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120 彼が遺恨を捨てる日
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ピピ…チチチ…ピチュ…
ほとんど眠れないまま夜明けを迎えてしまった…。いつになったら爆睡できるのか…僕の安眠は何処に?
そしてその僕は今、激怒したユーリを宥めるために、その膝の上に腰掛けている。
「あのー、ヴェストさん、これって…」
「ユーリウス様をお宥めになるならこれが最善です。」
そ、そうか…。確かにこれ一発で、お尻を乗せたら瞬時に静かになったし…、まぁいい。これ以上長びいたら面倒だしこのまま本題に入るか。
「それで何だって?って言うかケネ、みっ!…王子まだ居たの?大公だってとっくに帰ったのに。」
「帰路の途中で父王より遣わされた早馬と行き会ったのだ。勅使は私への親書を携えていた。それで急ぎ舞い戻った。その親書には…」
「姫の発症を知らせてきたんだね。やばかった…間一髪セーフ…」
「なんのことだ」
「いーや、なんでも。とにかく丁度いま手元に薬はある。それを姫に…」
「アッシュ。言ったはずだ気が進まないと。私とアッシュの愛の結晶。それをそんな簡単に渡すなど私は認めない!」
「ユーリ!でもお姫様は何も悪くない。それから真面目な話なのに真剣みに欠ける…」
膝抱っこで頭ナデナデするの止めてほしいんだけど…
「愛の結晶…、なんだそれは。とにかく妹の苦痛を取り除くことはアッシュの約束したことだ!…それに妹は私や王と違い優しい子なのだ。ユーリウス、お前にだって何もしていないだろう。妹はお前のことをいつだって哀れんでいたんだぞ?」
「確かに彼女は何もしていない。だがそれこそ聖王を諫めることすらしなかった。」
「…妹は何も知らされてはいなかったのだ。あの子は後宮で蝶よ花よと大切にされ…、それに父王には洗脳のスキルがあった。例え全てを知ったとして我らに逆らう術などあると思うか?」
「スキルについてはそうだろうとも。それは私にも分かっている。だが何も知ろうとしなかった。それが罪でないと何故言える。」
あの王宮で過ごした数週間。僕らが避けてたのもあるけど…、姫はほとんど宮殿の奥、後宮の自分の部屋から出てこなかった。顔を合わせるのはもっぱらディナーの時だけ。奥ゆかしいのか、王から出ないよう言われたのか。
いずれにしても優しく美しく、そして現実感の薄い姫だった。おとぎ話に出てくるお人形の様なお姫様。その姫に何かを求めるのは無理ってものだ…。
「ユーリ。言いたいことは分かるけどそれは八つ当たりだ。ユーリが辛く苦しい時間を過ごしてきたことは分かってる。だけど、だからって彼女にも苦しめばいいって言うのはやっぱり違う。大公が言ったじゃないか。全ては過去からの連鎖だって。聖王が悪くないなんて言わないよ。いや、完全に悪い。かなり悪い。とてつもなく悪い。今思い出してもー!…ゴホン。だけどそれだって、それまでのやり方を踏襲してるにすぎないんだ。」
王家の呪いは王家から心優しき人を順番に奪っていった。誰からも愛される人は呪いによって命を落とし、それに耐えられない繊細な人も早逝したのだろう。結局神経図太いやつばっかり長生きして王家は腐敗した。…ああ、これもある意味蟲毒…。王家を内側から破壊するための…呪いの副産物…。
それからいい加減降ろしてくれないかなぁ…
「ユーリウス。父王は退位を決められた。それがリッターホルム公爵家、そして断絶した貴族家への王としての償いだと。それでは対価にならぬか?王がそのような心境に至られたのもアッシュの救いあってのことだ。許してやってくれなどとはとても言えぬが、せめて妹姫、シグリットだけでも助けてやってくれないか…頼む、この通りだ…」
…ケネスはとんでもなくフシダラで、社交界で噂になるほど女癖が悪い。けどそれだけだ。悪行どころかむしろ聖王に命じられた制約以外は政務に参加すらしていなかった怠け者というか、ろくでなしだ。ユーリを嫌ってた理由もどっちの顔が良いとか、ほんとにくだらない理由だったし…。
そのケネスが姫のためとはいえ、あれほど毛嫌いしてたユーリに頭を下げるなんて思いもよらなかった。
女好き…、つまり言い換えればフェミニスト?女性には優しかったりするのか?意外だったな、シスコンってやつか…。
「…王は、聖王は一大公となられるのか。殿下、貴方が即位を?」
「父王は辺境の神殿へと入られる。胡散臭いがこいつを、…ミーミル神を崇め、全ての解呪を願いながら残りの人生を静かに生きるそうだ。王妃である母も追従される…。もちろん妹の件が保証されればだが。私は王宮に残るが即位するには時期早々だ。それぐらいはさすがに今は…分かっておる。散々ノールに叱られたからな。私の去就はわからぬが、王にはいったん大公が即位されることになるだろう。」
「大叔父上が…」
「大公が!」
ついに家康が天下を泰平に導く日が来てしまった…。ならば全力で支えるのみ!ズッ友として!
「ユーリ、もう良いよね?これ渡しても。ユーリには今リッターホルムが、愉快な仲間が、希望しかない未来がある。なにより僕が居る!…でもお姫様は今全てを失いかけてる。立場も、健康も、華やかな未来も…。この黄色い果実だけが、彼女にとって唯一の拠り所になる。それに大公が王様になるなら、…お姫様が苦しんだままなんて心の澱にしかならないよ。」
「そうだ。私にはアッシュが居る。大叔父上の為、そういう事なら…」
ふぅ…、良かった。なんとか納得してくれて。二人の子供を無理やり引き渡すわけにはいかないものね。
「ケネス、ひっ!ひぇ!王子!じゃぁこれ。」
ユーリってば、さっきからなにすんの!脇腹が弱点だって知ってるでしょうが!はいはい。敬称で呼べばいいんでしょ。敬ってないから称号までね。
「いい?激しい痛みが襲ったら一粒。一粒づつ食べるんだよ。それから…、これの存在はナイショにして。王と王子と王妃様と、そしてお姫様だけね。他の人に知られると厄介だからね。」
「それは分かったが…、解呪までに無くなったらどうする。新しい果実はあるのだな?」
「新しい果実…」
「ああ問題ない。アッシュの協力があればいくらでも用意できる。なにしろそれは二人の愛の結晶だからな」
「 ‼ 」
「それから今後アッシュが座ってもいいのは私の膝だけだ。ちょっとばかり上に乗られたからと言って得意気にひけらかすのは止めてもらおう!」
「何言ってるんだ…お前」
「何言ってんのユーリ…」
エ、エロ公爵め!ともかくこれで、あとは解呪だけに専念できるってものだ!
それにしても…ケネスにまで掛け金を渡すユーリは律儀と言うかなんというか…。あっさり受け取るケネスも…王子としてのプライドは無いのか!でも…これなら大丈夫かな。なにか…吹っ切れたように見える。そうだよね。なんだかんだで血縁なんだし。こうしてると兄弟に見える。あ…意外。面影が少し似てる…。そうか…三人の子…。
ま、まぁ、あとは大公の腕の見せ所っ!ってね!
ほとんど眠れないまま夜明けを迎えてしまった…。いつになったら爆睡できるのか…僕の安眠は何処に?
そしてその僕は今、激怒したユーリを宥めるために、その膝の上に腰掛けている。
「あのー、ヴェストさん、これって…」
「ユーリウス様をお宥めになるならこれが最善です。」
そ、そうか…。確かにこれ一発で、お尻を乗せたら瞬時に静かになったし…、まぁいい。これ以上長びいたら面倒だしこのまま本題に入るか。
「それで何だって?って言うかケネ、みっ!…王子まだ居たの?大公だってとっくに帰ったのに。」
「帰路の途中で父王より遣わされた早馬と行き会ったのだ。勅使は私への親書を携えていた。それで急ぎ舞い戻った。その親書には…」
「姫の発症を知らせてきたんだね。やばかった…間一髪セーフ…」
「なんのことだ」
「いーや、なんでも。とにかく丁度いま手元に薬はある。それを姫に…」
「アッシュ。言ったはずだ気が進まないと。私とアッシュの愛の結晶。それをそんな簡単に渡すなど私は認めない!」
「ユーリ!でもお姫様は何も悪くない。それから真面目な話なのに真剣みに欠ける…」
膝抱っこで頭ナデナデするの止めてほしいんだけど…
「愛の結晶…、なんだそれは。とにかく妹の苦痛を取り除くことはアッシュの約束したことだ!…それに妹は私や王と違い優しい子なのだ。ユーリウス、お前にだって何もしていないだろう。妹はお前のことをいつだって哀れんでいたんだぞ?」
「確かに彼女は何もしていない。だがそれこそ聖王を諫めることすらしなかった。」
「…妹は何も知らされてはいなかったのだ。あの子は後宮で蝶よ花よと大切にされ…、それに父王には洗脳のスキルがあった。例え全てを知ったとして我らに逆らう術などあると思うか?」
「スキルについてはそうだろうとも。それは私にも分かっている。だが何も知ろうとしなかった。それが罪でないと何故言える。」
あの王宮で過ごした数週間。僕らが避けてたのもあるけど…、姫はほとんど宮殿の奥、後宮の自分の部屋から出てこなかった。顔を合わせるのはもっぱらディナーの時だけ。奥ゆかしいのか、王から出ないよう言われたのか。
いずれにしても優しく美しく、そして現実感の薄い姫だった。おとぎ話に出てくるお人形の様なお姫様。その姫に何かを求めるのは無理ってものだ…。
「ユーリ。言いたいことは分かるけどそれは八つ当たりだ。ユーリが辛く苦しい時間を過ごしてきたことは分かってる。だけど、だからって彼女にも苦しめばいいって言うのはやっぱり違う。大公が言ったじゃないか。全ては過去からの連鎖だって。聖王が悪くないなんて言わないよ。いや、完全に悪い。かなり悪い。とてつもなく悪い。今思い出してもー!…ゴホン。だけどそれだって、それまでのやり方を踏襲してるにすぎないんだ。」
王家の呪いは王家から心優しき人を順番に奪っていった。誰からも愛される人は呪いによって命を落とし、それに耐えられない繊細な人も早逝したのだろう。結局神経図太いやつばっかり長生きして王家は腐敗した。…ああ、これもある意味蟲毒…。王家を内側から破壊するための…呪いの副産物…。
それからいい加減降ろしてくれないかなぁ…
「ユーリウス。父王は退位を決められた。それがリッターホルム公爵家、そして断絶した貴族家への王としての償いだと。それでは対価にならぬか?王がそのような心境に至られたのもアッシュの救いあってのことだ。許してやってくれなどとはとても言えぬが、せめて妹姫、シグリットだけでも助けてやってくれないか…頼む、この通りだ…」
…ケネスはとんでもなくフシダラで、社交界で噂になるほど女癖が悪い。けどそれだけだ。悪行どころかむしろ聖王に命じられた制約以外は政務に参加すらしていなかった怠け者というか、ろくでなしだ。ユーリを嫌ってた理由もどっちの顔が良いとか、ほんとにくだらない理由だったし…。
そのケネスが姫のためとはいえ、あれほど毛嫌いしてたユーリに頭を下げるなんて思いもよらなかった。
女好き…、つまり言い換えればフェミニスト?女性には優しかったりするのか?意外だったな、シスコンってやつか…。
「…王は、聖王は一大公となられるのか。殿下、貴方が即位を?」
「父王は辺境の神殿へと入られる。胡散臭いがこいつを、…ミーミル神を崇め、全ての解呪を願いながら残りの人生を静かに生きるそうだ。王妃である母も追従される…。もちろん妹の件が保証されればだが。私は王宮に残るが即位するには時期早々だ。それぐらいはさすがに今は…分かっておる。散々ノールに叱られたからな。私の去就はわからぬが、王にはいったん大公が即位されることになるだろう。」
「大叔父上が…」
「大公が!」
ついに家康が天下を泰平に導く日が来てしまった…。ならば全力で支えるのみ!ズッ友として!
「ユーリ、もう良いよね?これ渡しても。ユーリには今リッターホルムが、愉快な仲間が、希望しかない未来がある。なにより僕が居る!…でもお姫様は今全てを失いかけてる。立場も、健康も、華やかな未来も…。この黄色い果実だけが、彼女にとって唯一の拠り所になる。それに大公が王様になるなら、…お姫様が苦しんだままなんて心の澱にしかならないよ。」
「そうだ。私にはアッシュが居る。大叔父上の為、そういう事なら…」
ふぅ…、良かった。なんとか納得してくれて。二人の子供を無理やり引き渡すわけにはいかないものね。
「ケネス、ひっ!ひぇ!王子!じゃぁこれ。」
ユーリってば、さっきからなにすんの!脇腹が弱点だって知ってるでしょうが!はいはい。敬称で呼べばいいんでしょ。敬ってないから称号までね。
「いい?激しい痛みが襲ったら一粒。一粒づつ食べるんだよ。それから…、これの存在はナイショにして。王と王子と王妃様と、そしてお姫様だけね。他の人に知られると厄介だからね。」
「それは分かったが…、解呪までに無くなったらどうする。新しい果実はあるのだな?」
「新しい果実…」
「ああ問題ない。アッシュの協力があればいくらでも用意できる。なにしろそれは二人の愛の結晶だからな」
「 ‼ 」
「それから今後アッシュが座ってもいいのは私の膝だけだ。ちょっとばかり上に乗られたからと言って得意気にひけらかすのは止めてもらおう!」
「何言ってるんだ…お前」
「何言ってんのユーリ…」
エ、エロ公爵め!ともかくこれで、あとは解呪だけに専念できるってものだ!
それにしても…ケネスにまで掛け金を渡すユーリは律儀と言うかなんというか…。あっさり受け取るケネスも…王子としてのプライドは無いのか!でも…これなら大丈夫かな。なにか…吹っ切れたように見える。そうだよね。なんだかんだで血縁なんだし。こうしてると兄弟に見える。あ…意外。面影が少し似てる…。そうか…三人の子…。
ま、まぁ、あとは大公の腕の見せ所っ!ってね!
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