チートな転生農家の息子は悪の公爵を溺愛する

kozzy

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100 明かされた秘密

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「父さん、じゃぁどの辺りに建てるか見に行こう!アッシュ、手伝ってくれるよな?いつもみたいに、絵描いてくれんだろ?」

「設計図ね。え、でも…」

「構わない。行っておいでアッシュ。私はここで休んでるから」
「行きなさいよアッシュ。タピオと父さんだけに任せたら掘っ建て小屋になっちゃうわ。公爵様は母さんに任せなさい」

「じゃぁお言葉に甘えて…。えへへ、行こう父さん、タピオ兄さん!」



ああ見えて久しぶりの帰郷に浮足立っていたのだろうか?外へ行ったアッシュ君はその後なかなか戻って来ない。
けれどユーリウス様はそれを気にすることも無く、彼の母親に向かって静かに語り出した。

彼はユーリウス様がここへ来ることを心配していた。それはカルロッタ様がユーリウス様に残した心の傷だけでなく、子を想う母親の姿を見せるのを躊躇うというもの。

だがとうのユーリウス様は、なんということもない。心を乱すことも無く落ち着いたものだ。

そしてその言葉を受け彼の母親から語られるアッシュ君の秘密。
図らずも同席して聞く事になってしまったが…、そこで語られた内容は、実に摩訶不思議なものだった。




ここマァの村には、古くから伝わる樹齢何千年と言われる御神木がある。
その御神木の傍らには小さな澄んだ泉があり、村人は一年の初めそこで手を合わせ、その年の豊作を願い農地に泉の水を撒くのだという。

山麓部へと続く雑木林、その向こうは塀で囲われ他者の侵入を固く拒む閉ざされたこのマァの村。だがその雑木林に囲まれた内側には緑の農耕地が延々と広がり、所々を流れる細い川や小さな溜池の水はどこまでも澄みき切っている。

暑くとも湿度の無い爽やかな夏、雪の降らぬ寒過ぎぬ冬、その間に挟まれた穏やかなな季節。つまり一年通して過ごしやすい場所と言える。

2年前には気付かなかった。
あの頃の私は…。カルロッタ様とユーリウス様の間でオロオロと狼狽えるばかりで、他の何を考えることも風景を楽しむ余裕なども、さらさら無かったのだ。

木々の香りを含んだ清らかな空気、冷たく澄みきった水、その大地が育むのは栄養価の高い農産物。
そしてあのおおらかなアッシュ君の家族やアッシュ君自身、この地ならではの素朴な人達。

その彼らが大切に守る御神木。雑木林の奥深いその場所に、ある日この地にしては珍しい落雷が落ちたのだという。それも荒天ですら無い、何ということもない晴れた日に。果たしてそれは落雷であったのだろうか?


「あの時も…、ちょうど今ぐらいの時期でしたかね…。私はその時偶然近くを歩いてたんです。そうしたら林の奥、御神木のあたりがピカっと光ったと思ったら煙があがってるじゃありませんか。雷が落ちた!と思って、びっくりして駆けつけましたよ。そりゃぁもう大慌てで。そうしたら御神木の袂がぷすぷすとくすぶってましてね。火事になっちゃいけないからと慌てて泉の水をかけたんですがね。煙の消えたその場所には小さな穴が開いてまして…その中に何かがあるのが見えたんですよ。」


「ま、まさかそれがアッシュ君…」

「何言ってんですか。赤ん坊は木からは生まれませんよ。いい年してそんなこと信じてたのかい?あんた純真だねぇ」


…本気で言ったわけでは無かったのだが…。話の流れ的に…。いや、何も言うまい…。




「見つけたのはなんだか赤い美味しそうな果実でね。割ってみたらこれまた赤い、小さな実がぎっしりと詰まった変わった果実で…、どんなもんかと思って味見に一粒だけ口にしましたけど、酸っぱくて!なんで残りはそのままにしときました。そうしたらその日の晩ですよ、理由も無く「あっ、子供が出来たっ!」って思ったのは。何故だか分からないんですけどね。でも妙にはっきり分かったんですよ。ここに、お腹の中に赤ん坊が宿ったっ!てね。」

「それがアッシュ君…」

「誤解しないで下さいね。別にあの子が私の子じゃ無いって言ってるんじゃありませんよ。あの子は普通に10月10日お腹ここにいて、普通に生まれてきましたから。ああでも、生まれたあの子はちっとも普通じゃありませんでしたけどね。あはははっ、」

喃語を話し出したかと思ったらあっという間に会話をはじめ、歩き出すか出さないか、そんなころから誰も教えてないのに読み書きをこなし、いつの間にかスキルさえ使いこなし、生活のあらゆる知識を披露して見せる摩訶不思議な子供。リッターホルムで見せる姿と同じ…だがそれよりも幼い彼の、普通でない姿。
ここに誰か賢人が居て彼を導いたのではないかと思っていたのだが…そうか、生まれたときからすでにそうだった…。

「そもそもあの子は私にも、旦那のラーシュにも、タピオにだってちっとも似ちゃいない。私や旦那の血筋であんな賢い子生まれるはずありませんからね。それにどっちのじいさんばあさんにだって、あんな小っちゃい子は居ませんよ。まったく、少しは大きくなってるかと思ったら少しも伸びて無いんだから。」

「ふふ…そこが良いのですよ。お義母様。」

「そうですか?公爵様がそれでいいならいいんですけどね。とにかく、…私はあの子のことをずぅっと、神様からの、御神木からの預かりものなんじゃないかって思って育ててきました。何か理由があって神様がこのお腹に宿したんだろうって」

御神木からの預かりもの…。だから彼はあれ程までに植物を自在に操るのだろうか…?


「大事な息子に違いありませんけどね。何時かはお返しする日が来るんじゃないかって覚悟はしてたんですよ…。その見返りにしては十分すぎるものをあの子からは貰ってきましたけどね。生活の知恵とか豊作とかそんなんじゃありませんよ。あの子からは一緒に過ごしたかけがえのない時間をたくさん貰いました…。調子に乗ってはやらかしてあわてて言い訳する姿も、タピオにしごかれてはべそをかいて泣きついてくる姿も、ラーシュと背比べをしていつか自分もと息巻く姿も、全てが大事な宝物です。でもね…、この子はいつか自分の使命を見つけて旅立っていくんだろう、なんとなく、いつもそう思ってたんですよ…」


殊更なんてことない様に明るく言って見せる母親。それでもどこか寂しそうなのは気のせいではないだろう。だがアッシュ君の芯の強さはこの母親から受け継いだのではないか、そう思えてならなかった。


「あの子が公爵さまを助けに行きたいって言いだした時、ついにその日がきたと思いました。それは兄のタピオやラーシュも同じでしょう」

「だから子供のアッシュを何も言わずリッターホルムへ寄越してくれたのですね…」

「公爵さまのもとへ、ですよ。あの子は外に行きたいと言ったんじゃない、「あの子を放っておけない」って言ったんですから。公爵さまを助けることがあの子の生まれてきた理由なら誰にも止められませんよ。とにかく、あの子があの子の役目を果たすように、私は私の役目を果たしただけです。だからお礼もお詫びも要りませんよ。私へのお礼はあの子自身にしてもらいましょうかね。一人前の男になった暁にね。」

「約束しましょう。彼の使命が私の憂い無き幸せであるなら、彼はその使命を難なく叶えられる。そして立派な男となってここへ報告に来るでしょう。必ずや…」

「あの子のことをよろしく頼みますよ。あの子はとても賢いけど、いつも目的以外見えなくなるんです。いつも…まったくねぇ。困った子だけど本当に良い子なんですよ。何かあったら止めて…、ああいえ、あの子はどうせ言い出したら聞かないから。何かあったら守ってやってくださいね。お願いしますよ。」

「ええ。神に誓って…。約束します。必ず彼を守ると、守られててばかりの私ですが、彼だけは何があっても守り抜くとお約束します。」


母親の語るアッシュ君の姿は…、どこにでもいる普通の子供、彼女の大切な息子だった…。





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