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139 彼の隠していたこと
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アレクシさんが〝転移”のスキル保持者。
上位のスキルではあるけど何故ここまで頑なに隠してきたのか…、それにユーリの言葉も…。
「私のスキルは〝転移”。転移のスキルがあったからこそ私は養父に拾われたんだ。今まで誰にも言わなかったのは…、養父の遺言によってオスモが私に〝箝口”を施したからだ。ユーリウス様の許可なくして誰にも話してはならない、そしてそのスキルは決して人前で使ってはならないと」
「そ、それは分かったけど…、何故⁉」
「分からない。だが養父は私、いや、「転移のスキルを持つ者がいつか鍵になる」と。」
「ふむ…。ユーリ君、きみは何か聞いているのかい?」
「残念ながら詳しくは。家令のアンダースは恐らく私の成長を待って話そうとしていたのだろう。それとも腐食した母の部屋に何か残してあったのかも知れない。あの部屋からは色々なものが失われた。私の毒素によって…」
「ユーリ…」ギュゥ…
「ともかく、養父の逝去は急だったんだ。家庭教師は味方ではなく私はユーリウス様に付きっ切り。養父自身もカルロッタ奥様から目を離せず…、またユーリウス様は年若く不安定で…。その為に色々な事が引き継がれず不明なままになってしまった。」
「…オスモは?」
「ノールさん。オスモさんは人は良いけど切れ者では無いんだ。亡くなった家令が特別な秘密を話すとは思えないな。それよりユーリが聞いてるざっくりした部分だけでも教えて?」
ユーリが家令から聞いていたこと。それはリッターホルムに代々伝わる家訓ともいえる言い伝え。
転移のスキルを持つ男を見つけたら必ず側に置くこと。それはいつか公爵家を護る鍵となるということ。
そしてそのスキルに関して決して知られてはならないと言う事。
「私は訳も分からずただそう言い聞かされた。転移、そして公爵家を護る…、その言葉に私はアレクシを私の形代みたいなものなのかと考えた。私に何かあればその身を投げ打つ身代わり…。だからこそ私はアレクシに情を移さないよう堪えてきた。いつか失うものならそこに情など無いほうが良い…」
「ユーリウス様…」
ユーリがアレクシさんに対し、不自然に冷たいのを僕は気付いてた。それこそここに来た当初から。
アレクシさんがユーリの形代…
果たしてそうだろうか…。だって家令ならさすがに知っていたはずだ。ユーリを生に縛り付ける忌まわしき呪いを。
ユーリは後継者を残さなければ肉体ある限り簡単には死ねないのだ。肉体の壊死を以て初めて終わりを迎える。それまで100年?いいや人の肉体は100年程度で壊死しない。150年?200年?末端から順に血液が行き渡らなくなり一か所ずつ腐り落ちて内臓が壊死し始めてようやく終わりを迎える。そこまでの長い年月を孤独の中で生きていく…、その恐怖に怯え、代々みんな心を痛めながらもこの呪いを子孫へと受け継いできたのだ…。
先代から仕えた家令。その家令がユーリに身代わりなんか用意するか?いいやしない!
「アレクシさん。家令のアンダースさんはどういった身上の人だったのか聞いてる?」
「養父は…、代々家令としてこのリッターホルムに仕えてきた家系の最後の一人だったようだ。後を継がせる予定の壮年の息子が居たようだが…、ユーリウス様がお生まれになった丁度その頃、馬車による事故で亡くなったと…。それもあってまだ子供の私を養子に受け入れて下さったんだ。置いておくだけなら下働きでも構わなかったものを…」
「馬車…、なら王都だよね。このリッターホルムに事故るほど馬車は走ってない。」
「アッシュ君、もしかして君疑ってるの?家令の息子がその…」
「殺られたんじゃないかって?そりゃそうだ。偶然にしては出来過ぎもいいとこだ。生きていれば当然ユーリ君を支えていったはずの次期家令だ。」
「では家令も自然死ではありませんね」
ヴェストさんの言葉にゾっとする。そうだ。何故彼の急死を自然死だと思ったんだ。家令はカルロッタさんの葬儀の直後亡くなった。アデリーナと接触していてもおかしくはない。タイミングが…全てのタイミングが計ったように合いすぎる。ユーリを守るもの、その全てを一つずつ剥いででいく…。
そうだよ、僕が初めてここに来たあの時、この屋敷、このリッターホルム公爵邸はすでに崩壊し始めてたじゃないか!
「私が養父に拾われたころ、王都の公爵邸ではそれまでの執事が病いに倒れたようです。そこでそれまで領都にいた養父の息子が王都へと…。考えたくありませんがまさか…」
多分そのまさかだ。この国に〝鑑識 米〇守”は居ない。病死も事故死も他殺と区別なんかつくもんか。目撃者が居れがそれですべては片付けられる…。
公爵家を支えるものが3人消えた…
史実に詳しいノールさんいわく、貴族制度がハッキリと制定されたのはまだほんの500年くらい前の話。
腐敗の始まった王家によって面倒なご意見番は遠ざけられ、尚且つがっぽり税を徴収するため当時の王が、自然に分断された領域ごとに領地を分け貴族制度を制定したと。
「…これで確信がもてたよ。転移を持つ誰かがその娘の側に居たって。あれは王から貴族位を賜った際の絵なんだよ。コーネイン侯爵が言うには元老院の各12家、その家門ごとに個別に設えた封蝋環を証として与え、王からワインを注がれ飲み干したのだって…。その祝杯の代わりに描かれたのが…」
「「あの壷」」
「微妙に位置が違うんだよ。こちらは丸盆、こちらはトロリー、これは神官が手に持って半分隠れてる」
「気付かせないよう…巧妙だね。子爵が気付かなかったらと思うと…」
「〝転移”によってこの絵画に呪いが…」
思いもよらない事態にざわつく一同。
「アレクシがいつか鍵になる…、その理由がそこにあるならば私にとっては幸いだ…」
その時アレクシさんをしっかりと見据えてユーリが静かにつぶやいた。
「ユーリ、それって…」
「私はいつも嫌だったのだ。お前が私の形代になることを自分の存在意義だと思っていることが。だがこれでそう思う理由は無くなったな。もういいアレクシ。アンダースの呪縛から解き放たれお前はお前のために生きるんだ。」
「しかし…」
「私は私の運命と戦うと決めた。アッシュと共に。お前も戦うんだ!己の心にある枷と!」
恩人である養父の言葉。それを守ろうとユーリの為にだけ生きてきたアレクシさん…。それだけが自分がここに居る意味だとそう信じて…。
あともう少し養父が生きてたらこんな曲解しなくて済んだのかも…。ほんのわずかなタイミングの狂いで…人一人の人生がこうまで変わっていく…。
「間に合ったかな…?ねぇユーリ、僕は間に合った?ユーリ、僕と出会ってくれてありがとう。あの日マァの村に来てくれて本当にありがとう…グス…」
人生はすべてタイミング。ほんの少し歯車がズレただけで全てが狂っていく。
あと少し、もう少し遅かったら…、カルロッタさんがそれより早く逝ってしまってもユーリには出会えなかったし、逆にもっと遅く逝ってもユーリとはただの避暑地の友達で終わったかもしれない…。
あの時、あのタイミングじゃ無ければこの歯車は動かなかった。僕はユーリも、マァの村も、この世界全てを、もう少しで失うところだった…。
「アッシュ…、それは私の言葉だ!あの時…、私の手を取ってくれてありがとう…」
魔女の執念に…誰もが思わず身震いする…。
「家令がアレクシさんをここに置いたのはユーリやアレクシさんが考えてるような意味じゃなかった。アレクシさんはユーリの身代わりじゃない。情をかけるのを堪えてた、なんて…寂しいこともう言わないで!アレクシさんも同じこと考えてたんでしょ?ねぇ、アレクシさんはもう自分の人生を楽しんでいいんだ!だって」
「アッシュ君…」
「ユーリに何かある時、身を投げ打つのは僕だから!」
「アッシュ!」ギュゥ…
ベリッ!
「はいはい。イチャイチャするのはそこまでにして、早くエスター、次行ってよ」
「おやナッツ、仰せのままに」
今いいとこだったのに、ナッツめ…。
上位のスキルではあるけど何故ここまで頑なに隠してきたのか…、それにユーリの言葉も…。
「私のスキルは〝転移”。転移のスキルがあったからこそ私は養父に拾われたんだ。今まで誰にも言わなかったのは…、養父の遺言によってオスモが私に〝箝口”を施したからだ。ユーリウス様の許可なくして誰にも話してはならない、そしてそのスキルは決して人前で使ってはならないと」
「そ、それは分かったけど…、何故⁉」
「分からない。だが養父は私、いや、「転移のスキルを持つ者がいつか鍵になる」と。」
「ふむ…。ユーリ君、きみは何か聞いているのかい?」
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「…オスモは?」
「ノールさん。オスモさんは人は良いけど切れ者では無いんだ。亡くなった家令が特別な秘密を話すとは思えないな。それよりユーリが聞いてるざっくりした部分だけでも教えて?」
ユーリが家令から聞いていたこと。それはリッターホルムに代々伝わる家訓ともいえる言い伝え。
転移のスキルを持つ男を見つけたら必ず側に置くこと。それはいつか公爵家を護る鍵となるということ。
そしてそのスキルに関して決して知られてはならないと言う事。
「私は訳も分からずただそう言い聞かされた。転移、そして公爵家を護る…、その言葉に私はアレクシを私の形代みたいなものなのかと考えた。私に何かあればその身を投げ打つ身代わり…。だからこそ私はアレクシに情を移さないよう堪えてきた。いつか失うものならそこに情など無いほうが良い…」
「ユーリウス様…」
ユーリがアレクシさんに対し、不自然に冷たいのを僕は気付いてた。それこそここに来た当初から。
アレクシさんがユーリの形代…
果たしてそうだろうか…。だって家令ならさすがに知っていたはずだ。ユーリを生に縛り付ける忌まわしき呪いを。
ユーリは後継者を残さなければ肉体ある限り簡単には死ねないのだ。肉体の壊死を以て初めて終わりを迎える。それまで100年?いいや人の肉体は100年程度で壊死しない。150年?200年?末端から順に血液が行き渡らなくなり一か所ずつ腐り落ちて内臓が壊死し始めてようやく終わりを迎える。そこまでの長い年月を孤独の中で生きていく…、その恐怖に怯え、代々みんな心を痛めながらもこの呪いを子孫へと受け継いできたのだ…。
先代から仕えた家令。その家令がユーリに身代わりなんか用意するか?いいやしない!
「アレクシさん。家令のアンダースさんはどういった身上の人だったのか聞いてる?」
「養父は…、代々家令としてこのリッターホルムに仕えてきた家系の最後の一人だったようだ。後を継がせる予定の壮年の息子が居たようだが…、ユーリウス様がお生まれになった丁度その頃、馬車による事故で亡くなったと…。それもあってまだ子供の私を養子に受け入れて下さったんだ。置いておくだけなら下働きでも構わなかったものを…」
「馬車…、なら王都だよね。このリッターホルムに事故るほど馬車は走ってない。」
「アッシュ君、もしかして君疑ってるの?家令の息子がその…」
「殺られたんじゃないかって?そりゃそうだ。偶然にしては出来過ぎもいいとこだ。生きていれば当然ユーリ君を支えていったはずの次期家令だ。」
「では家令も自然死ではありませんね」
ヴェストさんの言葉にゾっとする。そうだ。何故彼の急死を自然死だと思ったんだ。家令はカルロッタさんの葬儀の直後亡くなった。アデリーナと接触していてもおかしくはない。タイミングが…全てのタイミングが計ったように合いすぎる。ユーリを守るもの、その全てを一つずつ剥いででいく…。
そうだよ、僕が初めてここに来たあの時、この屋敷、このリッターホルム公爵邸はすでに崩壊し始めてたじゃないか!
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あの時、あのタイミングじゃ無ければこの歯車は動かなかった。僕はユーリも、マァの村も、この世界全てを、もう少しで失うところだった…。
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「アッシュ君…」
「ユーリに何かある時、身を投げ打つのは僕だから!」
「アッシュ!」ギュゥ…
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