「恐ろしいほど仕事が早い…、さすがは軍務の長。一体いつから待ち構えていた!」
「なんのことだかわからねえな!いいから金目のものを置いてくたばりやがれ!」
「はっ!王族に仕えし我ら聖騎士団を舐めたものだ!それだけの手勢で倒せるつもりか!」
この帰還により改めて西への再同行を申し入れてくれた忠誠心篤き騎士ラインハルト。
彼は私の剣となり、先陣をきって悪漢に立ち向かう。
恐らくは数で圧倒するのが奴らの手口なのだろう。
馬鹿め!勝負とは数ではない!場を読む力と判断力、そして結束の力だ!
数の利を生かせず白兵戦の中で次々と数を減らしていく賊。だがその中に数人動きの違う男がいる。
「ラインハルト!フォルカー!なんとしてもその男を生きて捕らえよ!」
ウーリに聞かされた王兄の悲劇。
そうだ。妃となる前の令嬢エメリンは盗賊の襲撃に私兵を紛れ込ませた。
あれは誰の思いつきだ!
「その者こそ侯の手駒!油断するな!」
「殿下!後ろを!」
「問題ない!」
交わる剣。間違いない、この手応え…
これは相当訓練された剣筋、荒事で覚えた腕前ではない!
「お前が最も手練れた者だな!」
「わかるか?ならばあなたもなかなか。尤もここで死ぬなら意味なきことだが!」
「随分評価してくれたものだ!」
二度三度と打ち合う剣は決定打とならぬまま時間と体力を奪っていく。
「ここまでやるとはな…。恐れ入ったぞオスヴァルト王子!だが遊びは終わりだ!」
「いいだろう。これで最後だ!」
高らかに響く金属音。そして一本の剣が空を舞った。
------------------
「お、おい!だれか急いで小屋敷からエマニエル殿を呼んで来い!」
「どうした?」
「見ろよあの換気口を。煙だ!地下で何かが燃えているぞ!」
「馬鹿お前!大変じゃないか!さっさと扉を開け…」
「馬鹿はお前だ!「今代の神子は知恵が回る。何があろうと決して開けるな」そう侯爵閣下に言われたのを忘れたのか!」
「確かに言われたが…」
「面倒に関わるのは御免だ。エマニエル殿を呼んで侯爵閣下に伝達を送れ。言われた通りにすればいい」
「…そうしよう」
倉庫の見張りを命じられたハノーファー家の家臣が息を切らして駆け込んできたのはすでに陽が沈みかかった頃。
憎きウルリッヒを閉じ込めた地下から不審な煙が漏れ出ているという。
大急ぎで駆け付ければ確かに換気口は白煙を吐き出している。
「こ、これはどういうことですか!何故地下から煙が!」
「わ、わかりません。ですがこの煙は熱を持ったもの!粉煙ではありません!」
「地下で火が出たと、そう言うのですか!」
あの地下に火の付くものなど無かったはず。あそこにあるのは金属の武器類。オットー殿が命がけで持ち帰った火薬爆弾のレシピは、両陛下の崩御でうやむやのまま正妃宮内に放置されている…
それにウルリッヒは早朝の墓所で夜着のまま捕らえたはず…。火を起こせる道具など持っているはずが無い。
「神罰…」
後ろでボソリとつぶやいたのはハノーファー家の家臣。
何が神罰だ気の小さい。これだからこの男どもはいつまでたっても子爵家の護衛如きに甘んじているのだろう。
こいつらを見ているとうだつの上がらなかった父を思い出しイライラする…
「こうしてはいられません。地下にあるあれらが燃えては大変な損害です。何故放置しているのですか!」
「絶対開けるな。これは閣下からの厳命ですので」
チッ!「では僕の権限で命じます!その扉を開け中の荷を運び出しなさい!」
あの麻袋は分厚く、そしてかなり頑丈に縛られていた。
「どうせ逃げられやしない…」
ウルリッヒに再生の力がある以上所詮命に別状はない。いっそ死んでくれればいいものを…忌々しい。
ギ、ギィィィ…
倉庫の床板を外すと鉄の扉が現れる。その重たい扉を開けた向こうに地下の隠し倉庫はある。
「うぉお!」
「これはひどい熱気だ…」
「うっ!ゴホゴホ…は、早くお行きなさい!」
「しかし…」
「早く!」
「は、はい!」
真っ白に煙の充満した地下内はどこが火元かすらわからない。
「何故こんな…は、早く火を消すのです!何が燃えているか分かりますか!」
「これですエマニエル様!」
「えっ?」
バサッ
「あ、熱い!何をす」
投げつけられたのは燃え盛る何か。
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「ウルリッヒ!」
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